レベル87-1 こまめに片付けていくしかありません
この時期で良かった、と言うべきだろう。
丈の高い草は、動きを阻害するが姿を隠してくれる。
おかげで群れから外に赴いていく小鬼の小さな一団を追跡する事ができる。
元の集団から離れ、村の方へと向かっていくそれを、トオル達はゆっくりと追跡していった。
頃合いを見計らってトオルは仲間に声をかける。
「やるぞ」
その言葉に、サツキは杖を小鬼達に向けた。
いつも通り靄のようなものがあらわれる。
自分達の周囲をくるむそれに、小鬼達も訝しく思ったのか足を止める。
それが仇になった。
すぐにそこから離れれば効果を受けずに済んだのだろうが、立ち止まってしまった事で影響を全て受ける事になる。
猛烈な眠気に襲われた小鬼達は、次々とその場に倒れていく。
もちろん全員が効果を受けたわけではない。
十匹ほどの小鬼達のうち、一匹はどうにか堪えたのか、ふらつきながらも立っている。
弓を手にしたトオルと、投石器を持ったレンが、その一匹を攻撃する。
立ち上がった二人が放った矢と石が、残っていた一匹に当たる。
致命傷にはならなかったが、打撃は確実に与えられた。
「ギャッ!」
悲鳴が上がる。
だが小さい。
胸を貫通した矢が、肺の動きを抑えてるのだろうか。
それはありがたいが、それでも声は上がってしまっている。
これで他の小鬼が起き上がる可能性がある。
そうなる前に片付けねばならない。
「突っ込め!」
眠っていた連中が起きても状況を把握できないうちに、一気に潰す。
トオルの声にサトシ達が駆けていった。
トオルとレンは、その場に留まって弓と投石器を構える。
起き上がってきた奴を攻撃するために。
サツキも、魔術で立ってる小鬼の動きを戒めていく。
再びあらわれた黒い靄のようなものが、矢に貫かれてる小鬼にまとわりついていく。
そいつは逃げようとしていたのか、立ち向かおうとしていたのか。
どちらであったかは分からないが、何かしら動こうとしていた小鬼はそれにとらえられる。
動きが格段に落ちた。
突進していくサトシの槍が、その小鬼の胸を貫通していく。
鎧も着けてないだけにあっさりと突き刺さる。
心臓の位置を。
やはりそこが急所だったのか、小鬼は少しだけ体を硬直させると、地面に崩れおちていった。
トオル達も、悲鳴を聞いて起き上がった者や、それでもまだ眠ってる者に襲いかかり、一気に片付けていく。
総勢十匹の小鬼は、数分で壊滅していった。
「こんな所か」
倒し終わったところで、トオルは一息吐く。
思ったより簡単にいった。
魔術の支援あっての事だし、毎回こういくとは思わない。
それに、今回だってあぶない瞬間はあった。
『安息の闇』が効かなかった小鬼の声によって、眠っていた者がもっと早く起きていたらどうだったか。
それ以前に、魔術の効果がそれほどあらわれず、小鬼がもっと起きていたらどうだったか。
ここまで簡単にはいかなかっただろう。
この結果には満足してるが、浮かれる事はできなかった。
(触媒は確実に確保しておかないとまずいな)
魔術を確実にするために絶対に必要だった。
なかなか余裕もないが、妖ネズミの退治を村に残ってる者に続けてもらう必要がある。
それと、弓と投石器だ。
遠距離から攻撃が出来るのはありがたい。
そのレベルも、少しだけ上がっている。
しかし、一撃で相手を倒す、というわけにはいかない。
妖ネズミや妖犬を相手にしてた時もそうだったが、脳天を貫くようなものでなければやはり難しい。
当たれば相手の動きをある程度阻害する。
効果はそのくらいと考える事にした。
これが名人や達人と呼ばれるような者達ならば、急所に当てていくのだろうが。
トオルの腕ではそこまで出来ない。
いつもそうだが、問題点がどこかにある。
トオルが悲観的に物事を見すぎなのかもしれないが。
だからこそ、対応を考えて、最善の結果を出していくしかない。
だが、とりあえず今は、上手くいった今回の結果を喜ぶ事にした。
大所帯の群れから外に出向いていく一団を見て思いついた事だった。
こちらからあのような巨大な集団に襲いかかるのは自殺行為である。
だが、外に出て行く連中がいるなら少しはやりようがある。
対応できる程度の集団を相手にした、各個撃破。
これならトオル達でも対応できる。
その為にトオルは、数日ほど小鬼の群れを観察した。
どのくらいの数の一団が群れから出発するのか。
一団の人数はどれくらいなのか。
何時に出て行って、何時頃帰ってくるのか。
外に出た一団は、どこに向かって、何をしてるのか。
その全てを調べきる事はできなかったが、ある程度の動きを掴む事は出来た。
それをもって、行動を開始した。
まずは、村の方に出向いている連中。
どうも村の様子を観察しているようだったので、真っ先にこれを潰す事にした。
何をどのくらい突き止めてるのか分からないが、こちらの情報が流れるのを防がねばならない。
その結果がこれである。
これで本日の観察結果が小鬼達にもたらされる事はないだろう。
それだけでもありがたい。
何より、小鬼達を全滅させる事ができた。
今の段階で敵に襲撃された事を伝達されるわけにはいかない。
未帰還の一団が発生すれば当然警戒はするだろう。
だが、どのような形で、どの辺りで倒されたか分からないなら、対応がしにくくなる。
相手の人数、武装、強さ、魔術の有無などなど。
知っていれば対応も出来るだろうが、知らなければ何も出来ない。
いずれ探索の為に人手を繰り出すようになるかもしれない。
それまではこの調子で出て来た連中を叩いていくつもりだった。
「それじゃ、こいつらを茂みの中に」
仲間に指示して、小鬼を担がせる。
もちろん、確実にとどめをさしてから。
万が一生きていたら厄介な事になる。
急所に刃を突き刺していくのは気分のよいものではない。
だが、起き上がって反撃をくらうよりはマシだった。
そうして出来上がった死骸をかついで、近くの茂みまでもっていく。
探索にきた小鬼達が簡単に見つけられないように。
今日も14:00に続きを出します。




