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ドラゴンプラネット RE:turn players  作者: 級長
chapter1 暴走プロトタイプ
10/23

6.龍を狩る乙女

公式サイトの記述

ドラゴン戦

 本作の目玉、対ドラゴン! 戦闘中に脱皮したり卵産んだり、一筋縄ではいかない奴らが待ち受ける!

 これが人の業! アークウイングの愚かな科学者の手でドラゴンプラネットから持ち出されたドラゴンから、新たな故郷を守れ!

「これでよし」

 プロトタイプ襲撃の後、夏恋はバグの報告を行なっていた。メニュー画面に問い合わせフォームがあり、これでバグや不具合をいつでも会社に伝えられる。

「んじゃ、次どこいこうか?」

「ドラゴンいっちゃう?」

 あんな末恐ろしい騒動があったのに、夏恋と佐奈が早くも次のクエストを考えていた。佐奈はラスボスめいた鎧姿のせいでボイスエフェクト無し、兜の変声機能無しのいつもの声が似合っていない。

 そういえば、このゲームのタイトルは『ドラゴンプラネット』だったか。すっかり忘れてた。ずっとゾンビに苦しめられていたのとプロトタイプのせいでな。

 今時、ドラクエがドラゴン関係無くなり、モンハンがドラゴン主体になっているゲーム業界。メインのモンスターであるドラゴンをこのゲームがどう扱うのか気になるな。

「一番簡単なのは『ロブスタル』だと思うけど」

「人数いるし、いきなり『ヴァルカンドラ』くらいでいいと思いますけど……」

 夏恋の提案する『ロブスタル』と佐奈の言う『ヴァルカンドラ』。なんちゃらドラゴンって名前じゃないから本当にドラゴンかどうか疑わしくなってきたな。

「この星ならこれとか?」

「そういえばここ、ネクノミコでしたね。私と煉那さんはオーシアですし」

 夏恋と佐奈は倒しに行くドラゴンを決めかねていた。そこで、二人に聞いてみることにした。

「こういうゲームには初心者がまずぶつかる『先生』ってもんがいると思うんだが」

 アクションゲームでは不慣れな初心者を容赦なくぶち殺し、ゲームの基本が出来なければ超えられない序盤の強敵がいるものだ。

「あー、それなら『ラージァ』ってのがいます」

 佐奈はそれを聞くと、ラージァという名前を出した。名前からどんなドラゴンか想像つかないが、先生役なら無難な奴なんだろうな。。

「よし、じゃあラージァに行こう」

 俺はそのラージァを倒すことにした。ぞろぞろと立ち上がり、カフェを後にする。


 俺達は『忙殺されし人々の門』などと名付けられた駅前にやってきた。特急が止まりそうなくらいにはデカイ、高架の駅だ。確かに合ってるけど命名した人は相当な中二病だろうな。

 ラージァ討伐のクエストは、どの惑星にもある様だ。夏恋の受注したクエストに参加し、ここまで来ることになった。

「そういえば煉那、武器なに?」

「まだ片手剣しか無いが」

 俺は煉那に武器を聞いてみた。初期装備候な、俺と同じ鉄の剣を腰の鞘に収めてある。

「それより、だ」

 煉那は空を見上げて疑問を述べる。

「なぁ、なんであの星からドラゴンが来るんだ? ドラゴンには大気圏突入能力があるのか?」

 そういえば気になる。俺もそれは知らないんだ。ゲームしてても、しょっぱなから設定とか読まないし。そもそも設定が大事なゲームってさほど無いし。

「確かに気になる」

 だが、それは気になる。タイトル通りのドラゴンプラネットが上空に浮かび、公式サイトにもドラゴンはドラゴンプラネットからの侵略者と書かれている。ではそのドラゴンはどつやって来るのか?

「やっぱりドラゴンって言うくらいだし、火も吹くだろうから大気圏くらいじゃ燃えないのかな?」

「そうなんじゃね?」

 俺は煉那の言った説もありだと思う。大気圏ってのは明確な膜とかじゃなくて、空気のある場所と真空の境目だ。そこに突入するとモビルスーツが『シャア大佐! 助けてください!』とか言って燃えるのは、圧縮断熱というのがが原因らしい。重力に引かれて、おっそろしいスピードで落ちてるからな。空気もぎゅっと固まって熱くなるんだな。

「そういえば飛び込みの選手って技術で着水の衝撃を無くしてるらしいな」

 俺はカナヅチだが、昔聞いた事を思い出す。飛び込みって水しぶき上げると減点らしいから、スッ、と着水して水しぶきを上げない様にするらしい。

「あー、それか。デカイ羽根を閉じて飛び込みみたいに入っていけばいいのか」

 俺と煉那は『飛び込みみたいに入って熱を防いでる説』に辿り着いた。だがそうなるとさらなる問題が発生する。

「じゃあどうやって向こうの星の重力から離脱しているんだ?」

「うっ、そうだな……」

 煉那の言うこともご尤も、というかまずそれができないといけないんだよなー。あと宇宙を飛行出来ないと星に辿り着かん。

「意外と答えは単純よ。『人の手を借りれば』いい」

 俺達がいろいろと考えていると、夏恋があるトラックを指差した。少しほくそえんでないか?

