レベル86-2 思いつきが上手くいくか調べてみるまで何とも言えません
「こうして見ても、やっぱり多いな」
森の中をどうにか進み、目的地の前までやってくる。
相変わらず小鬼の集団は同じ場所にいて、その周囲を警備と思しき武装した者達が固めていた。
「数えるのも面倒だよな」
「ああ、うん」
隣に来ているサトシが、さすがに顔と声を固くしている。
「兄貴、本当にあんなのとやるっての?」
「おう。
やるしかないしな」
事も無げに答える。
その言葉にサトシはあらためて驚いた。
「すごいよ、兄貴」
「…………何が?」
「よくそんな度胸があるなって」
普通、目の前に何百という敵がいたら震え上がる。
なのにトオルはそんな素振りも見せず、立ち向かおうとしている。
「俺には無理だよ」
「俺も」
「同じく」
タカユキとシンザブロウの二人も続く。
「あんなの相手したくないですよ」
「どうやってやるんすか」
二人とも青ざめた顔で聞いていく。
声を発してないサツキとレン、アツシも同じような状態だった。
「何か、やり方でもあるの?
モンスターを相手にするやり方を考えついた時みたいに」
「ああ、それな」
聞かれてトオルは正直に答えた。
「無い」
空気が固まった。
トオル以外の全員が、声もなく、凍り付いたように動きを止める。
「あるわけないじゃん」
「いや、無いって」
「だって、あんだけの数だぜ。
普通にやったら絶対に負けるって。
死ぬよ」
「…………」
全員、呆気にとられた。
意識が吹き飛んだ。
考えが無くなった。
頭が真っ白になるという事を実感した。
「だからさ」
そんな周りの者達を無視して(あるいは単に気づいてないだけか)言葉を続ける。
「どうにかなるって開き直るしかないじゃん」
「…………そんな、いい加減な」
さすがにサトシも承諾しかねた。
なんだかんだ言いつつも、トオルに「はい、その通りです」と従っているのに。
けれどその言葉をトオルは否定する。
「大事だよ、開き直りって」
それが転生してからのトオルを支えている。
前世と同じように無難に生きようとしたら、どこでどうなるか分からない。
危険は極力避ける一方で、危険に飛び込むことを躊躇わないようにもしていた。
どうせ一度は死んだ。
そして悟った。
死ぬまでにどうしようと、やがて死ぬ。
だったら、好きに生きた方がいいと。
それに。
無茶や無謀で無理としか言いようが無い事も、やってみると意外とすんなりと通ってきた。
出来ない事も確かにあるが、やってみれば存外どうにかなる事もある。
だから、簡単にできないとも決めつけはしない。
本当にそれが無理だと判明するまでは。
やり方を変えれば、道具を揃えれば、状況が変われば、レベルが上がればこなせるかもしれない。
「さて、どうすっかな」
目の前の大群を前に考える。
これが本当に無理なのかどうかを。
時間が過ぎ去っていく。
もとより到着した頃には昼も過ぎていたが、それが夕方になり、夜に入っていこうとする。
その間、トオルは小鬼達の監視を続けていた。
何か変化はないか、何かしら動きはないかと。
有るにはある。
何匹かによる小さな集団が、時折集団に帰ってくる。
何かを持ってくる事もあれば、手ぶらな時もある。
獲物を探しに外に向かっていったのだろうか。
これだけの集団を維持するなら、大量の食料が必要なのは分かる。
家畜泥棒をしたくなるのも当然だろう。
何百といるであろう小鬼を養うなら、相当な食料が必要だ。
それを調達する手段として、農耕・牧畜・漁業があるなら良いが。
見たところ、そういった活動をしてる様子はない。
海や川に湖などは近くにないから漁業は無理にしても。
田畑を作ってる様子もないし、牧畜用の家畜も見えない。
小鬼の文化程度がどれほどか分からないが、それらがないなら、狩猟か採取が糧を得る手段になる。
こうなると強奪・略奪も生きていくための手段の一つになる。
狩猟にしろ採取にしろ、それで養える数は限られる。
獲物を取り尽くしてしまったら終わりだ。
繁殖育成と栽培は、一定の数の人口を養うためには必要不可欠である。
(となると)
おかげで、多少はどうにかする算段がついた。
(あれを狙うしかないよな)
勝つことは目指さない。
出来るならそうするが、力が足りないならそれは無理である。
であるならば。
負けない方法を探るしかない。
今回、どう考えても勝ち目はない。
トオル達が奮戦しても、せいぜい二十匹三十匹を道連れにして終わりである。
その他大勢の小鬼は無傷で残る。
勝てないのは目に見えている。
だからこそ。
負けない事を目指す。
勝てないまでも。
 




