13.拠点を探して その3
ストーリーの攻略にはサブタスクの達成が役に立つでしょう。報酬が美味しいだけではなく、分岐に関わる選択肢に進展することがあります。
俺達はオスプレイへ向かう。後部から格納庫に入り、上に吊るされていた機関銃を持ち出して外に向ける。氷霧は弓をつがえて待機。ドラゴンが多く、滑走路は使えないがここはオスプレイ。垂直上昇もお手の物だ。
「上がるぞ!」
クインの号令でオスプレイが上昇する。地上はどんどん小さくなり、学校の三階とかマンションの自室から見下ろすそれなんかとは比べ物にならない。これが飛行するということだ。
機関銃の射線にドラゴンが被ったので引き金を引き、弾を放つ。身体を揺らす様な銃声が絶え間なく響く。手にも振動が伝わる。やはり普通のゲームとは違う。コントローラーの振動なんかとは比べ物にならない。
「弾幕だ! とにかく弾幕を張れ!」
クインの指示通り狙いを付けるよりばら撒くことを重視する。格納庫を解放したまま飛んでいるとそこへ吸い込まれて落ちそうになるが、なんとか機関銃に捕まって留まる。この弾、いつまで持つんだろうな。
「地上に叩き落とせばいい。後は下の人がやってくれる」
「おう」
氷霧は弓という性質上、連射は出来ないがドラゴンの頭部や翼を的確に撃ち抜いている。下がどうなっているかは気になるが、今は上空からの援護に専念だ。
「おらおら! いけや!」
クインによってオスプレイ自体に仕込まれた機銃も掃射され、ドラゴンが次々に下へ落ちる。群れるタイプなだけあり、一匹いっぴきは小型で強くない。腕が翼に進化した、ワイバーン系の種類にも見える。
「結構減ったんじゃないか?」
下からも銃撃で落としているのか、空を飛ぶドラゴンの数は徐々に減っていた。まぁ、大規模な騎士団総動員で退治していればそこまで大変じゃないか。とか油断していた俺だったが、突然視界が暗くなって困惑する。
「ん?」
鈍い音と主に機体が大きく揺れる。警報が鳴っており、墜落の危険があると一瞬で分かった。氷霧は躊躇いなく開いた格納庫から飛び降りたが、俺は機体が傾いているのもあって遅れてしまう。
「ええ! 飛ぶの? この高さを?」
建造物の屋上なんかより高度のある状態だが、落下ダメージがないので問題なく飛べる様だ。しかしそれはゲームシステムの話であって、精神的な躊躇いは当然生じる。
「えーい!」
「うわああああ!」
クインはそれを分かっていたのか、俺を押してオスプレイの外に投げ出す。いやもう絶叫。落ちる夢の感覚が長時間に渡って続く様なものだ。恐怖しかない。
「あああああああああああ!」
「まだまだ終わらんよ!」
銃声が聞こえる。それもかなり重くて長いものが。クインの奴、何か大きな銃を持ち出して落ちながらぶっ放しているらしい。おかしい。
「ああああああ!」
地面に落ちると痛みはないが並行感覚がぐるぐると狂ってしまい、起き上がれない。飛び降りという事態を脳が処理出来ていない様だ。普通飛び降りないもんねあんな高さから。
「避けろ!」
「え? え?」
脳が正常に再起動するのを待っていたら、クインが俺を抱えて走る。メラメラと酸素と炭素を結合させながらオスプレイが俺の上に落ちて来た様だ。位置関係から考えれば当然だ。オスプレイが完全に浮力を失う前に飛んだから先に地上へ付いたからよかったものを。
「うわあああ!」
落ちたオスプレイは燃料も積んでいるので当然大爆発。破片が当たらない様に伏せるクインだが俺はぶん投げられて雑に転がされる。
「あー……やべぇってマジで……」
