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ドラゴンプラネット RE:turn players  作者: 級長
chapter2 インターバル 嵐の前の静けさ
19/23

12.体育祭を乗り越えろ!その1

ここから少し投稿方法変えるんじゃ

「ああー遂に来ちまったかぁー体育祭がよー」

 プロトタイプとの戦いを終えた俺は教室で一人ブルーになっていた。なにせ体育祭が近づいているのである。準備には積極的に参加しているが、いざ当日が近いとなると一日太陽の下にいなきゃいけないのが憂鬱になるぜ。もうすぐ体育祭、そのため、今日は授業が休みで一日準備の日だ。俺はクラス旗を塗りながら、ある人物に愚痴っていた。

『私を倒した女がそれくらいで何青ざめてんのよ』

 その相手はプロトタイプだった。スマホでドラゴンプラネットのアプリを起動して彼女と通信している状態である。

「だってよー。ゲームじゃ平気だが俺は日光に当たるとえらいことなるんだぜ? 日焼け止めだって日焼けを遅らせるだけで完璧じゃないんだよ!」

『あんたにも悩みはあるのね……』

 プロトタイプは煉那とも戦い、その後壮絶に敗北した。だが全力で戦いたいという気持ちに気づいた彼女はもうプレイヤーへの憎しみを抱かなくなった。チュートリアルでの扱いもプレイヤーを襲う敵からプレイヤーを鍛える教官へと変更されるそうで、プロトタイプ絡みの事件は一応の収束を見せた。

「ともかく、また今度呑みにいこうぜ。その時は俺の愚痴くらい聞いてくれよな」

『はいはい』

 俺はプロトタイプとの通話を切って作業に取り掛かる。この旗を完成させねばならない。口より手を動かさないとな。明日の天気は不運なことに快晴だ。中止は一切見込めない。

「さてと……」

 俺はひたすらペンキで旗に色を塗っていく。しかしこの労働、地味だ……。しかも溶剤の匂いでクラクラしてきた。相変わらず弱いなーこういうのに。

「どうした?」

「うわ! ビックリした!」

 急に煉那が隣に座って声を掛けてきた。制服もスカートだというのに胡坐をかいいる。しかも結構近い。よく見ると煉那も夏恋に負けず劣らず顔立ちが丹精だ。いや、そういうことではない。

 心臓が異常もないのに鼓動を早める。一体どうしたというのか? まさか、保健室でのことを思い出しているのか?

「なんだ? 直江、顔赤いぞ?」

「な、なんでもねえよ! ちょっとシンナー吸って気分悪いだけだ。外の空気吸ってくる!」

 俺は立ち上がって、咄嗟に教室の外へ出る。ホント、どうしたってんだ? こんな気分になるだなんて……。やっぱ溶剤のせいなのか? 廊下の窓を開けて新鮮な、日陰に冷やされた空気を吸って冷静さを取り戻そうとする。

「はぁ、一体どうしたってんだろうな……俺は」

「恋か?」

「恋ですな」

 そこに雅と門田がやってくる。は? 俺が恋だと? 冗談じゃない。数多くの女子を振って来た俺に限ってそんな恋愛だと?

「どういうことだ?」

「特定の異性にドキドキするなんてそりゃ恋だ」

 門田はこう断じるが、それはつまり俺が煉那を好きだということだ。いや、そんなはずは……。体育会系なんて俺の好みじゃない。そのはずだ。もっとこうお淑やかで、いうなれば佐奈みたいな子が好みなのに……。

「もしかすると初恋か……そりゃわからないわけだ」

「はぁ、言うに事欠いて初恋だと?」

 雅はそんな判断をする。確かに、俺は入院暮らしで恋愛なんてする様な環境にいなかったが、そんなドッキリハプニングの一つや二つで人を好きになったりはしない。

 もしかして俺、案外ちょろい?