「なんで外来種は外来種なのか。なんである時代まで入って来なかったのか、それを考えればいいのよ」

「ん? なんだあのトラック?」

 トレーラーサイズの、本当に大きなトラックだった。それが揺れている。中でナニしてんの? コンテナには翼の様なエンブレムとアルファベットらしき文字で『アークウイング』と書かれていた。

 俺が様子を見ていると、トラックのコンテナが引き裂かれ、中からドラゴンが出てきた。4足歩行の、翼が無いドラゴンだ。首と尻尾は長い。西洋タイプのドラゴンか。背中のトゲトゲしたヒレも細かく動いている。

「あれは!」

「そう、ドラゴンの一部は人が持ち込んだのよ」

 一部ってことは例外もありそうだ。あれがクエストの目的であるラージァか。まずは様子見だ。

 ラージァは咆哮する。口元にエフェクトが付いているから、きっと咆哮にも効果があるのだろう。そして、ラージァが突進を仕掛けてくる。

「うおお!」

 ゲームでは定番の攻撃だが、対面だとかなり圧力を感じる。透明な壁がラージァによって押し出されている様な感覚だ。

 俺と佐奈、夏恋は左右に避けたが、煉那はラージァの背中に飛び乗った。一人だけ運動神経違い過ぎ。

「ハッ!」

 そして、そのまま背中に至近で片手剣による攻撃を浴びせる。だがあまり聞いている様子が無い。

「背中は硬いよ! 横腹を狙って! 腹の方が柔らかいの!」

「そうか」

 夏恋のアドバイスを聞き、煉那はドラゴンから降りた。背中に飛び乗る奴などいる想定ではないから、手の届かない所に弱点は設定されていない。

 ついでに俺は、夏恋にこれを聞いておいた。

「部位破壊は可能か?」

「尻尾と頭、前の爪が可能ね」

 こういう狩りゲーでは、部位破壊を成立させると報酬が増えるんだ。やっておく価値はある。

「よし、行くぞ!」

 俺はラージァの頭に向かって走り出した。まずは頭から破壊する!

 奴が口を開け、何かを吐き出した。火の玉だ。放物線を描いて飛ぶ火の玉は、避けやすく脅威にならない。それをスルーし、俺は顔に斬りかかる。

「ハッ!」

 頭を斬ってみると、手応えは斬るというより叩く感じに近い。骨のある頭部だからなのか。散々包丁を使ってきたからか、刃物で切れないなんて、なんか変な感じ。

 頭に攻撃を加えると、首をくねらせて嚙みつき攻撃をしてくる。このゲームは避け方一つ取っても自由だ。俺は首の下を潜り、嚙みつきを回避する。

 アバターの小ささが吉と出たな。

「退避!」

「ん?」

 突然夏恋が叫んだ。俺は何のことか少し考えてしまった。ラージァが重たげに上半身を持ち上げているのに気づいたのは、その後だ。

「なんだ?」

 煉那も考えていたようで、上半身が振り下ろされるまで何も警戒していなかった。背中ではないが、相変わらずラージァの周囲にぴったりくっ付いている。

 ラージァが上半身を地面に叩くと、俺の体が浮き上がった。トランポリンかなんかで思い切り跳ね上がったみたいな勢いで飛んでいく。

 俺は人の身長二人分くらい飛んでいた。

「うわぁ! なんだこれ!」

「随分と飛ぶな」

 俺より低いが、煉那も飛んでいた。そしてそのまま地面に落ちる。初ログイン以来の高所落下で、冷静に着地はできなかった。

「べっ!」

 思わず変な声が出た。立ち上がろうとした瞬間をラージァが突進してきて、そのまま吹っ飛ばされてしまう。

「うげぇ!」

 気付いた時には、駅の壁に叩きつけられていた。中間の記憶がない。恐ろしいゲームだ。

「大丈夫か?」

「あ、ああ」

 その手前では、煉那が立ち上がっていた。煉那のアバターの方が大きいし、アバターが小さいと吹っ飛び易いのかもしれん。

「HPは……ヤバイな」

 腕時計でHPを確認すると、半分ほど減っていた。防具を強化していないせいで、序盤の敵でもこのダメージ。

「とりあえず回復回復っと」

 メニュー画面を開き、回復薬を取り出す。錠剤を戦闘中にボリボリ食べるなど、ヤク中みたいだ。味はかなりヨーグレットに近いから抵抗なく行けるな。うんヨーグレットだこれ。

