表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と魔王と魔術士と。  作者: 小田虹里
第2章:魔王の章
43/50

イレギュラーな家族

 ラックフィールドはもともと、荒地の中の小さな集落だった。サレンディーズの家族が住む小さな家、いや、小屋というべきか。そしてあと数軒、木造の家が点々と建っていた。それが、第一次魔王戦で全て吹き飛ばされてしまい、サレンディーズの血を引く者たちは、このラックフィールドから姿を消した。

 魔女の居場所は特に誰にも知られていなかった。魔王を無力化させた場所に居るのではないかと、クレーは読んでいたが、実際にはその祠には誰も居なかった。一度、確認しに行ったことがあったのだ。

 そのクレーと弟レーゼは、魔術の統制を経てヘルリオット王朝から銅と銀の称号を得て、シルドの町に配属された。そこで出会ったのが黒髪黒目の姿をしていたリズーだった。


「リズラルド。あなたは、イレギュラーとしての使命を果たしたいと思っていますか?」

「今日はやけに質問攻めやないか、セルシ」

「ルイナさんやレーゼさんが居るところでは、話しづらいですからね」

「父さんは、聞き耳立てているかもしれんで?」

「そうですね」


 小声で話しているが、クレーの部屋とこの広間を隔てるものは、薄いドアひとつだ。聞かれている可能性は十分にある。

 天士の役目がイレギュラーの排除だとしたら、自分は止めを刺されるのではないか。そんな喜びを感じて、今頃笑っている可能性だってある。それは、ルイナさんが喜ばない。

 セルシとしては、魔女に恩があった。魔女の悲しむ姿はもう見たくないと強く願う。それならば、魔女が大切に想う弟たち、クレーとレーゼを守り抜かなければならない。ほとんど飲み切った白湯が入っていた湯呑を、テーブルに置いた。


「クレーさんのところへ行きましょう。独りにしておくのは、なんだか得策ではない気がします」

「せやな。自害されたら困る」

「クレーさんは、死にたがっています。でも、死なせる訳にはいきませんからね」

「罪を償わせるため?」

「それもあります」

「他には?」


 セルシは、やわらかな紅色の瞳を優しく光らせ、口元も微笑んだ。


「家族、ですから」

「……せやな!」


 それに関しては、今のところリズーも同意してくれている。少なくとも、今は脅威ではないと判断してもよさそうだ。木製の椅子をガタンと後ろに下げると立ち上がり、棚からインスタントのコーヒーを取り出した。クレーが好きなコーヒーだ。豆を挽いて粉末状にしたものを、クレーがしまっているのを見ていた。カップに粉を入れて、お湯を上からかける。美味しいコーヒーの淹れ方というものもあるそうだが、セルシにはそこまでのこだわりが分からない。


「コーヒーか! そういえば、父さん最近飲んでなかったな」

「少しは元気を出してくれるといいんですけどね」

「えぇんちゃう? 持って行こ!」

「これは、あなたが運んでください」


 粉が溶けるように匙で混ぜてから、セルシはコーヒーカップをテーブルの上に置いた。そのまま、スッと横にスライドさせて、リズーの目の前に置いた。リズーは不思議そうにセルシを見る。セルシは、にこりと微笑むばかりで、強い主張はしてこない。


「俺が運ぶんか?」

「僕が運ぶより、“息子”であるあなたが運んだ方が、喜ぶような気がしまして」

「うーん……どうかなぁ。今の父さんは、病んでるからなぁ」

「それでも、見捨てられないでしょう?」

「それはもちろん!」


 リズーは一度、「こくり」と頷いた。そして、淹れたての湯気が出ているコーヒーを右手に持って、奥のクレーの部屋へと向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