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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その3 懐かしきというほどでもない故郷のためというわけでもなく
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レベル39 事前準備のために体を動かしていきます

 掘った穴に餌になる野菜の切れ端などを放り込む。

 一週間か二週間ぶりであるにも関わらず、長いことやってなかった気がしてしまう。

 動きが覚束ない感覚があり、上手くやれるのか不安になる。

(こりゃ、きついかも)

 やり方を忘れてるわけではないが、体が動くか不安を抱く。

 とはいえ、そうそう遅れをとるとは思いはしなかったが。

 そんな素振りを見せないように気をつけながら、指示を出していく。

「サツキは解体と燻しの準備をしていてくれ。

 レンも同じく。

 やり方はサツキに教えてもらってくれ」

「はい」

「はいよ」

 返事を聞いて頷く。

 サトシには、

「お前は出て来たのを頼むぞ」

とモンスターの相手を頼む。

 久しぶりのモンスター退治はこうして始まった。



 やり方自体は同じなので、手間取る事は少ない。

 やってきた妖ネズミを倒して、解体する。

 保存保管がしやすいように燻すつもりだったので、その準備を最初からしてもいる。

 レンにとってはこれが初めてになるので少し心配だったが、そこは信じるしかなかった。

 ただ、料理などで包丁を扱ってたというだけあって、慣れると次々に解体をしていく。

 手際の良さはこの場にいないマサルとコウジにも劣らない。

 おかげでトオルもサトシも、解体の手伝いに入る必要性がそれほど無かった。

 おかげで、午前中で必要と思える数を確保する事が出来た。



「けっこう頑張ったな」

 倒した妖ネズミと、そこから取った素材の数に軽く驚く。

 少し遅めに始める事となったモンスター退治であるが、結果は予想を上回った。

 昼を前にする頃に到達した数は二百に達しようとしている。

 金を稼ぐためではないから程よく切り上げるつもりだったのだが。

 結果からすれば十分な稼ぎとなっていた。

 このまま午後まで頑張れば、一日に必要な儲けを出すことも出来るだろう。

 解体と平行していた素材の燻しも順調で、最初に採取したものはそろそろ出来上がろうとしている。

 それを見てトオルは予定通りに事が起こせそうだと思った。

「これなら今夜あたりにやれるな」

 触媒として見た場合、十分過ぎる量である。

 やろうとしてる事を考えれば過分と言えた。

 それを見て、そろそろ切り上げようと思った。

 これだけをしてる訳にもいかない。

 一応は仕事である以上、命じられた草刈りなどもこなさねばならない。

 周旋屋経由での仕事でもある。

 雇用主(の関係者)が最悪でも、それなりにやる事はやらねばならない。

 だが、それより先に、片付けねばならない問題がやってきてしまった。



 見晴らしの良い草原だった事が幸いだった。

 事前に接近を察知する事が出来る。

 それが近づいて来るのを気づく事が出来た。

 だが、良いこととはとても言えない。

「……やべえ」

 呟いたトオルは、盾を構えてそいつの方に向かっていく。

 現状、あまり出会いたくないモンスターだった。

 ある程度のところで止まると、腰を落として盾を構えた。

「サツキ、魔術の準備!」

 大声で叫ぶ。

 顔を上げたサツキは、「は、はい」と言ってトオルの後ろ数メートルの所まで進む。

「あの、どこに」

「あれだ」

 切っ先で方向を示し、何に向けて使うのかを伝える。

「素材を使え。遠慮するな」

「はい…………!」

 理由を察したサツキがあわてて魔術を使っていく。

 最大の効果を持たせた『安息の闇』を放つ。

 それは確実に接近するモンスターを包み込んでいった。

 しかし、相手もそれなり強力なモンスターのせいか、効果が完全にあらわれてるとは言い難い。

 動きは格段に鈍くなったが、それでもトオルの方へと向かってきている。

「サトシ、あいつを止めたら槍で突け」

「分かった!」

 援護を求めてそう言うと、トオルは更に一歩二歩と前に出る。

 先に自分が相手にして気を引きつけねばならない。

 盾を持たないサトシに攻撃が向かってしまったら、大惨事になってしまう。

 先に食い止め、注意を引いてからサトシの援護。

 それが現状で最善と思えた。

 しかし。



 ヒュン



 風切り音を残して何かが飛んでいく。

 それは、のろのろと接近していたモンスターに当たった。

 結構な衝撃だったらしく、モンスターはよたつく。

 妖ネズミよりも大きい、中型犬と大型犬の間くらいの大きさが。

 妖犬という、文字通り犬のようなモンスターは、体力も力も運動能力も格段に高い。

 トオルもギリギリの勝負を強いられる。

 そんな手強い妖犬が、魔術の影響もあったにせよ簡単によろめいた。

「え?」

 何が、と思って振り向いたら、レンが腕を振り回しているのが見えた。

 その腕が犬に向けて何かを放つ。

 手首から長く伸びた何か────事前に持っていた帯のような物────から放たれた物体が、再び妖犬に当たる。

