第11話 風もないのによく揺れる
前回までのあらすじ!
やったぜ!
ストーカーを逮捕したぜ!
と、いうわけで、おれは王都ゼルディナスの魔法兵団によって、暁の山賊団のアジトから山賊たちと一緒に、ゼルディナス城まで護送馬車で連行された。
手枷どころか足枷まではめられてだよ……。ついでに、減らん口がうるさいからって理由で、猿ぐつわまでされちまってる始末だ……。
いや、だってしょうがないでしょうよッ!? おれは無実! セネカちゃんのおパンティくらい純白なんだぜ! たぶんだけど。
とにかく、おとなしく連行されてるってわけだ。
さすがにおれだって、魔法兵団を全員ぶん殴って逃げるわけにもいかんしね。そんなことしたら正真正銘、本物の犯罪者だ。
ちなみにおれが張り倒した青年山賊ミラルド・ロンダは、おれの弁護をするどころかおれとは目も合わせずだ。
ほらまた! 目ぇ逸らしやがった!
あいつが一番の悪党なのに、他の山賊たちと同じように腕を縛っただけの拘束で引っぱられている。
やったね。おれだけ特別待遇だ。バカ。
立ち止まったらケツを蹴り上げられ、猿ぐつわを外されてからも「おしっこしたい」って言ったら「そこでしろ」と羞恥プレイを強要され、手はもちろん足さえ枷を外しちゃもらえないときたもんだ。
なぁ~んてこったい……。
本来なら今頃はセネカちゃんとイチャイチャファイトをオン・ザ・ベッドしている予定だったのに、この有様よ……。
「さっさと歩け、ミラルド!」
「うるせー! ミラルドじゃないって言ってんでしょうが!」
「やかましい、歩け! もう一度その口を塞いでやろうか!」
「だったらせめて足枷くらい外しなさいよ!」
「黙れ山賊がッ!」
「おれぁ農民だっ! 農・園・経・営・者!」
「貴様のような凶悪な髪型をした農民がいるかッ!」
ちょっと? それはひどくない?
濡らしても直毛にならないの、このブロッコリーは。
「それにそんな薄汚い格好をしているのは、山賊くらいのものだろう!」
「アホォ! これはそのミラルド・ロンダの魔法にやられたからだっての! おれは山賊団を潰してって美女に言われたから、やっつけてたんだッ!」
「バカが! ミラルドはランクAの魔法使いだ! そこまで服を穴だらけにされて生きていられる人間がいるかっ!」
おれの背後にいた魔法兵団のにーちゃんが、ぼそりと呟く。
「やっつけただと? さしずめ、他の山賊どもが倒れていたのも仲間割れだろう」
「そうだ! 白々しい嘘をついていないでさっさと歩け、ミラルド!」
ああん、ああ言えばこう言う……。
おれは手足を揃えてぴょんぴょん跳ねながら進む。
これじゃ山賊どころかキョンシーだ。
もちろん、こんな枷いつだって外せるし、逃げることだって簡単だ。
だけど先だって言ったように犯罪者になる気はない。そんなもんになったりしたら、シェルランシーの雷が比喩じゃなく物理的に落とされてしまう。
おれはちゃんと裁判で申し開きをして、受け容れさせなきゃならんのだ。それまではセネカちゃんとの初夜もお預けだ。
ところがよ? ケツを蹴られながら進むおれの、その行き先は牢屋ではなく――。
ゼルディナス城中庭に、その器具は置かれていた。
簡単に説明するとだな、木枠の中に落ちてくるでっけえ刃が設置されていてな、下のほうに首を置くところがあって。
まあ! ギロチンって言いますの、あれ?
