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ドラゴンプラネット RE:turn players  作者: 級長
chapter1 暴走プロトタイプ
15/23

9.荒野のクイン(前編)

 前回までのドラゴンプラネット!

遊人「待たせたな」

夏恋「遅かったじゃなか」

遊人「で、なんだっけ? サーバーが暴走して運営の会社が巨大ロボットに変形したんだっけ?」

夏恋「久々過ぎて自分が主役の話忘れてる……。アイドルユーチューバーに絡まれたんじゃなかったっけ?」

遊人「ふ、時代はバーチャルユーチューバーだぜ」

夏恋「久々過ぎて流行も変わってる! ほんとどうなるの第9話。なんかついに更新頻度上げるために分割始まったよ?」

「おーい、飯だぞ」

 俺は飯の用意をしてみんなに声を掛ける。もちろん、ここは俺の家……。

「お、飯か」

「直江って料理できるんだ」

 いやそんなわけがない。門田や煉那筆頭にスポーツマンが自宅へ押し寄せるなんて悪夢かよ。ここは学校だ。今日は土曜日だが体育祭の準備をしていて、俺は家庭科室を借りて飯を仕上げてきたところなんだ。

 そいつを教室にいるクラスメイト共に持っていってやったら大騒ぎだ。いやー食べ盛りってのいいねぇ。シンデレラ体重なんぞ中指立てて唾吐くくらいでねぇとな、この年頃は。

 本来なら行事などスルーするところだが、こういう機会でもなきゃ大鍋で料理を作る機会なんてねぇからな。煮込み料理は大鍋の方が美味いんだ。

 というわけで今回作ったのはハヤシライス。こういう時ってカレーじゃね? と思われるだろうが、個々の辛さに対する好みを把握できない以上、こうなる。

「ご飯も死ぬほどあるぞ」

 大きいジャーで米も炊いておいた。一体何合あるんだこれ。炊飯器なら米の量に合わせて『ここまで水入れてね』って線があるんだが、あのジャーはそういうの無いから自分で測ったし。

「うん、目盛り無いなりにいい水加減じゃないか」

 ご飯を少し食べてみると、芯は残っておらずベチャついてもいない。かけるものがあるなら多少硬くても問題ないだろうと水を気持ち少なめにしたが、まぁいい感じか。

「うん、美味い……」

 早速一口食べた煉那からそんな感想。普段の気怠げな表情はどこへやら。口に入れた瞬間、パッと明るくなった気がする。こんな顔するんだな、こいつ。

「確かに、出来はいいな」

 俺も作る途中に味見はしている。やり過ぎると舌が鈍るから一回切りだが。レトルトも最近は美味しいが、あれはどうもトマトの酸味が強い気がする。それにああいうレトルトは具が溶けて食感なんて無いも同然だ。俺のハヤシはジャガイモも人参もしっかり食べ応えあるサイズに切って、玉ねぎは蕩ける様に甘いぞ。

 肉は牛。値段的に痛いけど、ハヤシは致命的に豚や鳥などの代用が出来ない。

「うーん、やっぱり牛で正解だねー」

 そこはこのスポンサー、藤井佐奈様がいたので可能だった。本番の体育祭で活躍出来ない分、準備にも中々来られない分と今回の材料費をポンと出してくれたぜ。相当なお嬢様なの忘れてた。

「あれ? そういえば夏恋の奴は?」

 俺は今までにない最高の環境で料理出来たことに浮かれ、夏恋がいないことに今気づいた。予算を気にせずいくらでも良好な野菜を目利き出来、大鍋でそれを仕込むんだから興奮しない料理人はいない。

「病院行くって言ってたぞ?」

「病院? あいつが病院なんて……口腔外科で口が悪いのは治らんぞ?」

 煉那が言うには通院らしいが、そんな体調不良には見えんかったな。入院生活が長い俺は、例外もあるが体調の悪い奴くらい瞬時に見分けられるぞ。

「そうだ、病院といえばお前の弟がな」

「弟? オリ合宿の時に会ったっていう?」

 煉那は俺の弟のことを話す。そういえばそんな話もあったような。聞くには結構いい奴だけど夏恋には嫌われているらしい。まぁいつもの毒舌なんだろうけど。

「ああ、そいつがなんか病院の案内を渡してたな。夏恋に」

「うーん?」

 俺の弟は超人機関とかいう明らかに敵っぽい組織のボスで、『歩く総合病院』なんて二つ名まである。もうボスじゃん。プロトタイプ倒した後とか吸血姫事件解決した後に出てくる奴じゃん。

