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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その3 懐かしきというほどでもない故郷のためというわけでもなく
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レベル47 ようやく動きが出てきてくれました

 その日、五台の馬車が連なってやってきた。

 こんな田舎では見られない高級そうな造りが目を引いた。

 そして、その横に掲げられた王国旗が更に印象に残る。

 確かにそれはこの国の旗である。

 だが、公的機関として用いられるのを見る事は滅多にない。

 田舎であるならばなおさら。

 祝祭日に、領主や村長の家で掲げられるのを見るのがせいぜいだろう。

 それを掲げてるだけに、目にした者達はただならぬ何かが起こってるのを感じていた。

 領主の館へと向かっていったその列を見た村人は、即座に村中にその事を伝えていく。

 その話は所用で近隣の村々へと向かう者達によって更に拡散されていく。

 数日もすればこの辺り一帯の話題となる。

 それがどこから何のために来たのか、という事に誰もが興味を抱いた。



 訪問先となった領主の館の驚きはそれ以上だった。

「あれって」

「中央の使者?」

 出迎えに赴いた執事の背中を見ながら、そこかしこで話し声が上がっていく。

 使用人として働いてる周旋屋の作業員達は、仕事も忘れて物陰から様子を伺っていた。

「どうしてここに?」

 理由は分からない。

 中央の者がやってくる事など滅多にない。

 領主であれば何かしらの接点はあるのかもしれない。

 それでも、馬車でわざわざやってくるというのは余程の事ではないかと誰もが思った。

 実際、中央からの使者は重要な役目を負ってやってきている。

 ただ、それを他の者達が知るのは今少し先の話になる。

 一部を除いて。



 例外的な一部であるトオルは領主の部屋に呼び出された。

「失礼します」

 ノックをして中に入ると、トモノリと執事、中央からの使者が控えていた。

 室内に張り巡らされた緊張感に、知らず知らず背筋がのびる。

 喉が渇いていく。

 そんなトオルに、

「そんなに気張るな」

とトモノリが穏やかな声をかけていく。

「尋ねたい事がいくつかある。

 それに正直に答えてくれるだけでいい」

 そう聞いても気をゆるませる事はできなかった。

 いったい何が起こってるのか、まだ把握していない。

 それでも勧められるままに席に座り、やってきた使者の向かいに座る。

「こちら、貴族法院の方だ。

 聞かれた事には嘘偽りなく答えるのだぞ」

 トモノリの言葉に、あらためて緊張と衝撃をおぼえた。



 貴族法院。

 貴族専用の裁判所、と言うべき機関である。

 身分差のあるこの世界において、貴族と平民を捌く法律も区分される。

 何かしら事件が起きた時に、そこに貴族が絡む場合は、たいていこの機関が裁きを取り扱う。

 当然ながら、法律の適用と運用、取り扱う裁きへの対応は慎重かつ峻厳なものと言われる。

 統治者であり特権階級と言われる貴族を扱うのだ。

 誤審や冤罪はあってはならない。

 同時に、貴族相手であっても怯んではならず、法を犯したならば断固とした審議を下さねばならない。

 そのため、調査は微に入り細にわたる。

 平民であるトオルには本来無縁のものであるはずだった。

 だが、彼らがやってきた理由、その原因が奥方関連ならば、全く無縁というわけにはいかない。

 その原因は、おそらくトモノリに見せた奥方の日記や手紙にあるのだろうから。



(けど)

 疑問を抱く。

(三ヶ月先じゃなかったのか?)

