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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その3 懐かしきというほどでもない故郷のためというわけでもなく
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レベル34 情報とは様々な方向から流れるもののようです

「どうしたんだ、おっさん」

「なに、仕事の斡旋でこっちに顔を出しただけだ。

 まだ入れる人間が決まってない所もあるんでな」

 たまり場の広間は、ぶらついてる人間を見繕うには好都合なのだろう。

 言われてみれば、仕事から帰ってきて広間にたむろしてる者に声をかけてるおっさんは何度か見た事がある。

 トオルも以前はそうやって声をかけられていた。

「そしたら、話しが聞こえてきてな。

 色々合点がいったところだ」

「なんだよそれ」

「そっちから人の手当を頼まれてるんだよ」

「人?」

「人手が足りないからよこしてくれって」

「へえ…………。

 貴族とかからも依頼があるんだ」

「雑用とかがほとんどだがな。

 突発的な事が起こって、一時的に人手が必要な時には声がかかる」

 その他、館の補修や領土内の施設は設備などの修理や工事で作業員が必要な時など。

 こういった場合は、業者からの発注となるが、元を辿れば貴族からの依頼という事にもなる。

 直接間接と形は様々だが、周旋屋に舞い込んでくる仕事はそれなりにある。

「けどなあ。

 なんかやたらと注文が多くてな。

 普通、こんな事はないんだが」

「やっぱり珍しいの?」

「ああ。

 普通はお抱えの使用人で済ませるからな。

 けど、どうもそうじゃないみたいだな。

 使用人にこうして逃げられてるとなると」

 実際に登録してる人間に接するから、発注元とそこからの注文数を直に見るから分かる事もある。

「長期間出来る人間はいないのか、とも聞かれててな。

 どうしてだろうと思ってたが」

「なるほど」

 人手がない、なり手がいない。

 領地から徴用に近い形で人を集めようにも、それが出来ない。

 ならば周旋屋を頼るという事にもなろう。



 そもそも、領主が使用人を領地から集めるのは、徴用のようなものだが実際は違う。

 やむなく行う徴用ならば強制も出来るが、そうでない以上、拒否した者を召し上げる事はできない。

 徴用とて、それに伴う労賃を何らかの形で支払わねばならない。

 最低でも、衣食住は領主が提供する事が求められる。

 だいたいにおいて、それらは粗末なものとなるが。

 もちろん拒否した者には、権限を使った報復も出来る。

 とはいっても、それは不当な権限の行使となりえる。

 こういった職権乱用は厳禁であった。

 たいていはこういった濫用はお目こぼしされるものでもあるが。

 それでも度が過ぎた行為が発覚したら相応の処分を受ける。

 領地や貴族としての地位である爵位の没収まではいかないにしても、領地の運営を派遣した代官に委譲させられる事もある。

 その場合、領主としての収入も権限も大幅に制限される。

 事実上の軟禁となる、という話しはトオルも聞いた事がある。

 平民・庶民よりも権限の大きな、特権階級と言われる貴族。

 しかし、そこには大きな義務が発生している。

 その義務を果たすために特権が与えられてるとも言えた。

 故に前提である義務を果たさないならば、咎めが与えられるのも当然となる。

 果たそうにも果たすことが出来ないほど苦しい状態になってるのでも無い限りは。



「金もかかるのにどうすんだろうと思ってたがなあ」

 呆れた調子でおっさんはぼやく。

「そんなにかかるの?」

「そりゃあ普通に給金を出さなきゃならんからな。

 領地から人を集めるのとはわけが違うさ」

 領地から集めるにしてもある程度の給金は必要になる。

 それでも、普通に雇用するのに比べたらはるかに安い。

 領主と言っても、村を幾つかおさめる地方領主であれば収入も限られる。

 領主の家族と家来、そして使用人をまかなうとなると、たいていの場合は収支がギリギリとなる。

 だからこそ、周旋屋などに人を頼るのというのは、のっぴきならない事情が出来た場合に限られていた。

「なのに長期間の雇用ときてるからな」

「そういう事か。

 勘ぐられても仕方ないんだな」

 裕福と思っていた貴族であるが、意外と懐事情は厳しそうに思えた。

「他にも色々小耳に挟むしな。

 お前の所の領主、ありゃやばいだろ」

「そこまで酷いんだ」

「領主の実権が、どうも奥方とそっちの一族に握られてるようだしな。

 領主の一族も、なまじ別の領地の事だから下手に口出しできないようだし」

 一気に介入してしまえば良いと思うが、踏み込んではいけない一線があるのだろう。

 各部門の独立性を守らないと全体が停滞する。

 ただ、いきすぎた縦割りは各部署を孤立させる。

 程よく連携させるのはとても難しいものなのは、前世における職場でも実感した事だった。

 それが貴族における領地にも当てはまるのだろう。



「でもまあ、長くはないだろうな」

「何が?」

「その領主だ。

 人も定着しない、散財せざるえない。

 そうなれば中央も動くだろう。

 あとは、代官が派遣されるか、貴族の交代だろうな」

 どちらにせよ、領主である貴族は責任をとる事になる。

「ま、それは貴族様の話だ。

 それよりも、トオル。

 久しぶりに仕事をしないか?」

 おっさんはニヤリと笑ってトオルの肩に手を置いた。

「…………はい?」

「おまえの出身地でもあるようだし。

 里帰りがてら、仕事でもしてきたらどうだ?」

「ちょっと待て。

 なんで俺が」

「逃げ出した妹さんの身代わりにもなれるし。

 一石二鳥だ」

「ふざけんな。

 下手したら俺だってやばいんだぞ」

 勝手に村から抜け出してきたのだ。

 法律による裁きはなくても、きまりが悪い。

「まあ、行くのは領主の館だ。

 知り合いもいないだろうし、誰も問題にはしないだろうよ」

「だからってなあ」

 それにしたって、あまり気分のよいものではない。

 そんなトオルにおっさんは、

「それに、内情を探る機会でもあるぞ」

 耳元に口を寄せて不穏な事をほざき始める。

「何がどうなってるのか分からんが、何か掴めば問題を解決出来るかもしれん」

「おいおい、何言ってんだよ」

 自然と小声になりながらトオルはおっさんに言い返す。

「まあ、黙って聞け。

 お前さんも妹さんを追われる身にはしたくないだろ。

 だったら、問題をあばいて訴えろ。

 そうすりゃ、何かしら突破口が開けるかもしれん」

「そう言って仕事に放り込む人間を確保するつもりだろ」

「当たり前だ」

「言い切りやがったな…………」

「だがな、確かに絶好の機会でもある。

 どうだ、少し考えてみんか?」

 そう言っておっさんは神妙な顔をしてみせた。

(だまされるな)

 トオルは自分に言い聞かせる。

(このおっさんは、仕事に人を放り込みたいだけだ)

 トオルを心配してるように見えても、考えてるのは仕事の事だけ。

 そんな商売人としてのおっさんを見てきた。

 口で何を言おうと、どんな表情を浮かべようと、それが演技である事は分かっている。

 だから何度も胸の中で繰り返す。



 ────騙されちゃいけない

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