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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その4 上に立つ者になっちゃったかもしれない気がする日々

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レベル65 気持ちばかりはどうにもならないものだから

「ただいま」

 と言っても返事はない。

 領主の館の使用人部屋は、現在閑散としていた。

 昼が終わった頃合いで、誰もがまだ働いている。

 当然ながら、モンスター退治に出向いてる者達もいない。

「…………静かだな」

 自分達がいない間の使用人部屋が、こんな調子だとは思ってもいなかった。

 最近は人数も増えたせいでそれなりに騒々しかったので、特にそう感じるのかもしれない。

 そんな部屋に荷物を置いて、装備を身につけていく。

 今から行っても仕事になるとは思わなかったが、どうなってるかを確かめておきたかった。

(上手くやってりゃいいけど)

 何かしら問題は起こってるだろうとも思った。

 取り越し苦労である事を願ってはいるが。



 顔を出してみれば、今まで通りに動いてる仲間がいた。

 戦闘と解体、その間を行き来してる回収と。

 見慣れた光景がいつも通りに繰り返されている。

 その事に安心をおぼえた。

 近づいていって、「よう」と声をかけていく。

 その声に顔を上げた者達が、「おかえりなさい」を重ねていく。

 戦闘をしていた者達は手を止める事はできなかったが、それでも一声をかけてくれる。

「上手く回ってるみたいだな」

 様子を見てほっとする。

 目に見えて問題になるような動きはない。

 全員、自分の持ち場で作業をしている。

(あとは人間関係だな)

 そちらは目に見える問題ではないので何とも言えない。

 仕事が終わったら聞いてみようと思った。

 その前に、

「そんじゃ、俺も入るわ」

 残り時間は少ないが、戦闘の方に加わる事にした。

 勘が鈍ってないかも確かめておきたかった。



 仕事が終わって後片付けをして。

 館に戻って食事となっていく。

 なのだが、その場所がない。

 本来の想定以上の人数となってるので、食堂だけでは場所が足りなくなってしまっている。

 やむなく今は、室内作業を行う部屋まで食事に使っている。

 それでも場所が足りず、食事は押し合いへし合いとなっていた。

 二十六人という人数はやはり大きい。

 何とか解消できないもんかと思いつつ、狭い場所をなんとか使って飯を食べていく。

 パン、スープ、野菜、肉。

 特に味付けもされてないような、それこそ火を通しただけといった物ばかりだ。

 それでも、飯にありつけるだけ良いほうである。

(町にいたら、これだけで一千銅貨だしな……)

 無料で提供されてるのがありがたい。

 むろん、辿り辿れば税からまかなわれてるものではある。

 完全に無料とは言い難かった。

(まあ、払ってる分を取り返してるようなもんか)

 食事に限らず、寝床も突き詰めれば税でまかなわれてる。

 全く金がかかってない、という事はない。

 稼ぎから取られてるのは癪に障るが、こうしてその恩恵を受けてるともっと稼がないと、と思ってしまう。

(まあ、今年は収穫が増えてるようだから余裕はあるだろうけど)

 刈り入れをしてみると、例年より多く収穫があったという。

 それが自分らの食事に少しは反映されればと思った。

(それよりも、うちの連中の方が先か)

 待遇の改善もそうだが、まずはこの一ヶ月近くの事を聞き出していかねばならない。

 不満があまり出ない事を願った。



「その、文句とかはないんですよね」

 遠慮がちにそう言ってるのは、新人の中でも初期の頃からいた者だった。

「ただ、やっぱり年下のサトシ君とかが指示を出してると、ちょっと抵抗があるっていうか」

「まあ、そりゃあねえ」

 他愛のない、でも本人にとっては結構深刻なのであろう悩みを聞いていく。

「でもまあ、あいつが先に入ってきてるから。

 その順番は理解してやってほしいんだ」

「ええ、そこは分かってます。

 ただ、ちょっと気になってるだけで」

 そう言って新人は言葉を濁す。

 頭で分かっていても、気持ちがついていかないのだろう。

 基本的に年齢がそのまま序列になるのが世の中だ。

 先に生まれた者が生家の仕事をこなし、自然と知識や技術を身につけていくからでもあるかもしれない。

 自然、年長者の方が仕事が出来る。

 自然と年功序列も生まれていく。

 冒険者であっても基本的にそれは変わらない。

 だが、場合によっては年齢と実力が一致しない事もある。

 サトシと、この新人の場合がまさにそれであった。

 だからこそ、戸惑いもあるのだろう。

 もっとも、こればかりは慣れてもらうしかない。

「時間はかかるだろうけど、がんばってくれ」

 トオルとしてはそう言うしかなかった。

 何の解決にもなってないが、各自で折り合いを見つけてもらうしかない。

(サトシ達と分ける事ができればいいんだろうけど)

