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レベル52 出来る事が増えて選べる自由があると、意外と持て余す

「兄貴、俺も!」

 トオルがレベルアップした二日後。

 サトシも歓声をあげて登録証をかざしてきた。

「見てよ、これ。

 俺もレベルが上がったよ」

 その言葉通り、『槍レベル1』という文字が浮かび上がっている。

「やったな」

 素直に賞賛してやった。

 そこに、多少の打算があるのは確かだった。

 これで戦闘で更に期待出来るようになったと。

 サトシの成長を素直に喜んでる所があるのも確かだが。

「この調子でがんばろうな」

「おう!」

 元気の良い返事を聞いて、トオルは更に顔をほころばせた。



 その成果は大きく、トオルは以前より更に正確に妖ネズミに攻撃を当てられるようになった。

 逃げ場を無くしてから攻撃するのだから当てやすいのは確かだが、その手間が更に小さくなっている。

 目で追うよりも早く手が動き、マシェットを狙った所に叩き込めるようになっている。

 一撃にかける時間や力が更に少なくなり、こなせる数は更に増えていった。

 サトシもそれは同じで、以前よりしっかりと狙って穂先を突き刺せるようになっている。

 前はどちらかというと、考えも無しに突いているように見えた。

 今もそれは同じなのだが、それでいて確実に妖ネズミに当たるようになっていた。

 突き刺す動きが早くなってるだけではない。

 妖ネズミの動きを見て、どこに穂先をもっていけばいいのかが分かってるようだった。

 レベルアップというものの効果がはっきりと見てとれる。

(これなら、穴一つはサトシに任せてもいいかな)

 今までは二人や三人で一つの穴にひしめく妖ネズミを片付けていた。

 だが、今のサトシなら、穴一つに入り込んでるネズミを一人で簡単に片付けてくれそうだった。

 ならば、それはサトシに任せて、トオルとレンは別の穴にはまり込んでる妖ネズミを相手にした方がいい。

 一人でやらせた場合、何か起こった時の対処が遅れる、という危険もあるから悩む。

(どうしたらいいかな)

 レベルアップによって増えた選択肢が、トオルに考える事を要求してくる。

 実に贅沢な悩みだった。



 その悩みが解消しないうちに行商人がやってきた。

「どうだ、調子は」

 訊ねてくる商人に提示した素材はそれほど多くもなかった。

 一日あたりで採取した量はかなり多い。

 人手が増えたおかげで入手できる素材が格段に増えたからだ。

 ただ、今回は日数が足りない。

 十日になるかどうかという時間で稼げた素材の数は少なかった。

 八人でやったにしては、であるが。

「全部で七千八百二十六か」

 その数に行商人は驚いた。

「また、えらく頑張ったもんだな」

「そうかな」

 あまりそんな実感はない。

 採取してる最中は気にしてる余裕がなかった。

 だが、単純に数だけ見た行商人は、

「馬車を一台余分に引いてきて正解だったよ」

とため息をもらした。

 とりあえず、今回採取した物は全部買いとってもらえた。

 ただ、

「この調子でいくなら、あと一台増やした方がいいのかな」

とも呟いている。

 今後もこの調子で採取量が増えるならそうせざるえないのだろう。

 とりあえずトオルは、魔術の触媒分を除いたそれらを売却して金銭を手に入れる。

 合計で六十二銀貨と六千八十銅貨。

 税金の分を差し引いて、四十三銀貨と八千二百五十六銅貨が今回の収入となった。

 銅貨分を経費として差し引き、残りを八人で分配する。

 一人あたり五銀貨と三千七百五十銅貨の手取りとなった。

 金額だけ見れば結構なものに思えるが、十日の作業料として考えればそれほどでもない。

 一日あたり五千三百七十五銅貨である。

 周旋屋が回してくる並の作業よりは幾らか多いった所である。

(まあ、寝床とメシが無料だから何とかなるか)

 あらためて領主の館で寝泊まりできるという利点を感じた。



「あと、預かってきたものだ」

「あ、ありがとう」

 そう言って周旋屋からの手紙を受け取った。

 早速中身を見てみると、村の方と連絡がついた事が書いてあった。

 村長が来るので、来月あたりに顔を出せと。

(来月か)

