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ドラゴンプラネット RE:turn players  作者: 級長
chapter1 暴走プロトタイプ
11/23

7.オリエンテーション合宿

前回までのドラゴンプラネット!

 直江遊人はゲーマーである。上杉夏恋に誘われ最新鋭のゲーム、ドラゴンプラネットオンラインに参戦するが、最初のボスであるプロトタイプに異変が起きていた。

 現実ではクラスメイトの藤井佐奈が吸血姫に襲われた。果たして、その正体は?

 俺達を乗せたバスは行く。高校生活最初の大イベント、オリエンテーション合宿の会場まで。

「うぇっぷ……」

 そんな爽やかなモノローグとは正反対に俺はグロッキーだった。腹の奥から朝飯の卵雑炊が胃酸と共に脱出を試みている。

 プログラムの都合、ジャージを着ているから腹回りはゆとりがあるんだが。いや俺くらい痩せてると制服の時もそんな締め付けないか。

「ちょっと、車にも弱いの?」

「あんま乗ったことねぇからな……」

 俺と夏恋はバスの座席、先頭の方にいた。小さい頃から病院暮らしで外出経験も無い俺は車に凄く弱い。慣れの問題だ。

「保健委員になった途端あんたとの絡みが急増ね」

「なんかの縁だろ」

 日光を避けて配置された席で隣になった夏恋だったが、役職でも妙な縁があったもんだ。

「こういう時はさっさと寝てた方がいいのよ。起きてると余計に酔うから」

「はー、そういうもんなのか」

 夏恋のアドバイスは数十分遅かった。これだけ酔ってると寝るに寝られない。風邪をよく引く俺は吐き気との付き合い方も慣れたもので、吐き気はいっそ吐いてしまった方が楽だというのは分かりきっていた。車内ではそうもいかないが。

「ていうか、私保健委員なんだけどあんたこの前、煉那に保健室連れていってもらってなかった?」

「え? ああ、そうだな。そういえばお前保健委員だったな」

 夏恋が冷凍庫から取り出したてのジェラートみたいな冷たい目で見てくる。一番美味しいけど胃腸への負担も一番。

「どうやら転んだ理由がね……。情けないことに転びそうになった煉那助けようとして転んだのがバレてな」

 何とかボカして伝える。ここは事実だから問題ない。が、ここから先が問題。というかそもそも俺は夏恋の何でもないのに何を気にしているんだ?

「なぁ、それより夏恋。プロトタイプのことなんだが……」

 俺は意識を吐き気から切り離すため、夏恋の冷たい目を避けるため、話題を逸らす。プロトタイプのことだ。奴の反逆はゲームの根幹すら揺るがしかねない。

「あいつは一体どんなキャラなんだ? プレイヤーならなんか知ってんだろ?」

「プロトタイプねぇ。あまり細かい設定はないのよ、あいつ。だって、プレイヤーが何処の惑星出身でも必ず最初に戦うでしょ?」

 なるほど、設定が出現の足枷になる可能性があるからその辺のテキストはあっさり味なのか。

「所属する組織も不明、クリア後の動向も不明なの。私も設定資料集を佐奈が持ってたからわかったことなんだけど、プロトタイプは後のストーリーで出てくる敵キャラ、人造人間的なモノの試作型で、龍の遺伝子を持っているらしい。本来ならデータ収集のためプレイヤーと戦うことになってるんだけど……」

 はー、そうか。それがどうして本来の目的と異なる行動をしているのやら。

「普段はどんな感じで襲って来るんだ?」

「特定のクエスト受けると乱入してくるの。といっても、そのクエストは固定だからみんな、いつやってくるのかはもう分かってるけど」

 普段のプロトタイプは、例えるなら『ゾンビを◯◯体倒せ!』的なクエストを受けて現地に向かったところ、『騙して悪いが目標など初めからいない』とか言いつつプレイヤーを襲ってくるんだろうな。だが、俺と煉那には問答無用で襲い掛かってきたってわけだ。