「え? え? もう?」
魔法兵団のにーちゃんが、禍々しい笑みを浮かべた。山賊くらい凶悪に見える。
「そうだ。暁の山賊団、頭領ミラルド。貴様のような悪党に裁判の必要などあるか」
他のにーちゃんが続けた。
「知っているぞ、貴様らの計画は。人質を取って市民に山賊行為をさせ、山賊ギルドの面子で構成された本物の山賊団と入れ替わり、人質と市民を山賊に仕立て上げて逃げおおせるつもりだったのだろう」
「あ~、気づいてたんだ」
お上ってのも、それほど無能なもんじゃないらしい。
「だからもうあきらめろ。極刑を逃れることはできん。貴様も名の知れた魔法使いならば、往生際くらい格好つけろ」
「アホっか! そもそもおれはミラルドじゃないって何度言ったらわかんの!?」
魔法兵団のみなさんが一斉にあきれたような仕草をした。
肩をすぼめたり、口笛を吹いたり、ニヤニヤしたり。
「おれは暁の山賊団を潰したランドウ・タイガだっ!」
「ランドウ? ランドウ・タイガって、あの不死の英雄か?」
「そうだよ!」
もうこの際だ。正体隠してる場合じゃない。十三階段を上らされちまう。別に首を落とされるくらいはいいんだけど、繋いだ後の痒さは嫌だ。
ところが、魔法兵団のみなさんは一斉におれの言葉を笑い飛ばした。
「もう少しマシな嘘をつけ。ランドウなど、もうとっくの昔に死んでいる」
「生きてんだよっ! こうしてっ! ランドウは不死じゃなくて不老不死だから!」
「申し開きなら、我らが王の前ですることだな。ただし、執行準備が整うまでの数十秒だ」
魔法兵団のにーちゃんが、城壁の上を指さす。
そこには玉座に腰掛けた、煌びやかな冠と外套をまとった恰幅のよいおっさんが座っていた。たくわえられた白髭が、威厳を醸し出している。
王都ゼルディナスの当代王、キンケイド・ゼラだ。
そいつはおれと視線が合った瞬間、気まずそうに視線を逸らしやがった。
「……」
「……」
おい。あいつ、おれがランドウ・タイガ本人だって気づいてね?
少なくとも三国協定なんてもんが現存している以上、代々の王はランドウが生きていることは知っているはずだよな?
頭にきた。
それに、思い出したぜ。
セネカちゃんと愛を育むことばかり考えていたため、すっかり忘れていたが、おれは三国協定を作った三人の王をとっちめにきたんだった。
「ふ、へへ、へっへっへ」
思わず笑みが漏れた。
「なんだこいつ? 恐怖で頭がおかしくなっちまったのか?」
驚く魔法兵団を尻目に、おれは口内で自滅魔法を詠唱する。
直後、おれの両腕から大炎柱が立ち上った。
「う、うわ! な、なんだと!?」
おれを取り囲んでいた魔法兵団のみなさんが、炎の勢いに押されて一斉に下がった。
炎柱はおれの両腕を拘束していた枷を灼いて炭化させ、腕を遡っておれの全身に灯る。炎はなおも燃え盛り、両足の枷はもちろんのこと、おれのぼろ布のようになっちまった服を焦がして散らし、さらに勢いを強めた。
本来ならばどう見ても助かるものじゃあない。魔法暴走による事故、この状況では自殺に見えるだろう。
「ば、ばかな! ミラルドのやつ、ギロチンから逃れるために自らに火を――っ!?」
「んなわけないでしょうよ」
炭化、再生、炭化、再生。
おれの皮膚がめまぐるしく炭化と再生を繰り返す。灼いては治し、灼いては治し。
治すというより、治るんだけどね。自然に。
死なないんじゃなく、死ねないから。
おれは炎を全身にまとったまま、ゆっくり歩き出す。遙か高見に鎮座する、王のいる城壁へと向けてだ。
「ゴルァァァァ! キンケイドォォォッ!!」
「うへぁ!?」
キンケイド王が弾かれたように立ち上がり、城壁上から城壁下にいるおれを覗いた。
おれは轟々と燃え盛りながら、やつが王様であることも忘れて怒鳴ってやった。
「おンまえコラァ! 三国協定ってなんだっ!?」
「ひぃぃぃ、や、やっぱり、そ、その髪型は……本物のランドウ――くんッ!?」
やっぱ知ってやがるよ!
おれは血走った目を剥いて叫んだ。
「話があるからァ、高えところッから偉ッそうに見下ろしてねえでェ、……さっさと降りてこいコラァァァ!」
燃える右拳を握りしめ、口内で詠唱しながら目の前の城壁へと叩きつける。
「ふぬがぁ!」
臓腑に響くほどの重い音がした直後、おれの右拳が大爆発する。
「~~っ!?」
爆発、爆光、爆音!