 もうちょっと早い時期を想像していたが、意外と先になってしまった。

 まあ、連絡をとって村長が町に出て来るまでの時間を考えれば早い方かもしれない。

 トオルもモンスター退治のやり方などを整理したかったので、これだけの時間があるのは調度良い。

 早速示された日時でかまわない、という旨の手紙をしたためて行商人に渡した。

 手紙の預かり賃を払い、それが無事に到着する事を願う。

 そして、その日までの日程を考えていく。

 自分がいない間に何をさせておくかも考えて置かねばならない。

 有るようで無いのが時間だ。

 まだ余裕があると思ってるうちに期限が来てしまう。

 そうなる前に色々と決めておきたかった。



「君の好きなようにしてくれればそれでいい」

 一番話しを通しておかねばならない領主のトモノリの返事はそれだった。

 相変わらずであるが、考え込んだり駄目と言ったりしない。

 町に戻ってる間、トオルは領主の館を留守にせねばならぬというのに。

「そんなにあっさり認めていいんですか?」

などとトオルの方が心配になる。

「なに、戻ってきてくれた奉公人がいても、すぐに元に戻るわけではない。

 今は少しでも人手が欲しいしな」

「そりゃあそうなんでしょうが」

「それに、君がモンスター退治に出られないというなら仕方がない。

 無理をして怪我人が出ても困るしな」

「はあ……」

 思わず生返事。

 まさかここまであっさりと認めてくれるとは思わなかった。

 おかげで色々と予定を組みやすくはなる。

 それでも頭を使わねばならないのは変わらない。

 予定を自由に組み立てられるとなると、まず枠組みや大筋を自分で決めねばならない。

 制約がないというのも、意外と困るものである。

(多少は要望があるといいんだけどな)

 贅沢な事を考えてしまう。

 よほど無茶な事でもなければ、それを基準にして予定を組むことも出来るのだ。

 トモノリの与えてくれる自由はありがたいが、どうしても持てあましてしまう。

 出てくる言葉は、

「それなら、色々と考えてみます」

という曖昧なものになってしまった。

 与えられた自由の中で何が出来るのか。

 全てを自分で決めるという事に戸惑いをおぼえた。

「……裁判に差し障りがないようにだけしておきます」

 それが唯一の束縛というか制限になっていた。



 裁判の日取りはまだ決まってない。

 なので、いつ呼び出しが来るかは分からない。

 こちらについては、来た時にどうにかするしかなかった。

 とりあえず、自分がいない間にやってもらう事を考えていく。

 とはいえ、モンスター退治は避けておきたかった。

 やはり危険が大きい。

 文字通りの盾役であるトオルがいない場合、防御に不安が残る。

 サトシもレベルが1になったばかりなので不安がつきまとう。

 もう一人くらい戦闘が出来る者がいれば良いのだが、あいにくとそうはいかない。

 今の時点での戦力を考えると、やはり危険は避けておきたかった。

 レベル1でも妖ネズミはどうにかなるだろうが、予想外の事が起こったらまずい。

 この前のように妖犬がやってきたら目も当てられない。

 妖ネズミも想定以上に押し寄せてきたらそれだけで危険が増大する。

 今までそういった事はほとんどなかったが、これからどうなるかは分からない。

(やっぱり、館の手伝いをしていてもらうか)

 その間、収入は全く無くなるが、命を失うよりは良い。



 それを念頭に予定を組んでいく。

 最終的にはトモノリの承諾が必要だが、一週間余り館での作業に入ってもらう事にする。

 その割り振りは執事やメイド長と下男と相談にもなるだろう。

(明日、時間がある時に相談するか)

 トモノリに話しをしてからになるだろう。

 それと、貴族法院への所在地の報告をしてかねばならない。

 町に行ってる間に呼び出しが来たら大変な事になる。

 そういった場合に備えるためにも、所在地をはっきりさせておかねばならない。

 町に赴いてる時期を、あらかじめ貴族法院に届けておく事になる。

 面倒だがやらねばならない事だった。

(そういや、裁判はまだ始まってないんだよな)

 そんな事もついつい忘れてしまっていた。

 裁判の方は、今はまだ事前の調査段階である。

 取り調べや捜索をして証拠や証人を固めてる最中のはず。

 それがある程度終わってからようやく裁判になる。

 面倒はまだ終わってないのだ。

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