レベル83-1 ようやく少し落ち着けそうと思っていたのですが
「回収、終わったか?」
「ばっちり」
「いつでも次に行けるよ」
「魔術の方は?」
「あと少し休めば……。
触媒は大丈夫です」
「それじゃ、もう一丁行くぞ」
応じる声があがってくる。
それを聞いて、柵に押し寄せる妖犬に向かっていく。
いつもと変わらず今日も、柵は悲鳴を上げている。
いくらか補強はしていても、十匹二十匹という数がのしかかってるのだから無理もない。
そんな聞き慣れた、でも決して慣れることのない音を聞きながら、トオル達は武器を手にして向かっていく。
新人育成で忙しかった時期も四月五月で終わりを見せた。
問題ない腕になっただろうと判断された新人達が、残った村へと旅立った。
向かった先での助言や後見などもあったが、問題とするほどの問題も起こらなかった。
領主の館に戻ってきたトオルは、妖犬退治に勤しむ事となった。
途中、六月に魔術師の修行に出た者達が帰ってきて、それらの受け入れもあった。
そんな彼らを連れてモンスター退治を行い、身につけた術の有効的な活用法を考えもした。
その二人を改めて村の方に送り出すまで一ヶ月。
各所に魔術師を一人ずつという贅沢な陣容になった。
辺鄙な…………と言うしかない片田舎でのモンスター退治。
それにしては贅沢すぎる戦力であった。
その二人がやってくるのと入れ替わるように起こったささやかな出来事もあった。
「もうちょっとしっかりと魔術を身につけたいので」
そう言うサツキが、神社での修行を申し出てきたのだ。
予想外の事に誰もが驚いた。
が、今後の戦力増強を考えれば悪い事ではない。
戦力の一時的な減退は避けられないが、トオルはサツキを送り出した。
元々魔術を身につけていたので、修行と言ってもそれほど長期間には及ばなかったのは助かった。
一ヶ月ほどで戻ってきたサツキは、新たに治療を身につけていた。
攻撃力の方は据え置きであるが、多少の怪我ならそれほど怖がる必要もなくなった。
魔術の使用回数を考えれば、やはり無理は出来ないが。
緊急時に怪我を瞬時に治せるのは大きな利点となる。
その事が、怪我を恐れず立ち向かっていく事になり、全体の戦闘力を上げていた。
心がけ一つで全てが変わるわけではないが、気持ち次第で動く何かもある。
レベルアップも当然発生してた。
日常的にモンスター倒していた者達は、概ねレベルが二つ上がっていた。
戦闘に回っていた者達は、当然ながら戦闘関連の技術が。
解体をしていた者達は、だいたいが解体の技術が上がっている。
ただ、幾つか例外的な事も発生していて、全員が同じように成長したとは言えない。
解体をしていた者達でも、その場における燻しをしていた者は「加工」の技術が上がっていた。
材料の数を数え、小屋に納めた物がどれくらいかを書き留めていた者は「管理」の技術を得ていた。
冒険者の登録証を持ってない者がどうなってるかは分からないが、そういった変化が発生していた。
その一方で、戦闘だけ行っていたサトシは槍の技術が更に上昇していた。
手槍という長さ一メートル半ほどの短めの槍を使い始めたレンは、「長柄武器」のレベルを得ていた。
トオルも同じく、弓の技術がレベル1に。
そして、当然というか何というか。
「運営/経営」という技術を新たにレベル1で身につけていた。
それぞれが相応の成長をしながら時間が過ぎ去り、村は再び収穫の季節を迎えようとしている。
昨年にも増して田畑の損害は減り、収穫量は確実に前年を超えると見込まれた。
新規の田畑の開墾までには至ってないが、モンスターが荒らさないだけでかなりの作物が生き残った。
その分だけで、かなりの余剰が発生していた。
トモノリの領内三つの村全てで。
もちろんまだ収穫をしてるわけではないからどうなるか分からない。
実際に収穫されるまでに何かが起こるかもしれない。
だが、ほとんどの者達は、今年の実りと収穫への期待を胸に抱いていた。
本日は、14:00に続きを投稿します。