「ちょっと男子ー、サボんないでよー」

 話をしていると、夏恋が声を掛けてくる。サボってんの見つかっちゃったか……。雅と門田は即座に解散して持ち場に戻る。

 しかし氷霧、夏恋と距離を取れだと? 一体それはどういう意味なんだ? あいつは夏恋のことを知っている様に見えたが。

「何見てんのよ」

「ん? 今見てた?」

 どうやら俺は無意識に夏恋の顔を見ていたらしい。しかし本人に相談するわけにもいかないしなあ。これは真相がわかるまで俺の問題ということにしておこう。

「シンナーで頭いかれてんな……違う作業いくわ」

 俺はひとまず夏恋から離れる。氷霧の奴、夏恋のためでもあるとか言ってたな。そりゃまたどういう意味なんだろうか。俺はどこかへ宛ても無く歩きながら考えた。

「ん?」

 いや待てよ? 確か夏恋と同時期に九州から岡崎にきたものがあったはずだ。俺の仮説が正しいと佐奈が被害届を取り下げた理由も、その時の夏恋の反応も説明が付く。いや、考えすぎか……。

 まさか夏恋が吸血姫なんて、そんな冗談はあるまい。佐奈に答え合わせをすれば一発なんだが、今はまだ言うべきではないな、うん。いや、一度声に出してその荒唐無稽さを改めて確かめてみよう。

 俺はこの喧噪の中でも誰も来ない場所を探した。体育祭と縁の無い特別教室棟、その頂上に位置する音楽室だ。俺は選択授業を美術にしているので来たことは無い。しかし、今は人もいないので絶好のチャンスだろう。防音もされているし。

「ここだな」

 音楽室に入ると、案の定誰もいなかった。この階段みたいになった教室、音楽室ってのはどこもこうなのか? それはいい。グランドピアノにボイスレコーダーを起動したスマホを置く。

「答え合わせをしよう!」

 最近事件とか無かったしご無沙汰だなこれ。ともかく俺は推理を順序立てて説明する。

「九州から岡崎に吸血姫が移動した時、同時に移動したものがある。それは上杉夏恋、お前だ!」

 吸血姫の発祥は九州。そしてそれが岡崎に移動した時、同時に夏恋がやってきた。いや、正確には夏恋がやってきたから吸血姫がやってきた。

「なぜ佐奈が被害届を取り下げたのか、それはクラスメイトであるお前が犯人だと知ったからだ」

 しかし、その被害届の取り下げに一番取り乱していたのは夏恋だ。一番得をするのは彼女のはずなのに、なぜそうしたのか説明ができない。

「だが、なぜ佐奈が被害届を取り下げたことに取り乱したのか。これはこれまでの吸血姫の犯行を振り返れば説明できる。吸血姫は犯行の後、救急車を呼ぶなど足の着く行動を繰り返していた。これは犯人が犯行を快いものと思っておらず、捕まることが一つの目的になっていたからだと考えられる。だから佐奈が被害届を取り下げること自体計算外だったんだろうよ」

 いや、世の中に捕まりたい犯人がいるわけが無い。そう俺も考えた。しかし現実に吸血姫はこうした行動を繰り返している。警察への挑発ではなく、被害者の救命のための行動を。犯罪としては奇怪極まる論理だが、現実に起きている以上吸血姫の犯人を推理する際、外せない要素だ。

「次に、夏恋。お前は佐奈が襲われた翌日に怪我をしていた。これは佐奈の証言と一致する」

 佐奈はコンビニの置物を振り回したら犯人に直撃したと言ったな。しかもちょうどその時、夏恋は前日にしていなかった怪我をしていた。これは偶然だろうか。

「よって、吸血姫の正体はお前だ! 上杉夏恋!」

 と、ここで推理を締める。うーん、なんというかシャーロック・ホームズとかエドガー・アラン・ポーみたいな推理小説黎明期っぽい無理のある推理になってしまったぞ。

「うん、これは無いな。無い無い。ナンセンスナンセンス」

 俺はスマホを手に取り、教室へ戻る。声に出してすっきりした。


 体育祭当日になった。タータンの敷かれたグラウンドには長篠高校の全校生徒が集まっている。出来上がったクラス旗を振っての応援合戦も始まっており、場の空気は非常に盛り上がっている。

 場の空気はな。俺個人は非常に盛り下がっていた。グラウンドの端っこの砂地にパラソルを差して、ビニールシートを敷いてみんなの様子を見ていた。日焼け防止にジャージを着こんでいるがこの時期になるとさすがに暑く感じる。

「まったく元気なこって……」

 高校生というのは非常に元気な生き物だ。それはオリエンテーション合宿の時にも経験済みだ。競技が始まると、盛り上がりはさらに加速する。

「お前ら、これでも飲んで力付けろや」

 俺はそこから競技参加メンバーに声を掛ける。この日の為に、バナナセーキを持ってきたのだ。エネルギー効率のいいバナナをより消化しやすい状態にしたものだ。持ち運びやすい様に水筒を使って持ってきたが、結構重かったぞ。俺が競技前から疲れているのはそのせいだ。まぁ他にも理由は有るけどな。

