レベル85-1 対応できるものなら苦労はありません
小鬼。
あるいは、ゴブリン。
身長、およそ一百四十センチ。
『小』という文字がつく通り、一般的な人類に比べれば小さい、人型のモンスターである。
鬼に分類される、そう呼ばれるモンスターの中では小型で弱い部類と言われていた。
一応智慧はあるし、それなりの社会というか集団を形成して行動はしている。
確かめられた事はないが、それなりの文明を持ってるのではないかとも言われている。
しかし、粗暴というか性根がねじくれてるというか。
主な行動は、襲う、強奪する、殺す、といったものばかり。
人間相手だからそうしてるのか、他の多くの存在に対しても同様なのかは分かってない。
ただ、多くの人間が目にする小鬼の行動とはそんなものだった。
強盗団などと行動に大差はない。
ただ、個体としての強さはそれほどでもなく、同じ数で相対するならそれほどの脅威ではない。
小鬼の一番の問題点は、人間を上回る繁殖力と、それによって発生する莫大な人数だった。
数が多い、というのは一人一人の能力の低さを補っていく。
たとえ一人が弱くても、数が二倍いれば同等以上にやりあえる。
三倍ともなれば対抗するのも難しくなる。
小鬼は弱いが、小鬼の集団は人類の脅威となりえた。
そして、急激に増える数をまかなうためか、強奪・略奪を繰り返す。
彼らに農耕や牧畜のような生産の概念があるのかは分からない。
ただ人類がよく見る小鬼は、ほぼ例外なく人類の生活拠点を襲撃し、作物や家畜を奪っていく。
だから撃退せねばならない。
それで十分だった。
「とはいえ、どうしたもんか」
報告をしてから出て来たトモノリの言葉がこれだった。
「さすがにそれだけの数となると、簡単にはいかん」
「でしょうね」
領内三つの村の人口の合計が、だいたい三百から四百。
数だけなら、小鬼の集団と同じくらいはあるかもしれない。
しかし、その全てが戦えるわけではない。
トモノリの抱えてる兵力は、モンスター退治に従事してる十数人だけである。
そのうち半分は、戦闘ではなくモンスターの解体に従事している。
それだけではとても足りない。
村人に支援を求めるにしても、戦力としては期待できない。
備えを作っての防衛戦ならどうにかなるだろうが、それでも損害は免れない。
また、収穫を目前に控えた時期である。
村人を戦闘に駆り出す事は出来なかった。
やれば、収穫の大部分を失う事になる。
「どうしてこうなるんだか」
「泣けてきますね」
全てが上手くいってると思っていた矢先である。
巡り合わせの不運を嘆きたくもなった。
「まあ、文句はここまでにしよう。
近隣の領主への警告と協力の呼びかけ。
それと中央への通達だな。
急いで連絡を入れよう」
「そうですね」
「それと、君にも協力をお願いする。
モンスター退治として」
「それはまあ、極力がんばりたいと思いますけど」
「頼む。
君らがいないと話にならん」
「でしょうね……」
分かっているだけに断りにくかった。
「でもなるべく早く援軍を呼んでください。
俺達が頑張ってどうにかできるもんじゃないんで」
「そうだな」
簡単にできる事など何もないが、トモノリもやれる事に手を尽くそうとしていた。
翌日から動きが始まった。
各村への連絡と、襲撃に備えた準備を指示。
近隣の領主にも使者を出し、危機が迫ってる事とそれへの準備。
トモノリの直接の上司とも言える、この付近の貴族を束ねてる地方領主への報告。
併せて、この襲撃に対処するための軍勢派遣の要請。
各領主への通知は、費用がかさむ事を承知で早馬を立てた。
それでも確実に援軍が来るとは限らない。
国が動員してる軍の大半は、北方にあるモンスターとの境界線に展開している。
そのため、余裕のある所はほとんどない。
今回のように小鬼の集団が来襲しても、即座に送り込める兵はほとんどない。
放置出来る問題ではないが、誰もが余裕のない状態である。
したくても出来ない事は多かった。
なのでトモノリも援軍については、あまり宛にはしてなかった。
少なくとも、通常の手段である上位の領主への要請だけでは効果が薄いと思っていた。
使いたい手段ではなかったが、親戚や係累への伝達も行っていく。
縁故の利用なので気が引けたが、倫理や道義を理由に躊躇ってる場合ではない。
やれる事はなんでもやってこの場を凌がねばならなかった。
ここを乗り切らねば、未来はないのだから。
今日も14:00に続きを出します。




