レベル87-2 こまめに片付けていくしかありません
「…………さすがに気持ち悪いな」
横に並べた小鬼達を見てうんざりしてしまう。
小鬼達を茂みの中に持ってきた理由は、単に隠すというだけではない。
こんな時であるが、素材として解体するためだった。
普段やってるモンスター退治が出来ないので、収入が今はない。
トモノリならそれでも寝床と食事は出してくれるだろう。
もしかしたら、今回の小鬼退治や対応で報酬を用意してくれるかもしれない。
だが、苦しい内情を考えると、そこに甘えるのは気が引けた。
何よりトモノリの払う報酬は、村から納められた税である。
トオルの家族達のものも入ってる。
それらから支出される事に抵抗もあった。
なんとなく、家族への負担になってるような気がしてしまう。
(気にしすぎなんだろうなあ)
そう思うも、気持ちが受け取りを拒否している。
だから、少しでも足しにしようと小鬼から素材をいただくことにした。
牙と呼ぶにふさわしい犬歯を抜き取る。
この中で一匹だけ身につけていたイヤリングも取る。
他の者がつけてなかったのを見ると、もしかしたら、これが地位を示す物なのかもしれない。
価値があるかは分からないが、持ち帰っておこうと思った。
「だいたいこんなところか?」
「そうですね。
触媒とかに使えるのはそのあたりだと思います」
サツキの返答に頷く。
こんな時になんだが、小鬼を倒すだけというわけにもいかなかった。
少しでも稼ぎをあげるために、使える部分を回収していく。
それらをこんな事もあるだろうと用意していた容器に入れていく。
今回、心臓など臓器などがないのでさほど血なまぐさくはならない。
燻す必要もないので手間もかからない。
それが終わってから皆を見渡す。
「行くぞ」
これで終わりではない。
他にも幾つか回る所はある。
未帰還が出るという事は、それで相手を警戒させる事になる。
外に出回る事を控えるようになるかもしれない。
逆に、より多くの者達を外に出し、撃退しにくくなるかもしれない。
どちらにせよ、手が出しづらくなる。
そうでなくても、外に出る者達の警戒心は今以上に上がるだろう。
大本の群れから外に出るのだから今までだって緊張していたはずである。
事が起こった後ならそれは更に跳ね上がるだろう。
巡れる場所は限られてるが、出来るだけ多くの敵を倒しておきたかった。
今が最高のボーナスステージのはずなのだから。
小鬼達も各所を巡っているので、そう簡単にはとらえられない。
事前に調べておかなければ、どこに出向いてるのかすら分からなかっただろう。
「居たな」
次の一団を見つけたのは、最初の一団を倒してから二時間もしてからだった。
数キロほど歩いてようやくである。
今回も、およそ十匹ほどの規模である。
最初の時と同じように、可能な限り近づいて、魔術で眠らせる。
それから残った者に弓と投石器。
サツキには、そこから漏れた者に、更に魔術をかけて動きを止めさせる。
残った敵には、サトシ達が襲いかかり、確実に息の根を止めていく。
今回は三匹ほど眠らなかった者が出て来たが、逃げ出す前に倒す事ができた。
三つ目の集団も同様だった。
どうも小鬼は十匹単位で動くようで、人数は今回も同じであった。
やり方も同じで、魔術で眠らせて襲いかかるという形でやっていく。
下手にやり方を変える必要もなく、丈の高い草に隠れての奇襲は、意外と上手くいってくれている。
恐ろしい事に、今回は全ての小鬼が最初の段階で眠りついてくれた。
おかげで苦労する事無く全部倒す事ができた。
「まあ、こんな所か」
三つ目の集団を倒したところで、トオルは空を見た。
夏なのでまだ陽は高い。
しかし、時間にすれば既に三時にはなってるはずだった。
やろうと思えばあと一組はどうにかなるだろう。
しかし、帰還がその分遅くなる。
暗くなってからでは帰還も難しくなる。
それに、モンスターも警戒しなくてはならない。
この辺りに何がいるのか、夜になったらどんなのが出て来るのか。
それが分からないから、危険は避けたかった。
帰る途中での遭遇はやむをえないとしても。
「帰るぞ」
全員、黙って頷いた。
途中も、可能な限り身をかがめて歩いていく。
無理な姿勢をとってるので体が悲鳴をあげていくが、見つかるよりは良い。
相手がどこにいて、いつ襲ってくるか分からない。
時折頭をあげて、周囲を確かめながら原っぱの中を進んでいく。
モンスターへの警戒も忘れない。
帰還するまでは全く気が抜けない。
ちょっとした油断が、壊滅につながるかもしれない。
ここにはそんな危険が常に転がっている。
幸いな事に、途中モンスターに遭遇することもなく帰還をする事ができた。
「ただいま」とたどり着いた拠点の中で言う。
残っていた解体組などが出迎えてくれる。
「おかえりっす」
「どうでしたか、戦果は」
そう聞いてくる彼らに、トオル達は回収した素材を示した。
「とりあえずそんだけはがんばった」
「おお……」
「凄いっすね」
「ありがとよ。
それよりも……メシを出してくれ」
その声に解体組の者達は、あわてて保存食を取りにいった。
何日かの作業で、森の中の拠点はそれなりの格好がついてきた。
木に結びつけた丸太による柵はそれなりに頑丈そうだ。
弓矢を警戒して、内部には盾としての板を立てている。
その中にたてたテントが居住拠点になっている。
快適さにはほど遠いし、見た目もそれほど良くはない。
だが、モンスターをある程度しのぐ居場所にはなっていた。
急ごしらえにしては上等というところだろう。
木々が邪魔で、穴を掘るのは難しいが。
また、残念な事に、火を使えない。
煙が立てば、それで小鬼に位置を知らせる事になりかねない。
灯りもランプやロウソクを用いて、極力煙が出ないようにしている。
松明や焚き火は基本的には禁止していた。
燃え広がって火事になるのも怖い。
なので、ここでの食事は保存食をそのまま食べるというだけになっている。
文句は言ってられなかったが、焼くにしろ煮るにしろ火が通ってない食べ物は意外なほどまずい。
いや、まずいという事はないのだろうが、どうにも食べにくかった。
それでも、何も食べないわけにはいかない。
少しばかり顔をしかめながらも、トオル達は保存食を口に中に入れていった。
館で出されていた食事が早くも懐かしく感じられた。
「飯だけはどうにかしたいよ」
「そうだね、兄貴」
「どうにかならないっすかね」
「火が使えないってつらいです」
各所から同意の声が上がっていく。
「まあ、あいつらが消えるまでだ。
がんばろうぜ」
あいつらが小鬼である事は言うまでもない。
「そうっすね」
「あいつらさえ居なけりゃ」
「さっさと消えればいいけど」
「本当にしょうがねえよな」
「くそっ…………」
次々に憤りが上がっていく。
それらは小鬼へと向かっていく。
(うーん)
そんなつもりは無かったのだが、それを聞いて思った。
(食い物の恨みって怖いんだな……)




