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レベル25 試行錯誤しつつ、先へと向かっていきます

 町からいつもの稼ぎ場へ。

 朝早く出て、一時間ほどかけて目的地に突着する。

 トオルには見慣れた場所。

 サトシには初めての場所。

「へー」

 何に感心してるのか分からないが、感嘆の声をサトシはあげる。

「ここでやってんだ」

 自分も手伝ったモンスター退治を思い出したのだろう。

 掘られた穴や、防御のための溝を見て、村での事を思い出してるのかもしれない。

 そんなサトシに、

「そんじゃ始めるぞ」

と声をかける。

 スコップを渡しながら。

「穴掘り?」

「そういうこと」

 この場にある穴は、一つしかない。

 トオル一人の時はそれで十分だったが、今は二人いる。

 防御の備えもかねて穴を増やしておこうと考えていた。

「とりあえず、あと二つ掘る。

 それからモンスターをおびき寄せる」

「分かったよ」

 言われてサトシは、どの位置に掘るかを聞いてくる。

 嫌がらない所は好感が持てる。

「じゃあ、このあたりに。

 俺は、そっちのほうに掘ってくるから」

「うん、分かったよ」

 モンスター退治のための準備がはじまった。



 一時間ほど時間をかけて穴を掘り終える。

 サトシの方は時間がかかっていたので、途中からトオルが手伝った。

「ま、こんなもんか」

 三つに増えた穴を見て達成感を感じた。

 これで、多少は幅広く対応が出来る。

「それじゃ…………少し休んでからやろうか」

 今すぐにでも始めようと思ったが、へたりこんでるサトシを見て方針を変更した。

 解体をさせるにしても、息が上がったままではどうにもならない。

「うん、わかったよ、兄貴」

 何とか返事をするサトシに、悪意のない笑みを浮かべてしまう。

「ま、水でも飲んでおけ。これからが長いんだし」

「そうする」

 言いながら大八車に戻って、水筒を取り出す。

 もってきた水筒は三つばかりあるので、一つが空になってもかまわない。

 むしろ、帰りに少しでも重量が減るので、適度に用いてくれればその方がありがたい。

 トオルも喉をしめらすために、水筒を一つ手にとる。



「ところで、『兄貴』ってなんなんだ?」

 休憩がてら座り込んでる時に、サトシに尋ねてみた。

「ん、なにが?」

「いや、お前、俺の事を『兄貴』って呼ぶじゃん。

 なんでよ」

「ああ、あれか」

 サトシは「なーんだ」と言いそうな顔で答えた。

「呼び捨ては駄目だとおもって。

 嫌だった?」

「いや、そういう呼ばれ方はされた事なかったから」

 聞き慣れない呼び方なので、どうにも違和感を感じてしまう。

 とはいえ嫌悪感があるわけではない。

「じゃ、兄貴でいいじゃん」

「うーん」

 そんなんでいいのかなと思ってしまう。

 それはそれでいいか、とも。

 ちょっとばかり考えてしまうも、特に否定する理由もない。

「好きにしろ」

「おう!」

 サトシは元気に返事をした。



 呼吸も落ち着き、穴掘りの疲れも少しばかり抜けた。

「やるか」

「うん」

 声をかけあって、穴に餌をまいていく。

 毎度の事だが、罠と言えないような罠である。

 こんなものに頼ってる自分はなんなんだろうと思ってしまう。

 だが、安全に確実に仕留めていける方法は、今のところこれしかない。

 その罠に、今回も妖ネズミが引っかかってくれる。

 合計四匹。

 それだけ嵌ったところで、トオルはサトシを促した。

「いくぞ」

 返事はない。

 だが、駆け出すトオルの後ろには、足音が確かに続いている。

 穴の縁に膝をついてマシェットを振りおろしていくと、すぐ近くで槍が何回も繰り出される。

 買ったばかりの槍を、あいかわらずおぼつかない動きで繰り出している。

 登録証によれば、まだ戦闘関係の技術にレベルはついてなかった。

 今は経験値をためてる最中なのだろう。

 いずれその成果があらわれるまでは、こんな調子が続く。

 それでも、確実にレベルアップには近づいている。

 多少の期待をかけながらトオルは、妖ネズミを仕留めていった。



 倒した妖ネズミを回収して安全地帯に。

 作業場であるそこで解体をしてもらってる間に、トオルは餌を仕掛けていく。

「そっちは頼むぞ」

「うん、任せて」

 解体用の包丁を手に意気込むサトシを見て、トオルは頼もしく思う。

 作業を分ける事が出来るというのは、やはり楽だった。

 いつもなら、ここで解体にはいり戦闘は中断せねばならなかったのだが。

(すぐに次にうつれるんだからなあ……)

