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レベル27 忘れていても取り消してなければ、いずれやってくる事も

「寒いなあ……」

 呟きながらトオルは歩き出す。

 後ろには、サトシ達三人を連れて。

 今日も一日モンスター退治。

 夜明けを待て動きだし、日没まで活動に励む事になる。

 しかし季節も変わり寒さは厳しくなっている。

 日の出てる時間も短くなっていて、行動時間はどうしても短くなる。

 自然と倒せるモンスターの数も限られていた。

 しかし、

「今日もがんばっていきたいな」

「五百はいきたいよね」

 そんな事を言って気合いを入れていく。

 マサルとコウジの二人が入り、トオルとサトシは戦闘に集中する事が出来るようになっていた。

 そのおかげで倒せるモンスターの数も飛躍的に上がっていく。

 それでも、日照時間の減少は倒せる数に響いていた。

 一日五百匹。

 それは、四人で活動する場合の最低線となっていた。

 特に皆で決めたわけではないが、稼ぎを考えるとこれくらいはどうしても欲しくなる。

 不可能ではない。

 だが、どうしても限界ギリギリに近いところでもある。

(もうちょっと上手くやれればいいんだけど)

 他の三人が駄目というわけではない。

 この人数で対処出来る限界というだけだった。

 おびき寄せたモンスターを倒すにしろ、解体して処理するにせよ、これ以上は無理が出て来る。

 また、モンスターが出現するまでの時間差もある。

 罠として仕掛ける穴を増やせば、そこはどうにかなるとは思えた。

 しかし、それだとモンスターの処理に手間がかかりすぎてしまう。

 せめてあと一つレベルが上がらないと厳しい。

(今はこれくらいだよな)

