レベル45 準備のために行ったり来たり
「ただいま」
「おう、帰ってきたか」
周旋屋に顔を出すと、いつも通り受付のおっさんが出迎えてくれた。
言ってはなんだが、なんで綺麗なネーチャンじゃないんだろうと思ってしまう。
口には出さないが。
「で、他の連中はどうしたんだ」
すぐにその事に気づいたおっさんが尋ねてくる。
「その事なんだけど」
良いながら書状を出して事情を説明する。
すぐにおっさんは書状を受け取って奥へと引っ込んでいった。
より立場が上の者に話してどうするかを決めるのだろう。
なるべく急ぎたいが、こればかりはどうにもならない。
(まあ、それならそれで)
一度旅支度をほどいてゆっくりしようと思った。
どの道、マサルにコウジを待たねばならない。
その子達を引き連れてるマサト達の帰還までまだ時間がある。
それまでにやるべき事をやっておかねばならなかった。
荷物を保管庫に預け、町に繰り出す。
特別何かがあるというわけではないが、屋台の料理などを久しぶりに楽しむ事ができた。
今回の仕事で、日当六千銅貨の報酬をおよそ一ヶ月分は受け取っている。
一食二食買い食いをしても困らない程度の余裕はある。
ただ、今回はそれだけが目的ではない。
行商人を探して話しをつけねばならない。
装備や薬草などもある程度買い込んでおきたい。
それを考えると、時間の余裕はそれほどない。
まずは行商人を捜さないといけない。
いる場所はだいたい決まっているが、問題は町に今いるかどうか。
行商人なので、あちこち出回ってる事の方が多い。
(いなかったら、マサトに頼むしかないかな)
顔見知りのようだったので、言伝を頼む事になるかもしれなかった。
もっとも、マサトもそれまで町にいるかどうか分からない。
仕事が入れば、町の外に向かう事もある。
そうなったらどうするかは考えていなかった。
(どうしたもんだかな)
とりあえず市場で探してみる事にする。
駄目なら駄目でその時考える事にした。
幸い行商人は市場にいてくれた。
いつも通りに店を広げ、村から仕入れてきたであろう野菜などを売っている。
「こんちは」
声をかけると行商人も「やあ」と応じてくれた。
「最近見なかったけど、仕事が忙しかったのか?」
「まあ、そんな所です。
町の外で泊まりがけの仕事があったんで」
「それは大変だ」
自分自身あちこち動き回ってるからだろう、笑いながらも同情をしてくれる。
「それより、ちょっとお願いしたい事があって」
「どうした、急に」
「仕事の事なんだけど…………」
行商人もその話にのってくる。
「聞かせてくれ」
トオルの話しに行商人は、頷きながら聞いていく。
三十分と経たずに終わった行商人との話は、「それなら行ってみよう」という事で終わった。
もともと巡回路の一つであるのでそれほど抵抗もないのだろう。
「助かります」
「なに、こっちも儲けられるならね」
それが一番の理由であるにしても、話にのってくれるからありがたい。
「それじゃ、また今度」
「ああ。素材をよろしくな」
行商人とはそこで別れた。
おかげで市場を巡って必要な物を調達する時間が出来た。
夕方になる前には周旋屋に戻り、マサト達が戻るのを待つ。
受付のおっさんにも、来たら声をかけてくれるよう頼み、広間の方で時間を潰した。
こういう時にゲームがないのが実につらい。
漫画にアニメもない。
小説や絵画、それと音楽はあるが、それらも手軽に楽しめるものとは言い難い。
娯楽が少ない世界である。
だから、酒や博打などが楽しみとなっていくのだろう。
性風俗産業も。
この町にもそういった場所がちゃんとある。
繁華街、歓楽街と呼び名は様々だが、一定以上の大きさの町にはだいたいそれらが揃っている。
それらをするには時間が足りないが。
一番手軽なのは酒だが、飲んでしまったら話しをまともにする事が出来なくなる。
ただひたすらに時間が過ぎ去るのを待つしかない。
(やれやれ……)
早くも待ちくたびれはじめたトオルは、机に突っ伏してその時を待った。
実時間にしてみればそれほど待ってるわけではないはずだった。
だが、マサト達が戻ってくる頃には、待ちくたびれてテーブルに伏せってしまっていた。
「お待たせしたみたいだな」
声をかけられてようやく気づく事ができた。
「おかえり」
とりあえずそう言ってマサト達を見る。
マサトの仲間達と、その後ろにマサル達が見えた。
「そっちも元気そうだな」
「ああ、おかげで助かったよ」
その言葉に四人が照れた顔をする。
一ヶ月近くの間マサトと共に行動してもらっていたが、どうやら酷い扱いは受けていなかったようだ。
マサトと仲間ならおかしな事はしないとは思っていたが。
「それで、話しがあるって聞いたけど」
余計な事は言わずにすぐに本題に入ってくれた。
「実は、こっちの方でモンスター退治をやる事になって。
マサル達を連れていこうと思ってるんだ」
「なるほどね」
頷いてすぐに、
「いいよ。
もともとトオルの所の人間だし。
俺が反対する理由もないしな」
「ありがとう、助かるよ」
妙な因縁をふっかけてこないのがありがたい。
マサルとコウジ、チトセとアツシは名残惜しそうな顔をしている。
よほど懐いてしまったのだろう。
その気持ちもよく分かった。
(できれば一緒に来て欲しいけど)
そう思うも、言えるはずもなく。
マサト達とはそこでお別れとなった。
これから食事なのか、それとももう寝るのか。
どうするかは分からないが、マサト達にはマサト達でやる事がある。
それを止めるわけにはいかなかった。
「それで、兄貴。
またこれから一緒にモンスターの所に行く事になるの?」
「まあ、そうなんだけど」
早速来た質問に答えていく。
これからどこでモンスターと戦う事になるのかを。
話が終わると、マサルとコウジは特に抵抗なく承諾をした。
チトセとアツシはさすがに顔をしかめたが。
二人が村から抜け出してここにいる理由が、仕事先になる領主の館なのだから当たり前だった。
なので、事情を話し、問題の所在地であり根源が誰なのか、それにどう対処してるのかを伝えていく。
他にも大勢がいるので肝心な部分は隠すしかなかったが、それでもおおよその事は伝わったようだった。
「じゃあ、その人達は」
「今は大人しくしてる」
チトセの問いかけにそう答えると、アツシ共々安心したようだった。
「それなら行っても大丈夫かな」
アツシも少しは乗り気になってくれたようだった。
もとより、二人は強制的にでも連れていかねばならない。
町に残っても生きていけないのだから。
マサトについていくために、周旋屋に登録はしている。
けれど、それはあくまで必要だからやっただけで、作業員として働いていけるわけではない。
レベル1やレベル2の技能技術ももってるが、それらは作業に使えるものではなかった。
技術や技能が必要のない仕事もあるが、その場合は体力などが求められる。
今の二人はそれらを持ち合わせていない。
何かしら稼ごうと思ったら、一緒に行動させるしかなかった。
それが無理矢理にならなくて助かった。
やる気の出ない事をやらされてまともに動ける人間は滅多にいない。
やらせても、効率は絶対に落ちる。
(これならどうにかなるかな)
乗り気な四人を見て、今後の作業も何とかやっていけそうだった。




