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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その4 上に立つ者になっちゃったかもしれない気がする日々
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レベル60 一人で終わるわけもなく、受け入れと教育は更に続く

 新人が入って一週間。

 見よう見まねでこなしていた仕事にも何とかなれ始める。

 やり方は覚束ないながらも、何とか一人でモンスターを相手に出来る所までは来た。

 当面はサトシと一緒に行動させるしかないが、穴の中に落ちたりしなければ危険はない。

 そうなったとしても、サトシがすぐに他のモンスターを片付ける事ができれば、命に関わる事も少ない。

 絶対と言えないが、危険はかなり少ない。

 後は本人の注意次第となる。

 それを見計らって、次の人間を入れていく。

 まだ余裕があるわけではないが、そうも言ってられない。

 忙しくなるのは目に見えていたので、その先を片付けていく必要があった。



 最初の新人に続いて二度目の新規参入者。

 今度は解体に従事してもらう者に入ってもらった。

 それも一度に二人。

 解体の方が手間がかかるので、先に人数を増やす事にした。

 教えるのは、順当に行けばマサルとコウジになる。

 ただ、不安要素があったので、トオルは基礎中の基礎部分は自分で教える事にした。

 マサルとコウジの二人に不満があるわけではない。

 ただ、技術云々以前の不安があった。

 そのため、最初の方は自分が教える事にした。

 戦闘の方から抜ける事になるが、そこはやむを得ないと割り切った。

 現場から離れるにしてもすぐ近くだから、何かあったら駆けつけられると考えてもいた。

 それに、抜けた時にどうなるのかを知っておきたいというのもあった。

 いなくてもどれだけ動けるのか、どれだけ機能が落ちるのか。

 不安はあったが、それを知る良い機会と思う事にした。

(裁判もあるし……)

 いなくてもやっていけるようなら、その間モンスター退治を続けてもらっていても良いと考えてもいる。

 解体の方に回るのは、そういう利点もあった。



「それじゃ行くぞ。

 まずは回収だ」

 新たに入ってきた二人に、トオルは大八車を引きながら促す。

 その声に新人は、声もなく頷く。

 革のエプロンに手袋、モンスターを引っかけるための鈎付の棒。

 解体作業の者達の常備品とも言えるそれらを装着した二人は、当然ながら緊張している。

 その気持ちは分かるが、それだけでは困る。

「返事をしろ」

「は、はい」

「大きな声で!」

「あ…………はい!」

 無理矢理であるが、大声を出してもらう。

「そうそう。

 正直きついけどさ、気持ちくらいは負けないでいてくれ」

「あ…………」

「返事は?」

「あ、はい!」

「そう、その調子」

 うんうん、と頷いていく。

 声を出す、という単純な事でも気持ちは結構変わるもの。

 強引にでもそれが必要な場合もある。

 特に最初のうちは。

「それじゃ、行こうか」

 最初の獲物が終わったという声は聞いている。

 急がないとどんどん獲物が溜まっていってしまう。

 少し急ぎ気味にトオルはモンスターを倒してる方へと向かっていった。



 始末されたモンスターが既に穴の中から出されていた。

 それらを順番に回収していく。

「まずは、左の方からいくぞ」

 サトシと新人の居る方で、さすがに手早く片付いていた。

 既に十匹ほど。

 移動してる間にも、穴に一つでの作業が終わり、死骸となったモンスターを取り出してる最中である。

(こりゃ、急いだ方がいいかな)