 そう思って諦めるしかなかった。

 今は。

 二台に増えた大八車を引きながら、トオルは早くその時がやってこないかと待ちわびていた。



 そんなこんなで年末へと突入していく。

 冷え込みは厳しくなる一方で、外にいるだけで体温が奪われていく。

 屋外での行動で、焚き火が外せなくなっていった。

 動き回るトオルとサトシはともかく、マサルとコウジはそれがないと手を動かすのもきつい。

 かじかむ指先が、モンスターを切り裂く刃先を鈍らせる。

 また、火を焚いてるといっても屋外である。

 吹き込む風がかすかな熱気を奪っていく。

 寒空の下、どうしても作業の効率は落ちてしまう。

 二人はむしろがんばってる方だった。



 昼までに二百をこなし、それから更に三百を稼ぐ。

 間で死骸を放棄し、解体が終わってないものを片付ける。

 一日の稼ぎはどうにか五百匹分を越え、皆でほっとする。

「そんじゃ帰るぞ」

 今日も一日が終わり、町へと帰還していく。

 二台の大八車には、今日も多くの戦利品が積み重ねられている。

 出費も大きいが、実入りもそれなりにある。

 無駄遣いは出来ないが、ささやかな贅沢は出来るくらいに。

「今日のおかずは何をつける?」

「俺、天ぷら」

「唐揚げかな」

 サトシ達の会話にそれがあらわれている。

 一食一千銅貨の食事におかずを一品つける。

 それだけで二百や三百銅貨ほど吹き飛ぶが、それが出来るくらいには稼いでいた。

 育ち盛りでもあるし、通常の量では足りないのだろう。

 まして外で体を動かしてる。

 作業量を考えれば、腹一杯食べたくなるのも当然だった。

 そこはトオルも同じである。

「そんじゃ、帰ったらたらふく食おうな」

 三人に向けてそう言う。

「ただし、使いすぎるなよ。

 一千銅貨は貯金に回しておけ」

 釘をさすのも忘れない。

 サトシ達は、

「分かってますって」

「毎日同じ事言ってるし」

「よく飽きないよな」

などと言い返してくる。

 金がどれだけ大事なのかは、親から離れての生活で理解はしてきている。

 トオルの言ってる事が正しいのも分かってる。

 分かった上で、冗談の範囲で文句を言ってるのだ。

 トオルも、それは分かってるので、「はいはい」と軽く受け取っていく。



 町に帰って、素材を売却して報酬を得る。

 五百六匹分の素材報酬から税金を差し引いて、三銀貨と五千四百二十銅貨。

 五千四百二十銅貨を経費分として、残りを山分けにしていく。

 一人当たりは七千五百銅貨となった。

 大八車の経費を差し引いても手元に残る分は大きくなっていた。

 それを手にして飯を食いに行く。



「来た来た」

 サトシがやってきた料理を見て声をあげる。

 いつも通りの定番メニューに、それぞれが追加したおかずがついている。

 四人がありつける、今は最高のごちそうだった。

「いっただきまーす」

 声をあげて四人は飯にかぶりついた。

 町にある食堂で、今日一日の成果を腹に入れていく。

 冬の寒さを、スープの温かさで吹き飛ばす。

 さすがに酒はないが、トオル達は十分に満足していた。

 金も稼げて、たらふく食える。

 それだけで十分満足が出来ていた。

「この調子でいきたいな」

「もちろん」

「明日もがんばります」

「俺も」

 そんな事を言いながら、賑やかに飯を食べていく。

 すぐに食器は空になる。

 ごちそうさまもそこそこに席を立ち、店を出て行く。

 勘定は先払いなので、払い忘れの心配はない。

 そのまま寒空の下を、宿泊所まで向かっていく。

「で、兄貴。

 明日は休みでいいの?」

「ああ。ゆっくり休んでおけ」

「そうしたいけど、道具を補修しておかないといけないし」

「俺も、包丁とか研いでおかないと」

「容器もあらわないとまずいし」

 そんな事を言いながら足を進めていった。

 いつもならそのまま宿に向かい、ベッドに潜って一日が終わる。

 しかし、この日はそうはならなかった。



「おう、帰ってきたか」

 扉をくぐったトオルに、受付のおっさんが声をかけてきた。

「どうしたの?」

「いやな、お前に頼みたい事があってな」

「なにを?」

「人だよ、人」

 おっさんはそう言いながら一枚の紙をピラピラと揺らす。

「求人票を出してたよな?

 それに応募があったぞ」

「…………あっ!」

 言われて思い出す。

 ずいぶん前に、出すだけ出していた事を。

 一人でモンスター退治に出かけていた頃だから、もう数ヶ月は前になる。

 音沙汰なしなので、そういうのを出してた事すら忘れていた。

 仮に誰かが来たとしても、ろくでもないのしか残ってないだろうとも思っていた。

 能力はもとより、人間性のほうも期待はしてなかったので、記憶にも残してなかった。

「どうするよ?」

 おっさんの問いかけに少しばかり考える。

 人手は、あればありがたい。

 だが、もしロクデナシが来たらどうするのか?