 それがまた妖犬を揺るがした。

「…………投石器?」

 他の冒険者が持ってるのを見た事があった。

 長い帯のようなものに見えるそれは、石を投げるための簡易射撃武器である。

 妖犬を襲ってるのは、そこから放たれた石なのだろう。

 勢いをつけて投げつけられた石なら、十分な殺傷能力がある。

 例え女の力であっても、遠心力を与えられたならば、凶器として通用する。

 それを見てトオルは新たな指示を出した。

「サツキ、もう一回魔術を使え。

 サトシは一緒に来い」

 返事も聞かずにトオルは走り出し、よたつく妖犬に向かっていった。

 突進を警戒して盾をかざしたままなので動きにくいが、距離は確実に縮まる。

 動きにくいので多少時間がかかるが、それも今は都合が良かった。

 サツキの魔術が発動するのを待つ事が出来る。

 それが再びかかったようで、薄い闇が妖犬を包んでいく。

「かけました!」

 声が聞こえる。

 効果があったかどうかまでは分からない。

 だが、あったと信じて接近するしかない。

 妖犬はよたついている。

 頭を何度も下げ、その度にあげて、何とか前を見ようとする。

 足もふらつき、前に出るのがつらそうだった。

『安息の闇』の効果は完全ではないがそれなりに上がってるようだった。

 妖ネズミのように眠りつかないだけでも大したものである。

 睡魔と戦ってるであろう朦朧状態。

 それが今のトオルには最高の機会を提供してくれる。

 振り上げたマシェットを、よたつく妖犬の頭に振りおろす。

 普段なら滅多に命中しないそれが、造作もなく当たった。

 切っ先が分厚く硬い皮膚に辺り、その下の骨にめり込んでいく。

 鋭角の三角形をした刃がそれすら砕いていく。

 その衝撃で覚醒したのか、妖犬は瞬時に飛び退こうとする。

 トオルの一撃はそれより早く振りおろされ、妖犬の顔半分を抉っていった。



 ぐぎゃあああああああああああ!



 犬とは思えない絶叫がほとばしる。

 そこに横から突進してきたサトシの槍が襲う。

 腰に構え、走りながらの突進である。

 体もまだ成長しきってないサトシであるが、勢いをのせた一突きは妖犬の橫腹を貫いた。

 妖犬が苦悶に身をよじらせようとする。

 だが、サトシの槍があるのでそれもままならない。

「そのまま突き刺していろ!」

「分かった!」

 必死になって踏ん張るサトシのおかげで、妖犬の動きが大きく制限される。

 そんな妖犬に遠慮無くマシェットを振りおろしていった。

 頭に、肩に、首に。

 一振りごとに血飛沫が飛び、肉と骨を粉砕していく。

 そんな妖犬に、更にもうレンが接近していく。

 サトシとは逆の横側に接触し、ナイフを突き刺していく。

 まずは後ろ足。

 腿につきたて、刃を回して抉っていく。

 同じように、今度は前肢の付け根に突き立てる。

 人間で言う脇に入った刃は、そこにある筋肉や血管を切り裂いた。

 トオルとサトシによって動きを鈍らせていた妖犬は、抵抗する事もできずレンに動きを封じられた。

 それから一分二分は必死に暴れようとしていたが、それもかなわず足を折る。

 地面に突っ伏した妖犬は、横たわって無防備な腹を見せる事になった。

「サトシ、腹を突け、すぐに!」

「う、うん」

 言われて槍を引き抜いたサトシが、妖犬の腹に槍を突き刺した。

 そこにレンもナイフを突き刺す。

 トオルは、剥き出しになった首や喉にめがけて刃を振りおろしていった。

 三人がかりによる攻撃に、さしもの妖犬も終焉を迎えるしかない。

 突き出した前肢を力なく地面に落としたところで、戦闘が終わった。

 斬りかかっていた三人は、自分たちが肩で息をするほど必死になっていた事にようやく気づく。

 そうならざるえない程、妖犬は危険なモンスターであった。

 今回勝てたのは、奇跡に近い。

「やった…………な」

 倒れた妖犬を見て、トオルはようやくそれだけを口にした。



「それにしても」

 倒れた妖犬を囲むレンに目を向ける。

「凄いな、あの投石器。

 何かやってたのか?」

「いや、そんな大したもんじゃないよ」

 問いかけにレンは謙遜のようにそう言う。

「ただウチは狩人みたいな事もしてたから。

 色々教えてもらったんだ。

 ナイフの使い方とか、解体の仕方とかもね」

「へえ…………」

 詳しい事は分からないが、冒険者としてはうってつけの経験である。

「石投げでレンにかなう子はいませんでしたから」

 サツキの補足が入る。

「投石器を持ったレンには誰も近寄らなかったんです」

「いや、それはいいから」

 照れてるのか、レンはサツキの言葉を止めようとする。

 だが、そんな貴重な情報を聞かないわけにはいかない。

「実際、村ではどんな調子だったの、レンは」

 質問するトオルに、

「ええっとですね……」

 出来るだけ正確に伝えようとするサツキ。

 そんな二人の間でレンは、更に照れたように顔を赤くしていった。

「いや、だから、そういう事はいいってば」

 そんな調子で三人はあれこれと語り出していく。

 サトシが、

「これの解体はいいの?」

と妖犬を指で示すまで続いた。

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