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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
日々の中で2

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行間小話4 需要と供給とささやかな貢献は利益につながっていきます

「今回も大量だな」

「そうでもないよ」

 小屋から素材を運び出しながら応える。

「今回はあまり退治出来なかったから。

 いつもよりは少ないよ」

「いやいや、こんだけあると運ぶのが大変だ」

 そう言いつつも行商人は不快な顔をしない。

 モンスターの素材はそれなりの値段で売れる。

 また、需要に対して供給が少ないので、在庫になるという事がほとんどない。

「本当に、どれだけ品薄なんだか」

 トオルとしても驚くしかなかった。

 基本的には魔術の触媒としてしか使い道がない。

 一部は、薬品(あるいは毒物や劇薬)などに用いられるらしいが、それほど用途が広いわけでもない。

 需要と供給を考えれば、これだけの量を売りさばいて値崩れが起こらないのが不思議であった。

 それに対して商人は、

「なに、まだまだこんなもんじゃ足りないよ」

と言ってくる。

「本当に?」

「ああ。

 薬草を作ってる所とかからな。

 あと、護符を作ったり、強化魔術をかける店からも『まだか、まだか』の合唱だ」

「ああ、そっか」

 言われて納得する。



 劇的な回復力を発揮する薬草には魔術がかけてある。

 傷口に塗ればすぐに回復をはじめるという驚きの効果がある。

 それも魔術によって効能が強化されてるからと聞いていた。

 それを作るために、触媒による魔術の強化は必要なのだろう。

 また、トオルは手にした事はなかったが、身を守るための護符(いわゆるお守り)にも魔術が用いられる。

 ほんの少しだけであるが、攻撃をはじき返したり、回避しやくすなる効果があるという。

 また、この世界ならではの商売に、魔術をかけるというものがある。

 防腐や防虫といったものから、防御力向上に命中や攻撃力向上などの戦闘に用いるものまで。

 そういった効能をもたらす魔術をかける事が商売として存在していた。

 そういった所では触媒が大量に必要になるのだろう。

 効果時間を長くするために、効力はかなり薄くなってるというが。

 それでも、あればやはり違うという事で結構需要があった。

 特に魔術師のいない冒険者の一団(つまりは、ほとんどの冒険者になる)は、町の外に出かける前にこういった所によるという。

 一回の魔術でおよそ一週間ほど効果が続くとか。

 とはいえ、トオルには(主に金銭的に)縁の無かった場所である。

 なので、そういう所で必要とされる、というのは考えてなかった。

(冒険者だけ、ってわけじゃないんだよな)

 あらためてこの世界における魔術というものを考える。

 ゲームの印象が強かったので、生活で魔術が用いられるという事を考える事がない。

 だが、実際には冒険者をやってるよりも、そういう所で魔術を用いてる者達の方が多いのだとか。



「となると、灯り屋とかも使ってるのかな」

「ああ、いつもウチで買っていってるよ」

 さもありなん、と思った。

 灯り屋は町で見かける一番身近な魔術商売であろう。

 文字通り、灯りの魔術を求める所に灯していく仕事である。

 トオルでも知ってるくらい一般的で、町中で何度も見た事がある。

 一定以上の規模だったり、裕福な町では珍しくもないとも聞いている。

 戦闘や治療などで活躍する事はないだろうが、こういった魔術を使う者の方が世間では多い。

 周旋屋でも、広間などの共用部分ではこういった魔術が用いられていた。

 蝋燭や油を用いたランプもあるが、それらよりも明るい光を提供するので、需要はある。

 それらも、触媒がある事で負担を減らす事が出来るのだろうと思った。

「あと、占い師もな」

 それもこの世界においては、一般的に見る魔術師の一つであった。

 それほどはっきりとした未来が見えるわけでもないらしいが、験を担ぎたい者達は助言を求めて訪れる。

 そういった者達が求めるならば、確かに触媒の数は常に足りないのだろう。

 この世界に魔術師が何人いるのか分からないが、術の負担を減らそうと思えば触媒は必需品だ。

 妖ネズミや妖犬では効果も高が知れているが、大量に使えば魔術の使用回数は格段に増えるのだろう。

(一日に、何百ってところかな?)

