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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その3 懐かしきというほどでもない故郷のためというわけでもなく
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レベル33 頭の痛い問題を抱えて来たようです

「でも、いったいどうして?」

 あらためて広間の席に座ったトオルは、向かい合って座ったアツシとチトセに尋ねた。

 村の状況は全く分からないが、町まで飛び出してくるのは尋常ではない。

 何事か村にあったのかと思った。

 それについては二人から交互に説明が上がった。

「あのね、実は……」

「村の方で領主への奉公の話が出たんだ」

 それだけでトオルはだいたいの事情を悟った。



 トオルの村を含めた一帯を治める領主の所には、事実上持ち回りで各村からの奉公が出される事になっていた。

 やる事は領主の屋敷での勤務であり、雑用係や家政婦などの使用人業務がほとんどとなる。

 これらは通常の雇用とは違い、基本的に領地内からの徴用という形を取る。

 どちらかというと、軍隊への徴兵に近い。

 作業が軍務ではなく、領主の館での作業になってるだけである。

 だいたいは数年に一度、年季明けや何かしらの理由による退職者が出た場合にこの徴用が行われる。

 その際には、各村に徴用の布令が出され、村は規定の人数を出す事となる。

 ただ、村ごとに人数の割り当てがあるわけではない。

 だいたいの場合において各村が順番で奉公人を出す事になっている。

 下手に各村に割り当てを出すと、様々な文句が出て話しがまとまらなくなるからだ。

 村ごとに人口も違うので、均等に人数を割り振るとそれぞれの負担が変わってしまう。

 かといって人口比で奉公人の数を分けようとすると、これまた何人が適正かという問題が出る。

 また、村によっては口減らしで奉公人を出したがる場合もある。

 その逆に、奉公人を出す事も出来ないほど人手が足りない場合もある。

 なので、多少強引ではあるが、順番に各村に奉公の義務を回していくという事で落ち着いている。

 問題がないわけではないが、可能な限り負担を均等にしようと頭を使うより手間も面倒も少ない。

 そして、その割り当てが今回トオルの村に回ってきた。



 とはいれ、これは厳密に言えば強制される徴用ではない。

 断る事も出来る。

 少なくとも制度としては。

 ただ、領主からの指示に逆らうと有形無形の嫌がらせをされたりもする。

 それを避けるために、事を荒立てないのが通例となっている。

 だからと言って悪い面ばかりではない。

 領主にもよるが、使用人が大事にされる事もある。

 そうでなくても、そうそう酷い扱いをするような者は少ない。

 権力や権威による横柄さや傲慢さなどが鼻につくことはあるが、おおむね使用人はそれなりに大事にはされる。

 人として優れた者は、領民・使用人であろうとも、あるいは自分の下にいる者だからこそ大事にする。

 平凡であったり、性格や人間性に疑問を抱かれる者でも、それなりに頭が働いたり自制心があればやはり大事にする。

 たとえ自分の領地の人間であろうと、自分の領地で問題を起こせば領主としての資質を疑問視される。

 そうなれば王家と中央政府が調査に乗り出すことにもなる。

 たいていの場合は注意で終わるが、そんなものを受けたら領主達や貴族の間での評判が落ちる。

 犯罪者や反乱を企てたというならともかく、全うに働いてる人間を虐げるとなれば、それは国家全体の生産性の低下につながる。

 人へのいたわりや思いやりという人間性の部分を差し引いても、損失の方が大きい。

 そんな人間にまともな統治ができるのか、という疑問が出てくるのだ。

 人の上に立ち統治する側として立場を根幹から揺るがすことになる。

 だからこそ、そのような者には貴族間での付き合いが無くなる事にもなる。

 貴族における村八分と言える。

 なので、滅多な事では馬鹿殿など出てこない。

 出たとしても、そうそう悪さが出来ないように周囲の一族が監視する。

 だが、世の中には例外も確かに存在する。



 トオルの村をおさめる領主は、特別良くもないかもしれないが、とりたてて悪くもない人間ではあった。

 穏和で、時に小心者とすら言えるほど大人しい人だった。

 だが、どういうわけか子供はそれと正反対。

 自己主張が強いというか、横柄でわがまま。

 何かをしでかせば責任は誰かに押しつけ、良いことをすれば自分のおかげと言いだす。

 親の形質を遺伝してないようだった。

 普通に生まれていれば、周囲に叩きのめされる存在であっただろう。

 運の良いことに、領主の家に生まれたからわがままを押しつける相手もいる。

 おまけにそんな性格に一喝を入れる者もいない。

 領主の方は親としてどうにかしようとしていたと漏れ聞くが、母親の方が常に子供の擁護に回っていたという。

 この母親もかなりの曲者のようで、子供の性格はほぼこの女から受け継いだのだろうと言われる程だった。

 なんでこんな女が輿入れ出来たのかと言われる事もある。

 領主の一族郎党はこれに反対していたのだが、最終的には押し通される事となったとか。

 何でも、当時奥方の方の実家から何かしらの援助などがあったらしく、それ故に婚姻を断われ無かったとか。

 おかげでそれ以降、領主の館で働く使用人達は多大な苦労をする羽目になっていった。

 噂の領域を出ないが、この馬鹿息子に(性的な意味で)襲われたメイドもいるという。

 事の真偽は不明であるが、使用人達が外部に漏らした話しである。

 事実無根とは言い難い信憑性があった。

 そうでなくても、近隣に鳴り響く馬鹿息子っぷりである。

 仮にそれが出鱈目だとしても、それを信じるにたる素行の悪さは隠しようもない。

 そんな所への奉公である。

 好んで行く者など誰もいない。

 だが、そんな状況だから退職希望者は後を絶たず、常に人手は不足がちになっていた。

 奉公の布令が出る頻度も高くなり、その順番がチトセにまで回ってきたのだろう。



「だから出て来たのか」

 それらの事情を思い出しながら尋ねると、

「うん」

「そういう事」

 チトセもアツシも頷いた。

 その事情は分かる。

 トオルが同じ立場だったら、やはり同じように考えて行動しただろう。

 だが、「はい、分かりました」と言うわけにもいかない。

 事は二人だけの問題では済まないからだ。

 どうしたって親や家族、そして村全体を巻き込む事になる。

(どうしたもんかな)

 さすがにこればかりはどうしようもないと思えた。



 しかし。

「なるほどな」

 いつの間にか戻ってきてた受付のおっさんが納得した顔をしてた。

「だからあそこから仕事が入ってたんだな」

 何かを知ってるような顔をして頷くおっさんに、トオルは怪訝な顔をするしかなかった。

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