「遊人は尻尾切って! メイスだと切れないから」

「おっけー」

 夏恋が尻尾への攻撃を指示する。やっぱ尻尾は斬撃武器じゃないと切れないんだな。常識的過ぎてどのゲームのパクリなどと言うつもりも無い。

「よっしゃこい!」

 俺は尻尾に向かって走り出す。ラージァが一度尻尾を振ったのを見て、それが終わると同時に斬る。

「退散!」

 そして逃走。あまり欲張ると反撃をくらう。

 待てよ? ヒットアンドアウェイなら通常攻撃だけでダメージ稼ぐより技使った方がいいかも。

 反撃の尻尾を遠くから見やる。攻撃が終わった時を見計らい、駆け出して尻尾に攻撃を加える。

「【ライジングスラッシュ】!」

 緑の光による一閃を尻尾に叩き込む。そして技が終わるなり細い腰がちぎれんばかりの勢いで振り向いて逃走。まるでシャトルランだ。あの悪魔のメロディが聞こえてくる。

 逃げて安心したのも束の間、ラージァが上半身を持ち上げた。あれはマズイ。俺は距離をとった。

 夏恋や佐奈も回避行動に出る。だが、煉那だけは剣を抜きながらラージァに向かって走っていた。

「煉那?」

 煉那はさっき俺と吹っ飛んで、あの技の驚異は知ったはずだ。

 ラージァが身体を地面に叩きつけると、案の定というべきか、煉那は上空へ吹っ飛ばされた。

 しかし、煉那は本当にトランポリンで跳んだかのように錐揉み回転し、そのまま敵の背に乗った。

「よし」

 そして、そのまま不安定な背中をダッシュして尻尾に向かう。胴体と尻尾の境目に来ると、煉那は剣を構えて叫ぶ。

「【ライジングスラッシュ】!」

 ライジングスラッシュは水平斬りなので、なんと彼女は技が出る瞬間に、すっ転ぶ様に体を倒して無理やり下に攻撃を放った。ありえん。

 技がラージァの尻尾にぶつかる。あんな無茶な当て方で目標によく直撃したな。

「よっ」

 そして殆ど転んでいた煉那は受け身を取りながらコロコロ転がってドラゴンから降りる。そのまま全く硬直せずにラージァから離れた。転がっている間に硬直時間終わったんか。

「なんて運動神経!」

 これには夏恋も驚きを隠せなかった。理論上、現実の身体という縛りが無いから俺にもできるだろうが、それを思いつきの一発でやる煉那は本物だ。

「俺も負けてられんな!」

 俺にはヒットアンドアウェイでライジングスラッシュをぶつけることしかできないが、それを地道に熟すのが俺の戦い方だ。パターン作って攻略だ。

 とにかくパターンを繰り返すこと数度、何かが割れる音がしてラージァの尻尾が体から離れる。振り回していた時とはうって変わり、妙に堅そうな質感でぽてっと地面に落ちた。

「お、やった」

 仕事を成し遂げて満足していると、急に奴がふらつき始めた。

「よしいった!」

 夏恋が頭を攻撃し、昏倒させたのだ。ラージァも弱ってきたのか涎を垂らしている。

「あ、逃げる!」

 追い詰めたはいいがターゲットが逃走を開始したため、煉那が追いかけようとする。佐奈はそれを止めた。

「待って! ここは後を付けましょう」

「そうか、寝込みを襲うんだな」

 俺は某狩りゲーからの発想で、そう考えた。ドラゴンが寝たところを爆殺する作戦か。

「そうか、手負いの獣は危険だからな」

 煉那も彼女なりの解釈で理由を予想していた。確かに手負いの獣、というかHPの削れたボスは怖い。ボスキャラって、HPを半分くらいにすると発狂モードといって行動パターンが変わることがあるんだ。

 佐奈はドラゴンを泳がせる理由を説明してくれた。

「ドラゴンは弱らせると、『巣穴』に逃げ込むことがあるんです。巣穴、ってのは、隠しステージ的な場所ですね。そこにはレアアイテムとか落ちてるから、なるべく逃げ込ませた方が得です」

「レアアイテムとな?」

 俺はレアアイテムという点に注目した。どんなレアアイテムが眠っているんだ? 楽しみだ。

「その前に尻尾だ」

 俺はドラゴンを追う前に、切った尻尾に駆け寄る。尻尾には例の青いウインドウが出ており、アイテムが入手出来るようだ。

 それに触れて、尻尾を回収する。この手のアイテムは一匹倒す毎に一つくらいしか手に入らない希少素材。集めておいて損はなかろう。


 俺達は逃げるラージァを後ろからこそこそ追跡した。全員でダンボールを被り、ドラゴンに気づかれないように追跡する。

「ダンボール箱を装備しているな? これは伝説の英雄もお気に入りの潜伏アイテムだ。屋内ならば偽装に使えるな。ただ、ダンボール箱とはいえ素材は紙だ。手荒い扱いをすれば破れてしまう」

「ねぇ」

「丁寧に扱えば、ダンボール箱もきっとお前に答えてくれるはずだ」

「遊人」

 俺がダンボールについて熱く語っていると、夏恋が横槍を入れてきた。

「動きにくいんだけど」

 そういえば、夏恋の防具であるシスター服は長いスカートだったな。そりゃ、裾が長いと屈んで歩くのは辛かろう。

「何故ダンボールなんだ?」

 煉那が疑問を投げかける。このダンボールは俺が提案したのだ。

「ダンボールを被っていると落ち着くだろ? なんかこう、人間としてあるべき場所にいるって感じの……」

 この言質は伝説の英雄ネイキッド・スネーク氏のものだが、俺は全くといっていいほど反論の余地など無いと思っている。

 ダンボールを被ると、包まれている安心というか、人間というのはこうあるべきという使命感に襲われる。何故だ?