「しかし、プレイヤーは何人もいるだろ? なんだって俺達なんだ?」

「多分、ちょうど反逆を決意した時に新規で始めたのがあんたらだったのよ。それで、まだ倒せてないからあんたら二人を狙って来てる」

「んな迷惑な」

 俺達が狙われたのはマジで偶然か。やだなーもー。

「折角なら佐奈みたいなトッププレイヤーを襲えばいいのに。なんだって初心者狩りなんだ?」

「完全にプログラムの役目から逃れられてないのか、それともプログラムに与えられた役目に反逆するために本来、『自分を倒す役』のあんたらに勝とうとしているのか」

 夏恋の仮説は、まだ仮説でしかない。単なるバグなら『修正しました』で済むだろうし、ここまで複雑ではないだろう。

「で、運営はなんか言ってたか?」

「対応中だって。下手に触るとプロトタイプの人格データが破損するかもしれないって」

「なるほど」

 他のゲームみたいにパッチ当ててハイ終了とはいかんか。そうこう考えていると、バスは目的の場所に着いた。


 最初の目的地は体育館の様な場所だった。ここでレクとやらを行うらしい。ぞろぞろと長篠のブレザーを着た集団が入っていく。

「あー、レクかー。俺運動嫌いなんだよね。みんながんば」

 俺は佐奈と共に後ろから集団についていく。特に練習したわけでもないが、生徒達は混乱もなくクラス毎に整列する。こういうのって人数多いほど難しいもんだがな。

「へぇ、スッとやれるじゃん。俺なんて中学の頃は整列待つだけで貧血起こしてたよ」

 なんと無しに俺は呟く。ダラダラ並ばれるとただでさえ長い校長先生の話が長くなって俺の血圧デッドラインだ。長時間の立ちっぱによる貧血なんて鉄欠乏性貧血でもなけりゃビタミン欠乏性貧血でもないから食事で対処できん。

 校長先生がそそくさと前に出て来て、マイクを手に話し始めた。この先生は話短そうだな。

「えー、皆さん。本日はお日柄もよく……あれ? あ、あー、改めて入学おめでとうだけっけ? それとも人生には三つの袋だっけ?」

「話の内容ガバガバかよ!」

 突然の始末に俺はつい突っ込んでしまう。それもかなり本気で。三つの袋は結婚式のスピーチだ。油断してるとすぐこれだ。普通の学校にはなかなか通えない事情のある奴ばっか集めようなんて発想の学校の校長がマトモなワケねぇわ。

 いや、入学式の時ってこんなガバガバだったか?

「カンペカンペ……」

「校長先生の話でカンペとか初めて聞いたよ!」

 学校の先生とは自分が間違っていても絶対訂正しない理不尽な存在のはずだが、この人生徒の目も憚らずにカンペ探したぞ。

「校長先生! これ!」

 若い教師がスケッチブックに何か書いて校長先生に見せる。うん、確かにカンペだ。

「テレビ的な方だけどな!」

「えー、人生には三つの袋が大事だとされています」

「結婚式の方始めちゃったよ!」

 校長先生はカンペ見たにも関わらず結婚式のスピーチを始めた。一体カンペには何て書いてあんだ?

「なぁ佐竹、カンペ読める?」

「ん? ああ、やってみる」

 俺は隣の男子、佐竹にカンペを読んでもらった。俺って目が悪いからな。だが、カンペの中身を確認した佐竹はその内容に打ち震える。

「なんてことだ……」

「どうした? まさかの白紙か?」

 俺はそんなベタな内容を予想した。だが、答えは違った。

「カンペはまともだ……カンペは、な。学校生活に慣れて云々とか書いてある」

「じゃあなんで三つの袋とか言い出したの?」

 おとなしくカンペ読んでりゃいいのに何故カンペを要求しておいて無視したし。マジで意味がわからん。

「一つ目は堪忍袋」

 あーもう袋の話続けるんか。生徒達も我慢出来ずに笑い出してるよ。わざとなん?

「二つ目はお袋袋」

「お袋袋って何?」

 その袋の話もまともに進むはずが無かった。お袋でいいじゃん。なんで袋被せた。つーかこっちもツッコミのし過ぎで頭がクラクラしてきた。酸欠か? 世界一くだらない理由の酸欠か?

「そして三つ目は池袋です」

「そんなに上京してーかオメーよー」

 三つ目が一番どうでもいいというオチ。何これ。校長はひとしきりボケた後、咳払いをして仕切り直そうとする。

「えー、ここまでがレクの第1種目、ツッコミ選手権でした」

「まさかの抜き打ちかよ!」

 抜き打ちな上に意味のわからん種目だったな。これどんな勝負だよ。

「この競技の優勝は、声量こそ少なめながらクラスの仲間、佐竹信彦くんと協力しながらキレのあるツッコミを見せてくれた直江遊人くんの11組です」

「優勝しちまったよ……」

 オマケに優勝である。つーか、俺の名前わかるんだな。ま、アルビノの生徒なんてそういねーし目立つから当たり前か。いや、佐竹の名前も知ってたぞ? マジで全生徒の名前把握してんのか?

