レベル49 本番より準備と後片付けに手間取るものではありますが
「思った以上に手間どったな」
モンスター退治に繰り出そうとしたトオルは、予想外の出来事に色々と直面する事となった。
サツキとレンの町への帰還は仕方ないのだが、それ以外にもやるべき事が増えてしまった。
まず、モンスターとの戦闘だが、これにアツシが名乗りを上げてきた。
「危ないのは分かってるけど、やりたいんだ」
何かしら思う所があったのだろうか。
理由は分からないが、意欲はありがたい。
そちらの人手も欲しいとは思っていたのだから。
だが、それだと解体に入る人間が減ってしまう。
また、レンも結構戦闘をこなせる事が分かっている。
即戦力としてはこちらの方がありがたい。
サツキも魔術による戦闘支援に入ってもらいたいとも考えていた。
となるとどうしても解体に入る人間が減ってしまう。
チトセに入ってもらうにしても、合計三人。
どうしても解体の効率が落ちる。
「人を増やすしかないか……」
当然そういう結論になる。
となれば、多少は慣れてる人間が欲しい。
思いつくのは、サトシの村で一緒に仕事をしてた残り二人。
「そうこなくっちゃ」
サトシ・マサル・コウジの三人は喜んで賛成した。
人手だけではない。
使ってる装備の方も問題だった。
手入れはしているが、どうしても劣化はしていく。
予備の武器や防具の補修品も持っているが、それだけではまかない切れなくなっている。
新しい武器や防具が必要だった。
直接的な戦闘はほとんど行ってないから痛みは少ないが、それでも使っていれば摩耗はしていく。
新品の替えが必要になってきていた。
アツシも戦闘をするなら、そのための装備が必要になる。
稼ぎが出るまではお下がりで、使い減りした道具を貸してやってもよい。
だが、貸すためには自分用の道具が無くてはいけない。
どっちにしても新しい装備が必要になる。
(しばらくアツシには解体をしててもらうか)
仕事をおぼえておくのは悪い事ではない。
そちらで暫くやってもらってから、戦闘に入ってもらう事にした。
ただ、解体用の包丁なども新しく用意しないといけない。
何にせよ物いりになっている。
(当分はお古で我慢してもらうか)
それもまた考えがあっての事である。
お古は、どれだけ修繕しても使い勝手が悪くなっている。
そんな物を使い続けたいと思う者はそれほど多くはない。
アツシがどう思うか分からないが、おそらく思いは同じだと思われる。
だからこそ言えるのだ。
『ならば、稼いで自分用の物を買え』と。
何でもかんでも与えていたら、怠け癖がついてしまう。
自分で手に入れる努力を怠り、他人から手に入れる事に努力していくようになる。
多少の援助はしてやるにしても、それは相手の足りない分を補う程度にとどめるべきである。
だからこそトオルは、使い古した道具を貸す事で手を打とうと思った。
何も支払う必要はない代わりに、使い勝手の悪い物を使うしかない。
必要な物は金を払って自腹で手に入れるしかない。
その教育のためである。
ただ、物が欲しくても領主の館のあたりでは購入が出来ない。
町と違ってそこまで物が行き渡ってるわけではない。
商人が欲しい物を商ってるというのは、そこそこの規模のある町の特権と言える。
領主の館の近くと言っても、人口にして一百人程度の村がある程度である。
経済規模という観点からすれば、商人が常駐する程ではない。
村の中には鍛冶を生業にしてる者達もいるが、精巧な道具を作れるほどの技術を持ってるわけではない。
それに、そういった者達も武器や防具の職人がいるというわけではない。
鋤や鍬を作る鉄職人や、革製品を作る革職人などがほとんどである。
鍋や釜などを作ったり補修したりはできる。
衣服などに用いる革を用いる事は出来る。
だが、武器や防具を作れるというわけではない。
技術を応用して、間に合わせの武器や防具のようなものを作る事は出来るだろうが。
それではどうしようもないのだ。
専用の道具というのは、やはり専門の職人に任せるしかない。
それらをもたらすために商人に頼るしかない。
(早く行商人が来てくれれば)
いつになるか分からない到着を望む。
もっとも、今は待っている時間すらない。
「おう、帰ってきたか」
受付のおっさんは相変わらずだった。
町に戻ってきたというのに、かける声はそれだけかと思ってしまう。
そんなトオルと対象的に、おっさんはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「両手に花だな」
「馬鹿言ってんじゃねえ」