「医者だからなんか知ってるとは思うけど……」

「いや、医者でも色んな奴がいるからな。一概に信用は出来ん」

 煉那はあまり医者に疑いを持ってはいないが、医者とはいえ人間だ。ただの傲慢きちもいれば、能力不足で重大な病気を見過ごす奴もいる。マイコプラズマとか普通の風邪って診断する奴いくらでもいるぞ。

 患者の方も医者の常識飛び越える奴たくさんいるしな。精神疾患の病院探しはガチャに例えられるが、それはどの病院でも一緒だな。

「なんか悪いのか? 大丈夫そうには見えるが」

「うーん。あいつからは何かしらの『死の匂い』はしないしなー。だとすると……」

 加えて、死にそうな奴ってのなんか独特の死臭がするんだ。俺の主治医の先生曰く、俺は臓器不全を感知しているとのことだが。

 そうなると考えられる可能性は一つだが、ここで言うのはやめておこう。

「あ、夏恋」

 その時、バタバタと大きな足音がした。走ってやってきたのは夏恋。噂をすればなんとやらだが、やけに鬼気迫っている。コワイ!

「なんだ? 久々に歯科検診行ったら親知らずでも見つかったのか? それも横に寝てて抜かないといけないけど歯茎切り開くやつ」

 夏恋は俺の軽口をスルーし、佐奈に詰め寄る。少量のハヤシライスを食べ終えた佐奈は落ち着いた様子で皿とスプーンを置き、対応する。要件はわかっているようだ。

「佐奈! 被害届出さなかったって本当なの?」

「はい」

 夏恋とは対照的に、さも当然のことをした様な口ぶりの佐奈。被害届? ああ吸血姫の……ってええ?

「供述調書とか面倒で。私も幸い軽い怪我でしたし。というか自爆でしたし」

「わかる」

 佐奈の理屈にも一理ある。警察は何度も同じことを聞く必要があり、それが面倒なのは非常によくわかる。事件ってモノによっちゃ被害届無関係に捜査するもんなんだが、そういえばこいつ自衛したけどすってんころりんしての怪我だったな。

「でもなぁ。次の被害者が出たら事だし……。もしや、何らかの圧力か?」

 俺はそれを疑った。いや、でも佐奈に圧力って、こいつの家考えると無理じゃね?

「それは無理ですよ。だって私のお父さん結構偉いもん。大臣だし」

「うん、そりゃ無理だ」

 へー佐奈の親御さんって大臣なのか。そりゃ無理。むしろこの娘の親ならやるとは思えんが、圧力かける方だな。

「あんたねぇ……」

「まま、そこを決めるのは佐奈だ。外野がどう言っても仕方ないぞ」

 夏恋は何か言いたげだったが、外野の俺らが口を挟んでも仕方ない。被害者を外の人間が責めて被害届を取り下げさせることもあるんだ。今回は逆だが、事件で生活を圧迫されたくない気持ちも尊重せねばな。

「外野って……佐奈は私達の……」

「その考えは危険だ。人間同士ってのはどこまで言っても他人だぞ?」

 尚も食い下がる夏恋だが、他人を自分の内側に引き込むのはよくない。

「お前からそう言う言葉が出るとはな」

 煉那は随分と意外そうだった。そうか、俺の家族構成か。

「俺だから、な。血の繋がらない他人と家族やってんだ。血縁とかそんな属性、あんま意味ないことはよくわかる。自慢じゃないが俺たち、その辺の血縁ある家族より仲いいぞ?」

 やべ、なんか教室が静かだ。話がシリアスになり過ぎたか。

「うん? 聞きたいか俺たち直江家の仲良しエピソード。こないだな、モンハンの新作出たろ? でもあれ据え置き機だからな、実家と俺んちでテレビとプレステ一台ずつあるけどみんなで遊べないから未だにダブルクロスで狩技ぶっぱしてるわ」

 やっぱみんなで集まるゲームは携帯機に限る、といいたいけどマリオカートとか星のカービィみたいに家庭用でコントローラー繋いだ方が都合いい時もあるからなんとも言えん。それを無視して、夏恋は教室を出て行ってしまう。

「おーい、夏恋? メシ食うか?」

「いい、いらない……」

 なんか変だなー。一体どうしたんだ? もう足音が遠くへ行ってしまった。

「おいみんな、夏恋はこれからバリウム飲むからな。検査中にゲップしない様に祈ってやれ」

 とりあえず対外的にはバリウムのせいでブルーになっていることにしよう。そうすれば食べない理由にもなる。


   @


「あー、疲れた……」

 返ってきた俺はドラゴンプラネットにログインし、拠点のバーで一休みしていた。今度はビールじゃなくてソフトドリンク頼んだぞ。ビールはあまり美味しくない。学習した。

 テーブル席で赤いストローの刺さったコーラを飲む。つまみはグラスに入れられたオシャレなポッキー。

 あれ? でもこの流れ何処かで……。

「プロトタイプ……いないな?」

 そうそう、プロトタイプが来たんだよなー。あいつ、いないよな?

