表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

第3話 エルフにはおっぱいが足りない

前回までのあらすじ!


いよいよ嫁捜し開始かと思いきや、哀れ、住んでた国が滅亡したぞ!

 ナイタール王国が滅亡したのは、おれがこの国に辿り着いてから、わずか二十年後の出来事だった。


 そう、おれにとってはわずか二十年だよ。嫁捜しにかけられた時間も、たったの二十年。成果はまるでなかった。

 なんでこんなにモテねえの? おれの愛はどこにあるの?


 とにかく、この二十年で時代が変わったんだ。

 剣の時代は終わりを告げて、魔法の時代がやってきた。ナイタール王国は時代の波にのりきれずに滅んだ典型的な例だった。

 日本で言えば明治維新。刀の時代が終わりを告げ、侍は絶滅したってとこかね。


 ナイタール王国は、魔法使いを前線に組み込んだゼンテル帝国という国に侵略された。

 それなりにナイタール王国を気に入っていたおれは、頭にきた。けど、英雄ったって死なないだけで、おれに何ができるわけでもない。


 仕方ないから逃げたね。

 再び路頭に迷ったおれは、ゼンテル帝国に復讐を誓った。


 剣ではだめだ。魔法に勝てない。おれは大魔法使いとなって、ゼンテル帝国を討ち滅ぼし、ナイタール王国の仇を取る。

 ここで言う魔法使いは、もちろん童貞のことじゃあない。まあ、そっちの魔法使いも絶賛継続中だが。


 おれは、当時凄腕の大賢者と言われていたおっちゃんの弟子になった。おっちゃんと言っても、おれももう六十だ。四十の頃から全然姿は変わってねえけど。


 が、おれには絶望的なほど魔法使いのセンスはなかった。魔法が全っ然、前に飛ばねえんだ。

 弟子入りから二十年後、師匠が老衰で死んだ。おれはあいかわらず魔法を撃てず、姿もこの世界に来た日のままだった。


 ああ、おれって歳も取らないんだぁって気づいたのは、これが原因だ。なにせ、このときおれはもう八十歳だったからねえ。


 途方に暮れたね。しょっちゅう途方に暮れてる気もするが、途方に暮れた。

 それでもおれは師匠の教えを守って、ひたすら訓練に明け暮れた。何年も何年も、たった一人で修行を続けたんだ。


 そしてさらに、六十年が経過する頃、ついに! ついに、そのときが訪れた!



 ……ゼンテル帝国が滅びやがった……。……勝手にだよ……。……おれ、なんもしてない……。



 魔法はあいかわらず使えなかった。

 だって才能ねえもん。火は熾せても前に飛ばねえし、それどころか腕を遡ってきて自分の全身燃やして自滅だよ。アホかと。バカかと。

 ブロッコリー頭が何度燃え上がったことか。


 とにもかくにもだ。無敵の魔法国家と思われていたゼンテル帝国が滅ぼされちまった。どこの馬の骨とも知らねえ国にだよ。


 おまえ、ちょっと待てと! 勝手に滅びるなと! もうちょっと頑張れよと!

 おれの修行し続けた八十年間はどうなるの? ナイタール王国の頃から考えりゃ、一〇〇年よ?

 ザ・無☆駄! イエェーーーイッ!!

 ……のれねえよ、テンション上げても……。


 ゼンテル帝国を滅ぼしたやつは、魔王とか名乗っていた。

 頭にきたね。しょっちゅう頭にきてる気もするが、頭にきた。

 おまえ魔王コラ、ンなぁ~にを、頼んでもないのに勝手に仇討ちしてくれてんだと。


 今冷静に考えると、これは仕返しどころか逆恨みですらなかった。完っ全に八つ当たりだ。


 おれは、同じく魔王に恨みを持つやつらを三名集めて、苦情を言うために正面から魔王の城に乗り込んでやった。

 他のやつは知らんけど、多少無茶したところでおれだけはどうせ死なないし。


 謁見の間でまみえた魔王は、とてつもなくでかかった。びびった。ちびった。怖かった。

 大昔に退治した虎モドキくらいの体躯を持つ怪物だった。そもそも人間ですらなかった。角とか生えてんだぜ、冗談じゃねえよ。鬼ヶ島かよ。


 だがそこはそれ、師匠に習った使えねえ自滅魔法とリーマン時代に培った口八丁手八丁を駆使して、おれたちは魔王に挑んだんだ。



***** 魔王歴003年 魔王城決戦【side.魔王】*****



 多重発動で展開されたその魔法障壁は、どんな魔法をも防いだ。


 稀代の大魔法使いと呼ばれた少女の、天を焦がし地をも溶かす紅蓮の火炎も。

 世紀の精霊魔法使いの召喚した、気候変動すら引き起こす精霊王の豪腕も。

 敬虔なる神官戦士にのみ伝わる、神々の力を借りた奇跡の雷でさえも。


 展開された一〇〇〇と二十四枚、折り重ねられた障壁は破れない。それが魔法である限り、破れることはない。届くことはない。せいぜいが一〇〇枚を破る程度で。


 魔王と呼ばれる怪物が、障壁の奥底で嗤う。嘲笑う。無力な人間たちを。人類の限界点に到達した魔法使いたちを嘲笑する。


 貴様ら人間は無力である、と。

 そこが汝らの限界である、と。


 だが、一人。

 たったの一人、万魔殿(パンデモニウム)に轟く魔王の哄笑をそよ風のように、魔法障壁へと歩む男がいた。


 この男、名を大雅蘭堂という。

 蘭堂はくたびれた中年男(おっさん)だった。肋が浮くほどに痩せぎすで、ひょろ長く細い手足をしていた。うねうねと曲がる癖毛に無様な無精髭は、決して似合っているものではない。


