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レベル40 こんな事をするのも気が引けますが

 想定外の出来事もあったが、それから適当に始末をして庭の方へと戻っていく。

 とは言っても、庭と屋外の明確な差はない。

 敷地は結構広く、庭と言われる場所はかなり広い。

 柵や堀なども崩れてる所が多く、野原や茂みとの境目は曖昧だ。

 モンスターのせいで開拓や整備もなかなかできず、壊された所の整備も進まない。

 結局庭と言われる場所がどこからどこまでなのか誰も分からなくなっている。

 そんな庭に戻ってきたトオル達は、素材を適当な所に隠して鎌を手にとる。

 一応は命じられた仕事をしておかないと、言い訳も出来なくなる。

 奥方あたりの命令なぞどうでもいいのだが、周旋屋として引き受けてる仕事でもある。

 蔑ろにするわけにはいかなかった。

「やってらんねえなあ……」

 本音をもらしながら腰をかがめていく。

 モンスターを倒した後である。

 疲れはそれなりにあった。

 そうでなくても人の手で片付けるには広い。

 時期が時期だけにかなり枯れてはいるが、それでも雑草を片付けてまとめていくのは結構な労力になる。

 それを今からやるとなると気が滅入っていった。



 外が暗くなり、ようやく仕事が終わり、食事にありつく。

 使用人用の食堂に向かったトオル達は、ようやく一息吐くことが出来た。

「疲れた……」

「死にそう……」

 食卓に突っ伏すトオルとサトシは、食事が出て来るのをひたすらに待った。

 そちらの方は、周旋屋から来てる作業員の方が用意をしてるはずだった。

 メイド長の手伝いという形であるが。

 二人いる彼女らは、トオル達と違ってモンスターを相手にする冒険者ではない。

 純然たる作業員として周旋屋に登録してる者達である。

 そのため、室内の作業などの担当から外される事がなかった。

 トオル達と違って、奥方や坊ちゃんの機嫌を損ねるような事をしなかったのも大きい。

 そんな彼女らが運んでくる料理を、四人は心待ちにしていた。

 しかし。

 料理を運んできた彼女らの浮かない顔が気になった。

「何かあったのか?」

 聞くまでもないと思いつつも尋ねてしまう。

 どうせ奥方や坊ちゃんが何かしらしでかしたのだろうとは思ったが。

 だが、答えは少しばかり違った。

「その、実は」

「新しい人達が……」

 話しは少々意外な方向に進んでいった。



 奥方が連れてきた者達は、使用人という触れ込みで作業に入ってきた。

 しかし、仕事らしい仕事はせず、むしろ仕事を増やすほどであった。

 言われた事はやらない、やるべきでない事をやる。

 メイド長が注意すれば、その場ではあやまるが態度や行動を変える事はない。

 挙げ句に、「指示が悪い」「何をさせたいんですか」などと詰め寄る始末。

 メイド長が一喝したらしたで、今度は奥方がそんなメイド長に文句を言う。

「あなたの指示が悪いからでしょう」

 基本、主に逆らわないメイド長は、それに頭を下げて謝罪する。

 新しい使用人が作業に入ってまだ一日目だというのに、先行きが思いやられる。

 さすがに手伝いで来ている二人は、これはどうにかしないと、と言ったのだが。

「奥様の指示であるなら従うしかありません」

 どうやらそんな新人を受け入れて仕事をしていくつもりのようだった。

 唖然として呆れるしかなかった。

 いくら指示とはいえ、それを全て受け入れていけるわけがない。

 仕事を仕事としてこなせないだけでなく、失敗を繰り返してやらなくて良い作業まで増やす連中である。

 奥方がいない間にようやく整理がついてきた館内が、また再び散らかっていく事になる。

 それでもメイド長は、

「指示であれば従うのが勤めです」

と頑として譲らない。

 そんなメイド長についてる二人は、

「これじゃあね」

「他の人が辞めたのも分かるわ」

とため息を漏らした。

 聞いてるトオルも呆れるしかなかった。

 仕事をしてるようで全くしない。

 していても、作業をゆっくりと進める。

 典型的な仕事の妨害、サボりでしかない。

 そんなものを受け入れるなんてどうかしてる、としか思えなかった。



 同じ事は、他の所でも同じようだった。

「こっちも似たようなもんだ」

 下男の所から食堂にきた周旋屋の作業員が、嘆きながら語っていった。

 仕事はしない、指示も聞かない、何かしら作業はしても進みが遅い。

 作業で道具を使うといって持って行き、その先で無くしたと言い出していく。

 補修のための材料も、いつの間にか無くなったりもした。

 無くなる直前まで材料置き場に新人達がいたので、誰がやったのかは明白である。

 少しどうにかならないものかと下男に訴えてみても、

「奥様がよこした連中だ。

 上手くやっていくしかない」

 そう言って本人達をどうにかしようとはしない。

 一応注意などはするが、仕事から外そうとはしない。

 奥方はあらわれなかったが、いてもいなくても同じであった。

 結局、新しく来た連中に作業の邪魔をされて一日が終わったようなものだった。

「そりゃ、この家に仕えてるんだからそうしないといけないんだろうが。

 あれじゃ、仕事になんてならねえな」

 明日からどうすんだろ、とメシを食いながら呟いていく。



 これじゃ執事の所も似たようなもんだろう、とトオルは思った。

 そちらに従事してる者はいないので確かめようがなかったが。

 ただ、奥方の連れてきた連中がこんな調子なら、おそらく似たような事になってるだろうと思った。

 案の定というか。

 廊下ですれ違った執事は、大分くたびれてるように見えた。

 いったい何が起こったのか、想像すらもしたくなかった。



(まあ、仕えてるってそういう事なのかもしれないけど)

