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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
日々の中で2

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行間小話 サトシは兄貴を尊敬してるんです、これでも一応、たぶん

『こんなので大丈夫なのか?』

 最初にトオルを見た時に思った事である。

 年は上だろうが、サトシの兄や姉とさほど違いがあるとは思えなかった。

 それなのに、モンスター退治のためにやってきた。

 しかも一人で。

(出来るのかよ、本当に)

 そう思うのも無理はない。

 田畑に入り込んだ妖ネズミの退治のために、村の大人が何人も総掛かりになっていた。

 一匹を倒すために、数人で取り囲んで袋だたきにして。

 それでようやく一匹を倒している。

 強くもないので、取り囲めばすぐに倒せる、とは聞いていたけど。

 それでも何匹かが田畑に入ってくると、怪我人が何人か出た。

 その度に、用意していた治療薬を使う羽目になる。

 結構負担になっているのは、大人達が口にしてる言葉から何となく察していた。

 村にやってくる冒険者もこれまで何度か見てきた。

 そんな彼らも、たいていは数人ほどの一団であった。

 確かに村の者達よりは格段によい結果を出してくれていた。

 あぶなげなく妖ネズミを倒し、田畑の周囲から駆逐していってくれた。

 あくまで数人がかりで、である。

 たった一人でやってきた者などいなかった。

 余程強いのか、とも思うが。

 とてもそうは見えなかった。

(なんか、使えねー)

 第一印象は、本当にそんなものだった。



 変わったのは、視察をしていた時だった。

 突然出て来た妖ネズミ三匹。

 それをトオルが迎え討った時だった。

 取り囲んで倒すのが定石のモンスターが、一度に複数襲いかかってきた。

 終わった、と本気で思った。

 トオルはいるが、絶対に生きて帰れないと。

 だがトオルは、盾を構えて妖ネズミの突進を食い止めると、瞬く間にそれらを倒してしまった。

 格好が良いものではなかったが、それでも三匹を一気に倒した。

 他の二人共々、呆然としてしまった。

「あー、痛え……」

 そう言いながら、噛みつかれた足首に薬を塗っているが、情けないとは思わなかった。

 一人であれだけ相手をして、それだけで済んだのだ。

 村の者達では絶対に出来ない。

 今まで村に来た冒険者達だったら、もしかしたら出来たかもしれない。

 しかし、一人でやってる所など見た事はない。

 わざわざ一人で相手をする必要もないし、そんな不利な状況に自ら踏み込む理由もない。

 朧気ながらサトシにもそれは分かる。

 だが。

(スゲエ……)