「あ、ドラゴンが入ってくよ!」

 涼子がラージァの巣穴を見つけた。ダンボールの穴から確認すると、ラージドラゴンがシャッターを破って地下通路に入ろうとしていた。

「追いかけるぞ!」

 ダンボールを脱ぎ、俺たちはラージドラゴンを追って地下通路に入る。地下鉄の駅の入り口みたいだが、シャッターで閉ざされていたのだ。それをわざわざ破ってくれるなんて、ご丁寧に。

 いや、よく考えればここに巣穴があるのはおかしいんじゃないか? ドラゴンって、住処の星から連れて来れられたんだろ? じゃあなんでここに巣穴があるんだ? こいつに至っては逃げ出したばかりに見えるぞ。

 まぁ、細かいことはいいか。

 階段を下りると、生暖かい空気が肌に纏わり付く。なんだか、普通に地下へ入ったのより濃厚な空気だった。生き物の巣穴だからだろうか。

 ドラゴンの寝息か、穴からは地鳴りの様な音が響いていた。

 穴の中は本当に地下鉄の駅みたいな構造であった。構造自体、他のダンジョンと変わりは無さそうだ。電気も機能しており、暗いものの探索には困らない。

 佐奈が曲がり角で様子を見ている。壁に背中を付け、そっーと遠くを確認する。

「大丈夫そうですね」

 曲がり角の度、慎重に確認しつつ進む。ドラゴンがどのような条件で目を覚ますかはわからないが、思わず静かに行動してしまう。

 奥に行けば行くほど、寝息も大きくなる。

「いた……」

 そして、ついにラージァの寝床にたどり着いた。ラージドラゴンは身体を丸めて眠っている。寝息の反響も体に響くほど強くなっている。

 俺達は曲がり角からそれを見ている。

「どうする?」

 俺は経験者に聞いた。俺の知っているゲームでは、モンスターの寝起きに強力な一撃を見舞うと効率がいいのだが、このゲームではどうなんだろうか?

「こうします」

 佐奈はそろそろと寝ている敵に近寄り、地面に何か宝石の様なものを置いた。そして、戻ってくるなり何事かを呟く。

「【カブーム】」

 すると、佐奈が置いた宝石が爆発した。地下の狭い空間に爆音が響き、俺たちは思わず耳を塞いだ。

「ビックリした! なんだ?」

「爆発魔法ですよ」

「魔法とな」

 佐奈が置いたのは、爆発する魔法のアイテムなんだとか。このゲームは惑星間航行が出来る世界のくせに、攻撃に魔法とはファンタジックな。

 煉那は魔法について興味を示していた。

「藤井さん。さっきから使ってるみたいだが、これは私たちでも使えるのか?」

「はい。条件を満たして対応するアクセサリーを武器に付ければ私の使っている『魔法剣』が使えます。さっきの爆発魔法はアイテム単体で成立します」

 魔法剣、そういうのもあるのか。条件というのが気になるが、このゲームって『黒魔導師』とか『魔法剣士』みたいなジョブってあったっけ?

「条件というのはクエストですね」

「はー、なら簡単だ」

 佐奈の言葉を聞いて俺は安堵する。ジョブって上の職就くのに複雑な条件ありそうだし、クエストだけなら最悪誰かに手伝ってもらえばなんとかなりそうだ。

 そうこう説明している内にラージァはのたうち回り、隙を見せた。寝起きはいつもよりダメージがデカイってわけだ。

「いくよ!」

「オッケー!」

 そこを夏恋達と攻撃していく。敵の抵抗は弱い。

「【ライジングスラッシュ】!」

 俺が技を放つと、ドラゴンが大きく痙攣して倒れる。首を地面に叩きつけ、地下を揺らして悶える。周りのシャッターが鳴るほどの衝撃であった。

 倒したのか? 俺は動かなくなったラージァを剣でツンツン突く。まだ剣が硬い物に当たる手ごたえがある。

 そういえば、なんか辺りが暗い様な?

「直江!」

 煉那が叫ぶ。どうした?

「遊人、よく見て!」

 夏恋までも。そんなに慌ててどうしたんだ?

 俺はドラゴンをよく観察する。そういえば、素材の出る例のウインドウが見当たらない。そして、倒れたドラゴンの背中から翼が生えている。

「脱皮、してるのか?」

 その姿は脱皮というか羽化だ。サナギから蝶が羽化する様に、ラージドラゴンの体を突き破って何かが出てくる。

「まさか……こんな低確率を引くの?」

 佐奈は驚いているようだった。なんかアンラッキーな乱数でも引いたのか?

「藤井さん、これは?」

「ラージァはごく稀に幾つかのドラゴンへと進化するんです! ストーリークエストの進行度によって確率が変動するんですけど、序章すらクリアしていないと凄く確率は落ちるのに……」

 プロトタイプを倒して無いとこの現象は起きにくいのか? 佐奈と夏恋は多分ストーリークエストくらい終わらせているけど、俺と煉那はプロトタイプ倒して無いんだよ。

 煉那がふと考え込んで発言する。

「ん? 藤井さんと上杉はクリアしてるのか? ならチーム的には私たちのマイナスを打ち消せるんでは?」

「それが、パーティの場合は誰か一人でも序章未クリア者がいると一人の時より確率が落ちるらしいの」

 夏恋がそこを説明しているが、そんなことしている場合ではない。なんか白っぽいドラゴンが完全にラージァの皮を脱ぎ、雄叫びを上げた。

 首の長さはラージァと同じ。切り落とされた尻尾も皮から出てくると元通りだ。白い体色はほんのりと桜色に変化する。

「まー、つまりだ。俺らはポーカーで初手ロイヤルストレートフラッシュを決めた様なもんだ」

 俺の噛み砕きに夏恋は悪態を吐く。

「正確には、相手に決められたんだけど。それも五連続くらい。最悪ね」

「ま、これで勝負決まらないだけマシじゃん?」

 幸い、これはポーカーではない。運ゲーで負けたりしないぞ。やったね!