 手間が確実に減ってるのは確かだった。

 解体して、餌をまいて、となるとどうしても時間がかかりすぎる。

 その時間を確実に削る事が出来る。

 その分成果を上げる事が出来る。

 これがどれだけ結果に結びつくか分からなかったが、今までよりはいけると確信できた。



「兄貴、解体終わったよ」

 槍を持ったサトシが駆け寄ってくる。

「死骸は捨てたか?」

「うん、言われた所までもっていった。

 結構重いね、あれ」

「ああ、そうだな。

 でも、やらないと別のモンスターがよってくる。

 そうなったらどうにもならん」

「うん。だから、言われた通りにやっておいたよ」

 解体が終わったモンスターは、ここから少し離れた所に捨てにいく。

 そうしないと、肉食系のモンスターを呼び込む事になる。

 これを怠って何度か肉食系モンスターと戦闘になった事があった。

 村に行く前の事だが、以来トオルは手を抜くことなく、死骸を五十メートルは離れた所に捨てていた。

 それでもモンスターが来る事もあるが、遭遇する確率はかなり下がっている。

 それもサトシにやってもらいながら、トオルは妖ネズミが来るのを待っていた。

「次はどれくらい来るかな」

「さあなあ。

 こればかりは何とも」

 そう言いながら次を待つ。

 程なく、新たな妖ネズミがあらわれた。

「そんじゃ、やるぞ」

「おう」

 二人は穴に中にはまり込んだ妖ネズミに向かっていった。



 その後、やり方を少しずつ変えながら作業を進めていった。

 餌を放り込み、モンスターを呼び込み、回収して解体して、離れた所に捨てる。

 この流れをどうやって短縮していくか。

 たった二人しかいない人間の使い方を考えていく。

 一人でやってきた時より、やり方に幅が出来てるのを感じる。

 思いつきが全て実行できるわけでもないし、試したやり方がよりよいものとはいえない事もある。

 それでも、何かを試していくごとに、新しい発見がある。

 失敗したというただそれだけでも、それが使えないやり方であることを知る事ができる。

 あるいは、それだけでは駄目で、組み合わせる何かが必要だと考えさせてくれる。

 その成果は、時間と共にはっきりとしていく。



 昼。

 飯を食いながら午前中の成果を見る。

「素材が、六十匹分か」

 一人でやっていた分を確実に確保していた。

 大八車の代金と税金を考えればまだまだ足りないが、それでも二人でやるすごさを思い知る。

(一人増えただけでなあ……)

 これだけ差が出て来るとは思わなかった。

 それでも、解体を専門でやってくれる者がいない分だけ、余計な手間が増えてしまっている。

 もし、村で仕事をしていた時のように、あと二人いてくれれば、更に時間は短縮できていた。

 戦闘と、回収解体に作業を分けるだけで、効率は更に上がる。

 成果ももっと上がっただろう。

 無い物ねだりでしかないのは分かっているが。

 そんな思いを胸にしまい込み、

「午後もこの調子でいこうな」

と声を出す。

 おにぎりに貪り着いていたサトシは、声を出す代わりに何度も首を縦に振った。



 そして午後。

 ある程度形になってきたやり方によって、成果は更に上がる。

 回収できた素材は、一百八十七に上った。

 一人でやっていた時の三倍以上である。

「すげえ……」

 思わぬ成果に唖然とする。

 まさかこれほど差が出るとは思わなかった。

 一日でこれなら、モンスター退治に専念して十分やっていける。

「サトシ」

「なに?」

「これからがんばるぞ」

「もちろんだよ」

 そんな事を言いながら二人はその場を後にした。



 この日の収支は、一銀貨と三千九十銅貨。

 税金と大八車の貸し出し料金を差し引いてこの金額である。

 ここから、トオルの提案により、端数の三千九十銅貨を経費として別に蓄える事にした。

 残りを二人で山分けし、それぞれ五千銅貨を手に入れる。

 周旋屋が回してくる仕事とほぼ同じ収入だった。

「サトシ、これなら確実にやっていけるぞ」

「本当?!」

「ああ。

 時間はかかるけど、確実に今よりよくなってく」

 そう確信していた。

 モンスターを相手に戦っていればレベルアップが期待出来る。

 そうすれば、今より楽に戦闘もこなすことが出来る。

 時間は確かにかかるが、かけた手間は必ず報われる。

 今まで見えなかった可能性が確実なものとして見えはじめてきた。

 まだ確実なものではないけども。

(いける…………!)

 希望的観測にすぎないにしても、それすら抱けなかった今までとは違う。

 確かな可能性として先々の展望を考える事が出来るのだ。

 それは大きすぎるほど大きな進展だった。



 その翌日。

「そんじゃ行くぞ」

「うん」

 サトシをつれて再び町の外へと向かう。

 迷いは少なく小さい。

 全く無いとは言わないが。

 今日これからへの希望を、トオルは確かに抱いていた。

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