 魔法障壁を眼前にして、ため息一つ。

 それも、強大にて凶暴、暴虐の王たる魔王を見上げて、面倒臭そうに。


 彼がいつ、どうしてこの世界に現れたのか、知るものはほとんどいない。


 大魔法使いと呼ばれたエルフ族の天才少女も。

 人類で唯一精霊王との親交を結ぶに成功した偉大なる精霊使いの女も。

 全知たる神の声聞く神官戦士の男でさえも。


 知らないのだ。大雅蘭堂が何者であるのかを。誰も。無論、魔王ですらも。


 やがて蘭堂は、悠々と障壁へと踏み込む。ふつうに歩いて。

 魔法による防御などないこの男に、魔法を防ぐための魔法障壁は意味を成さない。だがゆえに、平然と踏み込むのだ。絶対堅固たる多重魔法障壁へと。

 一〇〇〇と二十四枚の障壁を、無造作に踏み越えて。


 しかし魔王に焦りはない。

 たかだか無力な人間。障壁内に入ったからといって何ほどのこともない。


 ――この大魔法時代に、今さら時代遅れの剣や槍でも振るうか? 笑わせてくれる!


 大雅蘭堂はくたびれた中年男で、魔王はその倍以上の体躯を持つ怪物だった。ゆえに魔王は拳を握りしめ、脆弱なる蘭堂へと放った。


 巨大な拳は、蘭堂の側頭部を薙ぎ払って頸骨を粉砕した。破裂した眼球が飛び出し、砕かれた歯が血や肉片と一緒に吹っ飛び、首が一周を超えて回転する。

 即死。本来ならば。


 だが、気づく。魔王は気づくのだ。

 己の腹にあてられた、蘭堂の拳に。


 直後、魔王の腹部で大爆発が起こった。爆発は蘭堂の右拳ごと魔王の腹を爆砕し、その巨躯をくの字に折り曲げる。

 灼け焦げた両者の肉片や骨片が、べちゃりと周囲に降り注いだ。


 そうして、魔王は見るのだ。

 頸骨を砕かれ、破裂させた眼球を顔からぶら下げていたはずの蘭堂が、無傷でにやにやと笑っているところを。


 次の瞬間、魔王の左頬に蘭堂の左拳が突き刺さる。

 威力ではない。威力など大したものではない。人間と魔族の筋力には、埋めようのない歴然とした差が存在するのだから。

 だが、凍る。

 脳すらも蝕むように、左頬から魔王の頭部がぴきぴきと凍り始めていた。


 魔王は恐怖を感じた。人間を脅威だと、初めて認識した。

 ――いや、これは本当に人間の仕業なのか?