「そうか。藤井さん、さっきのプロトタイプとあれ、どっちが強い?」

 煉那はバッターボックスに立つ選手の様に、剣を素振りして佐奈に聞く。

「ええ、えっーと。プロトタイプは未知数だけど、あのドラゴン、『サクラジンリュウ』は底が知れてます。攻略法はあります」

「なら、勝てるな」

 煉那はそれだけ聞くと、ドラゴンに向かって走っていく。が、サクラジンリュウは突然長い首で彼女に噛み付いていく。

「うわっ!」

 俺はホラーゲームでも無いのに、ましてや自分への攻撃でもないのに驚いてしまう。やっぱ初見の攻撃はビビるな。

「フッ!」

 だが煉那はそれを飛び越え、頭に着地する。そのまま動いて不安定な長い首を駆けていき、背中に乗った。

 お前の運動神経はおかしい。

「今度は羽がやれるな」

 羽が生えた、つまりそこも攻撃出来ると。お前の順応性もおかしい。

「これは飛ぶドラゴンなんです。そういう意味ではラッキーかもしれない……」

 佐奈は剣を構える。あー、なるほど、今は地下街であいつ飛べないもんな。

「なるほど、飛べるドラゴンなら必然的に攻撃チャンスが少ない。だからバランス調整にHPは少なめ。そのHPの前提にある飛行が封じられているなら!」

 俺はチャンスとばかりに剣を持ってサクラジンリュウに走り寄る。が、なんかサクラジンリュウが煉那を乗せたまま移動を開始した。

「な……」

「さすがにそう甘くないよね」

 夏恋はドラゴンを追いかけながらメイスで殴っていく。このまま嬲り殺しにはさせてくれないか。

「今のうちにダメージを蓄積させましょう!」

 佐奈が剣に氷を纏わせ、それでサクラジンリュウに斬りかかる。魔法剣って多彩だな。

「待てまて!」

 俺も追いかけ、尻尾を主に斬っていく。サクラジンリュウは狭そうに翼を畳んで、意外とスピードを上げて地下街を進んでいく。

 必死に追いかけていると、急にサクラジンリュウが上昇して姿を消した。

「ああん?」

 俺がその場所までいくと、地下街の光景が一変していた。そこはまるでショッピングモールの吹き抜けであった。上にはいつものドラゴンプラネットが輝き、複数のフロアが層を作って俺たちの前にそびえる。

 俺達がいるのはその最下層だ。上はおよそ五階ってとこか。

「煉那は?」

「多分あそこ」

 俺は煉那を探した。夏恋が指差したのは、吹き抜けの中を飛翔していくサクラジンリュウ。まだ背中に乗ってんのかあいつ。

「ここが決戦ステージか?」

「そうですね」

 佐奈曰く、ここで奴とケリを付けるらしい。嫌な予感しかしないぞ俺。

「この吹き抜けを登って、あのサクラジンリュウに飛び付いて叩き落として下さい!」

「は?」

 佐奈の提案に、俺は耳を疑った。夏恋は特に躊躇うことなく、止まったエスカレーターを駆け抜けて吹き抜けの上階へ向かう。五階建ては伊達じゃなく、シスターがエスカレーターを爆走するシュールな光景を結構な時間見せられた。

 そして、そのまま夏恋はサクラジンリュウに向かってジャンプした。

「とぉぉぉ!」

「何やってだぁぁぁっ?」

 まさにアイキャンフライ。メイスを手に空駆けるシスターとはこれいかに。

「な、何して……」

 煉那も俺と同じ感想だったらしく、戸惑っていた。煉那の乗るサクラジンリュウにメイスが直撃し、ダメージが入ったのかドラゴンはそのまま最下層に落ちてくる。

「きゃぁぁあっ!?」

 煉那からこんなザ・女の子な悲鳴が上がるとは。一方主犯の夏恋氏。一足先に華麗な着地。遅れてサクラジンリュウは煉那共々床に叩きつけられる。

「今です!」

「お、おう」

 この隙に攻撃しろと? フルダイブって環境でやらせる攻略じゃねー!

