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ドラゴンズブラッド  作者: 大空ヒロト
第一章〈紫炎龍〉
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序章

 広大な草原に3人の人間が並んで立っている。左側には背中に身の丈程もある太刀を背負った青髪の青年が、右側には腰の後ろに短刀を携えた小柄な少女が、そして中央には左腰に柄頭が鎖で繋がっている二本の長剣を差した赤髪の青年が立っている。

 そんな三人の数百m前方から大地を揺るがす程の無数の足音と咆哮と共にグランドベアの群れが接近してきた。

 「おっ、ようやく来たな。」

 「うっひゃー、すんごい迫力だね~。」

 その音を聞いて左右に立つ青年と少女が呑気な反応をしていると、中央に立つ青年が二本の長剣を抜きながら呆れ顔で二人を諫めた。

 「もう少し緊張感を持てよ、聖龍せいりゅう麻衣まい。」

 「はいはい、わかりましたよっと。」

 「あははは、ごめんね、龍一りゅういち。」

 龍一の苦言に返答しながら、聖龍と麻衣も自身の得物を抜いた。それと同時にグランドベアの群れがすぐ目の前まで近づいていた。

 「聖龍は右側、麻衣は左側から切り込んでくれ。中央は俺が。」

 「了解。」「任せて。」

 龍一の指示を受けて、三人は一斉に駆け出した。




 グランドベアの巨大な鉤爪が強大な破壊力を伴って自身に迫ってくるのを龍一は冷静に見ていた。そして、その鉤爪が体に届く寸前、龍一は身体を回転させて鉤爪を回避すると、その勢いのまま敵の脇腹を斬り裂いた。

 「ふぅ」

 肺に溜まっていた空気を吐き出しながら、龍一は周りを見回した。

 「チッ、まだこんなに残ってるのか。」

 龍一の周りには先程倒した個体の他にも多くのグランドベアが同じように倒れている。その数は軽く50を超えていた。しかし、それでもまだ多くのグランドベアが龍一の周りを囲んでいる。

 「このままじゃ体力がもたないな。・・・仕方ない、あれを使うしかないか。」

 龍一はまた新たに向かって来た数体を地に伏せながら呟くと、バックステップで距離を取りながら二本の長剣を体の前で交差させた。

 「目覚めろ、《双炎龍そうえんりゅう》!」

 龍一がそう叫んだ直後、龍一の目の前にいた3体のグランドベアが真っ二つに斬り裂かれ、崩れ落ちた。その奥に立つ龍一が手に持つ剣は、先程までとは一変していた。

 美しい程の銀色だった刀身はそれぞれ燃え盛るような赤色と澄み渡るような青色に、そして、ただの鍔だった部分の側面にはそれぞれ刀身と同じ色の龍を思わせる瞳が1つずつ刻まれている。

 その赤と青、二振りの長剣を構えた龍一は目の前に立ち塞がるグランドベアに向けて静かな口調で言い放った。

 「さぁ、俺と神器こいつの力、存分に味わえ。」

 言い終わると同時に、龍一は先程までとは段違いの速度で敵に接近し、5体のグランドベアを一瞬で切り伏せた。

 その龍一の急激な変化に周りのグランドベアは本能的に恐怖を感じ取り、動きを止め、周囲を静寂が包み込んだ。 直後、その一瞬の静寂を破る轟音が響き渡った。

 「これは・・・ようやく親玉のお出ましか。」

 その方角を見ると、他の個体よりも二周り程大きいグランドベアがものすごい速度で迫って来ているのがわかった。

 そして、その轟音によって先程まで様子見をしていた他のグランドベア達が再び襲い掛かって来た。

 「このままじゃ、いつまで経っても親玉にたどり着けないな。」

 龍一がそう呟いたその時、右側から3体のグランドベアが飛んで来て目の前にいた一体と衝突した、と認識した直後、今度は左側から一陣の風が吹き、先程の4体が急所から血を流しながら倒れた。

 「龍一!雑魚は俺達に任せろ!」

 「龍一はあのでっかいのをお願い!」

 そう言いながら、青龍と麻衣が龍一とグランドベアの親玉を繋ぐ直線上の敵を次々と切り捨てて行く。良く見ると、二人が手に持つ剣も最初とは変化していた。

 やはりと言うべきか、神器使い二人の殲滅力は凄まじく、親玉への道がどんどん開けて行く。その道を駆け抜けながら、龍一は叫んだ。

 「我が身に宿りし炎熱の神龍よ、眠りし力を解き放ち、聖なる業火をもたらせ!《ソルス》!」

 叫ぶと同時に、龍一が二本の長剣を擦り会わせるように薙ぐと、それぞれの剣から刀身と同じ色の炎が吹き出した。その、二色の炎の剣となった神器を携えて龍一は親玉と切り結び始めた。

 龍一が剣を薙ぐ度にその剣線上にあるものが焼かれていく。それから数十秒も経たないうちに、グランドベアの体には無数の焼け跡が刻まれていた。

 「そろそろ終わりにしてやる。」

 龍一がとどめの一撃を放とうとした瞬間、満身創痍だったグランドベアの瞳が妖しく光り、直後、無数の土塊が龍一目掛けて飛んできた。グランドベアに限らず、魔物の親玉になるような個体には他の個体には使えない特殊な力を持つ者がいる。そして、この個体の持つ力は周囲の土を固めて飛ばす力。

 今でも百を超える土塊が龍一目掛けて投擲されている。だが、その1つたりとも龍一に掠りもしていない。その程度の攻撃は神器使いには通用しないのである。

 「今度こそ終わりにしてやるよ。」

 龍一は飛んでくる土塊を次々と足場にして高空までかけ上がっていくと、腕を頭の後ろで交差させるように剣を構えた。

 「《龍爪りゅうそう》!」

 そう唱えた瞬間、剣に纏っていた炎が倍以上に膨れ上がった。龍一がその二本の剣を同時に薙ぎ払うと、十字に交差した炎の刃がグランドベア目掛けて飛翔し、直撃した瞬間、炎が何倍にも膨れ上がり、全身を包み込んだ。

 数分後、炎が消えたその場所には何も残ってはいなかった。それを確認した龍一は近くで休んでいた聖龍と麻衣に向き直った。

 「よし、帰るぞ。」

 「うん!」「おう。」

 夕暮れの中、三人は並んで歩き出した。

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