 そこが悩ましいところだ。

「うーん」

 あらためて誰かが来た事で考えてしまう。

 それでも、

「とりあえず、どんな人なのか会うだけあってみるよ」

 そう答えた。

 どんな人間かも分からずはねつける必要はない。

 会うだけあってみて、どうしても駄目なら断ればいい。

 そのつもりでいた。

「でも、相手の情報くらいは教えてくれ」

「分かってるよ」

 言いながらおっさんは二枚の紙を差し出す。

 一枚目に、名前や能力などが。

 二枚目に、これまでの経歴が。

 参考となる資料という事だろう。

「ふーん」

 とりあえず目を通していく。

 が、記載内容がそれほどないのですぐに読み終わる。

 思わずトオルは頭を抱えたくなった。



「おっさん……」

「なんだ?」

「これ、どういう事?」

「どういう事もなにも、そこに書かれてる通りだ」

 それは分かる。

 分かるのだが、問題はそういう事ではない。

「何なんだよ、この能力と経歴」

「見ての通りだ。

 良かったな、魔術師だぞ」

 おっさんは、唯一と言って良いほど貴重な要素を口にした。

「それじゃねえ!」

 トオルは思いっきり大声を出した。

 手にした資料をおっさんに突き出し、

「なんなんだよ、この能力。

 それに、経歴。

 今までほとんど事務処理作業とかばっかじゃねえか」

「まあ、そうだな」

 受付のおっさんはあっさりとその言葉を流そうとした。

 だが、そうはいかなかった。

 能力や経歴を見る限りでは、事務処理や力を使わない屋内作業などの技術のレベルなどがほとんどである。

 また、レベルとして計上されないこれまでの作業経歴なども、屋内作業ばかりだった。

「俺たちモンスター退治してんだぞ。

 もっとマシな奴いなかったのかよ」

「何言ってる。

 能力とかはいいと書いたのはお前だろうが」

「そりゃそうだけどよ。

 だからってモンスター退治の素人だとどうしようもねえ」

「あんな子供を引き連れてるのに?」

「あいつらだけで手一杯だ。

 これ以上面倒見る余裕はねえよ」

「でも、魔術師だぞ。

 魔法が使える」

 それは確かにその通りだった。

 能力や技術を記してる欄には、確かに魔法が使えることが明記されている。

 どんな魔法が使えるのかも。

「だったらよ、なんで今までこいつに声がかからなかったんだ?」

 魔術師は人数が少なく、常に求められる存在である。

 それが入れる所を探してるというのは、まずありえない。

 やってきたのがつい最近で、仲間が他にいないというならともかく。

 この魔術師は、周旋屋に登録して一年余り活動している。

 その間、魔術師としてモンスター退治に加わった事がない。

「ありえねえだろ。

 なんで誰も連れていかなかったんだよ」

「まあ、色々あったんだろうなあ」

「はぐらかしてんじゃねえ!」

 トオルは追求を続けようとした。

 しかし、

「ま、理由は本人に聞いてくれ。

 俺にも詳しいことはわからん」

「紹介しておいてそれかよ」

「紹介なんてこの程度だ。

 詳しいことは、本人同士が面談して決めてくれ」

「それは面接っていうんじゃないのか?」

「細かい違いだ。気にするな」

 そう言っておっさんは、受付としての仕事として尋ねてくる。

「で、どうする?

 断るならこの段階で決めてくれてもかまわん。

 けどな、一応本人に聞くだけ聞いてみるのもいいかもしれんぞ。

 正直、書類じゃこれ以上の事はわからんし。

 あとは本人に会って聞くしかない」

「正直に話すのか?」

「さあ。

 こればかりは本人に直接確かめないとな。

 それを見極めるのが面談なり面接だ」

 ようは、入社試験という事なのだろう。

 決めるのは、トオルなのだ。

「どうする?」

 聞かれてトオルは考えた。

 この時点で突っぱねた方がいいのか。

 それとも、会うだけあった方がいいのか。



「仮に面接したとして、それでこじれたり問題になったりする可能性は?」

「あるだろうな。

 今までにそういう事もあったし」

「しないで断った場合の問題は?」

「それはなんとも。

 最初から会わなければ良かった事もあったし、後で後悔する事もあるようだし」

「…………後悔?」

「ああ。

 書類の上で判断して断る場合もある。

 でもな、断った奴が他の所に所属して頭角をあらわすって事もある。

 そういう場合、断った連中は悔しがるもんだ」

 悩ましいところだった。

 どっちにも問題は発生するという事であろう。

 だとしたら、どっちを選んでも問題と後悔は出てきそうだった。

「分かった」

 だから考えをまとめた。

「会うだけあってみるよ」

「そうか」

 無言で頷く。

 書類で分からない事もあるだろう。

 それを確かめないで失敗するくらいなら、出来る限りの事を直接会って確かめておこうと思った。

 おそらく、それほど良い物件というか、優れた人材という事はないとは思う。

 だが、本当に切り捨てたくなるほど酷い人間というわけではないかもしれない。

(事務仕事もしてるみたいだしな)

 それならそれで頼みたい事もあった。

 回収する素材の数が増えたので、それらの記録をしたいと思っていたところだった。

 また、必要経費としてため込んでる金の管理なども。

 トオルが今は一手に引き受けてるが、さすがに手間に思えてきていた。

 魔術師としての能力がなくても、そちらの方で活躍を見込めれば、という考えがあった。

 ついでに解体もこなしてくれれば助かる。



「ただ、幾つか教えてもらいたい」

「何をだ?」

「面接で必要な事だよ。

 何を聞けばいいのか、何を確かめればいいのか。

 そういう事を教えてもらいたいんだけど」

「はいはい……」

 受付のおっさんはため息を吐いた。

「妙な所でしっかりしてるな」

「色々あったからね」

 それが前世での事とは言わない。

「少しは用心深くなるさ」

「悪い事じゃないな。

 じゃあ、そういうのに詳しい奴に声をかけておくよ。

 明日まで待ってくれ」

「ああ。

 明日は休みにしてるから、できればその日のうちにお願いしたい」

「そこは保証できんが、何とか頼んでみる。

 それとだ」

「ん?」

「面談はいつにするんだ?