 俺は気を取り直し、剣を持ってサクラジンリュウに駆け寄る。そして技をぶつける。

「【ライジングスラッシュ】!」

 水平斬りがサクラジンリュウに決まる。もう一発、と思ったがこのドラゴンはすぐ立ち直り、首をうねらせて噛み付いてくる。

「チッ!」

 スレスレで回避なんて芸当も出来ないし、俺は一気に後退して様子を見る。ドラゴンの背中からずり落ちた煉那は放心状態だった。そらそうよ。

「あ、また飛ぶ!」

 サクラジンリュウは再び空へ舞い上がる。それ以上飛んで逃げるつもりはないのか、上空から火の玉を吐いてこちらを狙い撃ちする。

「うおおお!」

 ありきたりな攻撃だが、体感すると恐ろしい。俺はついつい、地下街から吹き抜けに入った入り口まで戻ってしまう。

「おい、また飛んだぞ!」

「遠距離攻撃かアイテムを使って引きずり下ろすことも出来ますよ」

 佐奈のアドバイスを実践したいが、生憎そんなもの無い。

「それか、吹き抜けを登ってアイテムを探して下さい」

「よし、そうする!」

 さすがにアイキャンフライ戦法はやりたくない。そんなプレイヤー用の物があるなんて温情だ。

 俺はエスカレーターを駆け上がり、二階へ登った。様子を見ると下から佐奈が攻撃しているおかげか、サクラジンリュウの攻撃は全て一階へ向かっている。

「お先!」

 夏恋はまた上を目指す。あいつには恐怖ってもんがないのか。

「アイテムだな。よし、探そう」

 煉那も追いついた。さすがにあれ体験して夏恋の真似は無理か。

 吹き抜けの二階は店舗らしきものにはシャッターが閉まっており、奥の通路に続く道にもシャッターが降りている。吹き抜けを一周したが、これといってアイテムはなかった。

「よし、次!」

 俺と煉那は三階へ向かうべくエスカレーターを登る。

「動いてりゃ楽なのにな」

 煉那がそう零したが、俺は逆だ。

「そうか? ただの階段なら気が楽だ」

 俺はエスカレーターが嫌いだ。何が悲しゅうて階を移動する度に長縄跳びの気分なんぞ味合わねばならんのか。

「あ」

 その時、また夏恋がサクラジンリュウを叩き落としていた。なんだよこのシステム。

 三階に到着したが、やはりアイテムは無いし光景も二階と一緒か。

「こういうのって一番上に無いか?」

「どうだか。案外こういうとこにあるかも」

 セオリーで言えば煉那のいう通りなんだが、このゲームは中々読めないからな。そもそも俺達は『一面のボスが本気で殺しに来ました』なんてイレギュラー(ただしフロム製ゲームを除く)に遭遇したばかりだ。

 伝説の剣が道に落ちてても驚かないね、俺は。

 探しながら三階をウロウロしていると、後ろで爆発音が聞こえた。

「なんだ?」

 振り変えると、なんか爆発したらしき噴煙がモクモク。通路とかに損傷は無いけどゲームだから気にするな。俺達は自然と走り出していた。

「まさか、狙われてるのか?」

 煉那の予想は当たり、さっきまで俺達のいた場所に炎の球が飛んでくる。爆発音が体を揺らすのに、床がちっとも振動しないのが不気味だ。

「ひいいい!」

 悪夢だ。ゲームなら当たり前のことでもリアルに体感すると悪夢なのだ。

「と、とにかく上に行こう!」

「そうだな!」

 俺達はしらみ潰し作戦を放棄し、四階を飛ばして五階へ上がった。フェンスの類が一切無いのが不安でしかない。

 俺達の目の前に佐奈の言ってたアイテムが落ちてる。長細く大きな筒。どうやらロケットランチャー的なものらしい。よく見ると弾頭の先端に佐奈が使った爆弾宝石みたいなものが付いている。

「これは?」

「ロケランだ。とにかく使うぞ」

 煉那には馴染みの無いものらしいが、俺はよくバイオハザードのラストで使う。筒を右肩に乗せ、サクラジンリュウに向けて引き金を引く。

「オラ! ぶっ飛べ!」

 すると、パシュンという聞き馴染みのあるSEと共に、馴染みのない跳ね上がりが手に伝わる。そうだ。このゲームには『反動がある』。

 ロケランは僅かに軌道をサクラジンリュウへ修正しながら直撃した。ある程度標準をアシストしてくれるのか。

 直撃した弾頭は爆発し、サクラジンリュウは雄叫びを上げてこちらを睨む。一撃じゃ落とせないか。

「次はこっちだ!」

 間髪入れず、煉那もロケランでサクラジンリュウを攻撃した。が、次が続かんぞ。俺もロケラン撃っちゃったし。

 その時、夏恋がエスカレーターを登ってやってきた。

「このフロアにもっと落ちてるよ! ガンガン撃って!」

「おう」

 一発限りではないのか。高所恐怖症のプレイヤー向けって感じだな。確かにこの階をよく見渡せば、ロケランがちらほら落ちている。

「というわけで、てやー!」

 夏恋はそのままサクラジンリュウに飛びつき、諸共落ちていった。

「今のうちにたくさん拾っておこう」

 煉那はロケランを抱え、一箇所に集めていた。次あいつが飛んできたら畳み掛けないとな。

「しかし最近のゲームって凄いんだな」

 待っている間、煉那がふと呟いた。言いたいことはわかる。だがこのゲームが特殊なんだ。

「ああ、フルダイブなんだもんな。VRとか出たばかりなのにな」

 そういえば、プレステVRみたいなVRゲームが出るまでは、創作の世界でVRといえば今の俺達がしているみたいなゲームを指してたんだな。

 そういうアニメとか見ては、一度はやってみたいと思ってはいた。だがまさか俺が生きている間、それも高校生の時に出来るなんてな。

「ん? ていうかニュースやってなかったか?」

 俺はそこで、ドラゴンプラネットのサービスが始まった時のことを思い出す。去年辺り、結構ニュースでやってた様な?

