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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その1 はてしなく地味な旅立ちっぽい何か
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レベル4 冒険者にはなりましたが、前世と何も変わってないかもしれません

 そんな事を経て町にたどり着く。

 冒険者としてやっていく自信を粉々にされたトオルだが、さりとて帰るわけにもいかない。

 飛び出してきた以上、引き返すのは気が引けた。

 だが、町でやっていくにしても伝手がない。



 この世界、生まれた場所で人生を終えるのが普通だ。

 村や町から外に出るものはほとんどいない。

 なので、村の外との接点を持つ者など基本的にいない。

 現代日本と違って、就職情報誌やネットがあるわけではないのだ。



 それでも町に出て仕事につくことはある。

 商人や職人、あるいはお屋敷の手伝いとして奉公に出るのだ。



 こういった場合、勤め先は村や家が相手と話し合って決める。

 村長や家長が窓口の役割を果たしている。

 勤め先や奉公先としても、この方がありがたい。

 身元がある程度は保証されるからだ。

 雇う側からすれば、むやみやたらに人を引き受けるわけにはいかないのだから。



 治安がそれほど良い世界ではない。

 ただ、これは前世の日本に比べればだ。

 転生後のこの世界も、犯罪がそこらで横行してるわけでもない。

 ただ、倫理や道徳をわきまえてる人間がなかなかいない。

 勤め先で物や金銭をちょろまかす者は珍しくない。

 怒鳴りあいや殴り合いも日常茶飯事だ。



 だから、ある程度信用のある相手を選ばねばならない。

 犯罪とまでいかない揉め事でも、無いにこしたことはない。

 でないと、無駄な騒動が発生し、余計な手間が増える。

 そういった信用調査も兼ねて、村や家が窓口になるのだ。

 こうやって人を見繕うのが常だった。



 村や家も、自分たちの信用に関わるからそれなりに人選はする。

 そういった手続きを踏まえた上での奉公となる。

 普通、村から町に出るというのはこういう形になる。

 言い方をかえると、勝手に飛び出した者を受け入れる所は、まず滅多にない。

 残念ながらトオルの場合、こういった方法で村を出たわけではない。

 そう簡単に勤め先が見つかるわけがなかった。



 必然的に、トオルの選択肢は一つしかなくなる。

(冒険者か…………)

 望んでいた事であったが、やはり戦闘を実際に見た後だと考えも変わる。

 あれはこの近隣で出没するモンスターでも強力な方だとは聞いている。

 そうそう滅多に出会う事もないと。

 それでもああいった事をやっていかねばならないのかと思うと気が重くなる。

 しくじったなあ、とあらためて思った。



 冒険者になる事そのものは簡単である。

「今日から冒険者です」

と名乗ればいい。

 審査や登録といったものがあるわけではない。

 国家資格でも民間検定もないのだ。

 なろうと思ったその瞬間に冒険者になる事は出来る。



 とはいえそれで仕事がやってくるわけではない。

 どんな仕事でもそうだが、実績や技術のない人間を雇う者はいない。

 名人や達人を自称する事は簡単だが。

 腕が伴って無ければどうしようもない。

 口が大きいだけの輩など、誰も求めてないのだ

 そんな奴に仕事など回ってくるわけがない。



 他の仕事でもこれは同じだろう。

 冒険者も例外ではないというだけだ。

 むしろ、明確な制度がないだけに、評判や実績が重要な要素になる。



 とはいえ、そんなもの成り立ての人間がもってるわけがない。

 前職などでそれなりの働きをしてた者ならともかく。

 そんなわけで、冒険者を斡旋する事業があったりする。

 需要と供給の関係で、求められてるから発生した仕事だった。

 とはいえ、基本的には人足を紹介する人入れ家業────周旋屋である。



 だいたいの仕事…………工房にしろ商店にしろ、そういった所は必要な人間を自分たちで確保している。

 それがいわゆる社員といった者になる。

 だが、一時的に人が必要な時がどうしても発生する。

 そういった所に人間を紹介するのが周旋屋である。



 冒険者の紹介業も基本的にはこういった周旋屋の仕事であった。

 むしろ冒険者は、数多くある業務の一つでしかない。

 そこに登録する事で、業務の斡旋を受ける事ができる。

 もちろん、その店の伝手の範囲でではあるが。



 だからこそ冒険者はなるべく規模の大きな、できれば数多くの町に店を持ってる系列店を選ぶ。

 今回、行商人に同行していた冒険者達は、割と大手に所属している者達だった。

 その彼らの紹介もあって、トオルも同じ周旋屋に登録する事になった。



「ま、一カ所だけにしておく必要もないけどな」

 登録はいくつかの周旋屋を掛け持ちしてもかまわないという。

 それによって仕事にあぶれないようにしている者も実際にいる。

 ただ、それだと店からの信用を得にくいのも確かで、よほど腕や能力がないなら避けた方がいいとも言われた。

 そのあたりは前世と同じだな、と思ったので登録先は当面一つに絞ろうと思った。



(つうか……)

 話を聞いててつくづく思う。

(これって、派遣会社じゃないのか?)

