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ドラゴンズブラッド  作者: 大空ヒロト
第一章〈紫炎龍〉
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契約〈後〉

 龍一は神社の本堂の廊下を駆けていた。こんな神聖な場所で走るなど罰あたりにも程がある行いだが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。一切スピードを緩めることなく進む龍一の目の前に一際大きな扉が見えてきた。

 そこはこの神楽神社、そしてこの神影村の中心に位置する〈祈りの間〉。その部屋に駆け込むと同時に龍一は声をあげた。

 「父さん!聞きたいことがある!」

 「龍一⁉なぜこんなところに・・・。」

 そこにいたのは龍王、聖也、そして麻衣の母で神楽家の現頭主である神楽麻姫まきの三人だった。この村のトップの地位に立つ三人が揃っているという状況に尻込みしながらも龍一は用件を伝えた。

 「この村に神器があるって本当か⁉」

 「なっ・・・!龍一、どこでそれを―」

 「そんなこと後でいい!どこにあるんだ⁉教えてくれ!」

 質問する龍一の剣幕とその内容に最初こそ驚いていた龍王だったが、すぐさま落ち着きを取り戻した。

 「念のため確認しておくが、それを知ってどうするつもりだ?」

 「決まってるだろ。神器と契約してみんなを守る。」

 「・・・、覚悟は、できているんだな?」

 「おいっ!龍王―」

 反対の意見を述べようとした聖也を手で押し留め、龍王は問いかけを続けた。

 「お前の選んだ道は一歩でも間違えばお前自身を、そして多くの人々に深い悲しみを与えることになる。それでもやめるつもりはないんだな?」

 自分を試すような父の問い掛けに神器と契約することがいかに困難であるかを今さらながらに理解させられたが、ここまできてやめるわけにはいかないと自分を奮い立たせた。

 「ああ、わかってるさ。間違えなきゃいいんだろ?」

 「ふっ・・・。いいだろう。麻姫!」

 「はぁ、わかったわ。ちょっと下がってて。」

 言われた通り、全員が後ろに下がると、麻姫は聞き取れない程の小さな声で呪文のようなものを唱え始めた。数十秒後、ようやく詠唱が終わると、部屋全体に不思議な紋様が浮かび上がり、何かが動くような大きな地響きが起きた。その地響きがおさまると、部屋の中央に地下へと続く階段が現れていた。

 「これは?」

 「この先に神器の眠る祭壇がある。この階段を下り始めればもう後戻りはできない。いいか、もう一度だけ確認するぞ。本当に覚悟はできているんだな?」

 「何度も言わせるな。行ってくる。」

 そう言い残して階段を駆け下りていく龍一を見送って、龍王は誰にも聞こえないような声で呟いた。

 「必ず帰ってこいよ、龍一。」



 「なんだ、ここは・・・。」

 階段を駆け下り切った龍一は、部屋の大きさに目を疑った。そして、部屋の中央に小さな祭壇が建っているのに気がついた。それは、この空間の広さとは不釣り合いで、浮いているように感じた。

 龍一はその広大な空間を無言でゆっくりと歩き、祭壇の目の前に立った。

 そこにあったのは、床に交差させた状態で突き立てられた二振りの長剣だった。

 鏡のように美しい銀色の刀身と、それとは対象的な鈍い銀色の鍔、そして、それを支える夕闇のように真っ黒な柄の先を繋ぐ鎖は、この二振りの長剣が二本で一つの神器であると主張しているように感じられた。

 「これが・・・神器・・・。」

 その神器が放つ強大なプレッシャーに思わず後退りしていたことに気がついた龍一は、四肢の震えを抑えるためにゆっくりと深呼吸をして精神を整えていく。

 ようやく精神が安定してきた龍一は、今度こそ神器と真正面から向き合った。そして、柄に触れると、龍一の目の前を禍禍しい紫の炎が覆い尽くした。


 炎が遠ざかったのを感じ取り、閉じていた目を開けた龍一が見たのは、周りと上空を360度全て囲む紫の炎の壁と、その中央で大きな翼を羽ばたかせている一頭の龍だった。その光景に驚愕していた龍一の耳に、この空間全体から響いてくるような声が届いた。

 「お主は何者だ?我が眠りを覚ませし者よ。」

 口を動かしている様子は一切なかったが、この声は目の前の龍が発したものだと、龍一にはなんとなくわかった。

 「俺には力が必要なんだ、みんなを守れる力が。そのために力を貸してくれ!」

 「そうか・・・我が力を欲する者か・・・。久しぶりだな・・・。いいだろう、我が名は〈紫炎龍〉しえんりゅう。お主の名はなんだ?」

 「俺は龍一、神崎龍一だ。」

 龍一が名乗った途端、紫炎龍の纏う空気が変化したように龍一は感じた。

 「ほう・・・お主、神崎の者か・・・。」

 「知ってるのか?」

 「ああ、よく知っているとも。神器となって数百年、我が力を手にしてきたのは全員神崎の者だ。まぁ、ここ二百年程は誰一人として我の力を欲する者すら現れなかったがな。」

 そう言う紫炎龍の声はどこか寂しげだった。二百年もの間使い手も、試練に挑む者すらも現れなかったのだ、それは退屈な日々だっただろう。

 「それなら俺がお前の使い手になってやるよ。」

 「ふっ・・・、面白い。ならば我に力を示してみせろ!お主が我を持つに足る器であることを期待しているぞ!龍一!」

 紫炎龍がそう叫ぶと、龍一の目の前にどこからともなく先程の剣が現れた。そして、10m程離れた場所に突如として紫の炎が吹き出し、人の形を形成していった。おそらく、この神器を使って目の前の炎人形を倒せということだろう。

 龍一は、一つ深く息を吐くと、その剣を掴み、いつものように構えた。

 (麻衣、聖龍、みんな・・・。待ってろよ。)

 剣を掴むと同時に動き出した炎人形を見据えながら、龍一の戦いは始まった。

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