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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その4 上に立つ者になっちゃったかもしれない気がする日々
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レベル62 新しく何かが生まれれば、それまでとの衝突もあるわけで

 色々と悩みつつ、人選をしていく。

 その上で人を入れて、次の人間を育てていく。

 既に領主のお膝元の村から新たに五人を受け入れる。

 戦闘に二人、解体に三人。

 これで、領主の村からの受け入れは終わる。

 モンスター退治に割ける人数はこれが限界だったためだ。

 人口一百五十人余り、戸数十八の村ではかなり無理をしてる方だろう。

 これ以上出すと、田畑などの作業が滞る。

 今だって、人手が減った分、一人あたりの作業量は増大している。

 それでもモンスター退治に人を出すのは、それだけの利点があるからだった。



 トオル達が活動をはじめてから、目に見えて被害が減っている。

 それが収穫量にもあらわれていた。

 また、モンスターを目撃する事が減り、その分野原に手をつけやすくもなっている。

 これなら田畑の拡大もできるのではないか、と考える者も増えている。

 それがモンスター退治による村の利益になっている。

 それが出来る人間が増えるのは、村にとってもありがたい。

 金を払ってやってもらっていた今まで違い、大きな旨みがあった。



 モンスターを相手にする危険性は確かにある。

 だが、それも兵役のようなものと考えれば誰もが納得をした。

 税金が納められらない場合、兵士として軍務に就く事もある。

 それと同じと思えば納得も出来た。

 むしろ、これで多少なりと収入が得られるとあって、歓迎する者もいるくらいだった。

 応募者が殺到するという事にはならなかったが。



 新しくやってきた者達も、期待と不安の混じった顔をしている。

 そんな彼らに、まずは実際にやってる所を見てもらう。

 何をやるのか実際に見てもらえれば、危険がどれほどか、手間がどれくらいかも分かる。

 また、モンスターを相手にすると言っても、それほど無理をするものでもないと分かってもらえる。

 そこで不安をやわらげてから、訓練に入っていく。

 戦闘も解体も、一週間は事前の練習を入れる。

 これをやっておくだけで、実際にやってもらった時の動きが違う。

 この流れを変える必要がなかった。



 その訓練も終わり、一週間ほど実際にモンスター退治をした頃。

 行商人が村を訪れた。

 そこで素材を換金し、税金と報酬の分配をした事で、新人達の目の色が変わった。

「すげえ、こんなに貰えるんだ」

「銀貨なんて初めて見た」

 自分達の成果が実際に形になったのを見て感動していた。

 それが予想外の手取りになれば驚くだろう。

 今後のやる気にも変わる。

 また、手にした金で、やってきた行商人から買い物をする者もいる。

 一度に銀貨で十枚以上の収入を得たのだから当然かもしれない。

 見ていてトオルは心配になっていくが、すぐに注意をするつもりもない。

 金の使い方を知らない者達だ。

 とりあえず、手持ちの金で何が出来るのか、何が得られるのかを知るのが先である。

 そして、手持ちの金が減ると言うことがどういう事なのかも。

 今はまだ分からない事である。

 今後それらを知っていく事になる。

 記念するべき第一歩が、浪費にしか見えない買い物である。

(それよりも、こいつらの稼ぎを見てどう思うかだよな)