アクション映画がいかにフィクションかを、身をもって味わった。死の危険がなくてもこれだ。リアルでそんな冷静に動けん。
「まさか、ドラゴンの群れ狙いでこいつが来るとはな……」
「な、なんだよ……」
クインも想定していなかったその存在は、馬の様な身体に羽毛と翼、猛禽の顔と爪を持つグリフォンそのものであった。その姿は海の様に青く煌く。
「オーシアは冒険の惑星、つまり架空の生物をモチーフにした原生生物が多い」
「いやゾンビもだいぶ架空寄りだよ……」
クインの説明に釈然としないものの、グリフォンの脅威は去っていない。
「オーシアグリフォンじゃん、ボーナス来た」
「いやこれボーナス扱い?」
藍蘭はむしろ素材にする気満々であった。オスプレイを一撃で蹴り倒し、地上に降りた今もそのオスプレイよりデカイ身体で威嚇してくるこれそんな弱くないだろ。
「案の定飛んでやがる……。これ近接武器で仕留めるの面倒じゃないか}
「まぁ、そうだな」
クインはレバーアクションのショットガンで、氷霧は弓で戦っているからいいが、グリフォンは飛んでおり剣は届かない。それはクインも承知の上だ。
「んじゃ、またギミックで撃ち落とすのか……。何かないかな……」
サクラジンリュウの様に何かで撃ち落とせるのだと考え、辺りを探す。すると、他の騎士団メンバーが垂れた尻尾を掴んで引っ張っていた。
「なるほどこれか!」
普通のゲームじゃ尻尾をちくちくやって落とせってしょっぱい要求されるが、ここじゃ引きずり落とせるのか。俺もやるぜ。さっそくグリフォンの背後に回り込み、尻尾に辿り着く。ヘイトが氷霧達に向いているから尻尾に迫ること自体は簡単だ。
「よっしゃあ!」
俺も尻尾を掴んだが、なんとそこで予想外のことが起きてしまう。グリフォンを引きずるどころか、尻尾を掴んだままグリフォンが飛んでしまったのだ。
「え、ええ?」
「あー、アバター小さくすると当たり判定小さくなる代わりにそういうとこ不利だよね」
騎士団メンバーの解説を聞いて俺は納得した様な納得しない様な。現実に近いゲーム性で体格差が存在し、かつ出せる攻撃力が同じだと当たり判定の狭い小柄なアバターが有利になってしまう。だからこのゲームじゃ吹っ飛びやすさとかこことかちょいちょい小さいことによる弊害があるんだろう。
「というかこれ、手を離したら落ちるんじゃ?」
また落ちるのか、と落下の恐怖に震えて涙が止まらない。いやこのまま掴まるのは悪手なんだろうけどさ。
「スカーレット!」
「はい」
その時、藍蘭が仲間、さっき援護してくれた赤いツインテールに声をかける。彼女はバレーのトスの様な体勢を取り、そこへ藍蘭が走っていく。
「えい!」
スカーレットの手に乗った藍蘭は、そのまま脚力と腕力の組み合わせで飛翔する。こういう飛び方もあるのか。
「これでトドメ! 【龍爪旋風!】」
大きな爪を手に、右回転でグリフォンの顔を薙ぎ払い、左回転に変化してもう一撃。グリフォンは落ちてついでに俺も落下。本日二度目。
「ああああ!」
さっきより低いが、怖いもんは怖い。だがグリフォンは手放す余裕すらくれずに飛行し、甲板から海へ飛び出した。まって余計に手放せない。普通の空母でも大概高いのにこの空母大きいんだもん。
「【イーグルアイラピッド】!」
クインは何と大きな狙撃銃、多分アンチマテリアルライフルとか、を連射してグリフォンの頭部をガンガン撃ち抜く。めっちゃ振動が尻尾にも伝わって手を離しそうになる。
「わわ……」
「……」
俺が必死になっていると、氷霧は何か意識を集中させている。足元、そして正面になんか強そうな攻撃に使えるだろう紋章が浮かび上がっているんだけど何する気ですか?