 いくら何でも、こんなブラックな条件で働き続けるというのはどういうつもりなのかと思ってしまった。

 それが貴族に仕える者の勤めなのかもしれないが、トオルには理解できないものがあった。

 また、奥方が連れてきた者達の態度も気になった。

 なぜそんな事をするのか?

 本当に仕事をするつもりがあるなら、作業員達が口にしたような態度や発言はしないはずだった。

 例え言ったとしても、仕事はこなしていくものだ。

 だが、そんな所がこれっぽっちも聞こえてこない。

 何を考えてそんな事をしてるのかが分からなかった。

(まあ、あとで聞くしかないか)

 こればかりは本人に正直に喋ってもらうしかない。

 その為にわざわざモンスターまで倒してきたのだ。

 準備は出来ている。

(とりあえず今夜だな)



 館内が寝静まった頃。

 ベッドを抜け出したトオルは、執事の部屋へと向かっていく。

 部屋には鍵がかけられていたが、そこの鍵は既に持っている。

 執事の部屋で作業をしていた時に無断で借用しておいたのだ。

 奥方への仕返しを考えていた時に、とりあえずこれだけは持っておくかと。

 執事の部屋には、館の中の主な場所の鍵が保管されている。

 それを手に入れれば、館内はかなり自由に動き回る事ができる。

 だが、全部がなくなったらさすがにあやしまれる。

 なので、執事の部屋に入るための鍵だけを拝借していた。

 執事の部屋に入り、鍵のある場所へと向かっていく。

 仕事のための部屋なので、執事などはいない。

 鍵のしまってある箱を探し、中から必要なものを取り出していく。

 それらを持って部屋を出る。



 客間の方に移動したトオルを、既に集まっていた仲間が迎える。

「お疲れ、兄貴」

「おう、お疲れ。

 そんじゃ、やるぞ」

 サトシが頷く。

 サツキとレンも続く。

 それを見てトオルは、来客用の部屋を開けた。

 本来なら、文字通り来客を泊めるための部屋である。

 だが奥方が、他に部屋が空いていないのだから、と言って連れてきた使用人達をここに入れていた。

 領主への客をもてなすための部屋である。

 トオルたちが使ってる使用人用の部屋とは雲泥の差がある。

 使用人への待遇としてはありえないものだった。

 その部屋を開けて、中に入る。

 灯りはついてないが、中には確かに人の気配があった。

 それを見てトオルは、

「やってくれ」

とサツキに指示を出す。

 それに従って魔術が用いられていく。

 今日採取してきた素材を触媒として。

 客間に拡がった薄い闇が、寝入ってる奥方の使用人達を覆っていく。

 使う必要もないほど使用人達はぐっすりと寝込んでいるようだったが、念には念を入れた。

 やり過ぎと思うくらいに徹底してやれば、その分失敗の可能性は減る。

 一番怖いのは「この程度でいいだろう」という安直な思い込み。

 本当にその程度でいいのかなんて、やってみるまで分からない。

 だから、わざわざ素材を手に入れるためにモンスターを倒しにいった。

 触媒による魔術の強化のために。

 その甲斐あって、奥方の連れてきた使用人達は、縛り上げられても決して目を覚ますことがなかった。

 途中で起きても大丈夫なように目隠しや猿轡も忘れない。



 そいつらを外に運び出し、用意してもらった大八車に乗っけていく。

 さすがに数人の人間を運ぶのはきつかった。

 それでもそいつらを館から離れた所にある小屋へと運んでいく。

 庭の外れにある建物で、元々は庭師などが使っていたものだったようだ。

 草刈りあどに用いる道具が残っているが、現在使用している者はいない。

 だからこそ、話を聞き出すには丁度良かった。

 その中に使用人達を担いでいき、床におろしていく。

(そんじゃ、やるか)

 これから、多少は荒っぽいやり方で話しを聞き出そうとをしていた。

 だからこそ、こういう場所があるのがありがたかった。

 多少騒々しくなるだろうが、ここならそれほど問題もない。

 それに小屋の中なので音が多少出ても問題はない。

 夜中なので人もいない。

 それでも、見張りとしてサトシとレンには外の様子を伺ってもらう。

 誰かが来た時のために、モンスターが接近してきた時のために。

 これからやる事をあまり見ない方が良いと考えたのも理由の一つである。

(上手く行くかな)

 上手く聞き出せるか不安はあるがやるしかない。

 そのために、まず一人に目を覚ましてもらおうと思った。

 適当な一人を選んで、トオルはお目覚めを促した。

 拳骨で。

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