レベル51 待ちに待ったこの時、この瞬間がやってきた
「そんじゃやるか」
用意した餌を穴に放り込んでいく。
久しぶりのモンスター退治。
上手くいくかどうかも分からないが、ここである程度素材を集めておかねばならない。
「もうすぐ行商人も来るだろうしな」
折角来てもらったのに売る物が無いと話にならない。
何のために呼んだのか分からなくなる。
この近隣の村を回るから、それなりに儲けは出るだろうが。
領主の館と、それを取り囲むように存在する村でも商売にはなるだろうが。
肝心要のトオル達が手ぶらというのは、さすがに気が引ける。
ばつが悪い。
無理をするつもりはないが、可能な限り多くの素材を集めておきたかった。
町の近く(と言っても一時間ほど歩いた所であるが)と同じく、この辺りも妖ネズミが多い。
かなり広範囲に分布してるモンスターらしく、あちこちで見かけるという。
おかげで最初に遭遇するモンスターとして有名でもあった。
それでも普段は人里近くではあまり姿を見せない。
人間がモンスターを警戒するように、モンスターも不用意に人間の近くに迫るのを警戒してるのかもしれない。
田畑を荒らすモンスターとして一番警戒されてるので、見つけたら取り囲んで倒されるのが妖ネズミだ。
その情報をもしかしたら共有してるのかもしれない。
モンスターがそんな事をするのか、という疑問はある。
だが、見聞きする行動パターンを考えると、そうなのかもしれないと思えてくる。
それでも、食欲には勝てないのか、餌を放置しているとそこに飛び込んでくる。
普段何を食べてるのか分からないが、どうもかなり腹を空かせているようにも見えた。
モンスターの生態なぞほとんどが謎に包まれているので、詳しい事など分からないが。
ただ、その性質は利用しやすいので、トオルは遠慮無く使わせてもらっていた。
穴の中に、三匹、五匹、十匹と妖ネズミが飛び込んでいく。
そこでトオルとサトシとレンが飛びかかっていく。
穴の縁にかがみ、中にいる妖ネズミにマシェットや槍を繰り出していく。
逃げ場のない中で必死になって身をよじるも、妖ネズミは次々に倒れていく。
全てを倒してからそれらを回収し、解体作業に放り込む。
四人もいるので作業はかなり楽に進む。
そうしてる間にも次がやってきて、どんどん穴に入りこんでいく。
トオル達もそれらを順繰りに片付けていった。
ある程度解体が進んだところで、素材が取り出されていく。
そのうちの幾つかを取り出してからがサツキの出番となる。
一番大きく作った穴に餌を放り込み、そこに妖ネズミが入るのを待つ。
五匹十匹ではなく、更に多く。
二十匹を目安にしていく。
それだけ入るように作った穴なので、それなりに広く大きい。
これを作るだけで一日がかりになったほどだ。
そこが埋まった所で、サツキが魔術を用いる。
『安息の闇』は触媒の力を得て効果範囲と威力を拡大。
穴の中に入り込んだ妖ネズミを一気に眠らせていく。
動きを止めた妖ネズミを、トオル達はほとんど一撃で倒していく。
二十匹があっという間に倒されていく。
それを回収する間に餌を別の穴にまく。
わざわざ十個も穴を作ったのは、効率よく妖ネズミを集めていくためである。
一つの穴が埋まっても別の穴に呼び込めるように。
おかげで穴は生け簀のような状態になっていった。
そこに入り込んだ妖ネズミを始末するのも、だんだんと作業じみていく。
少なくとも、命がけの戦闘とはほど遠いものになってはいた。
命がけなのが戦いだが、その負担を可能な限り下げていきたいという事でこうしているのだが。
ここまでくると、むしろ屠殺場なのではないかと思えてくる。
危険を減らすという狙い通りであるが、これを戦闘と呼ぶのは悩ましいものがあった。
あらためて自分の考えてきたやり方を見て、トオルは考えこんでしまう。
(これでいいのかな)
楽に勝てるのだから文句はないのだが、どうしても戦闘という言葉から遠く離れてる事を感じる。
普通、戦闘とは相手とのぶつかりあいになるものだ。
なのにここで行ってるのはそれとは全く違うものとなっている。
トオル達に他の手段を選んでいる余裕はないのだが、それでもあんまりな気がしてしまう。
だが、戦力の内容を考えれば、やはりやむを得ない。
この中で一番戦闘経験のあるサトシですら、まだレベル1にすらなっていない。
レンはナイフや投石器の扱いに慣れてるが、それもレベル1にもなっていない。
サツキの魔術レベル1は例外にしても、ここにいる者達のほとんどが素人である。
それを考えると、正面きっての戦闘など論外であった。
一回の戦闘で必ず怪我人が出る事になる。
そうなったら治療もろくに出来ないこの一団は壊滅的な損害を出す事となる。
たった八人の中で一人が倒れれば、それだけで一割以上の損害率となってしまう。
それだけは絶対に避けたいところだった。
おまけに、半分は戦闘ではなく解体作業に従事している。
この非戦闘員を守ろうとしたら、防備を固めた中に入ってもらうしかない。
でなければ、押し寄せるモンスターから守る事ができない。
もし、備えもなく守ろうと思ったら、戦闘に従事する人間が今の三倍は欲しい。
それだけ居れば、様々な方向からやってくるであろうモンスターに対応も出来る。
今の状態ではとても出来ない事である。
この人数、このレベルで出来る最大限の努力がこのやり方だった。
相手をおびきよせる事が出来るから出来る手段である。
こちらから打って出るなど論外だった。
巡回や遭遇戦になったら、壊滅的な打撃を受ける危険がこの一団にはあった。
それがトオルの泣き所でもある。
その懸念がいくらか払拭できる事が起こる。
登録証が光り、レベルアップを告げてきた。
「…………やった」
その目に、『刀剣レベル3』の文字がうつる。
今までレベル2であったのが一つ上昇していた。
モンスター退治を再開してから三日。
四月の半ばになろうという頃の事だった。
章の終わりに。
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