 彼らの家族が、である。



 稼ぎを増やした家族がいれば、それを手に入れようとするのが家族である。

 こればかりはどうしようもない。

 ある程度は家賃や食費として入れるのもかまわないだろう。

 しかし、そこでおさまれば良い方だった。

 中には、稼ぎの全てを奪ってしまう者もいるかもしれない。

 金が絡むと人は変わる。

 家族であっても例外ではない。

 むしろ、家族だからこそ甘えや狎れが発生する。

「子供なのに」「家族なのに」という理由で、稼いできたものを横取りするのが当たり前と思ってしまう。

 稼ぎはあくまで個人のもの、とわきまえてるものがどれだけいるか。

 そのあたりの教育が今後必要になるかもしれないと思った。



 金銭を手元に置いている事への懸念もある。

 肌身離さず持っていても盗まれる可能性があった。

 寝入った所を狙われれば、防ぎようがない。

 小さな村であっても盗みはそれほど珍しくはない。

 大がかりな道具はともかく、ちょっとした小道具や部品などが盗まれる事はあった。

 田舎というのはそれほど長閑なところではない。

 人が集まってる以上、多かれ少なかれこういった問題は発生する。

 家族間で、隣人間で、村の外からやってくる誰によって。

 周旋屋の保管所があれば、と思ってしまう。



 懸念は当たり、翌日には新人が暗い顔をしてやってくる。

「どうした?」

 聞いてみたら予想通りであった。

「金を出せって言われて……」

 幾らか違いはあっても、そこは共通していた。

 それで言い争いになったり喧嘩になったり。

 あるいは、言われるがままに金を全部渡したり。

 おかげで家族との間に亀裂が走ってしまっている。

「うーん」

 放置できる問題ではない。

 今後もこんな事が続けば、彼らの士気に関わる。

 気持ちが落ち込んでしまえば、能率は落ちる。

「どうにかしないとな」

 やむなく、考えていた手段に出る事にする。



 それから二日三日。

 モンスター退治に入った者達は、領主の館に移る事となった。

「これでいいのか?」

「これしかありません」

 トモノリの疑問に、あきらめをにじませた声を返す。

「これが最善ではないでしょうけど、他に方法を思いつきませんし」

「ふむ」

「今は家族と離すしかありません。

 でないと、お互い不幸になります」

 最善とは言えないだろうが、こうするしかなかった。

 一緒にいるから何かしらの干渉が発生するし、摩擦や衝突も生まれる。

 避けるには、接点を無くすしかなかった。

 その為に、空いてる使用人の部屋に、モンスター退治をしてる者達を移動させた。

 問題の解決になるかと言えば、決してそうではない。

 単に、今ある問題を先送りにしてるだけであろう。

 だが、無益な争いを継続させるわけにはいかない。

 日常的に、恒常的にそれを起こすわけにはいかない。

 それは確実に全員を不幸にする。

「とりあえず、問題をこれ以上発生させないようにします。

 その上で、お互いに考えるように伝えていかないと」

 そもそも、今まで無かった状況である。

 家族に収入は基本的に畑仕事だけしかなかった。

 そこに、新たな収入源が発生してるのだ。

 どう扱えばいいのかは誰にも分からない。

 今までなら、家族の稼ぎは家族のものとしてもかまわなかったかもしれない。

 家族全員で一つの作業に従事していたのだから。

 それを家父長というべき立場の者が決めていた方が合理的であっただろう。

 筋も通っている。

 しかし、モンスター退治による収益はそうはいかない。

 家の仕事とは別の収入である。

 今までが集団で稼いでいたとするなら、モンスター退治による収入は個人によるものとなる。

 それを家族での作業、家族による支援によるものかと言われれば、それも違う。

 あくまで、モンスター退治に参加していた者達による収入である。

 もう、家の作業として扱うわけにはいかない。

 家族であっても、そこははっきりと分けておくべきとなる。

 まして、モンスター退治という危険な作業を行った結果としての収入である。

 それを家族によこせと言われたら、手にした者達は納得できないだろう。

 家を企業の一つとした場合、モンスター退治はそれとは別の仕事である。

 その違いを明確にしないといけない。



「あいつらの家族への教育も必要になるでしょうね」

 それをはっきりさせないと、今後に差し障る。

「その為にも、一緒にさせておくわけにもいきません。

 まずは形から入っていく事にします。

 こっちと、家族は違うんだと」

「分かった。これも君の思うようにやれば良い」

「最悪、周旋屋に登録してもらって、完全に別の仕事という事にします。

 出来れば、そこまでやりたくはないですけど」

 家の仕事とは別であると はっきりさせるためである。

 そこまでしたくは無いが、どうしても納得しないならやるしかないと思っていた。

「何なら、領主として兵役を課すという事にしても良いが」

「いえ、それも良いのかどうか。

 トモノリ様が恨まれるかもしれないし」

 家の仕事とは別だとは分かっても、あまり良い印象はないだろう。

 そもそも、兵役もそれほど印象がよくない。

 納税代わりの兵役というのもあるし、緊急時の徴用という事で働き手を引っ張られるという事もある。

 なので、基本的に領主権限の行使はなるべく使いたくなかった。

 トモノリの所に世話になってるのもある。

 住居と食事を提供してくれる後援者・スポンサーであるので、その評価がトオルにも影響しかねない。

「だが、家族の者達からすれば、モンスター退治にとられてるし。

 収入も物にならないとなれば、結果は変わらないと思うが」

「ですね…………」

 結局は人手を出す事になるのだから、人を出してる家は負担を背負う事になる。

 その分収穫が増えてるのだから、収支は黒字の増大になってるはずだが。

 例えモンスターを倒した事で得る収入が加わらなくても、例年に比べて利益は増えている。

 それでも、手に入れられたかもしれない収入(モンスター退治の報酬)を逃したと思うのが人情であろう。

 まして、トオルが稼いできた者を切り離す、囲ってしまうとあれば恨みも抱く。

 理不尽極まりないが、そういう貪欲さが人間の持つ欲望であり我が儘である。

 それを解消する手段はないだろう。

 当事者達が、稼ぎは稼いだ者の物と考えない事にははじまらない。

 いかに家族と言えども、そこは区別しなくてはならないと考えなければ、この先ずっとこのままと思える。

 なまじ家族間のつながりが強ければ強いほど拗れる可能性が高い。

 家族の一員として見てしまうから、一人一人を区別できない。

 しているにしても、連帯やつながりの方を重視してしまう。

 村で生きていくために必要なものだし、自然と出来上がっていった家族の形である。

 それを崩す事の方が難しいだろう。

 だから、今回の事で生じた問題を解決する事は難しい。

 不可能とも思える。

 トオルも、そんな者達の仲を取り持とうとは思わない。

(もう、どうしようもないわな)

 意識や考え方の変革が必要な事だ。

 それが一朝一夕に出来るわけがない。

 一応、機会を見て今回問題が起こった所に何らかの説明はしに行こうと思っている。

 そこから先は、彼ら自身が悩んで考えてもらわないとどうしようもない。

 それが出来ないなら、完全に切り離していくしかない。

 他にどうしようもない。

 もう既に、こうなってしまっている。

 元に戻すなんて事は出来ないのだから。

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