レベル181 色々変わったけど、これが一番大きな変化なのだと思います
交換しておかねばならない情報を持ち寄り、書類の幾つかを受け取り村へと戻っていく。
ほぼ毎日となってる行商人、いや、元行商人の店の馬車に腰をおく。
一週間ほどの旅になるが、しばらくゆっくりしていられる。
途中でモンスターに襲われるかもしれないが、その時はその時である。
護衛もいるし、トオルも自分の腕に自信はある。
妖鳥相手にわたりあえるくらいのレベルはとっくに超えている。
この辺りに出没する程度のモンスターなら、問題なく倒せる自身はあった。
もっとも、最近は経営や運営方面の技術ばかりレベルが上がっている。
状況にあわせた成長っぷりであるが、冒険者としてどうなのだろうとは思っていた。
だんだんと前線から離れてるようで、多少は寂しさも感じてしまう。
上にたってやっていけるのかという不安もある。
それよりは、モンスター相手に剣を振ってる方が気が楽だった。
背負い込む責任が以前と格段に違う。
一百人を超える人数を率いてるとどうしても悩みも増える。
上手くまとめていけるかどうか、稼ぎを皆で確保出来るかどうか。
今後どうなるかを考えねばならないし、今やらねばならない事もしていかねばならない。
トモノリのような者達とも折衝をしなくてはならない事も増えている。
(そりゃそうだよな。
中小企業の社長くらいにはなってるんだから)
それだけの人数になってきてる。
もう小規模な一行のリーダーではない。
自分達だけの事を考えてるというわけにもいかない。
村に与える影響も大きくなっている。
素材の売却にしろ、様々な商品の購入にしろ、村の経済に与える影響は大きくなっている。
トモノリの領地における経済活動の幾らかはトオル達によって成立してる。
動向一つで村に影響を与えかねなかった。
元行商人の店や周旋屋などもあるし、他にもいくつかの店が出来てきている。
トオル達だけが影響を与えてるわけではないが、それらの売り上げの大半がトオル達によるものだ。
村でとれる作物の消費者としても、トオル達の存在は大きい。
迂闊な事は出来なくなっていた。
村の変化も大きなものとなりつつあった。
近隣の村から持ち込まれるモンスター素材が増えるにつれ、それらを相手にする商売もはじまっていった。
周旋屋がやってきて、あちこちに派遣する作業員が来てからは更に増大していった。
最初は茶店程度だったところが、今ではちょっとした食堂になっている。
トオル達が購入者のほとんどだった頃と違い、今や様々な用途の製品が売られるようになっている。
素材の買い取りにくる商人も増えたし、それらから商品を買う村人も増えている。
そういった者達が既に百人以上は集まってきている。
元々の村人達に人数が迫る勢いだった。
まだ小さいが、いずれ町と呼ばれるくらいの規模になるだろうと思われた。
領地内の他の村においてはさほど変化はみられない。
個別に見れば大した変化はない。
だが、新規開拓によって村が一つ出来上がってる。
今はそちらで新たな子供達も生まれている。
それらが成人する頃には、また新規の開拓開墾を始めようという話しも出てきている。
北の方はトオル達が陣どってるが、西の方はまだ拡張の余地がある。
川から遠いので水路をひかねばならないが、開墾の余地は十分にある。
それを見越してトオルも、その方面に人をふりわけようかと考えていた。
今からモンスターを排除していって、将来の手間を減らすために。
モンスター除けの設置なども、今からすすめていけば、未来における手間は格段に省ける。
その分盗賊などが出てくる可能性もあるが、こればかりは仕方が無い。
街道沿いにモンスター除けを設置してから出て来た問題が盗賊である。
モンスターがいなくなったわけではないが、格段に減少した。
その事で人が行き来しやすくなったのは良いが、野外を根城にしてる盗賊や追い剥ぎも増えてしまっていた。
安全な場所が増えた以上はそれも仕方ないが、おかげで様々な手間が増えてしまっている。
安全圏を増やすのにあたり、こういった弊害も生まれていた。
それらを倒す為に兵士が出動する事もある。
トオル達も手伝いを要請される事があった。
モンスターに代わって人間が出て来るなど、酷い冗談に思えて仕方なかった。
それらを踏まえても、全体で見れば良い方向に向かっていた。
食うや食わずの者は減ったし、賃金も上昇をしている。
モンスターの脅威にも対抗できるところが増えている。
田畑の損害は以前より減っている。
素材を用いた新製品も増えているし、それらがもたらす利便性も大きい。
変化がすぐに感じられるほどではないが、確実に何かが変わっていった。
村に帰り、その一つを確かめる。
「ただいま」
「おかえりなさい」
出迎えてくれるサツキ。
そして、子供。
生まれた子供は立ち上がれるようになって、忙しく家の中を駆け巡っている。
相変わらずトモノリの館の離れに住んでいるが、中身は幾分変化をしていた。
家財道具が増え、家族が増えている。
「お疲れ様」
そう言ってくれる者がいる。
前世のように独りではない。
それだけでも大きな変化だった。
「父ちゃ、父ちゃ」
父ちゃんと言いたいのだろう、息子の舌足らずな声もある。
それだけでも以前と随分と違う。
仕事も忙しいしこの先がどうなってるのか分からないのは変わらない。
それでも何とかやっていけそうな気がしていた。
(まあ、何とかなるだろう)
そう思えるのが一番の違いなのかもしれない。
<劇終>
でも、明日の7:00に続きを投稿予定。
最終回のはず。