「やるじゃない、遊人」

「突然叫び出したから何事かと思ったぞ」

 夏恋と煉那も祝福してくれた。だが俺はもう意識が朦朧としていた。瞼が重い。というか膝が笑って立てない。眠気の副作用が強い薬を飲んだ時みたいだ。

「そ、それはよかった。よかったから……休ませ……」

「遊人?」

 頑張って持ちこたえようとしたが、そこで俺の意識は途切れた。


「ハッ?」

 いざ起きると、俺は体育館の隅に寝かされていた。誰かの膝枕……なんて甘い妄想は現実にならず、畳んだジャージを枕にされている。

「あ、起きた」

「夏恋……」

 近くに座っていたのは夏恋。さて、俺はどれだけ寝てたのか。

「なぁ、今何時?」

「そんなに寝てないわよ。ま、レク大会は最終競技だけどね」

 そうか、まぁ俺の活躍は無いだろうしいいか。最終競技は様子からしてリレーだな。それも男女混合か。

「やっと起きたか」

 俺の様子を見に、煉那もやってきた。なんだ、だったらわざわざこちらから出向くことも無いな。俺はこいつに言いたいことがあったんだ。

「煉那」

「なによ」

「リレー出るのか?」

「ええ。それが?」

 とりあえず事実確認。そうか、それならこれから俺が言うアドバイスも無駄にならないだろう。

「煉那、前カーブで転んだ時あるよな?」

「ああ……あぁ!?」

俺が過去の話を思い出すと、煉那は何故か急に顔を赤くする。あー、あれか……。

「どうしたの煉那? 遊人も?」

「な、なななんでもねぇ!」

 煉那は汗もダクダクである。俺も多分似たような顔してるに違いない。

「なんかあったの? 転んだって遊人を保健室に連れていった時よね? 保健室で何かあったの?」

「保健室では何もなかった、いいね?」

 夏恋に問い詰められたが、何もなかった。そう、何もなかったんだよ。

「あっ、ハイ」

 俺の圧に夏恋も追求を諦めた。そうだ、俺は煉那に言うことがあったんだ。

「本題に戻ろう。カーブで転ばない方法がある」

「なんだって? 本当か?」

 煉那は羞恥心の赤みさえスッと引いて半信半疑といった表情だ。そうだろうな。俺は煉那のアドバイスがなけりゃ敵に攻撃を当てられなかった運動オンチだ。釈迦に説法とはまさにこの事。

「ああ、敢えてカーブの直前で減速するんだ。そしてカーブの中でスピードを上げる!」

「そんな走り方聞いたことないが」

 そりゃそうだ。煉那の態度も納得出来る。これは元交通課のエースだった爺ちゃんから聞いたドラテクな。ドラテク、つまり車の運転だ。

「俺が見るに都さん、サッカーっていうもっと広い場所を走り回る競技をしてたんだろ? そしてトラックの様なカーブにも慣れていない。サッカーで方向転換する時は、ああいう大回りなわけないしな。都さんの走りはトラックを走るのには『速すぎる』んだよ。でも今回はトラックを走るしかない。だからもう車と同じ動かし方で制御するしかない」

 いや、テクってほどでもない。自動車学校で習う基本か。

「うーむ、コートだったからなぁ。一理あるか」

 煉那は納得してくれたようだ。そしてそのまま、リレーに出るらしき集団のところへ向かっていく。

「煉那ってサッカーやってたんだ。どこで知ったの?」

「さぁな。電波だ、電波」

 夏恋がまた追求を始めた。なんだかなぁ、この感じ、デジャブるんだよなぁ……。俺は夏恋の顔をじっと見る。

「な、なによ……」

 いや、顔が誰かに似てるとかじゃないんだ。確かに可愛くて考え事に意識行ってないとまともに見れんかもな。

「あ」

「だからなによ」

 俺はふと思い出した。中学時代の後輩だ。そうそう、なんかこの感じ似てんだよ。

「いや、なんか夏恋って誰かに似てるなって思ったんだ。そしたら中学の後輩だよ。何かが似てんだよ」

「何か?」

 なんだろうなこのデジャブ。俺にはよくわからん。

「何かって?」

「おい、もうすぐ煉那の出番だぞ?」

 夏恋の追求が再開されそうなので、俺は話題を逸らす。リレーは男女混成なのか。面白い。

 スタートの合図は笛。当然、こんな室内で雷管は使えない。トップバッターが走り出し、我がクラスは真ん中くらいの順位。まぁこんなもんか。見ている間にドンドンとレースは進み、次のランナー、次のランナーへと移り変わる。

 クラスの順位はそれにつれて後退していく。陸上のトラックと勝手が違うのか、速い連中を集めたつもりでもこんな感じか。

 そしていよいよ、煉那の番だ。まさかのアンカー。やれるのか?

