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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その4 上に立つ者になっちゃったかもしれない気がする日々
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レベル71 手強いモンスター相手だから成長の成果がよく分かります

「来た!」

 アツシが声をあげる。

 全員の目がそちらに向かった。

「どこだ」

「あそこ!」

 誰かが指し示す先に、確かに妖犬がいた。

「五匹か?」

「たぶん、それくらい」

 緊張が高まっていく。

「全員、持ち場につけ」

 トオルも指示を出すが、反応は遅れてしまう。

 作り上げた陣地の中、最初に決めた持ち場についてはくれたが。

(やっぱ、最初はこんなもんか)

 妖ネズミの時もそうだった。

 慣れれば苦労する事無く倒していけるが、最初はどうしても緊張してしまう。

 それでも、トオルをはじめとする慣れてる者達がいるから、そんな者達を補える。

 ここには、今そんな人間がいない。

 一番経験のあるトオルとて、妖犬相手は慣れてるわけではない。

 備えは作ってあるが、それがどれだけ役立つかは分からない。

 ただ、それらが役に立つと信じるしかなかった。



 突進してくる妖犬は、全部で五匹だった。

 それが、四角く囲われた陣地へと向かってくる。

 大型犬ほどの巨体は、幅二メートル、深さは五十センチほどの溝にまず入り込む。

 妖ネズミと違って、それで動きが妨げられるわけではない。

 だが、溝の縁に沿って作られた柵が突撃を止める。

 溝の深さと柵の高さがあいまって、妖犬も中には入り込めない。

 巨体による突進をしようにも、段差が邪魔をして思うようにいかない。

 それでも頭から突進してくるが、柵はそれを受け止める。

 丸太の杭を地面に打ち込んで柱にした柵である。

 妖犬の巨体であっても、突進の勢いがなければそうそう倒れはしない。

 やむなくなのだろうが、丸太の横棒の間から頭を突っ込んでくる。

 口を開いて中にいる者を噛もうとするが、それもままならない。

 当然ながら、中にまでは入ってこれない。

 柵には隙間はあるが、妖犬が入り込めるほどの大きさはない。

 そうやって突き出した頭めがけて、トオル達が刃を振るっていく。



「頭を狙え!」

 噛みつかれる危険はあったが、動きが制限されている。

 狙いはかなりつけやすくなっている。

 その頭に、トオルはマシェットを振りおろした。

 刃は難なく頭に吸いこまれ、衝撃が腕に伝わってくる。

 だが、妖犬の頭蓋骨で止まる事無く、それは頭をかち割り、顎の下へと抜けていった。

「…………え?」

 予想すらしたなかったが、マシェットは妖犬の頭を粉砕し、貫通していった。

 さしものモンスターも、少しの間だけのたうちまわったが、絶命していく。

「嘘だろ……?」

 自分のしたことだが信じられなかった。

 以前相手にした時は、もっと手間どったのだが。

 レベルが上がった成果なのだろうかと考えこみそうになった。

(っと、それどころじゃない)

