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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その3 懐かしきというほどでもない故郷のためというわけでもなく
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レベル41 何かないかと探ってみたら、思いがけないものが出てきたようでして

「ちょっと、どこに行ったのよ!」

 朝っぱらから奥方の苛立った声が館内にひろがっていく。

 客間に陣取っていた連中が消えてご立腹のようだった。

 もぬけの殻になってる客間に入り込み、昨夜までいたはずの者達を探そうとする。

 そんな彼女の目に、机の上の紙切れがとまった。

 それを手に取った彼女は、書かれた短い言葉を見て眉をつり上げていく。

「『申し訳ありませんが、我々にここの仕事は無理でした』…………何を言ってるのよ!」

 読み上げて更に怒りが増大したのか、手にした紙を握りしめていく。

 しわが寄るどころではなくなった紙は、めり込んだ指によって破れてしまった。

 大声に集まってきた者達が、その様子を見て呆れたり驚いたり尻込みしたりしていく。

 その中には領主のトモノリの姿もあった。

「いったいどうしたんだ」

 さすがに奥方の様子に静観をしているわけにはいかなかったのだろう。

 返答は、

「うるさいわね!」

という怒声であった。

 気遣う相手への態度としては、どうひいき目に見ても適切とは言い難い。

 トモノリも近づいていったはいいものの、奥方の手前で立ち止まってしまう。

 そんなトモノリをはじめとする周囲の事が目に入らない奥方は、

「これじゃ予定が……」

などと呟いていく。

 いや、本人はそのつもりであっただろうが、抑えきれない感情の奔流によって普通に聞き取れる声となっていた。

「予定?

 いったい、なんの?」

「ちょっとした事よ」

 そう言って奥方は答えをはぐらかした。

 トモノリは首をかしげるも、「そうか」とだけ言って追求はしなかった。

 その場に飛び込んできたカズトの、

「ねえ、食事はまだなの?!」

という苛立った声も、その場の空気を別方向へと向けていく。

 即座に奥方が、

「そうね、朝食の時間だったわね」

と話にのった事で、メイド長が呼ばれる。

「朝食の用意はどうなってるの?」

「ただいま準備中です。

 ほどなく用意が出来るかと」

「まだ出来てなかったの!」

 怒鳴り声がまた上がる。

「こんな時くらいしっかりやっていなさいよ」

 どんな時なのかは定かでないが、奥方の憤りは止まらないようだった。

 メイド長も「申し訳ありません」と頭を下げる。

 とはいえメイド長と手伝いが二人だけ。

 そんな状況で全てを用意する事など不可能である。

 食事以外にもやらねばならない作業はある。

 それをこなして料理まで用意するとなると、どうしても手に余る。

 ましてメイド長などは専門の料理人ではない。

 出来なくはないが、メイド達に指示を出すのが仕事である。

 そんな彼女が実際に作業を行わねばならない状態の方が問題だった。

 原因を追及していけば、奥方の態度のせいである。

 朝の準備がろくろく出来ないほど逼迫しているのは、それが原因で人がいなくなったからなのだから。

 それに気づいてないのか、気づいていて無視しているのか。

 奥方は、ただただ不機嫌そうに食堂へと向かっていく。

「とにかく、早く準備をしなさい。

 いつまでも待たせないで」

「ボクもお腹減ったよ」

 母親に追従して文句を言うカズト。

 それに対してもメイド長は一言、

「かしこまりました」

と言うだけだった。



 それを見ていたトオルは、ため息を吐くしかなかった。

(少しは追求しろよ)

 奥方が口走った「予定」という言葉。

 そこをもう少し問いただしてもらいたかったのだが。

 なかなか思うようにはいかない。

 もとより、トモノリに何か期待してるわけでもなかったが。

 ただ、いくらか知りえた情報のせいで、トオルは事を嘆いて見ているだけではいられなくなっていた。



 昨夜。

 小屋に連れ込んだ奥方が連れてきた者達から、様々な方法を使って話しを聞き出した。

 最初はいきがっていた者達であるが、トオルが示した本気によって次第に口を滑らかにした。

 それらがどこまで本当かはまだ分からない。

 だが、彼らが奥方によって集められた事、そもそも奥方の一族の者である事が分かった。

 奥方の指示で、

『とにかく暴れるように』

と言われてる事も。

 なぜそんな事を、と思うのだが、それについては知らぬ存ぜぬの一点張り。

 更に熱烈に聞き出しても決して答えはしなかった。

 口が硬いのか、本気で知らないのか。

 どちらなのかは分からなかったが、奥方に何かしら隠し事があるのは感じられた。

 それを調べる事ができないものかと思った。

 最後に再び『安息の闇』を用いて黙らせ、小屋に放置してきた。

 手足は縛ったまま、毛布一枚かけないで。

 年が明けた直後の夜であるが、かわいそうとはこれっぽっちも思わなかった。



 それから朝が来て奥方の怒鳴り声を聞いて、食事となり。

 再びその日の仕事が始まった。

 人が消えた事で当然足りなくなった人手について、トオル達を元の仕事に戻そうという話しも出た。

 しかし奥方による反対でそれは潰えてしまった。

 結局は庭の草刈り芝刈りに追い出されたまま、トオル達は今日も外に出る事になってしまう。

 その方が都合がよくて助かったが。



 小屋の方に顔を出して様子を見る。

 捕まえていた連中がちゃんといる事を、拘束した縄などが解けてたりゆるんでないかも確かめる。

 それから、持ってきたパンと水を口に入れていく。

 猿轡を一人一人外して、それで食わせていく。

 ついでに縛ったままトイレにも行かせた。

 トオルの監視と、「馬鹿な事をしたら殺す」という言葉を添えて。

 捕らえた女にはレンとサツキに監視をさせた。

 昨夜の事があるからか、全員が大人しくしたがった。

 それが終わってから再びサツキの魔術で眠らせる。

 起こしておけばそれだけ面倒が増える。

 それからトオル達はネズミ狩りに向かっていった。

 今日も素材の確保のために。

(帰りにまた魔術をかけてもらうか)

 そんな事を考えながら、大八車を引いて昨日の場所へと向かう。

 今日も今日でやろうと思ってる事がある。

 そのために、素材は用意しておきたかった。



 そして夜が来て。

 昨夜と同じく鍵を拝借して奥方の部屋へ。

 音を立てないように蝶番に油をさしてから、扉を開ける。

 それからサツキに魔術を使って眠りを確実なものにしてもらう。

 既に寝てる相手にどれだけ意味があるのかと思ったが、念には念を入れておいた。

 それから目隠しと猿轡と耳栓を。

 手首と足首も縛って動けないようにしていく。

 事が終われば外すつもりではあったが、終わるまで奥方が静かにしていてくれる保証もない。

 それからロウソクやらで部屋を明るくして部屋の中の捜索を始めた。

 奥方が何かしら記録をしてないかを探るためである。

(日記でも何でもいいからあればいいけど)

 奥方が連れてきた使用人達から聞いた話からすると、何事かを企んでる素振りがあるようだった。

 それをどうにかして見つけられれば、と思っての事である。

 そんな都合良くいくとは思わなかったが、それでも何かあればと思わずにはいられない。

 部屋の中にある戸棚や小物入れなどを開いていく。

 走り書きでも何でもよかった。

 とにかく何かがないかと。

 仕返しするにしても、何かしら材料がないとやってられない。

 それを手に入れる事が出来れば、この先やりやすくなる。

 そんな思いから始めた夜中の捜索は、奥方の日記を見つけた事で予想以上の大事へと発展していった。


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