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最終レベル 付記

 以下、その後について幾らかの説明を書き出す。



 町にて新人の受け入れ窓口となっていたサトシとレンの二人は、その後も暫くその業務についていた。

 だが、町で他の冒険者一行と競争する事が多くなってきた頃に見切りをつけ、トオルのもとへと帰還。

 その後はトモノリの領地にて教官的な役割を継続して果たす事になる。

 腕の方はその後も上昇し、村において屈指の戦闘力を誇るようになっていった。

 ただし、年上の嫁にはなかなか頭が上がらなかったとか。

 その血筋は今も続いている。



 支倉トモノリの領地はその後も発展を続けていった。

 村は三つから五つに増え、お膝元の村は町へと変わっていく。

 近隣の中心地として栄えていった。

 領主としてもまずまずの手腕をふるい、特に大きな問題もなく統治をまっとうしていった。

 再婚相手の奥方との間に三人の子供をもうけ、その子供達も無事に成長している。



 領地全体も、当初は六百人ほどだった人口が、トモノリの統治時代に拡大。

 二十年ほどの間に一千人以上に増大していった。

 これは住み着いた商人や周旋屋の者達など、正規の住人とは言えない者達を除いた数である。

 就労していたそういった者達を含めれば、更に数百人ほど人数は増大する。

 そういった者達が定住し、領地内で生まれた子供達が新たな住人になっていくが、それはトモノリの隠居後の話となる。



 増大した人口に対応するように商売なども発展していった。

 最初にこの領地で店を開いた行商人に続き、他にもいくつかの商人がやってきて店を開いていく。

 そんな商人達がもたらす商品を求めて近隣から人が集まってきていた。

 モンスターからとれる素材の供給源である事もあって、それを買い取るために集まる商人も増えた。



 周旋屋も規模を拡大し、一般的な作業員だけで常時一百人を抱えていた。

 田畑の開墾などが一段落しても、何らかの形で人手は求められていく。

 それらに対応する為にそれくらいの人数は必要だったようだ。

 ただ、それも最も忙しかったと言われる時期に比べれば大幅に減っている。

 最大で三百人を数えたという周旋屋の作業員は、それが終わるとトオルの一団に移っていった。

 危険ではあるが、儲かる作業を求めての事だったという。



 村の北に拠点を構えたトオル達の一団は、そこを足がかりにモンスター相手の稼ぎを継続。

 増加した人数を元に、更に範囲を拡大していった。

 その一方で、モンスター除けなどを設置して安全な場所を作ると、自ら開拓開墾を始めた。

 余り気味だった周旋屋の作業員達に仕事を与えるためだったという。

 モンスター退治のために引っ張ってきた者達が大半であるが、全員がそれを出来るわけではない。

 なので、もう少し穏便な生計手段を提供する事が求められていたという。

 田畑の開墾などに従事していた者が多かったので、作業は割合順調に進んでいったという。

 そこも便宜上トモノリの領地扱いとなり、六番目の村と呼ばれるようになった。

 トオルは最終的にその集落の村長のような立場になっていく。

 もっとも、集落が村のような体裁を調える頃には隠居が相応な年齢になっていた。

 実務のほとんどは息子が実施し、トオルが村の運営や経営に携わったという記録はさほど多くない。



 とはいえ、一団を率いていたトオルが全く関与しなかったわけではない。

 実務はともかく、全体の方針や運営については何かしら意見をしていた。

 村としての指示などを実施するのが息子などであった事で、正式・公式の書類に息子の名前が残る事になったのが実際である。

 冒険者の引退・隠居後には村の運営に直接携わるようになって、それからは名前が公式記録などに残る事が多くなる。

 とはいえそれも数年の事であり、なおかつ最終的な決裁において書類に名前を記したという事が多かった。

 この頃には息子が様々な事を取り仕切り、トオルはお飾りに近い立場になっていたという。

 それに不満があるわけでもなく、むしろそれが当然だろうとわきまえていた節もあり、問題になる事はなかった。

 この頃にはもう息子も実務を何年もこなし、大半の事は自分で取り仕切れる能力を備えていた。

 変に口を出す事を控えていたのだろうと思われる。



 記録に寄れば、その後は孫に囲まれ、平々凡々と余生を過ごしたという。

 享年六十一歳。

 この時代の平均よりは長く生きた方である。

 妻のサツキとの間には五人の子供が生まれ、それぞれ無事に成人している。

 乳幼児の死亡率の高い時代だけに、これは僥倖であっただろう。

 男子三人、女子二人がその内訳である。



 長男は既に記したように父親の跡を継ぐように集団の、村の統率をとる事となった。

 特別優れてるわけでもないが、かといって大きな問題を起こすこともなくまとめていったという。

 他の子供達も、特別名をなす事も無いが、落第や落ちこぼれる事無く生涯を全うしていく。

 他の男子二人のうち、一人は冒険者としてモンスターを相手にしていった。

 トオルの役目のうち、一団の統率者の役目を継いだ形になる。

 もう一人は領主のトモノリや商人・周旋屋などとの窓口としてあちこちを忙しく動き回っていった。

