レベル3 どうにかして成り上がろうと思ったけど、現実もモンスターも厳しいです
町に行く途中。
運良く途中で、移動中の行商人に出会う事ができた。
彼らに頼み込んで町までつれていってもらえたのは幸運だった。
その間の雑用担当という事で仕事もした。
おかげで食べ物なども与えてもらう事ができた。
これはほとんど無一文のトオルにはありがたかった。
路銀なんてものはない、食料もろくろくもってない。
部屋住の四男坊にまわってくる小遣いなんてあるわけがない。
少しずつ集めたわずかな米粒一袋。
それだけが持てる全てだった。
なので、仕事と共に食い扶持が手に入るのはありがたかった。
また、行商人の手伝いながら分かった事もある。
まず、読み書きと計算が出来ること。
これは貧しいながらも家の者達がしっかりと学びに送り出してくれたのが大きい。
この世界、確かに前世よりも厳しい生活環境であるが、それでも子供に読み書きを教えるくらいの余裕はある。
教えるのは村の近くにあった神社で、その周辺の村の子供達が習字と計算を習っていた。
驚いた事に、この世界における文字や数字はかつての日本と同じものだった。
おかげで文字を学び直す手間が省ける。
計算方法も日本と同じで、それらも全く問題なく使える。
教えていた神主や神職達もトオルの学習速度に驚いていたくらいだ。
なので、行商人の帳面などもしっかり把握できた。
また、農作業で培った体はかなり頑丈で力強く、荷物の持ち運びにも支障はない。
意外な事と言えば、夜などに作っていた縄作成など。
買うと高く付くので自作していた小道具であるが、それらを使うという場面で結構役立った。
こればかりは前世の記憶にない技術だったし、家でいつもやってる作業だった。
逃げようとしていた状況であるが、その中で培ったものが色々と役だってる事には感謝した。
ただ、それと共に分かってきた事もある。
自分の能力がそれほど劣ってないかわりに、特別優れてるわけでも無いことを。
ゲームや漫画やアニメや小説や映画だったら、転生した主人公が特別な能力をもってる事もある。
しかし、トオルにはそういった才能がみあたらない。
もしかして眠ってるだけかもしれないが、それを目覚めさせる手段がわからない。
危機に瀕した時に発動する可能性もあるが、命をかけるのはためらわれた。
もし才能や素質がなかったら、それこそ命を失いかねない。
確実にあると分かっていれば試す事もできるが、そんな危険を冒すつもりにはなれなかった。
また、見た目などもそれほど優れてるというわけではない。
とんでもない不細工とかいうのでもないが、取り立てて優れてるというほどではない。
いってしまえば普通。
全くもっておもしろみもない。
せいぜい、愛想良くしていればそれなりに好印象を与えられるかも、といったところである。
つまりは、人並み。
これまた創作物にあったようなハーレム展開などまったく期待できなかった。
生まれ育ちについては言わずもがな。
王侯貴族や富裕な商人というわけでもない。
貧農というほどではないが、農村の四男坊というこの世界ではよくあるパターンであった。
スタートダッシュにおいて、多くの者と横並び。
少なくともよりよい条件というわけではない。
もちろん下には下がいる。
奴隷や貧困層、ストリートチルドレンなどの浮浪者、更には裏社会の下っ端よりはマシであろう。
だが、ここからのし上がれるとはとても思えなかった。
(なんてこった……)
歩きながら行商人や丁稚達、そして護衛の冒険者達の話を聞くうちに、そう思ってしまった。
自分の立ち位置や能力が浮き彫りになるにつれ、先行きの見通しがドンドンと暗くなっていく。
もとより才能や運の良さを宛にしていたわけではない。
それでも、自分が社会の最底辺にいるのが分かるにつれ絶望的になっていく。
頭の中にある前世の記憶が、今の自分とどうしても重なる。
そこから逃れようと思ってるのに、どうしても世の中はそこに取り込もうとしてるように思えた。
更にそこに追い打ちをかける出来事が発生する。
「来たぞ!」
街道を進んでる最中の事だった。
森の中に入ったところで、警戒していた冒険者が声をあげる。
すぐに護衛の者達が動き出し、「右方向!」と見張りが叫んだ方向へ向かっていく。
「え、え、え、え?」
何が起こったと思ってるうちに、行商人に怒鳴られる。
「荷車に隠れろ!」
言われて行商人の方を見る。
すると、荷車の左側に身を隠し、必死な形相で手招きをしている。
理由はいまだに分からなかったが、とにかく言われたとおりそちらへと向かった。
着地して、行商人と丁稚たちの所に身を寄せ、周囲を伺う。
冒険者達の姿はない。
また、この場にいる商人の連れの者達も、手に剣や槍を持っている。
「あの、いったい……」
何がおこってるのか尋ねる。
行商人は、
「モンスターだ」
短く答えた。
その言葉にようやく事態を理解し、荷車の陰から反対側をのそきこむ。
見ると、そこでは冒険者達が盾を構え、剣をふってモンスターと戦っていた。
「…………」
声もない。
初めてみるモンスターと、それとの戦闘。
ゲームの中でしかありえなかった戦闘が、本当にそこで起こっていた。
その臨場感はどんな精巧なRPGもMMOも及ばない。
文字通りの死闘がすぐそこで繰り広げられている。
格好いいとか勇壮とかいう思いのは吹き飛んだ。
気を抜けば殺される、やらないと自分が死ぬ。
死にたくないなら、相手を殺さねばならない。
そんな命を賭けた戦いは、生半可な決意を簡単に吹き飛ばしていく。
そのモンスターがどれほど強いのかは分からない。
だが、人間の身の丈ほどもある獣や、動き回る植物なんてものに立ち向かっていけるものだろうか?
爪で盾が削られ、鞭のような蔦がとんでくる。
横薙ぎにふるわれた獣のようなモンスターの前足が、前衛の冒険者を吹き飛ばす。
植物が花粉のようなものを周囲にばらまくと、それを吸いこんだ者達が一斉に咳き込んでまともに動けなくなる。
それをしてるのがモンスターだった。
どれほど装備がととのっていても、尻込みしてしまうような迫力があった。
げんにトオルは、知らず知らず顔面を蒼白にし、歯をガチガチと鳴らしている。
戦闘はそれからほどなく終わる。
最初は押され気味に見えたが、敵を一体倒したところで流れが変わった。
脅威が一つ減った事で、冒険者側の手があく。
その分が攻撃力の増加につながったようで、次のモンスターは最初の一体より早く倒れていった。
あとは雪崩をうつようなものだった。
次々にモンスターは倒されていく。
その様子をトオルは、我を忘れて見入っていた。
否応なしに理解した。
これが戦闘なのだと。
こんな事をしていかねばならないのが冒険者なのだと。
────自分につとまるとは、とても思えないと。
夢が、早くも崩れていった。
といった感じのお話です。
短編でも書いたけど、あまり報われないというか。
特殊な能力とかがなさそうな感じの主人公です。
こんな彼がどうやっていくのか、というのがこれからになります。
こういう話が求められてるかどうかは分からないけど、俺の想像できるのはこういう感じの話なので。
だから、こういう感じで出来る所までがんばろうと思います。