「速い!」

 思わず声が出た。バトンを受け取った瞬間、煉那がグイグイ加速する。もう面白いくらいに前の選手を抜いているではないか。

 そして問題のカーブ。俺のアドバイスが上手くいくといいが………。

「何?」

 そんな俺の心配を他所に、煉那は驚くべき行動に出る。なんと彼女はカーブに沿って走らず、コースを大きく離脱した。

「何をする気だ都さん!」

 そのままある程度離れたところで、なんとステップを踏んで方向転換。直角にカーブを曲がった。

 直線の軌道は誰よりも早くカーブの頂点を掠め、また同じ方法でカーブを曲がる。

「まさかあんな方法でカーブを攻略するなんて!」

「なんかバトル漫画の解説役っぽいよ?」

 そうか、コートか! コートでの方向転換はあんな感じで身体ごとターンするんだ!カーブに沿って曲がるなんてお行儀のいい真似、煉那の趣味じゃないってことか。

「なるほど」

 そのまま煉那はぶっちぎりでゴール。速いのなんの。

「一人で合点してないで」

 夏恋は説明して欲しそうだったが、疲れてるし面倒だから黙殺。とにかく、リレーに勝利することは出来た。

「ふぅ」

「お疲れ」

 俺は走り終えた煉那に労いの言葉をかける。どうやら、あまり疲れてはいなさそうだ。他の走者が軒並み息切れしてるのに、全く呼吸が乱れていない。

「やったな!」

「これで優勝だ!」

 角田と雅が走り寄る。ん? なんか盛り上がりが俺と違くない?

「優勝だと?」

「あ、言ってなかったっけ。これ勝ったら優勝だったのよ、私達」

「言えよー」

 夏恋が単に重要な途中経過を言い忘れたので俺は盛り上がりに乗れなかったのか。なんてことだ。

「だって言ったら高血圧でまた倒れたでしょ?」

「どんだけ病弱だと思われてんだ。それだったらまだノーダメ全クリの方が緊張するわ」

 気遣いは全くの無意味。クラスがレクで優勝するかしないかで倒れていたらゲーマーや料理人は務まらん。

「えー、本当?」

 そう言うなり、夏恋は俺を真正面から、抱きしめ……。しめ、しめ……。

「は? な、なに……」

 甘い香りがする。シャンプーかな? いや、これはヘアマスク……?暖かい何かに纏わり付かれている。毛布に包まれている様な気分だ。

 胸に柔らかいものが当たる。煉那の時よりも強い気がする。あっちは重力で押し潰されていたはずだが……。

 その柔らかさから鼓動の様な物を感じる。早くて強い、自分のだろうか、夏恋のだろうか。

「な……」

 ダメだ、考えれば考えるだけ顔が熱くなってくる。頭が白くなる。視界が……あれ? 手持ちのポケモン全滅……した、のか?


 バスで宿泊先に移動した、が俺は外で風を浴びていた。

「あー、死ぬ……」

「ごめんって」

 夏恋のゲリラハグで完全に色々バグった俺は乗り物酔いも手伝ってダウン。薬も飲んだが症状は収まらない。

「大丈夫か?」

 煉那もいてくれた。身体が重くて一切立ち上がれない。二人みたいにジャージから制服に着替える気力が起きないぞ。

「俺なー、昔っから身体弱くて。少し興奮するだけでこれだ。だからゲームで慣らしてたんだが……」

「そういうことだったのね」

 俺がゲームを始めたのは、リハビリの一環だった。現実の興奮に耐えられる身体になるよう、まず体調を綿密にモニター出来て現実じゃないから一歩下がって見られるゲームをすることになった。外に出掛けていたりしたら体調のモニターはおろか、緊急時の治療もキツイからな。