おれの右腕が炭化した肉片となって爆散すると同時に、城壁に巨大なひびが縦に走り、数秒と経たずに高度およそ十五メートルはあろうかという壁が、石と砂になって崩落した。
大地が激しく震動し、焦げついた臭気のする煙が広がる。
魔王の腹を抉り取った爆発する拳だ。自分もすっげえ痛い。腕を爆弾に変える爆発魔法なんだから、あたりまえだけど。
百戦錬磨のゼルディナス魔法兵団といえど、このわけのわからん事態に目を丸くして立ち尽くすばかりだ。
そりゃそうだ。おまえさんたち程度の若造は、不死人の戦い方ってもんを見たこともねえだろ。
おれは空から降ってきたキンケイド王の胸ぐらを左手でわしづかみにして、受け止めてやった。もちろん、炎はもう消している。
「ひいいぃぃぃぃぃっ!? ラ、ララランドウゥゥゥゥ!?」
「そうだよ? ランドウだよ? 最初からそう言ってたよね? 間違っても山賊ミラルド・ロンダじゃないからね?」
がくがくと、王が首を上下に振った。
王冠がずるりと下がって地面に転がる。その頃には、おれの右腕はもうしゅうしゅうと白煙を立てながら修復され始めていた。
「ひ、ひ、あ、ああ……あ、あの、ラ、ララランドウく……ん? も、もちろん、儂はキミが山賊でないことを知っているし、こ、この城壁を崩しちゃったことも罪には――」
「はぁん!? 城壁が崩れたのは、老朽化してたからでしょうがァ!? それとも何? おまえん家って、人間が殴っただけで崩れちゃうのォォ!?」
勢いで言ってみたけど、ちょっと無理がある。
でも、こんなもん弁償させられてたまるか。シェルランシーの雷は結構な勢いで落ちるんだぞ。
「そこんとこどうなのォ?」
「あ、はい。新築にしたいと思いました」
通った。
「じゃ、もう今回の山賊騒動でおれに用はないね? 帰っていいね?」
「ありありありませせん……」
キンケイド王が、ちょっとだけ安堵の表情を浮かべた。が。
「でも残念! おれにはあるんだあ。……おまえコラ、三国協定って何? おれ聞いてないんだけど。十代から五十代までのステキな女性をランドウに近づけるな、なんてひどくね?」
「ごごごべんだざ……」
「なあ、キンケイド王よぅ。おまえさん、ず~っとおれの愛を邪魔してたのかい? 行き場のない愛が、何百年も虚無を彷徨うのをおもしろ半分に見てたってのかい? 自分は側室をたぁ~んまりはべらせて?」
キンケイドの女好きな有名だ。側室の数は五十いるとかいないとか。
キンケイド王が大あわてでぶるんぶるんと首を左右に振った。
「い、いえいえいえいえいえいえいえいえめっそーもございません! だだだってあれ決めたの、何代も前の王だし……ね? ね? そ、そそれに三国協定の破棄には、他二国の了承も必要ということもありまして……ね?」
ね? じゃねえよ。可愛いな、おっさんの分際で。
おれはキンケイドの胸ぐらを放して、両手を腰にあてた。もう火傷も傷もない。
「まいっか。おれにはセネカちゃんって大切な婚約者もできたことだし、今さらだな。今後、おれの結婚生活の邪魔さえしなきゃ、三国協定の件はゆるしてあげるよ」
と、そこまで言ったとき、おれの耳には愛しのセネカちゃんの声が響いていた。
「ランドウ、ランドウさん! まだ生きてる!?」
数名の魔法兵団に囲まれたまま、セネカちゃんがゼルディナス城の回廊から処刑用の中庭へと走り込んできたところだった。
おっと。おれがゼルディナス魔法兵団に連行されたことで、どうやら愛するセネカに心配をかけてしまったらしい。
たぶん、おれが山賊ミラルド・ロンダじゃないってことを教えるために、大あわてで追いかけてきてくれたんだろう。
いかんいかん、紳士たるもの、淑女に心配などかけては。
でも、でもでもでもでもー! 愛を感じるねえ!
おれはキメ顔で彼女に手を挙げた。
「フ、ここだぜ、セネカ。おれは無事だ。暁の山賊団も、潰しておいた。おまえはもう自由の身だ」
「ランドウさん! よりによって山賊と間違われるなんて! でも無事でよかった!」
おれを発見するなり、セネカの顔に笑顔の花が咲いた。
美しい。きゅんきゅんしちゃう。
「ああ。ありがとう。キミが応援してくれたおかげさ」
セネカが駆けてくる。
きっと柔らかいのだろう、彼女の身体は。
おれはセネカの愛を受け止めるべく、両手を大きく広げて彼女を迎え入れ――ようとした瞬間、セネカが大あわてで靴を滑らせて立ち止まり、金切り声を上げた。
「きゃあああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
両手で瞳を覆い、真っ赤に染まった顔を背ける。
「あえ? ど、どしたの、セネカちゃん? ハグ、ハグしないの?」
「ランドウくん。おぬし、裸じゃよ?」
キンケイド王がぼそりと呟いた。
――っ!?
そうだった。自滅魔法を使ったときに、全身燃やしちまったんだった。
おれはぷ~らぷらと揺れているご子息様をあわてて隠した。
いや~ん……。
へ、変態だぁぁ~~~~~~~~~っ!!
※次回、第一章完結!
変態ストーカーのどす黒い愛は、愛しのセネカちゃんに届くのか!?