 すぐに、他の者達の事を思い出して周りを見渡す。

 トオルの声に応じて、仲間も次々と刃を振りおろしていたようで、妖犬のほとんどが頭から血を流していた。

 さすがに一撃で仕留めるという事はなかったようだが、レンとアツシは手際よく妖犬を片付けていっている。

 新人二人はさすがに手こずっているが、二人がかりで相手にしてるのでどうにかなっていた。

 残った一匹は、中に入りこもうと柵の隙間に巨体をねじ込んでくる。

 ギシギシと嫌な音が鳴っていた。

 その妖犬に向かっていったトオルは、振りあげたマシェットを頭に打ち込んでいく。

 今度も狙い通りに頭に打ち込まれ、そのまま粉砕していく。

 二度にわたって同じ結果が出た事に驚いてしまう。

 柵にもたれかかるように倒れていく妖犬を見ながら、トオルは手にしたマシェットを見る。

「どうなってんだ?」

 使い慣れた道具のもたらした予想以上の結果に、疑問の声を上げてしまった。



 レベルアップの効果と言うしかないだろう。

 狙い通りに打ち込めるようになっただけでなく、威力も上がっているようだった。

 マシェットをどう扱えばよいのか、どうやったら素早く繰り出せるのか。

 どうした時に最大の威力が出せるのか。

 それらが直観的に分かる。

 頭で考えて到達した、というのとは違う気がした。

 漠然とこうした方がいい、という思いつきが先にある。

 頭はその思いつきや漠然としたものを、筋道立てて整理してるような気がする。

 ともあれ、トオルが一撃で妖犬を倒したのは事実である。

 どうやってやったかは分からなくても、体は確かにそう動いている。

 それが出来るだけの所まで到達できた。

 まだ受け入れられずに戸惑っているが。



 驚いてばかりもいられない。

 倒した妖犬を中に引きずり込んで解体をしていかねばならない。

 大きく重い巨体を引きずって中に持ち込み、解体をまかせていく。

 手慣れたもので、妖犬は必要になる素材部分だけをどんどん切り取られていった。

 抜き取られた死骸も、空いてる大八車に乗せられていく。

 あとで死骸を外に持って行く時のための準備だった。

 そうしてる間にも次の妖犬がやってくる。

 妖ネズミの時と同じで、一度獲物や餌に気づくとあちこちから接近してくるようだった。

 次々に迫る妖犬の対処にすぐに忙殺されるようになる。

「まず右側からやるぞ。

 それ以外の固まってる奴らは魔術で眠らせてくれ」

「はいよ!」

「分かりました」

 状況を見てトオルが指示を出していく。

 堀と言うほどでもない溝と、丸太で作った柵の簡素な陣地。

 そこに十匹二十匹という妖犬が襲いかかるようになっていく。



 思った以上に簡単に倒せていく。

 それでも、やはり妖ネズミよりは手こずる。

 大きさも体力も違うので、トオル以外の者が一撃で倒すのは難しそうだった。

 レンはやはり力が足りないので、一撃で倒すというわけにはいかない。

 アツシもまだ子供と言ってよい年齢なので、体が出来上がってない。

 新人達はそもそものレベルが足りないので、どうしても手こずってしまう。

 妖ネズミ相手なら一撃で仕留める事ができるが、妖犬だとそうはいかないようだった。

 次々に襲いかかってくるから、対応も遅れがちになっていく。

 サツキの魔術で妖犬を行動不能に出来なかったらどうなっていた事か。

 広範囲に渡る『安息の闇』はここでも役に立っていた。

 他にもいくつかの魔術を使えるが、使う頻度はこれが一番だった。

 最も基本的で効果範囲も広く、消耗も少ない。

 それでいて、相手を行動不能に出来る。

 眠りに落ちるだけなので、ちょっとした衝撃や、物音などで目を覚ましてしまうが。

 それでも、一時的とはいえ妖犬の攻勢を止める事が出来るのはありがたかった。

 ほんの少しの余裕が生まれるだけだが、その間に目の前のモンスターに集中出来る。

 全ての方面に気を配る必要がないだけでも楽が出来る。

 素材の消耗は痛かったが、今回もそれを上回る成果をもたらしてくれている。



 今まで使う機会の無かった弓も活躍しはじめていた。

 四角く柵で仕切った陣地は、一辺がおよそ二十メートルほどある。

 そのほとんどから妖犬はやってくる。

 足を使って動いてるだけでは対処しきれない。

 弓はその点で便利だった。

 十メートルや二十メートル離れた所を狙う必要もない。

 少しばかり移動して、五メートルほどまで接近したところで矢を放てばよい。

 それくらい近づけば矢を外す事もほとんどない。

 移動距離を減らし、体力の消耗をおさえる事が出来る。

 動きが妨げられてるから出来る事だった。

 柵にのしかかってくる妖犬は、動きのない的とほとんど同じである。

 レンもそれならばと投石器を使い始めた。

 矢ほどの威力はないが、それでも頭にあたれば衝撃を与えられる。

 致命傷にはならなくても、怯ますことは出来た。

 新人達もそこを狙って攻撃をしかければ、手間をかけずに倒す事が出来た。

 購入してから随分経ったが、ようやく弓を活用できた。

 捨てずに持っていて良かったと、トオルは心から思った。



 手間がかかるのは死骸の処理だった。

 やはり頃合いを見て外に持って行くのだが、それを見極めるのが難しい。

 妖犬がひっきりなしにやってくるので、それをどうにかしないと外に出られない。

 仕方ないので、餌である妖ネズミの死骸を柵の外に投げ飛ばす事となった。

 妖犬がそれを追いかけ、咥えてどこかに去っていくのを待って、解体した後の死骸を外に持っていった。

 これもすぐ近くに捨てる訳にもいかなかったので、ある程度離れた所に持っていって捨てた。

 それが終わると、餌の補充に妖ネズミを相手にしてる所に向かう。

 餌と、触媒として使う素材を補充してまた戻る。

 一時間に一回くらいの間隔でそれを繰り返した。



 もたついた時もあったが、初日はまずまずの成果をあげる事が出来た。

 倒した妖犬は六百二十二匹。

 妖ネズミより数は落ちるが、予想を上回る成果だった。

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