「後輩に告白全部断った件で色々言われたが、実際これも理由だ……」

 夏恋による一瞬のハグでこの有様だ。手を繋ぎ続けたり、ましてやキスなんかした日にゃ死ぬな俺。

「具体的に言うと、交感神経系が優勢になった時の状態に耐えられないというか……」

「副交感神経はリラックス、交感神経系はその逆で闘争だからな」

 煉那はある程度身体について知識があるのか。そう、まさにその通りで戦闘態勢で起きる心拍数の増加や血圧の上昇に耐えられないのだ。

「でもドラゴンプラネットじゃ普通に戦ってるじゃない」

「そこなんだよなぁ。ゲームだからか、痛みが無い分交感神経系が働きにくいのか……」

 夏恋の言いたいこともわかるが、多分あの世界にいる間俺の体は墨炎なんだろう。あの身体には交感神経系とか血圧とか無いし。だから俺にも戦える。

「疲れたから……少し寝かせて……」

 俺はそう言って、目を閉じた。


   @


 夢を見た。これは俺が病院にいた時のことだ。黒髪を伸ばしたお姉さんがベッドで何かの基盤を弄っている。

「何してるの?」

 俺はそれを覗き込む。恐らくはジャンクだろうファミコンの基盤とかをバラして、何かを作っているのだろう。

「あ、ユウくん。これはね、『新しい世界』の予想図だよ」

「新しい世界? 渚、何それ?」

 そうだ。彼女は渚。俺の病院での数少ない友達だった。

「人類っていつか、宇宙へ出るでしょ? そしたらこんな星があって、こんな先住民がいるんじゃないかなって。それでゲーム作って、予行練習よ、予行練習」

 渚の考えていることはわからないけど、いつも楽しそうなことを考えているのはわかる。

「ゲーム? ゲームなんだ。アクション? RPG?」

「ジャンルはどうかな? これは今までにないゲームだから」

 だけど、俺がそれの完成を見ることは無かったんだ。渚は、もう死んだんだ。


   @


「だぁー! なんだこれ!」

 起きると、煉那にお姫様抱っこされて連行されていた。何これ。おんぶとかじゃなくて?

「っ……」

「ほら興奮すんな。外で寝たら風邪引くぞ」

「お、下ろせ……」

 煉那は俺を下ろすと、肩を貸してくれる。少し休んだとはいえまだフラつく。

「ほら」

「すまん」

 女子と超接近だ。だが保健室での一件ほどじゃないし、俺はそんなドキドキを抱く余裕が無い。その状態で歩いていると、横にいた夏恋が少し不機嫌そうに聞いてくる。

「ねぇ、あんた。弟なんていたの?」

「え? どうしたそんなに頬を膨らませて。プクプクか? 空中ステージで飛んできて着地直後の配管工を狩るのか?」

「うるさい」

 夏恋は口こそ悪いがこうストレートに不服そうなのは珍しい。

「で、弟いたの?」

「いや、いねーのか? 俺も実の家族構成は知らないんだ」

 夏恋の興味はそこか。なんでそんなことをいきなり。俺も半ば病院に押し込められた捨て子みたいなもんだから、家族は姉ちゃんと爺ちゃん婆ちゃんだけだ。あと、そうだな……。『父さん』と『母さん』がいた、な。

「そう、さっきあんたの弟だって人が幼馴染を連れて来たんだ」

「へぇ、いたのか」

 俺は今更に感じた。血の繋がった兄弟などどうでもいい。俺の兄弟は直江愛花、姉ちゃんだけだ。

「他人事かよ……」

「だってそうじゃん? 今更ねぇ」

 煉那の気持ちも分からんでもないが、俺に兄弟がいるならそれは『不要物』に対する存在でしかない。だったら俺は俺を必要だとする人の家族でいるよ。

「ん? この匂いは……飯か?」

「んなとこから匂い? まぁ飯だから連れに来たのもある」

 暗い空気を変えるため、俺は現在時刻と記憶してあったプログラムを参照して話題を変える。

「薬ってのは胃が荒れるんだ。はよなんか食って胃を守ってやろうぜ」

「そうだな」

 そんな感じで、俺たちは食事の会場へ向かった。弟か。ま、別にいっか。

次回予告


 次回、ドラゴンプラネットRE:birtht。第8話『騎士団の氷霧』。

 私は氷霧。偶然拾ったプレイヤーを騎士団に誘う。私の騎士団は出来たばかりだから。

 惑星警衛士を独り立ちして、私の騎士団を作る。兄貴には、ゲームでも負けられないから。

 クインも待ってるからそろそろいくね。

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