「いたわ……」

 よく見ると向こうが気付いていないだけでカウンター席にいる。あいつも赤いストローの刺さった飲み物飲んでるぞ。オレンジジュースか。炭酸もダメなのかな?

 俺は急いで注文したメニューを平らげ、バーを出る。見つかったら面倒臭いぞ。抜き足差し足、ゲームの内容がメタルギアに変わっちまったぜ。

「ふぅ、助かった」

「何が助かったって?」

 後ろから声がしたので、俺は思わず飛び退く。プロトタイプだ。俺の後ろにあのプロトタイプがいるではないか。まさか見つかったのか?

「ちょうどいい。ここで決着をつけてやる」

「俺はちょうど悪いから!」

 当たり前の様に戦闘態勢へ入るプロトタイプ。待って、ボス戦の前にはセーブポイントが必要なんだぞ。なに非戦闘区域でボス戦やろうとしてんだよ。ロックマンゼクスで拠点を使ったボス戦体験したことあるけど、あれ熱かったな。あれも一応『あ、ここなんかあるな』って部屋が平時からありましたけどねぇ。こいつ路上でボス戦始めてんぞ。

「へいへい。そこまでにしなすって」

 その時、プロトタイプの背後に立つ女性がいた。ハンドガンの銃口を彼女の後頭部に当てているが、引き金に指はかけていない。

 ガンマン、というよりつなぎをはだけて黒いタンクトップを見せているその姿はメカニックに見える。赤っぽい茶髪をポニーテールに結い、あのプロトタイプに対して悠々と構える。スタイルもよく、俺もアバターの背丈伸ばして胸盛るか悩んでしまう。

「チッ、クインか……。生憎、このミッションは初心者向けよ」

「あ、そうなんだ。アタシも初心者だよ? マジのアンタと戦うのはね」

 プロトタイプが少し戦意を収めたのを見て、クインと呼ばれた女性も銃を下ろす。ホルスターにまで収めたが、あれ少しでもプロトタイプが動いたら撃つな。腕組みをしているが、あの状態からでも撃ち抜かれそうだ。持ってたハンドガンはよくバイオハザードの初期装備になっている自動拳銃。

 確か、それって早撃ちには向いていないんでは?

「屁理屈を言うな。私はこのチビに用があるんだ」

 プロトタイプが呆れていると、クインは突然しゃがんで俺の背丈より小さくなる。

「よし、これでアタシが一番チビだ。アタシに用ってなに?」

「ふざけているのか?」

 なんだろう。この日本のアニメとハリウッド映画の吹き替えを同時に聞いている様な感覚。なんというか文化圏の違い? いやクインが日本人プレイヤーなのは言葉のトーンからも明らかなんだけど。

「今日はお前と話して疲れた。帰る」

「そうかそうか。そりゃ残念」

 プロトタイプはそのまま何処かへ去ってしまう。真正面からあいつを打ち破る氷霧も凄いが、言葉だけで煙に巻いてしまうクインも何者なんだ?

「よう、災難だったな、墨炎。いや、まだ災難中か?」

 そのクインが俺に話しかけてきた。思わず身構えてしまう。絶対プロトタイプより強いし。

「俺のことを?」

 それも俺のことを知っているような口ぶり。まさかあのアイドルの動画から? 全く余計なことを。俺は思わずため息だ。だから生主とかユーチューバ―ってのは嫌いなんだよ。

「知ってるも何も、氷霧のダチだろ? アタシと同じく」

 しかしクインから帰ってきたのは予想外の答え。氷霧の友達? それって一体?