「【絶無雪花】」
放たれた矢は静かだが、その軌道は白い道筋を描いてグリフォンの目玉を射貫く。そして、全身が凍結する。徐々になんて甘いものではなく、一瞬で全身が凍り付いた。ばしっとまるでモデルが切り替わったかの様に。
「冷た!」
余りの冷たさに、思わず手が離れそうになったが心配はいらなかった。氷のせいでしがみついている手と顔がくっついてんだからな。冷凍庫から出したアイスが唇に張り付くやつの強化版だ。あの矢はまさに死のつらら、ブライニクルってやつか。
「あ」
グリフォンはそれで力尽きたのか、海に落下する。俺も一緒に。海水の温度で幸い剥がれたが、俺は泳げないのであった。ましてやあんな空母が浮いている海なんて足が付かないに決まっている。
「おあああ! 助けてー!」
クレーンで釣り上げられるまで俺はしょっぱさ、そして荒波と格闘したのであった。
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「なるほど、敵の死骸が落ちても素材は手に入ると……」
得した様なそうでもない様な情報を得て、俺達は学校の食堂で休んでいた。濡れた服の代わりに学校の定番なのか体操服を渡された。
「このビジュアルでニーハイブルマは犯罪臭やばいな……」
そして何故かブルマ。女性解放運動の象徴なのに自称フェミニストのやり玉になることで有名なブルマさん考案のブルマ。子供っぽい見た目と合わさってもう危険な香りしかしない。
「へぇ、あの氷霧パイセンが自分で騎士団をねぇ」
氷霧の引っ込み思案は藍蘭もご存知らしく、経緯を話したら驚かれた。そんなキャラなのかやっぱ。
「それでここに来たらこの様よ。オスプレイの修理まだー?」
クインのオスプレイは大破したが、このゲーム基本装備をロストすることがない様であんだけ爆散しても修理できる様だ。ただ時間は掛かるし設備は必要。
「だったらあの飛行機持ってってくださいよー」
「あれお前んとこのが作ったはいいけど誰も乗れなかっただけだろ……」
そこで藍蘭は戦闘機を提供しようとするが、そんなに何個もいるものではない様だ。
「くれるんなら貰えば?」
「あたしは自分で組んだやつしか乗らん」
クインには彼女なりの思想があるらしい。メカ好き故になんでもいいわけでないということだ。
「戦闘機の操縦ってエースコンバットみたいに出来るのか?」
「いや、結構本格的だ。フライトシュミレーターみたいに。アシストがあれば簡単だが、主観かつマジのコクピットってのは結構勝手が違う」
俺はエスコンシリーズの腕こそ自身があったが、こうも乗り心地が違うんじゃ少し不安だな。
「ヘリコ呼んだから、帰れるには帰れる」
乗り物を持っていないプレイヤーや、今回の様に壊れてしまった時の為に乗せてもらえるサービスがある様で氷霧は即座にそれを手配していた。
「そうだ藍蘭、連絡先交換しとこうぜ。ダチのダチはダチだし、これも縁だ」
「いいよ」
俺はある思惑の下、藍蘭の連絡先を聞いた。こっそりここで夏恋のことを聞こうにも、後で聞こうと密かに連絡先を交換しようにも、こいつに隠し事が出来るとは思えん。即バレが確定だ。というわけで、堂々と交換してそのタイミングになったら聞くことにしよう。
こいつと夏恋、氷霧とクインの間に何があったのかを。
タスククリア
→next
・藍蘭に話を聞く
どうやら後ろ暗いことはないらしいが、これ以上掘り下げるのもな……。
・拠点の内見
残り三か所をどう見て行こうか
・戦闘機演練
まずは手近な乗り物から手を付けてシステムの勝手を理解しよう