「そん時は色々あってな。あんまテレビも新聞も見てなかった」

「そうか」

 ドラゴンの首を駆け上る運動神経の持ち主が何でスポーツ辞めたのか。理由は深刻そうだ。軽く触れるのはやめておこう。

「まー、その後すぐにネガキャン祭りだったからな」

 そういえばニュース番組や新聞記事だと結構フルダイブゲームのネガキャンやってた様な気がするな。ま、年寄りってのはゲーム叩きたいお年頃だししゃーない。

 性別反転アバター使えないのもそういう老人のカチカチ頭が原因かもな。

「あ、来たぞ」

 ようやくサクラジンリュウが上昇してきた。尻尾が切れており、ダメージの蓄積を窺わせる。俺達はロケランを構え、奴を狙う。

「なっ!」

 だが、こちらが引き金を引く前にサクラジンリュウは火の玉を吐いてきた。

「うわわ!」

 俺はカニみたいな横移動でそれを躱す。熱風のはずなのにちっとも熱くない風が小柄な体を揺さぶる。

「よし!」

 俺はサクラジンリュウに狙いを定めた。だが、それはあいつも同様だ。口を開き、火の玉を飛ばしてくる。

「行け!」

 だが俺は怯まない。そのまま引き金を引き、ロケランを放つ。サクラジンリュウに直撃すると同時に、俺の後ろで爆発が起きた。どうやら、敵の攻撃は外れたらしい。

「わ、とと……」

 だが、墨炎の肉体は非常に軽い。熱くない熱風に吹かれ、そのまま吹き抜けに向かって足が動いてしまう。

 そして、足が床から外れた。つまり真っ逆さまだ。

「のおおっ?!」

 サクラジンリュウもダメージのせいか僅かに下降しており、下にその姿が見える。とはいえ、これは死んだ。確実に死んだ。

「直江!」

 煉那の声が聞こえる。それを境に音は聞こえなくなった。

 頭に過ぎるのは、最初にログインした時のこと。調子に乗ってジャンプし、そのまま着地出来なかったことだ。

 自分の体なのに自分の体じゃないみたいな体験だった。いや、もしかすると。

 俺は何を思ったのか、腰の鞘から剣を抜いていた。そして、そのままサクラジンリュウの背に向ける。落ちる勢いに任せ、ドラゴンの背中を剣で貫いた。相手を見てりゃ、身体がそっちへ勝手に向かう、だろ?

 サクラジンリュウが長い首を持ち上げ、雄叫びをあげる。俺には聞こえないけど。

 次に音が聞こえた時には、俺は最下層にいた。下敷きになっているのはサクラジンリュウ。近くには青いウインドウも出ている。これは一体?

「やったね! 倒したよ!」

 佐奈の声が聞こえ、俺は我に帰る。

「そうか」

 佐奈が倒したというので、やはり死んだのだろう。中間の記憶が無い。一体、今のはなんだったというのか。

 とりあえず、いつもの様に素材を回収だ。

『ドラゴンの黒い生き血、ドラゴンの鱗、ドラゴンの骨【大】』

 ウインドウに触れて素材を手に入れておく。煉那も下に降りてきた。

「そうだ。ラージァの抜け殻からも素材取れるよ」

 夏恋がそういうので、俺たちは来た道を戻ってラージドラゴンの抜け殻を取りにいく。確かに青いウインドウがあり、素材が取れそうだ。

「ん? 何してんだ?」

 夏恋と佐奈はラージドラゴンらを無視して、奥にあるガラクタの山を探っていた。

「そこにレアアイテムがあるのか?」

 俺はレアアイテムの話を思い出し、ガラクタの山に向かう。煉那も見よう見まねで素材を集めていた。

 ガラクタの山にも青いウインドウが浮かんでおり、それをタッチして調べるようだ。

「来い、レアアイテム!」

 佐奈が気合を入れてウインドウを叩く。ウインドウの文字が変化し、結果が出る。他人のくじ引きやカードの開封を見るのは自分の時と同じ様にドキドキするな。

『古びた小さなカケラ×2』

「ダメかー!」

 佐奈は頭を抱えて叫ぶ。これはダメなのか? いつになくテンションも高めだが。

「なんだそれ?」

 煉那も佐奈の嘆く理由がわからなかったらしい。まだアイテムの価値が俺らは全然わからないからな。

 夏恋が手に入ったアイテムについて解説してくれた。

「こういう場所で手に入る錆びたアイテムは、鑑定してもらうと装備品になったりするの。佐奈が手に入れたのはカケラだから、装備の強化に使うんだけど、『古びた』だしあまり効果的ではないわ」