 相手に伝えなくちゃならないなから、こればかりは明日とかは無理だぞ」

「ああ、そっか……」

 電話やメールで連絡がとれるわけではない。

 最近忘れてた不便さを思い出して、トオルは考える。

 明日明後日は論外としても、モンスター退治に出かける予定の日を潰すわけにもいかない。

「早くても来週の今あたりになるかな」

「一週間後って事か」

「そういう事。

 そうすりゃまた休みになるし」

「じゃあそうしよう。

 ただ、相手の都合もあるから多少は考慮してくれよ」

「分かったよ」

 話はそれで終わった。



 翌日、周旋屋の者から面接などで気をつける事を聞く事になった。

 雇う、招き入れる側としての心構えや注意事項を教えてもらい、それを紙に書き留めていった。

 相手の人柄を見抜くコツや、書類から分かる事など。

 全てをおぼえる事が出来るわけではなかったが、役立つ事ばかりだった。

 また、受け入れる側の考えをあらためて知る事となった。

 それがまた新鮮だった。

(こういう所に気をつけるんだ)

 面接を何回も受けてた過去において、想像すらしなかった事だった。

 相手を見極め見抜くのだから、それなりのやり方や注目点があるのは当たり前。

 それが出来なければ、厄介な人間を抱え込む事にもなりかねない。

 その逆に、相手の得意分野などを把握し、それを活かした作業に就かせる事も出来るかもしれない。

 受け入れる側からすれば、やってくる者を探る機会の一つでもある。

 もちろん、そんな事がすぐに出来るわけもない。

 これもまた、技術の一種といってもよい。

 簡単にできる事ではない。

 だが、知ってるのと知らないのとでは大きな差になる。

(ま、あとは本番か)

 貴重な休日を、トオルはその事に費やす事となった。



 そして。

「なるたけ早い方がいいとよ」

 受付のおっさんから、相手の意見を聞くことになる。

「なんでまた?」

「さあな。

 ただ、出来るだけ早くモンスター退治に同行したいみたいだな」

「わざわざ?

 危険なのに?」

「やる気があるんだろうよ」

 後は本人に聞け、という態度でおっさんは話を切り上げようとした。

「どうする?」

 またもトオルは判断を求められた。



 結局二日後。

 トオルは面接をする事になった。

 日程をずらすのはそれほど難しくもない。

 相手との連絡が必要なので一日は間を置く必要があったが。

 それもすぐに出来て、トオルは希望者との面接をする事となった。

 と言っても、場所は宿泊所の広間。

 その片隅の座席でとなっている。

 昼間なので仕事に出てる者も多く、閑散としている。

 話し合いをするには都合が良かった。

(さて、どんな人なんだか)

 先に来て待ってたトオルは、渡されていた書類を眺めながら考える。

 さすがに二枚の情報で何かがつかめるわけではない。

 それでも、そこに何かが潜んでないかとあれこれ考える。

 幸い、これまでの勤務態度などは良好で、仕事先で問題などが発生した事はない。

 それは好材料だった。

(でも、他の事は分からねえしなあ)

 本当にこればかりは面接をして確かめるしかない。

 その時が、もうすぐやってくる。

 トオルに近づいてくる足音がそれを伝えてくれた。



「よお」

 席に座ってるトオルに、受付のおっさんが声をかける。

 後ろには、見知らぬ人物。

「この子が希望者だ」

「はじめまして」

 トオルに向けて会釈をする。

 その姿におどろく。

 経歴書類に書いてあるから相手が女なのは分かっていた。

 しかし。

「サツキです」

 短く名乗った彼女の声と、不安げな表情に見入ってしまう。

 長いつややかな黒髪と、東洋人的な白い肌にも。

 それらを備えたととのった容貌は、とても冒険者とは思えなかった。

 返事もそっちのけで見入ってしまうほどに。

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お話も少しだけ置いてある。
手にとってもらえるとありがたい。


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