一緒に帰ってきたサツキとレンを見て何か誤解をしてるようだった。
あるいは、分かっていて茶化してるのか。
からかってるなら趣味が悪い。
この二人とそういう関係ならとてもありがたい事ではあるが。
(……そうじゃねえしなあ)
切なく寂しくなる現実をしっかり認識して泣きたくなる。
感傷にひたってる場合じゃないので、その話はそこで終わらせるが。
「とりあえず二人に報酬を出してやってよ。
それから俺の話も聞いてもらいたいし」
「あ、そうだったな。
じゃあ、二人はこっちに来てくれ」
仕事の顔に戻ったおっさんは、二人に書類を渡して必要事項の確認をさせていった。
「で、お前の話ってなんだ?」
女子二人組の方を片付けたおっさんが、トオルに尋ねてくる。
「ああ、実は────」
人手が必要な事と、そのために連絡をとりたい事などをトオルは話していった。
聞いてるおっさんは「なるほど」と頷く。
「なら、手続きとかはこっちでしておいてやる。
ただ連絡とかはするが、相手とお前で話はまとめろよ」
「分かってる」
周旋屋との契約のほうはこれでどうにかなりそうだった。
あとは、サトシの村に連絡を入れるだけである。
「それと、武器とか防具も買っていくから、幾つか用意して欲しいんだ」
「はいよ」
予備の武器に盾を購入していく。
これらも目減りしているので、いずれ新しい物を、と思っていたところだ。
アツシの事もあるので、防具も新しいのを用意する。
できれば鎖帷子などもう少し防御力のある物が欲しいが、金が足りない。
結局金属板付きの革上着となった。
新品の方はトオルが使い、アツシには今まで使っていたのを渡すつもりだった。
大きさが合わないが、そこは詰め物でも入れて誤魔化すしかないだろう。
早い所アツシにも自分用の道具を揃えてもらう事になりそうだった。
(レンも、今のうちに防具とか買っておいてもらうか)
足りない費用はいくらか出す事にして、身を守る手段を手に入れておいてもらおうと思った。
基本的に投石器で遠くから攻撃しているが、妖犬の時のように接近戦になる事もある。
準備を怠れば悲惨な結果になるのは目に見えていた。
「そういう事なら……」
仕方ないか、と納得してレンは防具を購入する事となった。
トオルと同じ、金属板付の革上着。
細かなサイズを調整する時間がなかったので、あつらえてあった物から最も体型が近い物を選ぶ事になった。
ついでに籠手と脚甲も。
どちらも革の手袋に金属板をくくりつけたものだが、最低限の防御力は得られる。
(これで少しはマシになるかな)
盾を持ってるトオルほどの防御力は期待できない。
それでもすぐに死ぬ可能性はこれでかなり減ったと思いたかった。
それ以外に必要な物品の購入も済ませていく。
ついでに、今後必要になりそうな物の注文も。
そちらは周旋屋で全部が揃うわけではなかったので、行商人に話をもっていく事となった。
ついでに、それ以外の用件も。
話を聞いた相手は、
「なるほど」
と理解を示してくれた。
「なら、今後はそういう武器とかも扱う事にしてみるよ。
ただ、できるなら事前に注文をしてくれ。
こっちも色々持ち歩くわけにもいかんからな」
「うん、そこはこっちもで気をつけるよ」
相手も商売なので、売れると分かれば話は早かった。
あとは、消耗品や予備の包丁などを手に入れていく。
村に行商人が来るのを待ってるわけにはいかない物も結構あった。
必要な事をこなすのに、結局二日ほどかかってしまった。
それでも持てる物は持って町を後にする。
持ちきれないほど手荷物も多くなってしまったが、駅馬車で持ち運びもさほど困難ではない。
(でも、さすがにこれはないか)
マシェットに防具一式。
それと包丁の予備を数本。
他にも薬草などを含めて大きめの袋二つ分になってしまっている。
いくら何でも多すぎかなと思った。
それも女子組がやってくるまでの懸念であったが。
「お待たせしました」
「結構荷物が多くなってね」
そういう二人の荷物も、トオルと同じく結構な大きさになっていた。
女の荷物は多くなるとは聞いているが。
「…………多くない、それ」
思わずそう言ってしまった。
「やっぱり、そう思いますか」
「これでも減らしたんだけどね」
申し訳なさそうに俯くサツキと、開き直ってるのか笑い出すレン。
その二人と、抱えた荷物を見てため息を漏らす。
(駅馬車で追加料金を取られなきゃいいけど)
荷物が大きい場合には、そういう事もあるという。
報酬が出たから余裕はあるが、果たして間に合うかどうか不安になってしまった。
その懸念は的中し、トオル達は駅馬車で超過料金を取られる事となった。