 町一つでそれくらい消費するなら、需要はかなりあると見込める。

 余ったら他の町に持っていけばいい。

 もし販路を拡大するならば、今採取してる量だけでは全然足りなくなる。

 行商人が「足りない」と言ったのも、事実だと思えてきた。



「そんじゃ、今週はこれだけか」

「うん、精算お願い」

 荷物を積み込んだ荷馬車が三台ほど並ぶ。

 通常の行商とは違う、素材の買い取りのためだけに行商人はやってきている。

 そのため、荷台にはモンスターの素材だけが積み込まれていた。

 三台全部が。

 これが今、週一回のペースで巡回している。

 そうしないと運びきれないのだ。

 しかも、素材はこれで全部ではない。

 行商人に卸す程の量ではないが、神社にも一部納品している。

 こちらもこちらで、護符や神事、何よりモンスターを退散させる結界に必要なのだという。

 魔術師育成の謝礼でもあった。

 それでも圧倒的に行商人に納入する量の方が多い。

「じゃあ、今回はこれくらいだな」

「はいはい」

 受け取った領収書には一百八十七銀貨と二千銅貨が記されていた。

 一週間の成果である。

 金額としてみれば凄まじい。

 だが、ここから税金が引かれ、全員で頭割りをすると、さして残るものではない。

 一人当たりの手取りは、四銀貨余りになってしまう。

 一週間で、である。

 七日で日割りにすると、五千七百銅貨くらいの稼ぎだった。

 週休一日でやってるので、稼働日数で割ればもう少し上がるが。

 それでも六千銅貨を上回るという程度である。

 それでも、この村で、領主の館で寝泊まりしてるから実質的な手取りは増える。

 一泊一千銅貨の宿泊料と、一食一千銅貨の食事。

 それが無いのは大きい。

 手にした収入が全て自分の物になる。

 おかげで、手にした金の半分が消える事がない。

 とはいえ、手に入れた金も村ではろくろく使う事も出来なかったが。

 何せ店がない。

 何を買うにしても、行商人に頼る事になってしまう。



「今度の店は、来週になるのかな」

「そうだな。

 また新しい物を持ってくるよ」

 素材の回収は週一回。

 商品を持ってきての販売は月一回。

 それがほぼ決まってきている。

 村の者達も購入しに来るが、基本的にはトオル達モンスター退治をしてる者の方が利用している。

 嗜好品の購入もあるが、それ以上に武器の手入れ道具や新しい装備を調達するためである。

 専門家ではないから大した手入れは出来ないが、こまめにやる事で最悪の事態を防げる。

 どうしようもないくらいガタガタになったものは、行商人に預けて町の鍛冶屋に修理してもらう事にもなる。

 その間の使う武器や防具を購入するのも、この行商人から行う。

 以前もそうであったが、最近の行商人はこのあたりの村の生命線になっていた。

「いっそ、ここで店を作ったら?」

「そうしたいけど、そこまで商売が出来るってわけでもないからな」

 行商人が来る度に、こんなやりとりが起こるようにもなっていた。

 必要な物はその都度手に入れるようにはしてるのだが、どうしても買い忘れが発生してしまう。

 消耗が激しい場合もあるし、緊急にどうしても欲しい、という事もある。

 そういった場合に、すぐに購入できない事も発生している。

 店があるからといって、常に在庫があるとは限らない。

 それでも、購入する場所であり、何かしら商品を揃えてる店が欲しいと思ってしまう。

「俺も、店を構えたいけどな」

「商売するには厳しいんでしょ。

 何度も聞いてるよ」

「だったら分かってくれよ。

 店に来てくれる人がもっと増えれば違ってくるけどな」

 収支を考えれば仕方ないのだろう。

「ま、今度来るときにいっぱい買ってくれ。

 注文されてる物も持ってくるから」

 素材の買い取りに来たついでに、行商人は欲しい物を聞いている。

 余分な物を持って来れない行商人だけに、商品の選別は重要だった。

 売れない物をもってきたら、荷台を無駄に占領されてしまう。

 そうならないように、確実に売れる物と売りきれる数を考えねばならなかった。

「そんじゃ、またな」

「うん、待ってるよ」

 馬車に乗り込んでいく行商人に声をかける。



「そうそう、最近このあたりは結構落ち着いてきたな」

「え?」

「前ほどモンスターを見なくなったよ。

 お前らが頑張ってるからかな?」

「さあ?

 そこまで数を減らしたとは思えないけど」

「いや、こんだけ倒してるだろうが」

 そう言って荷台の方に目を向けた。

 素材をおさめた大量の荷物がのっかっている。

「少しは影響してるんじゃないのか?」

「だったら良いけどね」

 さすがにそれは無いだろうと思った。

「ま、お前さん達ががんばってくれれば、その分俺達も安心出来る。

 素材もありがたいけど、安全な道も助かる。

 出来れば両方がんばってくれ」

 そう言って行商人は、荷馬車を走らせていった。

 見送るトオルは、

「まさかね……」

と言いながら見送った。

 そうであるなら、自分達でも何かが出来るんだ、と思いつつ。

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