「なんかエンドコンテンツ臭いな……」

 この古びたアイテムは鑑定をしてもらうと武器になるもの、そして装備の強化に使えるものがあるらしいな。

 夏恋の話を聞いていると、いい装備を手に入れるためにひたすら巣穴に潜る奴とかいそうで怖いな。ネトゲだし、強い装備品が出たらそれ持ってないと地雷扱いされそうだ。

 そう思っていると、夏恋が自分のメイスを見せる。

「ここで出る装備は外見や見た目が特別で、性能自体は敵の素材で作った武器より圧倒的に強いってわけじゃないわ。このゲーム、どんな武器も強化しちゃえば性能が同じくらいになるし」

「はーん、つまりカッコよくてロマンがあるって以外は他の武器と同じか」

 夏恋の武器もそうだが、このゲームには所謂『最強装備』ってのが無いのかな。デザイン、性能、その他諸々でプレイヤーごとの『最愛装備』が存在する、というゲームシステムか。

「このゲームの武器の入手経路は敵を倒して素材を手に入れて作る『生産』、敵が落としたものなどを拾う『ドロップ』が存在する。だけど、強化次第で同じ武器でも一線級になれる」

 夏恋の言葉通りなら結構緩いんだな、このゲーム。ゲームってのは長続きさせるためにレア武器がめっちゃ強くて滅多にドロップしなかったり、課金ゲーだと何十万かけないと出なかったりするもんだ。

 夏恋がウインドウに触れて、アイテムを入手する。

『錆びた長い棒』

「これはそこそこいいものね」

 『古びた』の次は『錆びた』か。多分、巣穴に逃げ込むドラゴン次第でレアなものが手に入りやすくなったりするんだな。

「じゃあ、私だ」

 煉那もウインドウに触れる。さて、次は何が出るやら。

『風化したカケラ』

「なんだこれは?」

 煉那はウインドウに表示された文字を見て首を傾げる。涼子がウインドウを覗き込む。

「『風化した』か、カケラでもラージドラゴンで出るのは珍しいね」

 佐奈の発言と今までの様子を纏めると、アイテムのレア度は『古びた<錆びた<風化した』なのか。ラージドラゴンという基本的なドラゴン相手でも風化したまで出るんだな。ってことは、もっと上があるわけか。

「じゃあ、俺だ!」

 最後になったが、俺がウインドウに触る。すると、ウインドウから何かがにょっきり伸びてきた。

「なんだ、何だ?」

 出てきたのは、二本の錆びた棒だ。よく見ると、剣の形をしている。長さは俺が使っている剣と同じくらいか。

『風化した双剣』

 ウインドウの文字が変化し、ファンファーレが鳴る。佐奈と夏恋は明らかに驚いていた。

「え? サクラジンリュウやったけどラージドラゴンで風化した武器引くんです?」

「ラージドラゴンだったら、数回巣穴潜って一個手に入るくらいのペースが普通よ。それも古びたやつを」

 なんだかよくわからんが、珍しいことらしい。そして、これが鑑定すると装備になるアイテムってやつか。

「このパーティでサクラジンリュウ出て、それから風化した武器まで引くとは……」

 佐奈は何事か考えていた。そして、その考える姿勢のまま硬直して後ろにぶっ倒れる。

「佐奈ーっ!」

 ついモノローグと同じく下の名前で呼んでしまう。多分恐ろしい確率を体感したんだろうな。

 煉那もフォローを入れる。

「ほら、禍福は縄がどうのとか言うだろ? 最近は吸血姫に襲われるという不運にも見舞われたんだ。これくらいツイていてもいいんじゃない?」

「そ、そうですよね……」

 まー、でも佐奈の気持ちもわからんでもない。俺も色違いのポケモン見つけた日にソシャゲのガチャ引いてお目当のカード引いた日にゃ、明日死ぬんじゃないかと思う。

 夏恋はため息を吐いていた。

「ゲームくらいで大げさな……。運が良すぎる心配なら懸賞でラスベガス旅行当たって、そこで大勝ちして家に帰ったら庭から石油が出てて、戯れで買った年末ジャンボも当たってたくらいやってからにしなさいな」

「うわ、それ明日死ぬやつじゃん」

 そこまでいったら近日中にすごい不幸があったか、これからあるかだな。うん。

「ああ、そこまでなったら死ぬ前に遺産相続で中の良かった親戚が金田一必須レベルで泥沼の争いするとこ見せられそうだ」

「乱数じゃなくて確定でありそう」

 煉那の呟きは避けられない未来っぽくてヤダぞ。最悪の晩年だチクショーめ。

「ま、これでさっきのカウンターに報告すればクエストは完了ってことね」

 ともかく、夏恋はクエストの終わりを告げた。クエストの流れなら俺も知っているが、煉那向けの説明だな。

 初めてのドラゴン戦、なかなか面白いゲームだなこれは。しかし、懸念もある。プロトタイプもそうだが、落ちた時のことだ。

 あれ、下手すりゃショック死する奴いるんじゃね? というかあの時、急に俺は『動ける』様になったんだがあれはなんだったんだ?

 もしかしたら、あれを使いこなすことがゲームのポイントなのだろうか。システムを把握する度に謎が増えていくゲームだ。全く。

 次回予告

 次回、ドラゴンプラネット RE:birtht。第7話、『オリエンテーション合宿』。

 どもー、門田だ。初めての行事ってやつだな。あ、そうだ直江、お前部活決めた?

 俺? ハードな運動部はもう御免被りたいけど、文化部じゃ退屈しそうだなぁ。

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