「なんだこれ?」

「バナナセーキ。試しに作ってみたんだ」

 早速煉那が食いつく。よーし狙った通りだ。今の煉那は半袖に紺のハーフパンツという指定体操服姿で、健康的に焼けた肌が眩しい。つい、見入ってしまう。そうか、制服はまだ長袖だもんな。白いシャツとの対比で余計そう見えてしまうのだろうか。

「どうした?」

「あ、いや、何でもない」

 あんまりジッと見過ぎたのか、煉那に視線がバレてしまう。こんなんばっかだな最近の俺。目を反らし、とりあえずバナナセーキを勧めることにする。

「私の顔に何かついてるのか?」

「いや、肌焼けてるのいいなって……」

 俺は何を言っているんだ? バナナセーキを勧めるんじゃなかったのか? なんでそんな変なこと言ってんだ俺は。

「そうか? 案外悩みの種なんだけどなあ。お前からすれば羨ましいものなのか」

 しかし彼女は俺が羨ましがっていると解釈した様だった。セーフ!

「顔赤いぞ? 焼け過ぎじゃないか?」

 が、気づかないうちに俺の顔は赤くなっていた様だった。全く、感情をコントロールできない奴はゴミなんだがな! 俺は家庭科室に置いていたものを思い出し、なんとかその場を切り抜けようとする。

「そうかもな! あ、そうだ、おにぎり握ってくるよ! バナナセーキみんなに勧めといて!」

 俺は即座に立ち上がると、家庭科室へと走った。自分でも信じられないくらいの速度が出ていた。墨炎といい勝負じゃないのか? 家庭科室に着く頃には息も絶え絶えだったが。

 所詮、俺は長い入院生活のせいで恋愛感情もまともに処理できない敗北者じゃけえ……。

「はぁ、はぁ……敗北者?」

 取り消さなくていいぞその言葉。告白してくる女子を今まで振ってたのはコンプレックスの名を借りた防衛行動だったのかもしれない。このアルビノの物珍しさで告白してくるんだと己に言い聞かせて恋愛から離れようとしていたのだろう。

 しかし恋愛なぞしてどうする? その先の結婚は? 俺が子供を作ったところでこの遺伝子を子孫に押し付けることにならないか? それどころか、パートナーを置いて早死になんてことも考えられる。

 一応男性は女性より平均寿命が短いのでパートナーを置いていく危険性は男なら誰しも持っているものだ。だが俺の場合、さらに体が弱い。下手こくとインフルエンザが重症化して今年に死ぬかもしれない身だし。

「あー、考えてもしゃーねえ! おにぎり握ろう!」

 俺は顔を叩き、家庭科室に置かれた大きな電子ジャーの前に立つ。朝の内に米を研いで炊いておいたんだ。その中にある大量の米を前に、俺は手に塩を揉んでおにぎり作りに取り掛かる。料理をする時は余計な事を考えなくていいからな。

 具は梅干しに鮭、昆布だ。運動するから塩分多めの設定にしておかないとな。さすがにこの量だと海苔を巻く余裕はないけど。


「お前らー、昼飯だぞー」

 おにぎりを作り終えた俺はトレーに乗せて持って行ってやる。食べやすい温度に冷めたし、ちょうどお昼の時間帯だ。これに食いついたのは門田と雅だった。

「お、うまそうじゃん」

「これは有難い」

 意気揚々とおにぎりを手にする二人。だが一口食べて様子が一変する。

「すっぱ!」

「これは、なかなかだな……!」

 二人は梅干しを引いたのか、悶絶する。そう、この梅干し自家製なんでそんじょそこらの市販品と比べ物にならないくらい酸っぱく仕上げてあるのだ。梅干しはハマると酸っぱさを追求したくなるもんでな。だがはちみつを使うことでその酸っぱさの奥に甘みがあって美味しいのだ。

「どうだ? 俺自家製の梅干し入りおにぎりは?」

「どうやったらこんな梅干し作れるんだ?」

「おばあちゃん直伝ですわ」

 何も一人でこんな酸っぱい梅干しを開発したわけではない。祖母の教えがあってこそこの味なのだ。加えて直伝のたくあんもあるぞ。

「ほれ、たくあんも食え」

「色薄いなこれ……」

「着色料使ってないからな」

 門田は最初、色の薄さに戸惑ったものの食べると顔色が変わる。

「ちゃんとたくあんだ! 甘い!」

「だろ?」

 みんなでワイワイおにぎりを食べていると、夏恋がおにぎりをジッと見る。一体どうしたんだ?

