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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その4 上に立つ者になっちゃったかもしれない気がする日々
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レベル80 かつて自分が通った道を他の者がたどってるのを見ると感じるものがあったりします

「…………」

 手に取った登録証で自分の能力を確かめている。

 帰りの馬車の中、そんな新人達を見て、昔の自分を思い出す。

 おそらく、傍目にはこんな感じだったのだろうと思いながら。

(もう四年、いや五年前だっけか?)

 登録した日すらうろ覚えになっている。

 そうそう思い出すような事でもないのでどうにも日取りが曖昧になってしまう。

 自分の能力が数字として浮かび上がったところははっきりとおぼえてるのだが。

 そこが一番印象が強かったのだろうとあらためて思った。



 領主の兵士として用いられた者達。

 周旋屋に登録して冒険者となった者達。

 どちらも新たな一歩を踏み出してるのは確かである。

 そんな彼らによって、モンスター退治が拡大されていく。

 本来ならば領主の任務の一つではある。

 領地の保全と防衛もまた、統治する者の仕事なのだから。

 実際にそれを行える所はさほど多くもないが。

 どうしてもかかってしまう費用が、やらねばならない仕事を躊躇わせる。

 単に兵士を抱えるだけでも負担は大きい。

 怪我でもしたら、その手当のために出費を強いられる。

 そんな事もあって、戦うために存在するはずの兵士を温存する。

 そんな矛盾があちこちで発生してた。

 治療が使える魔術師を抱えてる所なら、今少し積極的にはなるが。

 それでも実際に行動に移る事はなかなかないと聞く。

 一般的に言われるモンスター退治が、そう簡単なものではないというのが大きな理由だった。

 手間がかかるし、負傷もつきもの。

 それでいて、手に入る見返りは少ない。

 わざわざそこに貴重な兵士を投入しようと考える領主はいない。

 養った兵力は、ここぞという時に用いようとしてしまう。

 代わりに用いられるのが、冒険者となっていく。

 普通ならば。



 やり方を改善出来た事で、危険を減らす事ができた。

 倒せるモンスターの数も増加し、その分作物などへの被害を減らせる。

 あちこちを巡って、という機動力はないが、一カ所にモンスターを集める事でその代わりとする。

 これだけで全てに対処しきれるわけではない。

 むしろ、対応できない事の方が多いだろう。

 ただ、

『誰でも実行できうる』

というのが大きかった。

 妖ネズミが相手でも、何匹かが襲いかかってきたら一人では対処しきれない。

 死にはしないまでも怪我は避けられない。

 そういった危険を避けるやり方は、確実に何かを変えていった。



 村に派遣されるのは八人。

 戦闘と解体がそれぞれ四人。

 戦闘の方は、今回兵士になった者達が赴く。

 解体の方は兵士ではないが、領主の奉公人という形で扱われる事になった。

 これに、トオルを含めた四人が二週間ほど付きそう事になる。

 村の状況を見て、おびき寄せる場所を決め、そこにいつも通りに穴を掘って柵を設ける。

 それから戦闘を派遣する者達だけでこなせるかを見極める。

 戦闘だけでなく、それ以外の部分でもちゃんと動けてるかどうかを。

 効率よくモンスターを倒していけるか。

 倒したモンスターの処理を手早く出来るか。

 重要なのはそこだった。

(何ヶ月もやってきたから大丈夫だと思うけど)

 それでも、指示の通りに動くのと、自分で考えて動くのでは違う。

 言われるがままに動く中で、何をどうすればいいのか理解はしてるはずだったが。

(あとは実際に自分で動いて考えていくしかないからなあ……)

 教えたくても教えられない部分も出てくる。

 そこは自分で見つけていくしかないところだった。

 ただ、戸惑った時に助言を与えられれば、悩みに費やす時間を減らす事もできる。

 トオル達が付き添うのはそのためである。

 そうでなくても、自分達だけでやる事に新人達も不安を感じている。

 自分の裁量で動ける自由は誰もが憧れるが、実際にそうなると恐怖すらおぼえる。

 ────果たして上手くやれるのか?