 それでもサトシにそう思わせるのに十分な事を見せてくれた。

 評価は一気に変わった。



「俺もやりたい!」

 その日、帰ってから親にそう言った。

 何事かと思った両親は、サトシの希望を聞いて慌てていった。

「おい、いくらなんでも」

「危険よ」

 当たり前の事を言われた。

 だが、言われて引き下がるほど聞き分けの良い性格ではない。

 なんとか説得しようとする両親、更には兄や姉をも振り払い、ただひたすらに言いつのった。

「やりたい!」という一念を。

 話しはつかず、翌日村長の所にまで押しかける事となった。

 両親だけを相手にしては埒があかないと思って。

 そのせいで、村の者達にも知れ渡り、トオルまで引きずり出す事となった。

 結局はサトシの強情さが勝って、モンスター退治の戦闘にも参加する事になった。

 その時のサトシは、先日見たトオルのように自分も活躍する所を想像してやる気を出していた。



 実際にやってみると、何とも地味な作業になった。

 落とし穴に誘い込んで、そこを叩く。

 こんなんでモンスター退治と言えるのか、と思ったほどだ。

 しかし、実際にやってみると、これが難しい。

 柄の長い槍で突き刺すのだが、これがなかなか当たらない。

 逃げ場のない妖ネズミなのだが、狭い穴の中を結構動き回る。

 トオルは、屈んだ姿勢からマシェットを振りおろし、次々に始末しているのに。

「くそっ」

 ようやくとらえて突き刺すが、致命傷にはならない。

 そんな妖ネズミにトオルがとどめの一撃を下していった。



「もっと左右に振ってみたら」

 何度か妖ネズミを倒してからトオルが言ってきた。

「突き刺してもなかなか当たらないけど、横に振れば結構当てられるだろ。

 とどめはそれからでいいんじゃねえの?」

 言われて気づいた。

 確かにその通りだった。

 槍の穂先は基本突き刺すためにある。

 だから、前に繰り出す突きだけしか考えてなかった。

 しかし槍の大部分は長い柄である。

 その部分を左右に振り回せば打撃に用いる事が出来る。

 幾分簡単に攻撃を当てる事が出来る。

「うん、やってみるよ」

 いつもなら何かと屁理屈などを言い返すサトシであるが、この時は不思議なほど素直にそう言えた。



 実際、言われた通りにやってみれば、簡単に妖ネズミをとらえる事ができた。

 穴の中で左右に振り回し、妖ネズミを叩いていく。

 あるいは横に飛ばす。

 そうする事で動きが止まるので、そこを狙って突き刺していく。

 手間と時間はかかるが、それで確実に倒せるようになっていった。

 あるいはトオルの方に妖ネズミをはじき飛ばし、始末は任せる事もあった。

 その方が簡単に片付ける事が出来る。

 日頃は何かと張り合う性格ではあるが、こんな所でそんな事をするつもりにはなれなかった。

 そもそもトオルとは実力差がある。

 同じ土俵に立つ事もできない。

 それが悔しいとも思わないほど差を感じてもいた。



 その成果は行商人が来た時にあらわれた。

 売り払って得た金銭がサトシ達にも幾らか手渡された。

「いいの?」

「お前らも働いてたからな」

 手伝いという事で特に何かが貰えるわけではない。

 そう思っていたので、これには驚いた。

 今まで見た事もない金額だった事もあり、何がなんだか分からなくなる。

「…………ありがと」

 それだけ言うのが精一杯だった。



 それもあって…………というわけではないが。

 その後もモンスター退治に励んでいった。

 やっていくうちに色々と工夫するようになっていく。

 横に薙ぎ腹うだけではなく、叩いて動きを止めてから突き刺すようになったり。

 穂先を上手く使って手足を斬りつけてみたり。

 左右に振ってみたら、という言葉から始まった槍の使い方は、工夫が続けられていた。

 他にも、色々と気づく事もあった。

 腰の構えかた、槍を突き出すときの体の使い方、脇の閉め方、腕の伸ばし方。

 手の中での転がし方など。

 そういった事が、続けてくことで、自然と色々思い浮かんできた。

 どうすればもっと楽に出来るのかも。

「力んだりしないよう注意してやってみな」

 トオルのその言葉も大きかった。



 そうしてるうちに、一ヶ月が過ぎて、トオルが帰る日が近づいてくる。

 いつまでも村にいるわけではないとは分かっていたが、やはり寂しいものがあった。

 それに、トオルがいなくなれば、またいつもの日々に戻っていく。

(それもなあ……)

