レベル28 選ぶという事に下心が入る余地はありません
「すいません、日程を早めてもらって」
「いや、かまわないよ。
気にしないで」
緊張をどうにか隠しながらそう言う。
これが初めての面接という事で、気持ちが乱れてしまう。
選ぶ側なのだから余裕を持てばいい。
しかし、いざこうして相手を前にすると何をすればいいのか分からなくなる。
これもまた、慣れが必要なのだと思った。
「とりあえず、うちに参加したい理由とかを聞いてもいいかな?
実際に君の口から聞きたいんだ。
ええっと…………サツキさん」
今さっき聞いたばかりの相手の名前を言いよどんでしまった。
さすがに会ったばかりだと名前を完全におぼえる事はむずかしい。
そんなトオルに、サツキは聞かれたことに返答していった。
三代サツキ(みしろ・さつき)、十四歳。
それが彼女の名前だった。
周旋屋への登録は一年ほど前。
入れる一団を探していたようだが、それからほとんど周旋屋が持ってくる町での仕事に従事していた。
魔術師としての修行は出身地でしていたが、師匠である祖母が亡くなった事でそれは中断せざるえなくなる。
それは同時に、生計をたてる術を失う事にもなった。
村では祖母が魔術にまつわる知識を活かして薬草師として生活していたが、それが不可能となったためである。
サツキも多少は知識や魔術を持ってはいたが、実用に至るほどの腕ではなかった。
村の者達は同情してくれたが、身よりのない子を引き取る余裕もない。
頼れる親類もなく、やむなく町に出て冒険者に。
ただ、魔術師としての能力はほとんど無いので、針仕事や事務仕事などに就いていた。
しかし、それらの稼ぎも限られてるので、出来るならもっと良い仕事がないかと探していた。
たまたま募集をかけてたトオルが、素人でもかまわないという条件を出していたので応募をした。
…………言ってる事を並べるとそのようになる。
「なるほどね」
事情はだいたい分かった。
事前に聞いていた周旋屋の情報とも矛盾はしない。
もちろん、周旋屋に正直に身寄りや経歴を話していれば、という事だが。
ただ、周旋屋に登録してからの勤務態度などは良好だった。
決して仕事で手を抜いてない。
魔術の腕は、確かにレベル1なので対して期待はできない。
全く出来ないよりは凄い事なのは分かっているけども。
(これなら、かまわないか?)
正直なところ、魔術師としての腕はどうでもいいと思っていた。
トオルが求めていたのは、素材を手に入れるための解体作業であった。
今もそれは大して変わらない。
もう一人くらい居てもかまわないほどだった。
それだけ解体に手間が取られている。
また、読み書きや計算も出来るので、回収した素材を記録してもらいたいとも思った。
今はトオルがついでにやっているが、どうしても荒が出てしまっている。
そこまで細かくやる必要があるのか分からないが、こういう事は早いうちに始めておくべきでもある。
後で必要になってから始めても遅い。
(とりあえず、それをやってもらうか)
トオルはその事を話し始めた。
「…………というのがこっちの希望なんだけど。
どうかな?」
「はい、それでかまいません」
返事は明快だった。
「助かるよ。
ただ、うちは全員男だ。
それで大丈夫?」
「それは…………やってみないと分かりません」
「なるほど」
やはりそこは躊躇うだろうと思った。
(問題が無いわけじゃないしな)
冒険者に限らず、世の中全体に言える問題であった。
「でも、女の人達の一団とかには入れない?」
「それは最初に考えたんですけど。
どうしても能力とかが足りなくて」
「まあ、そりゃあそうだろうな」
もっともな理由だった。
冒険者にも女がいないわけではないが、かなり少ない。
危険な仕事がほとんどなので、これは当然と言える。
また、戦闘はどうしても肉体労働になる。
前線で戦うとなると、体力が求められる。
それだけなく、長期間の野外活動などを強いられる事もある。