「ああ、確かにギルドに誘われた」

「そうか、あいつが遂に一人で見知らぬプレイヤーに声を……」

「ん?」

 クインは感慨深そうに言っているが、俺は意味がわかっていない。ああ、多分氷霧ってリアルだと結構引っ込み思案で人見知りだからクインが心配してんだろうな。分かる気がする。

「で、俺のこと聞いたん?」

「いや全然。ただプロトタイプの動向を追っててな」

 クインは本人から聞いたとかではないのか。そうかプロトタイプ関連か。ゲームのボスが本来以上の実力を身に付けて反逆なんて、SF的にワクワクするイベントだもんな。

「プロトタイプが今狙っているニュービーがアンタとレナってやつ。それでまずアンタのこと調べてたらアイドルの動画に氷霧と一緒に映ってたんだ」

 レナは煉那のことだな。それはそうとしてやっぱあの動画かチクショウ! あのアイドル次会ったら10割コンボ決めて蘇生出来ない様にロストまで追い込んでやる。今時戦闘不能から復活できなくなるゲームってそうないけどね。

「それより今、氷霧がギルドの拠点探しに物件漁ってんだけど冷やかしにいかね?」

「おー、行く行く」

 クインから氷霧に会いに行くことを提案されたので、俺は乗った。共通の友人がいると話も早い。

「ギアズにいるんだってよ」

「あーギアズか。俺もちょうど用事あったな」

 居場所を聞き、俺はあることを思い出した。機械惑星ギアズ。荒野と重機の世界。そこで俺は発掘した武器を使えるようにしてもらう必要があったんだった。

「へぇ、武器でも発掘したん?」

「それそれ。風化した双剣だっけ?」

「すご、何それ?」

 クインが言うくらいだしやっぱ凄いんだこれ。

「友達とサクラジンリュウやって一発ツモった」

「凄いな。きっと近日中にお前の町にモジャ頭のベトナム帰りがくるぞ。優しくしてやれ」

 生でランボー見られるのは幸運なのか不運なのか。見たいけど下手なことしたらトラウマ刺激して戦場になるからなぁ……。いや、やっぱ見たいわ生ランボー。ラズベリー賞とか言われてるけど俺2以降も好きよ。

「スタローンの演じた役ならロッキーくらいがちょうどいいかな。会うんだとしたら」

 あ、でもやっぱ戦場は勘弁な。

「だな。飛行場へ行こうか。外に車止めてある」

 クインに案内され、俺は拠点を出る。すぐに赤い車が見えた。あれがクインの車ってわけか。凄いな。まるで実車だ。このやけに低いスタイル。マジモンのスポーツカーだ。

「って、これ……ランボルギーニのアヴェンタドールか?」

「ご明察。お眼が高いねぇ」

 ガルウイングの扉を開きながら、クインは語る。俺はじいちゃんが車好きだしゲームでも結構触れているから知っているんだが、このゲームでもお目にかかれるとは。

「日本のメーカーはあまり参入していないけど、実車を用意しなくていい、燃料もいらない、万が一の事故も安全性を体験できると外国車のメーカーはこぞって広告を出す気分で車のデータを提供してくれるんだ。まぁ、提供っていっても外見と性能と乗り心地だけでバラせないのが口惜しいけど。いいよなぁタミヤの人って模型作るために車バラしたんだってよ」

「はーん、金出してもらった上にゲームで使う要素ももらえたと」

 フルダイブって技術のヤバさが改めて分かった。ネットで情報をやり取りする様に試乗出来ちまう様になるのか。車ってのは所謂脚だから、こんだけ体験させても現実じゃ一ミリの移動能力も一グラムの運搬能力も無いから、買い控える恐れも無いってか。

「低っく! これ普段使いは無理だな」

 やっぱり乗り心地は悪くないが、こう天井が低いとな。やっぱ俺はゆったりしたい。墨炎の体だからいくらかマシなだけで、結構狭いんでは? 居心地はいいからそんなに気にならないけど。

「しかし拠点に惑星を移る設備が無いんだな」

「ああ、利便性より没入感を重視してるっぽいな。幸い時間が五倍引き延ばしだから問題ないわけだし」

 夜の街をドライブしながら話をする。俺はどうしても気になることがあったので、クインに切り込んでみることにした。本人に対してはとても聞けないし、この分だとこいつに聞くのも地雷臭いからあくまで遠回しに。

「なぁ、みんなリア友とこういうゲームすんの?」

「そうだな。そもそも氷霧をこのゲームに誘ったの、アタシの先輩なんだ」

「あー、やっぱり?」

 ウェーブリーダー以外基本無料ってことだし、そらそうか。ソシャゲみたいなもんだしな条件としては。俺が聞きたいのは上杉夏恋のことなのだが、なんかやっぱデジャブる話が出てきたな。