 ────やり方はこれで良いのか?

 そういった疑問が押し寄せてきて、右往左往してしまう。

 よほど剛胆か、とんでもなく無責任でもなければ、恐れおののくのが普通と言えた。



 出発の日の新人はまさにそんな調子だった。

 一緒に行く仲間と緊張した顔を見合わせている。

 声も少なく、所在なさそうにうろついている。

 今まで通りの事を別の場所でやればいいとは分かっているはずだった。

 それでも自分達でやっていかねばならない事に重圧を感じているのだろう。

(しょうがないか、こればっかりは)

 気持ちは分からないでもない。

 それでも尻込みしてるわけにはいかない。

 頃合いを見て、一同のリーダー役の方へと歩いていく。

「そろそろ行こうぜ」

「あ、はい」

 硬い……を通り越して、青ざめてるように見える顔をしながらの返事がくる。

 この中では一番適任だろうと思って選んだ男である。

 年齢が一番上で、それなりに元気だから、という程度ではあるが。

 それでも、これからここに居る者を引っ張っていく事になる。

 出発の前の声かけは彼がやらねばならない。

 ちょっとした事であっても、先導していかねばならない。

 そういう所を他の者にも見せていかねばならない。

 トオルがやるわけにはいかないのだ。

 事前にそういった事を伝えているので、新たにリーダーとしてやっていく彼も他の仲間の方に向かっていく。

 背を伸ばし、息を吸いこみ、仲間を見渡す。

「それじゃ……」

 何とか出した声は幾分小さかった。

 七人の仲間(とトオル達四人)に行き渡ったとは言い難い。

 だが、そこで気がついたのか、そこからは大きく声をあげていった。

「行こう!」

 裏返る直前のような声である。

 やけ気味なのか、若干怒鳴ってるようにも聞こえた。

 調子が外れてると言ってよい。

 リーダーは顔を赤くしていく。

 それを見ていた他の者達は、だが少し緊張がほぐれたのか、ほっとした表情を浮かべていった。

「そんなに気負うなって」

「いつも通りにいこうぜ」

 上下関係を考えれば、なれなれしいと言える言葉を仲間があげていく。

 しかし、まだ確固たる序列が出来上がってないこの一同の中ではその方が上手くいったようだ。

「……それもそうだな」

 リーダー役の男も、それでようやく硬さが抜ける。

 雰囲気が一気に変わる。

 まだ先々への不安はあるだろうが、表情が明るく、動きが軽くなっていった。

 村へと向かって歩いていく一同を見て、トオルも少し肩をなで下ろした。



 村に到着してからもそれは続き、作業はそれなりに進んでいった。

 基本、トオル達は付き添ってはいるが、口を出したりはしない。

 ある程度自分で考えて行動してみろと言ってある。

 おびき寄せる陣地をどこに作るかという所からはじまり、どういう形で、誰が何をやるかも決めさせる。

 時間をかける事が出来ればいいのだろうが、そうもいかない。

 遅くとも三日で準備を済ませてモンスター退治を開始しなければならない。

 村人達は一分一秒でも早くモンスター退治が始まる事を望んでいる。

 そんな彼らを無視は出来ない。

 村の周囲を歩いて場所を決め、それから穴掘りを始める。

 柵の準備まで手が回らないが、そちらはおいおい構築していく事となる。

 村人もそれくらいの手伝いはすると話しはついている。

 とりあえず必要になるいくつかの穴を掘って、最低限の準備だけは済ませておいた。

 後は実際にやってみるしかない。



 やり始めてみると、やはり連携が上手くとれてないのが目についた。

 傍にはいるが、参加はしないでいるトオルにはそれがよく分かる。

(倒した妖ネズミの回収と、次の穴に行くまでのつなぎがまずいな)

