侵攻〈後〉
その頃、村から少し離れた場所では神影村の衛士隊とトレンタ王国軍の戦闘が始まっていた。両軍の人数比はおよそ十倍、普通に考えれば神影村側は圧倒的に不利だ。だが、実際はトレンタ王国軍がなかなか攻めきれないでいた。
「な、なんだよ!こいつら!」
「くそ!一人一人が強すぎる!」
トレンタ王国軍が苦戦している理由、それは神影村衛士隊の錬度が高いせいだった。人数の多い王国軍は全員に戦闘の指導が行き渡らず、また鍛練をさぼる者も多かったために一人一人の力が弱かった。対して神影村の衛士隊は全道場生の中から選りすぐられた精鋭部隊である。そのため多少の人数差ならば軽く覆すことができた。ただ、トレンタ王国軍との人数差は〈多少〉の範囲を越えていた。序盤は敵の兵士を次々と切り伏せていた衛士隊も徐々に押され始めていた。
そして遂に外側に回り込んでいた数十人の兵士に村への侵入を許してしまった。
「くっ!これ以上の侵入は許すな!命を賭けて村を死守しろ!」
「「「おう!」」」
(あとは頼みます、龍一さん・・・。)
前線の指揮を任された衛士隊長はこの終わりの見えない戦いに再び飛び込んでいった。
途中で聖龍と合流した龍一と麻衣は無事避難場所である麻衣の実家にたどり着いていた。
「やっと着いたな。」
「うん。他のみんなも無事みたい。」
「そりゃあまぁ、うちの門下生はそんなにやわじゃねぇからな。」
三人は周りを見渡しながら言葉を交わした。三人が今居るのは麻衣の実家で、この神影村唯一の神社〈神楽神社〉である。この神社はかつてこの地に大きな恵みを与え、この神影村の礎となったとされる神龍を祀っており、代々神楽家の人間が巫女として守ってきた。―ちなみに4姉妹の末っ子とはいえ、神楽家の人間である麻衣が巫女の仕事をせず剣術道場に通っているのには少々複雑な事情があるのだが、それはまた別の機会に―
今、この神社の境内には多くの道場生が集まっていた。この神社の地下にある村人の避難所を守るためである。そして遂に、周辺の警戒をしていた道場生達の元に焦りの混じった伝令が届いた。
「敵が村に侵入したぞ!」
その報を聞いた道場生は互いに顔を見合せ、一斉に行動を開始した。
「各自4、5人で組んで迎撃に当たれ!いいか、死んでも通すなよ!」
「ああ!」「任せろ!」
境内に集まっていた道場生が次々と飛び出していく中、龍一達三人はその場に留まっていた。いや、正確には―
「おい!俺達はここに残ってていいのかよ!」
「そうだよ!私達が前に出ないでどうするの!」
― 聖龍と麻衣が飛び出していくのを龍一が止めていたのだった。なぜ龍一が止めるのかわからない二人が龍一に食って掛かると、二人を宥めるように龍一が言った。
「落ち着け二人とも。よく考えろ、何のために俺達がここにいるのかを。」
「何でって言われても・・・」
「はぁ、俺達は村の民を守るためにここにいるんだろ。」
「あっ・・・。」
「そうか、確かにその通りだったな。」
龍一の言葉を聞いて、二人は納得した。そして、三人はまだ残っていた他の道場生達にも声を掛けた。
「俺達は迎撃の奴らをすり抜けてきた敵からここを守るぞ!」
「各グループごと、本堂を囲むように展開、防衛線を張ってくれ!」
「頑張りましょう!私達の村を守るために!」
「「「応!」」」
気合のこもった返事とともに配置につく道場生達、そして三人は顔を合わせ、頷き合い、一番の激戦が予想される場所、本堂正面入り口に向け駆け出した。