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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その4 上に立つ者になっちゃったかもしれない気がする日々
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レベル74 威勢がよいというのが美点というわけではありません

「馬鹿モン!」

 怒鳴り声と共に拳が飛んだ。

 当たった瞬間にトオルも少しだけ飛んだ。

 土を耕し続けた男の拳は、意外なほど重かった。

 日常的に体を動かし続けるというのは、とんでもない鍛錬になるんだなと体で実感する。

 父親からの一撃でそんな事を感じつつ、それでもトオルは踏ん張った。

 以前なら吹っ飛ばされていただろうが。

 日常的なモンスター退治もまた、体を鍛え上げているんだと感じた。

 面談などが一通り終わってから実家に戻ったトオルへの、これが出迎えの挨拶になってしまった。



 出身地への帰省を果たしたトオル達は、まず村長の家に。

 それから希望者との面談を果たしていった。

 事前に連絡を入れていたので、希望者との話し合いは割とすんなりと進んでいった。

 とはいえ見知った顔なじみがほとんどである。

 そんな者達なので、選抜自体はそれなりに目処がたっていた。

 事前に希望者が誰なのか分かっていたのも大きい。

 チトセとアツシにも話しを聞いておいた。

 トオルが村を出た頃はまだ子供だった者達についての情報も、そこから入手している。

 村の問題児についても。

 可能な限り最良の選択をするために色々と聞き出している。

 出来るかぎりまともな者を選び、問題のある人間を排除するために。

 村からも、希望者の一覧を出させている。

 それを確認しながら、誰がいいかをある程度は絞っていた。

 それでも実際に会わなければ分からない事もある。

 村までわざわざやってきてるのはその為だった。



 しかし、面談はそれほど時間をかけずに終わった。

 事前情報がしっかりしてたのが大きい。

 一覧にあった名前に知ってる者がいたのも有利に働いた。

 村長の家で行われた面談も、実際に幾つか質問をし、覚悟を確かめる事でどうにかなった。

 とりあえずは問答を。

 何をやるのか、どうしていくのかを説明し、モンスターの手強さを教えていく。

 それだけでは伝わらない事、特にモンスターとの衝突については多少の実体験で。

 棒や杖を用いての打ち合うという分かりやすい手段で行った。

 多少腕におぼえのある、喧嘩に自信のある者達はこぞって挑みかかってきた。

 トオルも容赦はしなかった。

 どのくらい危険なのか、どの程度の腕をもっていてもらいたいのか。

 実際にやってみる事で、握った棒を打ち合わせる事で多少は理解してもらいたかった。

 これくらいの腕が必要になる仕事だと。

 効果はあったようで、トオルの繰り出す一撃の早さと重さに、手合わせした全員が唖然とする。

 握った獲物を落としてしまう者、伝わった衝撃に腕が動かなくなった者。

 それを一撃だけでやってのけた事もあって、実力差を思い知ったようである。



 図らずもそれで、腕に自信のあった連中の鼻っ柱を叩き折る事にもなった。

 面白い事に、そうなった者達のほとんどは、事前に目をつけていた者達だった。

 面談の時から話しをまともに聞く気が見られない連中だった。

 それが、手合わせが終わると妙に素直にトオルの話しを聞くようになった。

 ついでに、サトシやレンにも同じように相手をしてもらった。

 すぐにそれと分かるくらいに、舐めた態度をとり始めた。

 トオルとやりあった直後であるが、そこから何も学習してないようだった。

 二人もモンスター退治を続けてきたという事実を。

 相手が同年代だったり年下であったり、女である事から見くびっていたのだろう。

 馬鹿だ、と心底思った。

 二人もまたモンスターを相手にしてきた者である事に考えがおよばないようだった。

 すぐにそういった連中は、自分達がとんでもなく間違った考えをしてる事を理解してくれたが。

 体と頭の両方で。 

 そこでようやく実力差をしっかりと認識してくれたようだった。

 特にレンとの手合わせは効果が大きかった。

 相手が女と舐めてかかった彼らは痛い目を見る事となった。

 極めつけはサツキによる魔術である。

 いつもの眠りの魔術ではなく、体の動きを束縛したり鈍らせるものを使ってもらった。

 直接怪我を負うようなものではないので、人間相手に使っても害はない。

 それでいて効果や効能がはっきり分かる。

 サツキとレンに不躾な目を向けていた連中は、以後機嫌を損なわないように注意をするようになる。

 とはいえ、トオルはそういった連中を採用するつもりはなかった。



 多少喧嘩に自信はあるのだろうが、態度が悪い。

 こういう連中を組み込めば、無用な軋轢を生む。

 もとより目をつけていた連中であるが、実際に向かい合った事ではっきりと分かった。

 これは駄目だと。

 手合わせしてから態度を変えた事も気にくわない。

 ふざけた態度をとるのが良いとは思わないが、それならそれで一貫させないのも腹が立つ。

 相手によって態度を変えるくらいなら、最初からふざけた態度をとらなければよい。

 また、トオル達への態度を変えたという事は、他の者達には今までどおりという事であろう。

 強い者にはへつらい、弱い者には横柄になる────それが見え見えである。

 仲間にするつもりには全くなれなかった。

 威張ったり、傍若無人に振る舞うのが良いわけではない。

 それでも、それをモンスターや格上の相手にも貫き通せるなら、戦闘で臆す事もないだろう。

 手合わせした後の態度を見るかぎり、それも期待出来ない。

 これでは役に立つとはとても思えなかった。

 協調性も期待出来ないので、解体などの作業に回す事もできない。

 使い道が全く無かった。



(むしろこっちの方がまだマシか)

 希望者の中にいた他の者達。

 そちらの方がまだ期待を持てた。

 才能や素質を感じたわけではない。

 手習い(習字や計算程度であるが)で特別好成績というわけでもない。

 田畑の手伝いや細々とした作業が得意という事もない。

(でも、真面目そうだしな)

 話しに耳を傾けていた。

 棒を打ち合わせての手合わせでも、退く事がなかった。

 トオルと一緒に来ている仲間とも話しが出来た。

 粋がってた連中よりも人間としての芯が通ってるように感じられた。

 村にいた頃の記憶の中にはそれほど印象強く残っていない。

 チトセとアツシの話しにも出てこない。

 それだけ地味というか、取り立てて目立たない存在なのだろう。

 だが、こうしてあらためて向かいあってみると、今まで意識してなかった部分が見えてくる。

 トオルの見方が変わったのだろう。

 モンスターを相手にする場合に必要な素養が何なのか。

 それを基準に相手を見る事が出来る。

(こいつらだな)

 連れて行きたい者は決まった。

 あとは本人の気持ち次第である。



 選抜が終わり、希望者には帰ってもらった。

 あとは村長に、連れていきたい者を伝え、家族に話しを通してもらう事にした。

 トオル達が直接声をかけるより、その方が面倒がなくて良い。

 決定事項で村長を通さなければ、村長を蔑ろにしたととられかねない。

 本人や家族に直接言うのも、余所者相手の警戒心を抱かれかねない。

 トオルがこの村の出身である事も、こういった場合には意味が無い。

 村を飛び出した事もあり、今や外部の人間と見なされている。

 少なくとも仕事についてはそう見られている。

 そこを無視しても余計な面倒が増えるだけだった。

 その一方で、決まり事を守れば話はすんなりと通っていく。

 不文律として存在するしきたりには、そういった効能もあった。

 おかげでトオルは仕事から解放され、久々の実家に向かう事が出来た。

 そして、拳骨をもらって痛い思いをする事にもなった。

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