 この新人達のレベルが上がればそれも出来るようになる。

 だが、今の状態ではそれは難しい。

 当分、あと数ヶ月はこのままがんばってもらうしかない。

 気休めの言葉で騙し騙し何とかやっていくしかなかった。



 食事が終わってから、暇そうな奴を見つけて声をかけ、こうして話しを聞いていた。

 その大半は、ちょっとした不満や引っかかりばかりである。

 取るに足らない、と言えばその通りの問題ばかりだった。

 だが、放置もできない。

 出来る事は声をかけて励ます程度だが、やらないよりは良いと思ってやっていく。

 すぐに解決できなくても、とりあえず聞ければ何かしら考える事はできる。

 問題にまで発展するより先に沈静化できるかもしれない。

 手遅れになるまで放置してしまうよりは、と思って話しを聞いていく。

 それで見えてくるものもある。



(結局、実力差も絡んでるんだよな)

 その他諸々の問題もあるにはあるが、気づいたのはそれだった。

 村から来た新人達がサトシより年齢が高い者が結構多い事。

 それでいて戦闘や解体についてはサトシ達の方が上である事。

 年齢が上であるにも関わらず年下に頭をさげる必要が出て来る。

 そこが感情の部分で納得出来ない、許容しきれないというのが一番の問題であるようだった。

 どうしても発生してしまう序列や順位。

 それをどうしても意識してしまう。

 もう少し人生経験を積めば、それはそれとして気持ちに折り合いをつける事もできたかもしれない。

 だが、大半が十代半ば、せいぜい十代後半の者達である。

 しかも、生まれ育った村から出た事も無い。

 付き合いや人間関係の限られた中で生きてきた者達である。

 テレビやラジオで様々な情報に触れているというわけではない。

 ネットで様々な人間と、数多くの考えや意見に触れるというわけではない。

 思想や哲学、そこまで大げさでなくても様々な論評や意見、感想に思いつきなどに触れるわけでもない。

 多種多様な生き方や考え方を知る事が出来るわけではない。

 読み書きや計算はできても、娯楽や教養としての書物があふれてるわけでもない。

 そんな世界であるから、どうしても考え方に限界が出てきてしまう。

 今までとは違ったやり方や考え方が必要な状況になっても、思考の枠組みの外にある事に対応しきれない。

 頭が悪いという事ではない。

 そもそもの情報量が違うのだ。

 だから、いつもと違う状況があらわれても対処ができない。

 それ以外のやり方や考えなどがあるという事も想像ができない。

 予想も出来ないから何をどうしていいのか分からない。

 全く未知の領域を、手がかりもなく進むしかない。

 年下の先輩との接し方すらも、どうしていいのか分からないでいる。

 小さな事であるが、大半の者達は気にしてしまっている。

(どうすっかな)

 即座に解決できる問題ではない。

 時間をかけていくしかないと思う。

 だが、だとしていったい何をどうしていけばいいのか。

 解決するために何をしたらいいのか。

 上手く付き合っていくやり方があればいいのだが。

 それを思いつかないから悩みは増えていく。

(実力差をはっきり示して、上下の区分をつけるか?)

 感情的なくすぶりなどは残ってしまうから、最善とはいいがたい。

(仕事をしてる最中は上下関係をはっきりさせて、それ以外では年齢順を徹底するのもなあ)

 公私の区別が付けばいいが、まだ十代の彼らにそれを求めるのも難しいかもしれない。

(役職や階級を作っても、あまり変わらないし)

 分かりやすい目安があるのは良いことだろうが、感情的な問題を解決はできない。

(サトシ達と新人を分けるにしても、レベルが上がらない事にはどうにもならんし)

 これには時間がかかってしまう。

(本当に、どうしたもんだか)

 解決ができない悩みが、こうして増えていく。

 結局、「今は我慢してもらうしかない」という所に落ち着く。

 これがトオルの限界であった。

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