 回収する立場として見てみると、その早さに圧倒される。

 余りに手早くやり過ぎると、回収が間に合わなくなりそうだった。

 横に大八車をつけ、すぐに死骸をのせていく。

「どんどん積み込んでくれ。

 重いなら、二人で一つを運べ」

 言いながらもどんどん大八車に乗せていく。

 最初の十匹ほどを乗せ終わる前に、その隣の穴から五匹ほどの妖ネズミが取り出されていく。

 続けてそれを拾い、今度は隣の方へ。

 レンとアツシがやってる方は、既に二十匹ほどの死骸を穴の横にあげていた。

 それがまだ増える途中にある。

「こりゃ、一度じゃ運びきれねえな」

 とりあえず、今出てる分を回収して解体の方に戻り、それからまたとんぼ返りになるだろう。

「まず、あそこにあるのを持って帰るぞ。

 いいな」

「「はい!」」

 重なる返事を聞きながら、トオルは次々に倒されていく妖ネズミの数に焦りをおぼえていった。



 三十匹以上になる妖怪ネズミの死骸を持ち帰ると、マサルとコウジがすぐにとびかかる。

 荷台から一気におろした妖ネズミをどんどん並べていく。

「先に腹を裂いておいて」

「その先はこっちでやっちゃうから」

 言われたチトセ達は、並べた妖ネズミの腹に包丁を入れ、次々に切り裂いていった。

 そこからマサルとコウジが、素材となる器官を切り取っていく。

 他の部分は不要とはいえ、手早いものだった。

 三十匹の妖ネズミが、次々に捌かれていく。

「はあ……」

 こうして二人の作業をじっくり見る余裕もなかったトオルは、その手さばきに驚いた。

 感心してる場合でもなかったが。

「よし、もう一度行って、回収してくるぞ」

「「はい!」」

 また駆け足気味に戦闘の方へと戻っていく。

 こうしてる間にも、倒した妖ネズミは増えているはずである。

 休んでいる暇など無かった。



 穴の数の拡大とともに、モンスター退治の場所もそれなりに大きくなっていた。

 解体場所から一番端にある穴までだと三十メートル近く離れてしまっている。

 そこを何度も行き来する事になるので、回収作業も楽ではない。

 一往復する間に、再び三十匹近くのモンスターが倒されているなんて当たり前だった。

 解体も解体で、五人もいるとかなり手際よく片付ける事が出来る。

 回収が終わって戻ってくると、必要な部分を抜き取った残骸がほとんどになっている。

 おかげでトオルと新人達二人は、戦闘を行ってる前線と、解体を行ってる後方を休む事無く往復する。

 解体に取りかかるどころではない。

 回収するだけで午前中が終わってしまった。

(こりゃ、解体は無理だな)

