レベル69 始めてみると、当初の予定より手間も金も人手も必要なのが分かってきます
図面を巡って出て来た考えは、一応は目処をつける事が出来た。
それを実現させるにあたって、自分達だけではどうしようも無い事も分かってきた。
モンスター相手の備えであるが、相手は妖ネズミではない。
弱い部類に分類されてはいるが、妖ネズミよりは強い。
そんなのを相手にする事になるる
今までより頑丈な造りのものを用意しておかねばならない。
それを作るためには、それなりの技術が必要となる。
「それで俺なのか」
「そういう事です」
呆れてるような下男の声に、トオルは恐縮する。
「まあ、確かにちょっと手間がかかりそうだな」
渡された図面(と言うには杜撰であるが)を見ながら下男は考えこむ。
「これでいくとなると、しっかりと作らないとまずいな」
「ええ。
だから製作に協力してもらえないかと」
「してやってもいいが、時間はかかるぞ」
「分かってます。
今やってる作業が落ち着いてからでいいんで」
「そうだな。
でも、材料がないとどうにもならんぞ。
「廃材とかじゃ駄目ですかね」
「それでもかまわんが、足りるかな」
図面を見ながら下男が考え込む。
「とりあえず、今ある物でやってみるが。
間に合わなかったら、材料を買うしかないな」
「そうですか……」
出費が増えるとなると、頭が痛い。
もちろん、一団の経費として必要な物を購入しようとは思っている。
しかし、それもさほど多いわけではない。
素材の売却利益から幾らかは徴収している。
なるべく皆の手取りを多くしようとしてるので、それほど多くを手にしてるわけではない。
材料費がどれだけかかるか分からないが、間に合うかどうかは悩ましい。
「あと、人手が必要になる。
何人かこっちによこしてくれ」
「……そんなに人が足りないんですか?」
「まだそんなに余裕が無いからな。
大きな作業は粗方終わってるけど、細かい所がね」
何にせよ、人手を割かねばならないようではある。
(こりゃ、しばらく収入は減るな)
他の皆にも伝えておく必要があった。
さすがに仲間からの不安や不満が上がってくる。
寝床と食べる物は出されているが、手取りが減るのはやはり辛いらしい。
トオルもそれは同じなので気持ちは分かる。
修行で一時的に抜ける二人の分。
新たに受け入れる新人達の負担。
そこに加えて、新たに始めるモンスター退治の準備。
これらの全てが投資であるのは確かだが、そのために全員に負担を強いてるのは確かだった。
どれか一つだけに絞っておけば、もう少し楽にはなるだろう。
そうしたい所ではある。
だが、どれか一つに絞れば、他がその分遅れる。
遅れれば、結果が出るのがそれだけ先延ばしになる。
辛いだろうが、ここで一気にやっておきたかった。
(魔術が、半年……だいたい六ヶ月。
新人がまともに動けるようになるまで、一ヶ月から二ヶ月。
妖犬を相手にする準備に、最大でも一ヶ月ってところかな)
トオルはだいたいそんなもんだと考えていた。
妖犬を相手にするようになれば、収入はもう少しだけ増える。
新人が妖ネズミを相手に出来るようになれば、更に安定する。
そこまで、最大でも二ヶ月。
そうであるなら、半年ほどかかると言われてる魔術の修行を支える事も出来る。
あくまで予想でしかない考えだ。
そう上手くいくとは限らない。
そもそも、もっとも負担が重なる最初の一ヶ月を上手くやりすごせるかも分からない。
仮にそこを越えたとして、妖犬を簡単に片付けられるかどうか。
修行に出す予定の二人を支えていけるかも分からない。
宛のない、無謀な賭けに等しい計画である。
(でもなあ……)
やらないとは今更言えない。
もう既に色々動いてしまっている。
止められない事はないが、止めた場合に発生する各所への負担も馬鹿にならない。
何より、トオルへの信頼や評価が下がる可能性が高い。
今のトオルに、そんな危険をおかす勇気はなかった。
(やるしかねえよなあ)
不安はあるが、やっていくしかない。
綱渡りのようなあやうさを感じはするが、渡りきった先にはそれなりの成果があると信じて。
無駄に終わるかもしれない。
それどころか損失になるかもしれない。
そう思うも、やらねばこの先は無い。
(妖犬相手の備えに何人出すかな)
現実的に必要になる事だけを考えていく。
失敗した結果を考えて後悔を先取りしてる場合ではない。
まだ構想段階であり、何も始まってすらいないのだから。
それでも自分に言い聞かせる。
これは投資だと。
稼ぎの幾らかを割いて今後の発展に支払う。
研究開発や事前調査の類であると。
言い訳じみているのは確かだが、それも理由である。
無駄に終わる事も多い、それでもやらなければ先が開けないもの。
博打に似ているが決定的に違う何かであると。
そう理解してるのはトオルだけであるが。