 どうしても行き当たりばったりになってしまう場面が何度かあった。

 妖ネズミが入り込んでる穴に全員が群がってしまう事で、それ以外の穴がおろそかになる事も。

 解体も解体で、倒した妖ネズミの並べ方がまずく、順序よく捌いていく事が出来ない。

 破棄すべき死骸がたまってしまう事もあった。

 一番問題なのは、並んだ死骸が回収に向かう大八車を通行止めにしてしまう事だった。

 忙しくてそれどころではないのだろうが、やはり拙さが見える。

「ちょっとまずいっすね」

 同行していた者もそんな事を言う。

「新人だけでやるってのは初めてだしな」

 事前に妖ネズミ相手に彼らだけでやらせたが、それをまだ活かせてないようだった。

「でも、がんばってもらおう。

 この先、あいつらだけでやるんだ。

 何が悪いのかも自分で気づけるようになっていかないと」

 指示を出したい、手伝いにも行きたいと思う。

 そうすれば、今この場はどうにかなる。

 でも、この先の彼らの為にならない。

「…………じれったいなあ」

 歯がゆいとも思う。

 ああすれば、こうすれば、という考えが次々に出てくるが、それを実行出来ない。

 ただただ見守るだけに終始する。

 それでもこの日の採取量は五百匹分は越えた。

 決して悪い数ではない。

 だが、満足してよい数でもなかった。



「色々と駄目だったけど、それは皆も分かってると思う」

 仕事が終わって片付けも終わって。

 食事も終わった後に、トオルは皆を集めていた。

 今日の動き方などから見えた事などを伝え、明日の改善につなげるための会議であった。

「まあ、何が悪いかもある程度は分かってるだろうけど。

 あらためて言っていくぞ」

 そう言いながら、机の上に紙を敷き、その上に木製の駒を置いていく。

 丸い、硬貨より若干大きめのものだ。

 それを新人達に見立て、紙の上で動かしていく。

「ここで全員が動いたから、こっち側ががら空きになってた。

 こういう時は、一人残った方がいいから」

 そんな調子で、気づいた事を次々に語っていく。

 聞いてる方も、自分達の何がまずかったのかがわかり、「ああ」「そっか」と声があがっていく。

 そんな事が二十分ほど続き、ひとまず説明は終わる。

「あとはどうするか、自分達で考えてみろ」

 紙と駒をその場に置いて、後ろに下がる。

 机を囲んでいた者達は、暫くはじっとそれを見ていた。

 何を言おうか迷ってるのだろう。

 また、何か思いついたり考えたりしても、声をあげにくいのだろう。

 気まずい沈黙が暫く続く。

 が、意を決したリーダーが、駒に手をのばす。

「今日の昼前、確かこんな感じで皆が動いてたと思うんだけど……」

 言いながら駒を動かしていく。

「こういう場合は、こうした方がいいんじゃないかな」

「ああ」

「うん、まあ」

「でも、ここはこうだったし」

 それを皮切りに、全員が少しずつ声を出していく。

 おっかなびっくりではあったが、新人達は思うところを口にして、駒を動かしていった。

(まあ、こんなもんか)

 まだまだ遠慮がある。

 色々とぎこちない。

 けど、少しだけ何かを言える、伝える、聞けるようにはなってくれた。

 トオルの下で同じ事をしていた、同じ一団にいたのは確かである。

 それでも、新たに独立して一団を形成するとなると、今まで通りとは言えない部分も出てくる。

 完全にまっさらではないが、新しく組み直していかねばならない事も出て来る。

 モンスター退治も、そこでの声のかけ方も、手順の見直しも。

 朝の挨拶すら、今までとは少しだけ違った気分でやらねばならないかもしれない。

 どうしても上手くいかない事をちょっとずつこなしていく。

 そうやって新しい一団になっていく真っ最中なのだろう。

 その中に入ってないトオルには、そこに口を出す事はできない。

 やってはいけない。

(がんばれよ)

 胸の中で、そんな風に応援するくらいである。

 何か言おうとする付き添いの者達を制止しながら。

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