 一団も領地も拡大したので、交渉専門の役目が必要になっていた。

 どうにかこうにかそれを果たしていたらしい。

 女子はごく普通に嫁にいった。

 一人はサトシのところに生まれた息子に。

 一人は、トオルの妹であるチトセの嫁ぎ先であるアツシの息子のところに。

 一団の中における結束が、これにより更に高まったという。



 なお、トオルのところの息子の一人にはトモノリの娘が嫁いでいる。

 その他、周旋屋と商人のところの娘も嫁に来たという。

 これらの血筋はその後もこの地に残り、今も続いている。

 地元では名士のうちに数えられる家となって。

 その礎を作ったトオルの名前は、一族の立志伝として語られてるという。

 郷土史においても、大きくは無いがその名前と経歴は記される事となる。



 だがそこに、道方トオルが異世界からの転生者であるという事実は記されてない。

 それを知る者がいるかどうかも分からない。

 記録には業績のみが残るにとどまっている。



 その記録に残された事をまとめれば、こういった形になる。





 ────そこに記されてない事実も、記録からこぼれた出来事も当然ある。





 記されてる出来事だけが事実なわけではない。

 歴史とはそういうものであろう。





…………





……………………





………………………………





…………………………………………





「ま、こんなもんか」

 臨終の時を迎え、トオルは自分の全てを居合わせた家族に語った。

「信じる信じないはお前達の自由だ。

 だが、俺は確かにそういう記憶があるんだ」

 誰もが信じられないという顔をしていた。

 いまわの際の世迷い言、あるいはおとぎ話と思ってるのだろう。

 それで良いと思った。

 信憑性のある話ではない。

 絵空事と思われるだろう。

 だが、トオルにとっては切り捨てる事の出来ない現実味のある記憶だった。

「だから俺は、そうならないよう、二度と繰り返さないようにがんばってみた。

 それが上手くいってここまでこれた」

 アニメや漫画やゲームなどほど劇的ではない。

 だが、特別才能もない自分がここまでこれた事に、トオルは満足していた。

「まあ、だから何だというわけでもないが」

 それを他人に与える事はできない。

 出来てもどれほどの意味があるかは分からない。

 でも、それを元にして行った実体験と、そこから得られた教訓はある。

「できる事は限られてるがな。

 でも、やれる事をやっていればどうにかなるもんだ」

 たまたま運が良かっただけかもしれないが、それがトオルの実感である。

「無理や無茶はするな。

 出来ない事にまで手を出すな。

 できる事を、淡々と黙々と繰り返す。

 その中で上がる稼ぎで生きていけ。

 腕が上がれば先に進める。

 そうなる前に先に進もうとするのは無謀でしかない」

 酷く慎重で遅々とした歩みになってしまうだろう。

 しかし、それでもそれなりの高みにたどり着ける。

 それは確かだった。

「ま、それだけ分かってくれてればいい」

 自分の過去の出来事、転生した……かもしれないという事は枝葉末節にすぎないとも思えた。

 子供達に知っておいてもらいたいのは、過去ではなく、それをもとにしてやってきた事の方だった。

(上手くやってくれればいいがなあ……)

 その為に自分の体験が役立てば、と思う。

 説教くさい爺と思われるのは覚悟の上で。



「サツキ」

 同じように年老いた女房を呼ぶ。

 若かりし頃の美貌は衰え、今やしわの刻まれた婆さんになっている。

 しかし、そんな女房と一緒でいられた事に幸せをおぼえる。

「お前のおかげで楽しい人生だった」

 言うべき事は一つしかない。

「ありがとうな」

 出来れば次の転生先でも一緒でいたかった。

 転生出来るなら。

 だが、こればかりはどうなるか分からない。

 なるようになるしかないだろう。

 それでも。

「次があっても、一緒でいてくれ」

 そう口にせずにはいられなかった。



 意識が保ってられる間に伝えたいことはそれくらいだった。

 他にも伝えねばならない事があるかもしれなかったが、頭が回らない。

 まだ足りないような、でももう十分なような。

(まあ、いいか)

 考えても答えが出ず、やむなく諦めた。

 悔いなどは不思議となかった。

 たぶん、もう何も出てこないだろうし、あとは子供達でどうにか出来るだろうとも思った。

 皆、優秀な子達である……というのはトオルの欲目であるかもしれないが。

 だが、誰もが技術的にレベル10を何かしら身につけていた。

 無能という事はないはずだった。

 そんな子達にどんな教訓をたれるのやら、とも思う。

 それでも。

 子供達に何か伝えたい、自分がしてきたような失敗をして欲しくない。

 能うなら上手くやる方法を伝授したい。

 そう思うのは最後の未練であり、人情なのだろう。

 あくまで、子供達に、孫達に何かを残したいという思いしかなかった。

 自分自身にまつわる何かはなかった。



 前世のように、寝床で天井を見上げている。

 最後の瞬間は同じようなものなのだなあと思う。

 だが、自分の家で、家族が周りにいる。

 前世とは比べものにならないほどすばらしい光景だった。

(まあ、いいか)