「中部ではおにぎり海苔が焼き海苔だっていうのは本当?」

「味付け海苔の方が信じられなかったぜ。海苔って手にべたつかないためのもんだろ?」

 そういえばこいつ西日本出身だったなと思い出す一幕。方言とか全くないからつい忘れがちだ。九州だと味付け海苔なのか?

「まぁそれもそうね」

 納得すると夏恋もおにぎりを口にする。まぁ、このおにぎり海苔は巻いてないんだけどな。こうして普通に過ごしていると、夏恋が吸血姫なんて全く考えられない。俺の推理ミスに違いない。

 

 体育祭も後半戦。俺は飲み干されたバナナセーキの水筒と食い尽くされたおにぎりのトレーや電子ジャーの釜を家庭科室で洗っていた。全く忙しい日だ。俺は全く競技に関与していないというのに。

「なんだかんだ言って、キャラに合わんのにはしゃいでんのかな、俺は……」

 入院時代、俺は普通の学校に行ってみたいと思ったことが無いと言えばウソになる。同室になる連中から所謂普通の学校というのがどんなのかは聞いているし、運動会も学芸会も、やってみたいと思ったことはある。体育祭もやれ運動が嫌いだ日光の下に出たくないだ言いつつ、ノリノリで自分に出来ることをやっている。

 恋愛もそうだけど、結局嘘を吐いて自分を守っている様な言動が多いよな、俺……。

「ん? 暗いな……」

 ふと、洗い物をしていると部屋が暗いことに気づいた。そういえば電気点けてなかった様な……、いやそういう暗さじゃねーぞこれ? なんだか水音が聞こえてきた。ゴロゴロと雷鳴も響いている。

「雨か……」

 今更になって、雨が降ってきた。中止になればよかったやら、中止にならなくてよかったやら、複雑な思いが渦巻いた。

「じゃねー! パラソルとビニールシート!」

 複雑な思いをうず巻かさせている場合ではなかった。私物のパラソルとビニールシートが外に出しッパだった。濡れると乾かすの面倒なんだよなぁ。うちってマンションだからベランダ狭いし。

「急げ急げ!」

 俺は急いでその二つを取りにいく。たしかグラウンドでも学校から離れた位置だったから距離あるぞ。俺は下駄箱に辿り着くと、速攻で靴を履いて外へ向かう。下駄箱には既に避難を終えた夏恋達がいた。

「あ、遊人!」

「すまん今急いでる!」

 俺はまさにバケツをひっくり返した様な雨の中、夏恋の静止を振り切って突撃していく。くっそー、とくせいがすいすいだったら素早さ上がるのに俺はポケモンじゃないから畜生!

 眼鏡に張り付く水滴で前もまともに見えない中、何とかビニールシートとパラソルを接地した場所まで向かう。が、そこに目的の物は無かった。

「あるぇー?」

 眼鏡を外してみても、見つからない。靴にはどんどん水が入ってくるし全身びしょ濡れだしで散々だ。これ以上いても仕方ないので、俺は走って校舎へ戻った。

「あー、散々な目に遭った……」

 濡れ鼠になりながら俺はなんとか校舎まで引き上げた。しかし風が冷たく感じる。水滴に体温が奪われていくのが分かる。歯の根が合わない。きっと唇はチアノーゼだろう。そのくせ、顔だけが熱い。眼鏡が濡れたのもあるが、視界がぼやける。

「遊人どうしたの? パラソルとビニールシートならここだよ?」

 夏恋は俺に畳まれたパラソルとビニールシートを差し出す。なんだ、そこにあるじゃねぇか……。

「そ、そうか。サンキュー……な」

 俺は膝から地面に崩れ落ちる。そこから、記憶が無い。


「ん……?」

 気づくと、俺は保健室で寝かせられていた。服も着替えさせられている。まだ頭は痛むが、額には冷却シートが貼ってあった。これは……また倒れたな。ガラでもなくはしゃいだ代償か……。

「まったく、また無茶しやがって」

 ベッドの近くにはパイプ椅子に座る煉那がいた。

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