野宿を含めた長距離行軍にたえる事が求められもする。
体力的にどうしても厳しく、女で冒険者をやる者はどうしても少なくなってしまう。
また、少数の女冒険者も、男と組むという事は少ない。
どうしても男女間で問題が発生しやすくなるからだ。
これもまたどうしようもない問題である。
何が悪いという事でない。
そういった事を考えれば、サツキが男と一緒という状況に警戒をしても仕方がない。
残念な事だが、被害に遭う女もいないわけではない。
よほどの信頼関係がなければ、男女が一緒に行動するのは結構大変な事なのだ。
では、女冒険者の一団に加われば良いのだが、これもまた難しい。
数少ない女冒険者の一団は、既に形が出来上がってるところがほとんどだ。
一団内での規律ややり方などが。
なので、新人の受け入れが難しい。
入る方が、既に一団を形成してる者達に馴染むための努力をしなくてはならない。
それと同時に、受け入れる方も新たな関係を作り、やり方を構築していかねばならない。
人が一人入るということは、その人間を用いる方法を考えていく事を強いられる。
何より、レベル差があると、どうしても行動に齟齬が出る可能性が出てしまう。
高レベルの者達が低レベルに合わせる事は出来る。
ただ、それだとどうしても稼ぎが減るのだ。
かといって、高レベルの者達に見合った仕事をするとなると、危険が跳ね上がる。
時間をかけてレベルを上昇させる余裕があればいいが、なかなかそこまで時間を費やす者はいない。
避ける事ができないこういった問題を解消するには、時間をかけて人間関係や連携を熟成させるしかない。
それが困難だからこそ、新人を加える事は難しい。
「それじゃ…………」
トオルも思い浮かぶそれらの事を考えて決断を口にする。
「とりあえず何度かやってみて様子を見させてくれ。
もちろん、そっちも俺らとやっていけるか確かめてみてくれ」
その言葉にサツキは、驚いた顔をする。
「あの、それは……」
「試しに一緒にやってみよう。
駄目なら、お互いどちらからでもいいからはっきりそう言おう」
それがトオルの考えだった。
「でも私、特に何かが出来るってわけでもないんですが」
「そうだろうね」
それはトオルもはっきりと認める。
「それでかまわないよ。
やる事はおぼえてもらうし、無理ならやめてもらう。
もちろん、そっちが無理だと思えば、俺らを断ってくれてかまわないし。
ただ、どっちにせよ、一度は一緒にやってみないと。
そうしなきゃ、お互いの事は分からないし」
いわゆる試用期間というものだった。
入れるにせよ断るにせよ、ある程度試してみないと分からない。
入ろうとする方も受け入れる方も。
だから、今回はサツキを入れる事にした。
「ただ、これだけははっきりさせておきたいんだけど」
「なんでしょう」
「この先長く続けてやっていったとしても、もし駄目だと思ったらその時点で俺は君を切る。
使えないままの奴と一緒にやっていったら足を引っ張られるからね」
「はい、それは覚悟してます」
「うん、そう言ってくれると助かる。
でも、それは君も同じだから」
「…………ええっと、それはどういう意味ですか?」
予想外の言葉だったようで、サツキは困惑した顔をした。
「君だって、俺たちを選ぶ権利があるんだよ。
俺たちと一緒にやっていく事ができないと思ったら、遠慮無く言ってくれ。
俺も無理して止めるつもりはないから」
「いえ、私はそんな事は…………」
「無いだろうね、そんなつもりは。
でもね、最初からやめるつもりで始める人なんてまずいないよ。
なんとか続けて、それでもどうしても駄目で止めていくんだから。
だから、無理はしないでくれ。
無理は絶対続かないから無理なんだから」
そう言って言葉を一度区切り、
「俺からは以上だ。
それじゃ、実際にやってもらいたい仕事を説明する」
まだ少し呆然としてるサツキに、トオルは自分たちがやってる事の説明を始めていった。