レベル68 答えが出ればありがたいけど求めてるの別だったりする事も
年内のうちに、神社で修行をする者達の人選を済ませておいた。
最初は二人。
半年はかかるという修行期間の間、生活費などを負担するという事で合意に至った。
その他の謝礼なども別途用意する事になる。
トオル達の一団の稼ぎからそれらを捻出する事になる。
思った以上に安くおさまってはくれたが、トオル達の一団の収支を考えれば厳しいものがある。
その分を稼がねばならないと思うと、やはり辛い。
(どうにかして、稼がないと……)
何か手段はないかと考える。
有るにはある。
それは分かっている。
だが、今のトオル達にそれが出来るのかどうかは疑問だった。
(やるにしてもなあ……)
いつもの事だが、事前の準備が必要になる。
それも、よくよく考えた。
新人の受け入れをしつつそれが出来るのか悩む所だった。
しかし、どうにかしてやらねばならない。
それを実行するために、仲間に考えを伝えていく。
何をやるのか明確にしておかないと、行動してもらう事ができない。
当然、驚きと不安が上がっていった。
「いや、出来るかもしれないけど」
「かなり危険なんじゃ」
そんな声があちこちから上がる。
当たり前だろう。
今までとは違う事をやろうというのだから。
でも、尻込みしてるわけにはいかない。
「それでもな、やらなきゃまずいんだ」
理由を説明していく。
今のままで得られる稼ぎと、それによる限界を。
皆もそれについては考えてはいたようだった。
このままで大丈夫なのかと。
「でも、かなり危険なんじゃないの?」
当然ながら、そういう声もあがる。
「危険だな」
正直に答えた。
嘘を吐いても始まらない。
トオルとて、これからやろうとしてる事が上手くいくのか全く分からない。
準備をしておけばそれほど危険ではないと思っているが。
それとて、過去の数少ない出来事からの推測でしかない。
「でも、やらなきゃどうにもならない。
稼ぎはどうしても必要だ」
そう言うしかなかった。
金が全てと言いたくはない。
だが、金が無ければ生きていく事はできない。
働かずに生きていける者はどこにもいないのだから。
「やり方も考えてみた。
とりあえず、皆に見てもらいたい」
言いながら図面を取り出す。
落書きにも等しい、思いつきを書き込んだだけの代物だ。
寸法を測って正確に書き込んだものではない。
しかし、大まかにやりたい事を伝えるには十分だった。
「こういう風にやろうと思ってる。
もちろん、これで完成ってわけじゃない。
皆も、思った事があれば言ってみてくれ。
これをもっと良い物にしたい」
そう言って皆を巻き込んでいった。
会議という形に持ち込むために。
そして、一緒に考える事で、意識や方向性を定めていくために。
全員で考える、というのは雰囲気を作っていくために必要だった。
これで上手くいくのか分からない。
結果が出るのかも分からない。
それでも、まずは全員が一つの方向を見ている必要がある。
成果はどうでもよかった。
まずは、皆が一緒にがんばる、という事が大事だった。
これがあれば、困難が起こっても、皆が団結出来る。
団結した場合の強さは、困難を退け、先へと進む原動力になる。
常にそうしておく必要はない。
そもそも、人間の意識や目的を常に一致させる事などできない。
ただ一瞬、ある一点において、そういう事ができればよい。
それがこの先への原動力になりえる。
また、それ以外にも考えがあった。
『そういう事があった』という共通体験になれば、とトオルは考えてもいた。
この先、離合集散を繰り返す事になっても。
時々において、行動を分かつ事があっても。
何かしら一時において一緒にやった事があるという記憶があればよい。
それが連帯感になり、絆となって人をまとめる事にもつながる。
こういった小さな所でそれをトオルは作っておきたかった。
人間とは、過去の出来事を基準に行動する所がある。
それが反省して改善するべき失敗であっても、もう一度繰り返したいと思う成功でも。
何にしろ、経験や体験を基にして考える。
トオルも、生まれる前の前世を基に行動してる。
そんな自分の体験、この世界における今を振り返ってそういう考えてもいる。
また、前世の記憶にもそういう事があった。
同じ事を一緒にやった相手とは、何となく上手くやっていける。
同じ体験をした相手とは、不思議と連帯感が発生するものだった。
もちろん、その時にとんでもない事をしでかした相手とは、犬猿の仲になってしまう。
どうしても馬の合わない人間とはそうなりやすい。
なので、一つの事柄に全員を巻き込むのは危険でもある。
しかし、それすらも唯一の利点がある。
『こいつとこいつを組ませてはいけない』というのがはっきりする。
今、トオルの一団はかなりの規模になっている。
これだけの人数がいれば、どうしたって反目や反発も発生する。
それを見極めるのにも、こうした会議は有効だと考えていた。
少なくともこれはモンスター退治の最中ではない。
とんでもない衝突が起こっても、誰かが死ぬことはない。
それが大きな利点だった。
拙い図面を巡って、あちこちから様々な声があがる。
その声が図面で示された構想に疑問をなげかけ、修正や訂正を付け加えていく。
あるいは、それをそのまま肯定し、無駄に付け加えられようとする邪魔な意見から守っていく。
何がよくて、何が問題なのかをはっきりさせようとする考えが生まれていく。
(これなら、上手くいくかな)
まだどうなるか分からないが、とりあえず順調に物事が推移してるように思えた。