 一緒にモンスター退治をして、お金ももらって。

 それで何かしら考えるようになった。

 このまま村にいても、ただ家を手伝うだけになる。

 それを続けていって良いのかどうか。

 今まで無かった悩みを抱くようになった。

 やがて村を飛び出す事を考え、それを実行するまでおよそ一ヶ月。

 割と早いほうだと言えるかもしれない。

 今までいなかった目標となる存在。

 それがあった事が大きかった。



 そして今。

 新たに入ってきた新人達に、重要で大事で後回しにしてはいけない事を伝えている。



「いいか」

 集められた新人達は、真剣な顔をするサトシを見つめていた。

 食事が終わり、各自が部屋に戻ってからの事である。

 突如部屋にやってきたサトシに、

「今から俺の部屋に集まれ」

と言われて呼び集められた。

 何事かと思った新人達に、サトシは訓辞をたれていく。

「これからここでやってくにあたって、お前らに大事な事を言っておく」

 その言葉に、集まった者達は顔を引き締めた。

 わざわざこうして呼び集めたのだから、大事な事なのだろうと察している。

 サトシも新人達と違わぬ表情で口を開いていく。

「もう知ってると思うけど。

 うちにサツキさんとレンさんって女がいる。

 魔術師と戦士をやってる」

 全員頷いた。

 どちらも目を引く存在だった。

 サツキは珍しい魔術師だし、レンは女ながらも妖犬退治に参加してる戦士だ。

 そんな能力を持ってるというだけでも関心を持つのに十分である。

 何より……。

「美人だろ?」

 問いかけに新人達は再び頷いた。

 静的なサツキと、動的なレン。

 方向性は違うが、どちらも美人に分類される存在だ。

 審美眼がまともな野郎であれば、それだけで注目をするだろう。

 趣味趣向の問題を考えなければ。

「だからお前らに言っておく事がある」

「…………なんでしょう」

 怖いくらい真剣な表情と声のサトシに、新人の一人が訊ねた。

 サツキとレンに関わる話しだろうが、いったい何があるのだろうと思ってしまう。

 居合わせた新人達の誰もが同じように考えた。

 そんな彼らに、サトシは核心を話していく。



「あの二人は兄貴の女だ」



 聞いた瞬間、新人達の精神に衝撃が走った。

「お前らの中には、あの二人を狙ったり物にしようなんて考えてる奴もいるかもしれねえけど。

 そんな馬鹿な考えは捨てろ」

 張り詰めていた新人達の顔に絶望が浮かんでいく。

 そこまで思っていた者はほとんどいなかったが、サトシの言葉に希望が打ち砕かれたようだ。

「いいな、絶対に手を出すんじゃねえぞ」

 追い打ちの言葉が続く。

「もしそんな事をしたら……兄貴が許さない。

 それ以前に、俺が許さない」

 この一団でトップクラスの戦士でもある二人である。

 逆らう事は出来なかった。

「話しはそれだけだ。

 部屋に戻ってゆっくりしてくれ。

 明日もある」

 それで解散となった。

 落胆や絶望した新人達が、よろよろと立ち上がって部屋から出ていこうとする。

 その背中に、

「今の事は秘密にしておけ。

 外に漏らすような事じゃない」

 釘を刺すサトシの言葉が突き刺さった。



 一人部屋に残ったサトシは、拳を握りしめる。

「兄貴、俺は兄貴のために頑張るよ」

 決意をあらたにしていく。

 実際、サツキとレンがトオルとそんな関係であるわけではない。

 少なくともサトシの知る限りでは、そういった関係にあるわけではなさそうだった。

 しかし。

 そうしておいた方が面白くなりそうだと思っていた。

 少なくとも、からかって遊ぶ事が出来る。

 主にそれを理由にして、サトシはそういう設定を一団の内部に吹聴していた。

 トオルとサツキとレン以外に。

 こういう事は、本人達が気づいてしまうと面白くない。

 なので、話しが漏れないように注意をしていた。

 もちろん、いじくり、おちょくり、煽って楽しむためだけではない。

 嘘が本当になっていくならそれでも良かった。

 トオルは頼れる兄貴分である。

 そんな兄貴が幸せになるなら、それはそれで面白く遊べる…………ではなく、おめでたい事だと思ってもいた。

 この場合の「おめでたい」が「お祝いするにふさわしい事」という意味だけとは限らないのはどうかというところである。

 むしろ「からかって遊べる」という意味での「おめでたい」に近いかもしれない。

 しかし、サトシはサトシなりにトオルが幸せになれれば、とは思っていた。

 一応は。

 サツキとレンがトオルとくっついてくれるなら、それにこしたことはないとも。

「頑張ってくれよ、兄貴。

 俺も、頑張ってお膳立てするから」

 その言葉を聞いていた、同室で寝泊まりしているマサル達同郷の者も、ウンウンと頷いて同意していった。

 何かが大きく間違ってるのだが、それを気にせず────むしろ分かっていながら無視していた。

「がんばろうな」

「兄貴にはしっかりしてもらわないと」

「上手く嵌め込まないとね」

「気合い入れて陥れるぞ」

 同郷の五人は、敬愛してる(?)兄貴の幸せのために、あらためて誓いを新たにした。



 そして後日。

「サートーシー」

 青筋を浮かべた笑顔もまぶしいトオルに追求される事となる。

「誰が俺の女だって?」

「いや、あの、これはね、兄貴とそういう関係なんじゃないかなーって思って」

「ほおー」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」



 その日、マシェットを手に追いかけるトオルと、必死になって逃げるサトシの鬼ごっこが始まった。

 心温まる光景を、居合わせた一団の者達が生暖かく見つめていた。



 なお、サツキは真っ赤になって。

 レンは呆れたため息を吐いて。

 そんなドタバタ劇のもたらす効果音や絶叫を聞いていた。

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