 大雅蘭堂は、口もとを弛めて笑っていた。魔王の哄笑すらも打ち消す、不敵な笑みだった。


 凍った魔王の鼻面へと、先ほど爆散したはずの蘭堂の右拳が突き刺さる。その瞬間、魔王の全身を雷撃が貫いた。

 全身の血管が爆発する。これまで感じたことのない激痛が魔王を襲った。


 だが、踏みとどまる。すべての魔を統べる王は踏みとどまり、蘭堂へと拳を返した。

 それを受けた蘭堂の腕が骨ごと逆関節に曲げられ、男は魔法障壁を飛び出すほどに吹っ飛んで転がる。


 砕いた。今度こそ確実に。腕だけではない。頸骨も背骨もだ。

 だが。なのに。次の瞬間には砕かれた腕部を再生させて、もう立ち上がっているのだ。己の手で頸骨をむりやり戻しながら。


 全身から白煙のような闘気を立ち上らせて。

 にやにやと、凄味のある笑みを浮かべて。


 こうして二体のバケモノの他者を介入させぬ戦いは、三日三晩続いた。



***** 【side.ランドウ】 *****



 いやぁ、怖かった。魔王、あいつはやばいよ、ほんと。うん。

 なんかもう、極度の緊張と恐怖のあまり、わけわかんねーことに笑いが止まらなくなっちまった。


 それに実際問題、やつはめちゃくちゃ強かった。んで、おれはパーティの中で最弱だった。だって才能ないから魔法を撃てねえんだもん。しょうがないでしょうよ。


 ところがよ。頼れる仲間たちの放つどんな大魔法も、やつの魔法障壁には通用しなかったんだ。

 だが、例外もある。魔法障壁とは、魔法を防ぐための防護魔法の一種だ。だから仲間たちは、一斉におれに視線を向けやがった。

 ろくすっぽ魔法を使えないくせに、不死のおれにだ。


「あたしたちの魔法じゃ無理ね。障壁が破れないわ」

「どうもそのようだ」

「あんた、行ってきなさいよ。ここまで何もしてないんだから」


 容赦なくグイグイとおれの背中を押す、頼れる仲間たち。


「え、ええぇぇ……、わ、わかった。わかったから、背中押すなよぅ……」


 嫌々だった。すっげえ嫌だった。


 おれは恐る恐る魔王の障壁に近づく。手を出してみると、意外とあっさりすり抜けることができた。

 だからおれは、やつの魔法障壁を素通りで侵入してから、師匠に教わった役に立たねえ自滅魔法を付与した拳でやつの腹をどついてみた。


 意外や意外、効果は覿面だった。

 おれの右拳も木っ端微塵に破裂したが、魔王の腹肉もだいぶ抉れた気がする。


 おれは才能がないから魔法は撃てないけど、肉体だけは不死なもんで、好きなだけ自分の肉体に自滅魔法を付与(エンチャント)しまくった。


 全身を燃やすことを覚悟した上で拳に炎をまとい、ぶん殴ってやった。その後、寒さで震えながら氷の拳で殴って消火してやった。氷の拳でぶん殴ったあとは、凍った箇所を狙って雷の拳で電流を流し込んでやった。


 もちろん、おれも燃えたし凍ったし感電もした。すっげえ痛え。

 おれは涙ながらに言ってやったね。


「殴ったほうの拳が痛いこともあるんだァァ!」


 したら魔王のやつ、なぁ~んて返しやがったと思う?


「……? だったら、わしを殴るのやめてくれたらいいんじゃね?」

「……」

「……」

「うるせー! 魔王の分際で正論吐くな!」


 オラァ!


「ご無体!」


 互いに焦げつき、凍りつき、痺れる。


 だが耐久勝負に持ち込みゃあ、不死であるおれに勝てるやつはいない。

 何度も何度も殴り殺されたけど、そのたび、すぐに復活して殴り返してやった。

 三日三晩くらいそんな殴り合いを続けたと思う。


 途中からはもう痛いとかより、ひたすら眠かった。

 想像してごらんなさいよ。互いに鼻提灯を作りながら殴り合い続ける経験なんて、そうそうできるもんじゃない。学生時代にやった徹夜麻雀(てつまん)以来だ。


 頼れる仲間たちは初日こそ声を張っておれを応援してくれていたが、二日目からは飽きたようでカードゲーム(異世界ばば抜き)に勤しんだり、三人そろって仲良く雑魚寝したりしていた。


 くっそ! あいつらぁ! 修学旅行かよ!


 おれは仲間に対する熱き想いを、すべて魔王にぶつけてやった。

 完膚無きまでの八つ当たりだ。


 あいつらが泣いて謝るまで、おれは魔王(キミ)を殴るのをやめない!


 その甲斐あってか最終的に、魔王は涙と鼻血を垂らして謝ってた。このおれに土下座よ。


「今後もう侵攻しません! 魔王も辞めます! 魔王軍も解体します! お願いですから眠らせてください! 限界なんです! ほんとに限界なんですぅぅ!」


 寝不足で目が真っ赤に充血していた。


「もうわしを殴って起こさないでくださいぃぃぃ……」


 日本のリーマン舐めんじゃねえぞ! 栄養ドリンク一本で二十四時間()らされてんだっ!


 だが、おれも鬼じゃあないから、魔王をゆるしてやった。

 てゆーか、むしろおれが眠かった。二十四時間どころか、その三倍は起きてたからな。もちろん栄養ドリンクもなしで。


 驚くべきことに、魔王は本当に改心した。案外素直な性格をしていたんだ。

 やつは言葉通りに魔王軍を解体し、この地から――というより、おれから逃れるようにどこぞに旅立っていった。


 元ナイタール王国だった土地はゼンテル帝国を経由して魔王軍のものとなり、最後はおれの管理する広大な田畑となった。

 こうしておれは畑を耕しながら、当時一緒に魔王を説得――という名の暴力で屈服させたエルフの小娘とともに、二〇〇年ほど平和に生きている。


 他の仲間二人? もちろんエルフを除いて老衰だ。


 精霊王の親友(マブダチ)だった女も、神の声が聞こえるとかいう妄言を抜かしていた電波な(アブネー)神官戦士のおっさんも、残念ながら寿命にゃ勝てなかった。


 そんなこんなで、おれはいつの間にか人間たちの間で不死の英雄(イモータル)と呼ばれるようになっていた。


 だが! そんなことはどうだっていいんだよ!


 再三言うが、第二の人生に足りないものといえば、あとは嫁さんだけだ。英雄だのなんだのの称号なんざぁ、どうだっていんだよ。


 つまりは愛! 愛だよ、愛! そうだろ、兄弟?

 仲間のエルフ? ああ、だ~めだだめだ! シェルランシーちゃんはだめだ!


 ――絶望的なほどに、おっぱいが足りてねえ。



魔王「あいつ、もうホントやだ……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