 そう思ってあの世にいける。

 怖さは……多分、無い。

 ただ、寂しさはある。

 この者達ともうすぐお別れになることが。

 今後二度と会えないかもしれない。

 会えないのが普通だろう。

 それが寂しかった。

(また一緒に)

 そう思ってしまう。

 また一緒に人生を歩めればと。

 それだけの思い出があり、それだけの積み重ねがある。

 寂しさの大きさの分だけ、ここにいる者達との繋がりがある。

 だが、終わりは容赦なくやってくる。



「…………」

 最後の瞬間に、何かを伝えようと口を開く。

 しかし、言葉にはならなかった。

 ただ、穏やかな死に顔だけを残して、道方トオルは人生を終えた。





 ────こんなものか





 意識を失う前にそう思った。





 そして。





 呼びかける声が聞こえた。

 声といって良いは分からなかったが。

 だが、そう感知できる何かが伝わってきた。

 誰だ、と思って振り返る…………動作をしたつもりだった。

 何も無いようで、全てがあるような不思議な空間(?)で、懐かしい気配がする。

 誰だ、と思ってすぐに悟る。

 先ほど終えた人生において、もっとも長く一緒にいた者だった。

(サツキ?)

(うん)

 尋ねると頷いてくれた。

 体という形のない状態でなんでそう思ったのかは分からない。

 だが、確かにそう思えた。

 それを不思議とも思わない。

(なんだ、もう来たのか)

 呆れて苦笑してしまう。

(そんな急がないでもいいのに)

 記憶らしい記憶があるわけでもないのだが、なんとなく分かる。

 相手が自分の女房として一緒にやってきた者で、死んだ自分のすぐ後にやってきた事に。

 しかし相手…………サツキは、

(そんな事もないよ)

 トオルの思いを否定する。

(あれから何年かは生きてたんだから)

(そうなの?

 でも、俺が死んだのってついさっきだったような)

(それはここだからじゃない?)

(ここって…………まあ、あの世か)

 あらためて理解する。

 死んだ後に来る場所。

 そこがここなのだと。

 ただ、場所と呼んで良いのかは分からなかった。

 何せ立体的な空間があるわけではないのだから。

 他人と自分の境界すらあやふやだ。

 そのくせ、意識してる自分と、それとは異なる他者がいるのは分かる。

 何ともおかしな感覚だった。

(で、どうしたんだ、いったい)

(どうしたんだ、じゃないでしょ。

 せっかくここに来たのに)

(ああ、そうなんだ)

 それは分かってる。

 聞きたいのは、どうして自分のところに来たのか、という理由だった。

(決まってるじゃない)

 トオルの疑問に、サツキは当たり前のように答える。

(また一緒にいきたいから)

 迷いのない声…………意志だった。

 ありがたくて嬉しくなる。

(そっか、そうなんだ)

 断る理由はない。

(俺も、また一緒の方がいい)

(うん)

 そう言ってトオルはサツキを抱き寄せた。

 あくまでそう意識しただけである。

 しかし、相手と思える感触を感じる。

 自分とは違う別の存在。

 それが確かにそこにいる。

 そう信じられる。

(どうなるのかな、これから)

(どうなるのかな)

(また転生でもするのかな)

(そういえば言ってたね)

(ああ。

 出来るかどうか分からないけど)

 どういった流れで転生が起こるのかは分からない。

 そもそも死後のこの状態がどういったものなのかも分かって無い。

 宗教が教えるような状態とは違うのは確かなのだが。

 だからこそ、この先どうなってしまうのか想像も出来なかった。

(…………まあ、どうなるかは分からないけど)

(うん)

(サツキと一緒ならそれでいいよ)

(うん…………)

 照れたような、喜んでるような気配が伝わってくる。

 その思いを感じる事が出来るだけで十分だった。

(また一緒に頼むよ)

(当たり前じゃない)

 どことも知れぬ場所で二人は、たゆたいながら思いを伝えていった。

 またやってくるであろう、その時まで。

 以上で終わりです。

 今更ですが、誤字脱字の報告をしてくれた皆さん、ありがとうございます。

 ここまで楽しんでくれた皆さんにも感謝を。

 補完や付け足しとして短い何かを書く事もあるかもしれませんが、とりあえずここで一旦終了です。

 新しいのも始まってるので、興味があったらそちらもどうぞ。



 そして最後。

 この下にあるリンク先もよろしく。

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