「俺もリア友に誘われたよ。手に入りにくいウェーブリーダーを寄越してまで誘うって相当だな」

「アタシの先輩もな、いくら高いもんじゃないからってウェーブリーダー人数分用意してたよ。そんな人気商品、どこで調達したのやら……」

 なんか似たような経験してんな。やっぱ夏恋と繋がりあんのか? たしか氷霧が中二で夏恋の年齢を考えると同じ学校に在籍出来た時間もある。

「なぁ、その先輩はどんなプレイヤーなんだ? ゲームやってりゃ会うかもしれないしな。そんだけのめり込んでりゃトップだろうなぁ」

「ああ、カレンっていう名前のレイピア使いだ。今引っ越しちまって、ゲームも続けてんのか分からないけどさ」

 ほう、カレンか。レイピア使いという情報は合わないが、武器なんていくらでも持ち替えられる。

「奇遇だな。俺を誘った奴もカレンなんだよ」

「へぇ。というかなんか探ってない?」

 うげ、バレた。結構鋭いんだな最近の中学生って。仕方ないから腹割って話すか。これ以上誤魔化していてもどうしようもないし。

「バレたら仕方ない。ふと上杉夏恋の名前を出した時にな、氷霧の反応がおかしかったんだ。いやまさか日本全国の人間が集まる場で俺と氷霧が思い浮かべてるカレンが同じとも思えんが」

「ああ、多分一緒だぞ? 上杉夏恋。アタシらを誘った先輩と同じだ」

 衝撃の事実、まさかそんな。ゲームでランダムに出会った人間とクラスメイトに接点があるだなんて。どんな確率だよ。俺が世間の狭さに驚いていると、車は飛行場へ入った。駐車場に止める気配はなく、滑走路の様な場所をそのまま走る。宇宙船は飛行機がデブったみたいな外見をしており、それなりに大型だ。

 車のままフェリーみたいに宇宙船へ乗り込む。宇宙船へはタラップで車を格納する。内部はパーキングみたいになっており、モブのものかいくつか車がある。

「マジか……あの上杉夏恋だぞ? 君らの知ってる優しそうな先輩じゃなくて毒舌魔人だぞ?」

「そうなのか? 漢字はどう書く? アタシの先輩は夏に恋でカレンだ」

「おいおい、そこまで一緒かよ……」

 上杉にカレンまでならまだいるかもしれないが、その当て方はあいつしかいねーぞ? 一体何が起きてるってんだ?

「なんて狭い世界だ……」

「そうか? 特殊な機器が必要なせいで基本無料のMMOの中じゃ人口少な目な気もするんだが」

 クインの意見も一理ある。とはいえとんでもない偶然だな。サーバーの導きとか言われても信じるぜ。

「で、その夏恋何があったんだよ。氷霧があんな反応するなんて」

「あー、それな。うーん」

 単刀直入に聞き過ぎたのか、考え込むクイン。その間に宇宙船は揺れて動き出す。既に垂直飛行しているようで、やはり普通の飛行機や既存の宇宙船とは異なる仕組みらしい。

「うーん、なんというか……」

「いや、言いにくいならいいや」

 さすがに困っている様なので、ここで打ち切る。見かけは結構大人のお姉さんだが、中身は年下の女の子だもんな。微妙なことを上手くまとめる技術が無くても仕方ない。

「ありがと。ただ上杉先輩はいい人だから仲良くしてやってくれ。氷霧もな」

「おう」

 どうやらのっぴきならない事情の様だ。ま、いつもみたいにしてりゃいつかわかるでしょ。そん時考えるか。

「さて、せっかくだしこの船探検しようぜ」

「いや、待て。プロトタイプだ」

 話を切り上げて探索パートに移ろうとしたら、なんと同じ船にプロトタイプ。バイクに乗って宇宙船の格納庫にいるではないか。しかもキョロキョロなんか探してるし。怖い。武器である大鎌も手に取っており、明らかに俺らを追ってきたって感じ。

「くっそー、いつからこのゲームのジャンルはホラーになったんだ?」

 車の中で息を潜める。前にやった船で化け物から逃げるゲーム思い出すな。あれ、脱出に使うアイテムの配置どころか化け物の種類もランダムで変わるから苦労したぜ。

「さて、どうする? 仕掛けるか?」

「いや待て、狭いぞここ?」

 クインがやる気満々だったが、格納庫は結構狭い上に遮蔽物になる車が多い。俺は瞬殺されるだろうし、クインにとって不利なフィールドは避けたい。相手が近接武器、こっちが銃なら平地の方がやりやすい。

 この経緯だとあいつ、俺とクインが一緒にいることを知ってるだろうし、一度去ったのは油断させるためか?

 どうする俺ら? かなりやべーぞ?

世紀の天体ショー、巨大彗星大接近!


 nasaへの取材でこれまでの観測記録を超える大型彗星、スカイシードがこれまた記録を上回る接近をすることが明らかになった。地球への衝突は無いとのことで、最接近時に日本でも観測が可能。今世紀最大の天体ショーに世間もにぎわっている。


 宵越新聞の記事より

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