 受理されるまでにそれくらいはかかるだろうとトモノリは言っていた。

 しかし、届け出てから、いいとこ二ヶ月である。

 予定より一ヶ月早い。

 いや、受理されてからここまで到着するまでの時間を考えれば、もっと早く受理されてると考えた方が良いだろう。

 せいぜい一ヶ月ほどしか受理までかかってない。

 いったい何があったのかと思ってしまった。

 その疑問への答えもないままに、質問をされていく。



「それでは尋ねていきたい。

 その前に、説明をしておく」

 貴族法院の者が口を開いた。

「事情聴取や尋問において、我々は虚偽発見の魔術を用いる。

 これにより嘘は見破られる。

 何事も正直に話した方がよい、と先に申し伝えておく。

 もし嘘を述べたなら、事実と異なる事を口にしたなら、それだけで虚偽罪が適用される。

 良いかね?」

「はい…………わかりました」

 拒否するつもりも、出鱈目を言うつもりもない。

 だが、さすがに喉が渇いていった。

「では、早速魔術を用いる。

 質問はそれからだ」

 付き添いできていたのであろう魔術師が、呪文を唱え、指で何も無い空間に呪紋を描いていく。

 それが効果を現すと、「用意が調いました」と発言する。

 トオルへの事情聴取はそこから始まった。



 質問の内容はそれほど込み入ったものではなかった。

 この館に、領主に仕えた理由と期間。

 今回の事件というか訴えにどのように関わっているか。

 領主が手にしてる奥方の日記の入手はどのようにして行ったのか。

 訴えられた奥方について知ってる事や、日頃どのような言動行動をしていたか。

 聞かれた事に正直に答え、可能な限り正確に伝えようとつとめた。

 その結果、奥方が連れてきた者達を捕らえ、穏やかとは言い難い手段で情報を吐き出させたこと。

 そもそもそれをやったのが、鬱憤晴らしに何か弱みを握ろうと思ったこと。

 とはいえ、それで奥方を始末しようとまでは思ってなかったこと。

 たんに嫌がらせでもやりかえせればと思っていた…………といった事も口にする事となった。

 聞き出してる貴族法院の者も、同室のトモノリや執事も呆れ顔となっていった。

 また、日記や手紙の入手方法が、さすがに合法的とは言い難い事に眉をひそめられた。

 魔術でしっかり眠らせ、それから部屋の中を探し回ったというのは、あまり褒められたものではないだろう。

 そうは言いつつも、

「だが……」

と言葉を区切る。

「下の者達から聞き出した情報をもとに、という事だしな。

 事が事だから、やむをえない緊急事態、あるいは緊急避難として扱う事になるかな」

 本来なら、こういう強引な手段で手に入れたものを証拠として扱うかどうかは悩ましいものだった。

 少なくとも、入手した経緯そのものは、不法侵入と窃盗と言えなくもない。

 一言であらわすと、強盗となる。

 それはそれで罪に問われてもおかしくない事であった。

 なのだが、今回の場合は緊急事態による措置として扱う事になりそうだった。

「何せ内容が内容なので。

 放置した場合、より酷い状況になっていただろう。

 それを考えると、最悪の事態を防ぐために事前に行動したと判断する。

 むしろ、何もしないでいた方が問題だったかもしれぬ」

 確かに人として控えねばならない行為であろう。

 法律としても、裁かねばならない事である。

 だが、より大きな問題や、その後に続発するであろう事件を事前に食い止めるためであれば、その功績と相殺される。

 たまたま偶然であろうと、知り得た情報によって行動した結果、確かな証拠が出て来た。

 ならば、そこに至るまでの罪は、問題の早期発見によって打ち消される。

「ま、出来るなら先に領主殿や我々に一報を入れてくれれば、と思うがな」

 情報を聞き出した時点で、である。

 貴族法院への通報や訴えはさすがに無理ではあるが。

 だが、この一帯の司法権を扱う立場にある領主への報せはあってもよい事だった。

「それが無かったのはいただけないな。

 …………貴族法院としてはそう言うしかない」

 役目としてこれは言わねばならないのだろう。

 つまり、実際に処分をするつもりはない、という事である。

 それでもトオルは、「すいません」と頭を下げた。

 言ってる事は間違いではなかったからだ。

「すまんな、こっちも仕事なんでな。

 小言のようで申し訳ない」

 意外な言葉にトオルは軽く驚いた。

 仕事は仕事としてやっているのだろうが、性格が悪いという事はないように思えた。

「だが、これで聴取しなければならん者達が増えたな。

 あとで牢屋にも案内してもらいたい」

 面倒くささが声ににじんでいた。



「さて」

 トオルに目を戻した法院の男は、あらためて説明をしていった。

「現時点での聴取は以上だ。

 今後何かあれば、何か発見すれば再度聴取をする事もある。

 拒否は認められない。

 そちらの都合や空いてる時間などを考慮はするが、必ず聞き取りには応じてもらう。

 扱う事件が事件なのでな。

 出来れば自発的な協力を願いたい」

 断る理由もないのでトオルは承諾した。

「よろしい。

 では、質問は以上だ。

 今後も必要な場合は証言を求めるが、それは今後の展開次第だ。

 また、必要とあれば法廷での発言も要求する。

 法廷では、虚偽発見の魔術の他に、真実を述べるよう強制する魔術を用いる可能性もある。

 開かれる法廷限定の効果をつけてのものだが。

 証人として出廷する場合、これを受けてもらう事もある。

 それも受け入れてもらいたい」

「法廷ですか」

「ああ、法廷だ。

 君は今回の事件の第一発見者だ。

 知ってる事を証言する義務がある」

 ずいぶん大事になったものだと驚くしかない。

「事件としてはかなり重要な部類に入る。

 規模は小さいが、国の根幹に関わる事だからな。

 どんな事があっても真相の解明をしないといけない」

 その言葉通りであった。

 今回、奥方が仕組んでいた事はそれだけのものである。

 貴族法院が乗り込んでくるほどに。

 後で知る事になるが、だからこそ受理までの時間が早かったのだ。

 事が国家の根幹である貴族の立場を脅かすものであったのだから。

 規模の大小は全く関係がない。

 それが起こったかどうかで判断されたのだろう。



(こら、最後まで付き合うしかないな)

 自分が引き当ててしまった事件について、終わるまで逃げられない事を感じた。

(しかし、よくあんな事考えるよ)

 起こった……というか起こそうとしていた事についてはそう思う。

 感心はするが尊敬はできない。

 軽蔑や呆れの方ならいくらでも出て来るが。

 まさか、この支倉家を乗っ取ろうと画策していたなんて、想像もできなかった。



 手段としては稚拙というか、「これで上手くいくのか?」と疑問を抱くものだったが。

 それでも事は進んでいたし、実際館の中での発言権は奥方が握っていたようにも見える。

 ゴリ押しというかゴネ得というか。

 嫌みに嫌がらせが結構な効果をあげてるようには思えた。

 そのままだったら成功していたかもしれない。

 それがこんな事になるとは、奥方も想像はしていなかっただろう。

 トオルとてこんな事になるとは思っていなかった。


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