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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その5 そりゃまあ冒険者だからこういうのも仕事だけど
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レベル84-2 誰がやったのか調べてみたら、こんな事になってしまった

「ねえ……」

 追跡の途中、レンが声をあげた。

「何か、音がする」

「え?」

 言われて他の者達が耳を澄ます。

 だが、聞こえてくるのは風と、それに揺れる草のかすかな音だった。

「気のせいじゃないのか?」

「かなあ……。

 でも、なんかざわめくっていうか、そんな気がする」

「言われてみれば、そうだな」

 木こりもレンと同意見のようだった。

 そう言われても何かが聞こえるという事はない。

 気のせいなんじゃないか、と誰もが思った。

 ただ、トオルはその言葉を無視は出来なかった。

「音はどっちの方から聞こえる?」

「何とも言えないけど、たぶんこの先から」

「足跡の続いていく方だと思うな」

「そうか……」

 それがどこまで本当かは分からない。

 だが、二人がそう言うなら何かがあるのかもしれないと思った。

「そしたら、向こうの茂みの方に行こう。

 移動は木の間を通って。

 進む方向は、とりあえず、音のするって方向を目指して」

 足跡から遠ざかる事になるし、進むのも遅くなるだろう。

 それでも、身を隠せる場所を伝っていく事を選んだ。

「うえぇ……」

 サトシが露骨に嫌そうな顔をした。

「最悪だよ、兄貴」

「分かってるって」

 トオルもそれは否定できなかった。

「俺だって嫌だよ」

 それでも、警戒を怠る気にはなれなかった。



 漫画やアニメ、ラノベにゲーム。

 そういった創作物の記憶が蘇ってくる。

 こういう場面で、仲間が警戒を促す場面で。

 それを無視して突き進み、悲惨な結果に陥るというのが良くあるパターンだった。

 特に明確でもない根拠を理由にした警戒だったから重視されなかった。

 そんな創作物の中の出来事と現実が一致するというわけもないだろう。

 慎重も度が過ぎるかもしれないとは思った。

 しかし、何かが起こってからでは遅い。

 少しでも不穏な事を感じたら慎重にいく。

 勇気を振り絞る事を否定はしないが、それはある程度の目処がたってからで良い。

 何も分からない時に、しなくてよい無謀な賭をする必要はない。

 結果、手間もかかるし無駄に終わる可能性のある事をする羽目になるだろう。

 それも、損失や損害を被るよりはるかにマシである。

「兄貴……、前に全然進めねえよお」

「ぼやくな」

 一部からの不満も、つとめて無視をした。



 茂みの中をどれだけ進んでいった事か。

 気がつけば、陽もそれなりに傾いていた。

 ざわめきが聞こえる、というほどだからその発生地とそれほど離れてるとは思えない。

 しかし、歩きにくい、視界も遮られる木々の間を進んでいくのは存外難しかった。

 足下の草や藪を切り払えれば良かったのだが、それも自粛している。

 もし本当に物音が立っていたら、それを発生させてる何かがいたらと思うと、不用意に音をたてる事もできなかった。

 進みが遅くなったのは、その慎重さのせいでもある。

 そのおかげで、滞りはしたかもしれないが、特に危険な目にあう事もなくトオル達は問題の場所に辿りつく事が出来た。



「なんてこった……」

 木こりが絶望的な声を漏らす。

 木々の間から見える平原。

 そこには、数多くのモンスターが屯していた。

 姿形は人にそっくり。

 二足歩行している人外の存在。

 鬼と呼ばれる種族の者ども。

 その中でも小鬼、遙か遠い国から伝わった言葉でいうゴブリン。

 開けた平原の中に、その集団がいた。



「あ、兄貴」

「なんだ…………」

「どうするよ、あれ。

 小鬼があんなに」

「落ち着け。

 まだ向こうには気づかれてない」

 その通りである。

 茂みの中を進んできたおかげか、気づかれてはいないようだった。

 集団の周囲には、警備なのだろう、武器を手にした者達が立っている。

 しかし、それらもトオル達を見つけてはいないようだった。

 ある程度の距離があるのも助けになってるのだろう。

「このままズラかる。

 あんな数、相手にしてられねえ」

 それ以外の判断はありえなかった。

 ざっと数えただけでも、一百を超える数がいる。

 それ以上は数えるのが面倒になったので計測してない。

 だが、見える範囲の、粗末なテントの外にいる者達だけでそれだけの数がいる。

 実際にはどれだけの数がいるのか分からない。

 想像したくもなかった。



(けど、全部が戦闘員じゃないみたいだな)

 よくよく見ると、武装してる者は限られている。

 と言っても、手にしてるのは棍棒が大半である。

 剣や槍、弓などを持ってるのは一部のようだった。

 大半は、武器を手にしてない。

 それどころか、より小さな個体や、それを抱えてる者もいる。

(あれって、子供と……それを抱えてる母親か?)

 だとすれば、この集団は戦闘のためのものとは言い切れない。

 かなり大量ではあるが、旅をしてきた一団にも見えてくる。

 定住地を持たない遊牧民のようなものかもしれない。

 もしくは、移住先を求める開拓者か?

 何が正解なのかは分からない。

 ただ、目の前にいるのが純然たる戦闘集団でないのは確かだろう。

 それは救いだった。

 もしこれが軍勢だったら、村はひとたまりもない。

 装備は劣悪のようだが、何せ数が違う。

 数百はいるかもしれない小鬼の群れは、それだけで十分脅威である。

「…………行くぞ。

 音を立てないようにゆっくり、静かに帰るんだ」

 驚異的な数を前に、つとめて冷静であるよう振る舞いながら指示を出す。

 仲間と木こりは、その言葉に無言で頷き、来た道を戻っていく。

 一人、また一人と静かに立ち去っていくのを確かめていく。

 そうする間も、可能な限り小鬼の群れを見て、少しでも何かを見て取ろうと目を向けていく。

 その場をトオルが立ち去るのは、最初の一人が動き出してから二十分もしてからだった。



 追跡四日目の夕方の事だった。

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