 最初は、午前中は回収のやり方をおぼえてもらい、午後は解体をやってもらうつもりだったのだが。

 とてもそんな余裕はないので、一日中回収に回る事にした。

 解体は翌日に回す事にして、初日は終わった。

 その変更については、昼休みに皆に伝えておいた。

 急な事ではあったが、誰も反対する者はいない。

 その位ならば、全体に影響を与える事もないので、誰も気にはしなかった。

 むしろ解体の者達は喜んですらいた。

「これで解体だけしてられるよ」

「回収って手間だからな」

 そんな声がトオルの耳に聞こえてきた。

 そうだよなあ、とトオルも思った。

 思った以上に回収は重労働だった。

 これだけで専属を用意した方がいいと思ってしまうほどに。



 ただ、新しく入った二人は解体をやるために来てもらっている。

 毎日回収だけというわけにもいかない。

 翌日は回収をサトシの村から来た二人、シゲルとカズキに任せる事にした。

 元々二人も、どちらかというと回収で動く事の方が多いので、それに反対はしなかった。

 そして、あらためて解体を教えていく事になる。

「まあ、今はあっちの二人の方がレベルは上だけど」

とマサルとコウジの方を示しながら説明していく。

「詳しい事はあっちの二人に聞いてほしい。

 上手くやるコツとかね。

 とりあえず、練習でやった事を思い出しながらやっていってくれ」

 この二人にも、持ち帰った妖ネズミの死骸を用いて練習をしてもらっていた。

 一週間ほどやっていたので、やり方はおぼえているはずだった。

 だが、先導するようにトオルも解体をしていく。

 久しぶりだったのでやり方を忘れそうだったが、包丁を立てていくと、何となく思い出していく。

 必要な部分だけをとればいいから、それほど細かく気にする必要はない。

 それでも、欲しい部分を取るためにどう切っていけばいいのかは考えなくてはいけない。

 必要なたった一カ所に到達するまでに、嫌でも何カ所かに刃を立てていく事になる。

 出来るだけ手数を減らして無駄と時間を省かねばならない。

 楽に目的の部分を手にするためにはそうする事になる。

 トオルはそれを示していく。

 二人も、練習した通りに、忘れてしまった部分はトオルのやり方を見たり、直接聞いていく。

 トオルも見本となるために実演してる。

 そのせいか、割とすんなり二人は必要な部分を切り取っていった。

「────うん、その調子でいいよ」

 一通り終わったのを見て声をかける。

 手際はまだ悪い。

 時間もかかっている。

 それでも二人はちゃんと目的の部分を手に入れた。

「それじゃ、そっちの容器に入れてくれ。

 そこまでやって解体は終わりだ」

 それぞれが一匹ずつの解体を終わらせた。



 それから二人にやらせていく。

 材料には困らない。

 何せ大量に存在する。

 次々に運ばれてくる死骸に、解体場所がどんどん狭くなっていく程に。

 だが、そちらを気にさせないよう注意して、二人に仕事をさせていく。

 まだ素人である。

 周りを気にして作業をさせたら、周りにあわせて行動させたら、それこそ失敗につながる。

 あえてトオルは二人に自分のペースを守らせた。

 確実に作業をおぼえてもらうために。

 肉の抵抗、間違った角度で動かした場合にかかってしまう力、何度も斬る事で油まみれになって使えなくなる刃。

 それらを自らの手と感覚でおぼえてもらう。

 そんな二人が目に入るように気をつけながら、トオルも解体を進めていく。

 最後まで処理はしない。

 マサルとコウジに最終的な部分はまかせ、素材が切り取りやすいように腹を裂く程度にとどめる。

 そうやって作業を分担した方がまだ効率が良い。

 あらためて思ったが、今のトオルよりマサルとコウジの二人の方が手際もいいし、正確な仕事をしてくれる。

 解体については、この二人に任せた方がよっぽど良い。

(ありがてえなあ……)

 そう思いつつも、追い抜かれた事を感じて少し切なくもあった。



 三日目は、周りの流れに合わせるために、死骸に切れ込みを入れる事に終始させた。

 前日と違って、正確さもそうだが早さを少しばかり求めた。

 次々と死骸が持ち込まれるし、その後にマサルとコウジが待っている。

 トオルも手伝いはしたが、それでもマサルとコウジは次々に素材を切り取っていく。

 新人二人にチトセを含めた四人がかりでも、へたすれば追いつかれそうになる事もあった。

 それでも四人がかりでどうにか作業を進め、押し寄せる死骸と追いついてくる二人を引き離そうとしていった。



 四日目は三日目と同じく二人と一緒に解体に入った。

 やってる事は前日と同じ。

 作業速度などもほとんど同じ。

 だが、新人二人が作業に少し慣れてるように見えた。

 五日目は、二人を解体に残しトオルは回収の方に回った。

 自分が多少目を離した時にどうなるかを見るためだった。

 マサルとコウジにその場その場の指示を少しは出させるためでもある。

 このあたりで本格的にそういった事をしてもらおうと思った。

 チトセとアツシが入った頃からそういう事もしてたようだが、そこからもう一歩進んでもらいたかった。

 同じ村の出身者同士で固まってるから、気兼ねなくやっていられる部分もある。

 だが、チトセもそうだし、新しい人間が二人入ってる。

 何も言わなくても通じるような人間関係だった同郷出身者だけでなくなっている。

 これからは、更にこういう状況は増えるかもしれない。

 今のうちにそれに慣れておいて欲しかった。



 また、戦闘の方がどうなってるのかも気になっていた。

 初日はともかく、それから三日ほどは完全に任せっきりになっている。

 直接不満を言いに来るような者はいなかったが、実際にどう動いてるのかなどを確かめておきたかった。

 幸いにもサトシ達は特段問題になるような動き方はしていなかった。

 互いに必要な声をあげてるし、何がどこでどうなってるのかを確認してもいる。

 回収してる途中で見ているだけではあるが、それなりに上手く立ち回ってるようだった。

 表面的に見える範囲では、にしても。

 彼らが実際に何をどう考えてるかは、聞いてみないと、そして本音を言ってもらわないと分からない。

(あとで確認してみるか)

 作業が終わったらそれぞれに聞いて回ってみようと思った。



 六日目七日目は、トオルは口を出さないように気をつけながら解体の方に入っていった。

 マサルとコウジにも、指示は二人で出すようにと伝えておいた。

 今までと同じではある。

 だが、加わった新人二人をどう動かしていくか。

 そこが上手くこなせるかが不安な部分になっている。

 ありがたい事に割と上手く乗り越えていってるようで、特に問題もなくこの二日は終わっていった。

 それほど問題になるような事も起きなかったからでもあるだろう。



 そんなこんなの一週間であるが、解体に入った二人も何とか仕事はこなせるようにはなった。

 まだ目を離してよいほどではないだろうが、一緒にやっていく事は出来る。

 あとは本人次第であろう。

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