 あながち間違ってもいない考えだった。



 登録は本当に簡単だった。

 用紙に名前を書き、そこに書かれた事を守る事を制約すればよい。

 これらに呪いや魔法による強制力はないが、一応法律的な縛りは発生する。

 とはいえ内容はまっとうなもので、悪い事をするな、契約は守れ、守れなければ違約金などを支払え、といったものである。

 一般的な雇用契約と内容は変わらない。

 そのあたりは安心できた。



 また、ありがたいのは、これによって周旋屋の施設が使えるようになった事だった。

 宿泊施設と、道具や金銭の保管所。

 また、必要な道具を揃えている店や、道具の修繕をする工房などなど。

 通常の仕事から冒険者としての業務に対応するため、幅広く様々なものが揃っている。

 特に宿泊する所はありがたいものだった。



 仕事柄あちこち動き回る冒険者は、定住する場所がない。

 そのため、どうしても宿屋などを探す必要がある。

 だが、宿というのはそう滅多に存在するものではない。



 この世界における宿とは、街道に沿って存在する文字通りの宿場を指すのが普通だった。

 行商人などが宿を取るための場所である。

 また、様々な人間が出入りする一定以上の規模をもつ都市でもないと、宿という業務が成り立たない。

 観光なんてものを楽しめるほど余裕のある者はそれほど多くなく、娯楽のための旅というものがまず存在しないからだ。



 そのため、旅館と言うべき宿泊施設もまず滅多に存在しない。

 あるとしても、それだけの余裕のある王侯貴族や富裕な商人向けのもので、庶民向けというのは皆無といってよい。

 当然ながら冒険者向けの宿泊施設などそうそう存在するものではない。

 だからこそ周旋屋が、自分たちの抱えてる者達を住まわせるために自腹で用意する事になる。



 また、必要な道具を揃えるにしても、専門店がそうそう存在するわけでもない。

 なので、これらも周旋屋が抱える事にもなっている。

 一定以上の規模の町なら専門店なども存在するのだが。

 都市というほどではない町だと、こうした周旋屋が抱える店がその町における商業の中心になる事もあった。



 もっとも、周旋屋とて全ての町にこういった施設を設置してるわけではない。

 ある程度大きな町でないと全ての施設や店をおいておけない。

 残念ながらトオルの登録した町ではそこまでの施設はなかった。

 宿泊所はあるが、道具屋や工房は存在しない。

 それらは更に離れた所にある町にあるという。



 これは、それを求める程の人数がいるかどうか、という需要と供給の問題だった。

 あちこちに設置するとなれば、便利にはなるかもしれないが手間と金がかかってしまう。

 そのため、ある施設や設備はある程度の集約がされていた。

 どうしても必要ならば注文して取り寄せる事もできるので、極端に不便という事もない。



 当面のトオルに必要だったのは宿泊所であった。

 住む所がないとどうしようもない。

 さすがに路上で寝泊まりするつもりはなかった。

 してもいいが、その場合どんな面倒が起こるか分からない。

 登録を促してくれた冒険者も、

「そういう連中にまともな仕事が回るって事もないだろうしな」

と言っていたので、多少の金を払って宿泊所を使う事にした。



 あとで聞くことになるが、路上で寝泊まりしている者も中にはいるという。

 だが、そういう者達にまともな仕事が回ることは確かにない。

「稼いだ金をすぐに使っちまうような奴に、まともな仕事がこなせるわけねえからな」

 周旋屋の弁である。



 実際には様々な理由があるのかもしれないが、ある程度の自制や自己管理ができてないと見なされてしまうのだという。

 また、雇い主からすれば、そんな人間を使ってるというのは評判にかかわる事もあるという。

 最低限、わきまえるべき事をわきまえていてもらいたい、というのが雇用者側からの要望だった。

 もちろん、行く場所もなくてやむなく路上にいる者もいる。

 それへの同情や憐憫は確かにある。

 だが、そういった者達のための宿泊所でもあるので、なるべくそこを利用してもらいたいというのが周旋屋の意見だった。

 宿泊所を使う事で使用料をとれるという理由もあるにしても。



 問題になったのは、トオルの持ち合わせがない事だった。

 ほとんど着の身着のままで村を出てきたのだから当然である。

 だが、そこは周旋屋もプロである。

「だったら、報酬の先払いって形にするから、さっさと仕事を請けろ」

 それで終わった。



 当面の宿泊費と飲食料。

 それのためにトオルは働く必要が出てきた。

 拒否する事もできなかったし、するわけにもいかない。

 承諾してトオルは、冒険者として最初の夜を迎える事になる。



「って、これかよ……」

 通されたのは、何十人かが雑魚寝する共同寝室。

 場所を有効活用するためか、二段・三段のベッドが部屋の中にぎっしりと詰め込まれていた。

 一応人が通れるだけのスペースはあるが、すれ違う事はまず不可能。



 そんな中で空いてるベッドへと向かっていく。

 ベッドには番号札が取り付けられており、割り当てられた番号のものを使うようになっていた。

 この小さな空間が、トオルが独り立ちして得る初めての空間となる。

 作りだけは頑丈なベッドの二段目にあがり、寝転んで天井を眺める。

 使ったことはなかったが、前世におけるカプセルホテルのように思えた。



(これでやっていけるのかな)

 可能性を信じてなった冒険者は、とてつもない茨の道だった。

 このまま続けていけるのかどうかもあやしい。

 村にいた頃は、こんな事が続くのかと嘆いたが、寄る辺なき身となった今はそれよりも更に厳しい。



(収穫があって居場所があって飯が出る…………か)

 曲がりなりにもそれがあるというのは案外大きいものなんだなと思った。

 それは、前世の末期において感じていた事でもあった。

 そんな所から脱却しようとしていて、そんな所に陥ってる。

 いったい何をやってるのかと思ってしまった。

(まあ、明日からがんばるか)

 そう思って眠る事にした。

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これからの執筆のために。

お話も少しだけ置いてある。
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