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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その5 そりゃまあ冒険者だからこういうのも仕事だけど

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レベル84-1 誰がやったのか調べてみたら、こんな事になってしまった

「それじゃ、よろしくな」

 紹介された木こりは、意外と人当たりが良かった。

 年の頃、三十を何歳か上回ったところだろう。

 その年齢の割には落ち着いてるように見えた。

 野外を歩き、斧を振るって伐採してきた体は分厚く大きい。

 顔も手も節くれ立ち、無骨な感じがする。

 しかし、やってきたトオル達を迎える態度は柔らかで、人を遠ざけるような硬さは見られない。

 狩人などだと結構気むずかしい者も多いと聞く。

 同じように野外に出て森の中に入っていく木こりも同じなのかと思っていたが。

 どうやらそれは違ったようだ。

 少なくとも目の前の人物は例外であるようだった。

「よろしくお願いします」

 そう言って頭を下げる。

 トオルが連れてきた仲間も、それに続いた。



 トモノリからの依頼という形で、トオルは家畜泥棒の追跡を引き受けた。

 本来ならば周旋屋を通してからとなるが、状況が状況である。

 周旋屋には追って連絡を入れるということで、先に現地に向かう事となった。

 被害にあった村に向かい、そこで木こりと合流。

 痕跡を追っていく事になる。

 当然ながら、トオルの仲間で腕の立つ者を連れて行く事にもなった。

 今回はモンスターの素材などは全く関係がないので、戦闘に携わる者だけになっている。

 サトシとレン、アツシにサツキ。

 更に、新たに冒険者となった新人二人、タカユキとシンザブロウも加わっている。

 他の者は、領主の村にて妖ネズミ退治をやらせている。

 どうしても解体の人間が余るので、それらは人手をほしがっていた下男に預けてきた。

 期間は最大二週間。

 報酬一日一銀貨。

 トオルには珍しい、冒険者らしい仕事となった。



 野外に出向くということで、荷物は結構多くなった。

 保存食などはもとより、雨風を凌ぐマントに寝るときに使う毛布。

 火種を入れた火口箱と照明用のランプに松明。

 その他に細かい物を背負い袋に入れると、かなりの重量となった。

 ここに武器や防具も加わるのだから、体を動かすのも大変になる。

 舗装されてる所に出向くわけではないから、馬車も使えない。

 自分達の足だけが頼りだった。

「これは……くるな」

「兄貴、まともに動けないよ」

 その重さにたじろぎながら、追跡が始まった。

 だが、歩くのも一苦労な状態である。

 歩き慣れてる木こりはともかく、トオル達はその後ろをついていくだけでも苦労する事になった。



 それでも木こりは足跡を見つけ、それを追っていく。

 トオル達からすれば、痕跡など全く見えない野原を。

「まあ、よく見れば色々な跡があるもんさ」

 そう言って木こりは、地面を指す。

「土を踏んだ跡はしっかり残ってるし、通った跡は草が踏みつけられてる。

 その方向を見定めていけば、それほど迷う事はない」

 狩人が本職でもないのにどうして分かるのか不思議だった。

「なに、それ程珍しい事でもない」

「というと?」

「森の中に入るとな、危険を素早く見つけなけりゃならなくなる。

 モンスターもそうだし、危険な獣だっている。

 それを見つけるために、痕跡を発見する必要があるんだ」

 必要に応じた智慧なのだろう。

 獲物を見つける狩人としてではなく、危険から逃れるための防衛手段として身につけたものようだった。

「それに、こっちの方はいつも歩き回ってるからな。

 そうしてると、ちょっとした違いにも気づきやすくなるもんだ」

 活動地域にしてる事の強みである。

 全く知らない地域でないから慣れてる部分もあるようだった。

「このあたりは、庭みたいなもんだ。

 さすがに山の方とかまでは行った事は無いが。

 でも、この辺りならたいていの事は分かってるつもりだ」

 頼もしい言葉だった。

 戦闘はともかく、野外活動には慣れてない。

 村から出て数時間。

 もう帰り道も分からなくなっている。

 ここでこの男とはぐれたら、戻る事も出来なくなる。

 そんな命綱とも言える木こりの言葉はありがたいものだった。



 さすがに追跡が一日で終わる事はなかった。

 野外で一晩過ごし、二日目に突入する。

 幸か不幸か、盗人は森や茂みに入らず、平野を選んで進んでいるようだった。

 家畜を連れてるから、どうしても道を選ぶ必要があるのだろう。

 木々が邪魔になる事がないので、進むのはそれほど苦労しない。

 ただ、見晴らしが良いので、相手からも自分達の姿が見えるというのが欠点だった。

 救いは草が腰や胸に届くほど茂っている事。

 屈めば、姿を隠すくらいには生えている。

 なるべく早く相手を見つけ、こちらが発見される前に姿を隠せればどうにかなりそうだった。

 その逆もあり得る事だったが。

 周囲への警戒を怠らず、運を天に任せるしかない。

 先に見つかったら、ただひたすらに逃げるだけ。

 荷物の重さに体力を、周囲への注意に気力を奪われていく。



「しかし……」

 歩きながら木こりが不思議そうな声をあげる。

「どうしました?」

「いやな、跡は確かにこっちに向かってるんだが。

 これだとどんどん町や村から離れていってるんでな」

「でも、逃げるならそれでいいんじゃ」

「俺達の村から逃げるならな。

 でも、盗んでった家畜を売り払うなら、どこかの町に行かなきゃならん。

 なのに、盗人共はそんな町の無い方向に向かってる」

 言われてみれば確かにそうだった。

 測量などがしっかり行われてるわけではないので、探査されてない地域はかなりある。

 それでも、村の付近の町と盗人が進んでいく方向が逆なのは分かる。

 もしかしたら、トオル達の知らない町や村がこの先にあるのかもしれないが。

 それも考えづらい事だった。

 トオル達の村は、辺境という程でなくても、国の外側に近い所にある。

 そんな所で、足跡は国の外側へと向かっていっている。

 明確な国境があるわけではないが、人類の版図や勢力圏からは確実に外れていく。

 曖昧な境目の向こう側にあるのは、人類による別の国ではない。

 人の手が入らない野生と、人と対立するモンスターの世界だ。

 もしかしたら、そこに孤立した集落があるのかもしれない。

 知られてないだけで、そういった場所は存在するかもしれない。

 そういう所に家畜を連れて行くのか、とも考えられる。

(在るかどうか分からないけど)

 なにぶん、想像の話でしかない。

 ゼロとは言い切れない、でもあり得ないと言えるほど小さな確立の可能性である。

 もし家畜を売り払うなり、自分達で利用とするなら、そういった場所に連れて行くと考えた方が無難だった。



 残念ながら、その予想は外れる事となった。

 おそらく、もっと悪い形で。

「なんてこった……」

 木こりが絶望的な声を漏らす。

 それを責められる者はその場にはいなかった。

 本日も14:00に続きを投稿します。

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