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レベル24 自分の事があるから強くも言えません

「でも、なんで?」

 立ち話もなんなので、広間の座席に座って話しを聞く事となった。

 行商人は仕事があるので立ち去っている。

 いくつかある座席の一つを使って向かい合ってるのは、トオルと少年だけ。

 当事者である少年は、

「だって、村にいても手伝いばっかだし。

 一銅貨も稼げないしさ」

「まあ、そうだろうな」

「でも、兄貴は稼ぎをくれた。

 だから、俺も稼ごうと思って」

「…………」

 少し失敗したかなと思ってしまった。

 正当な取り分だと思って幾ばくかの金を渡したが、それが勘違いをさせてしまったかもと。

 冒険者で稼げる者など一握りであるのだから。

「なあ、兄貴。

 俺も冒険者になって稼ぎたい。

 稼いで、稼いで…………」

「稼いでどうすんだ?」

「いや、そりゃ、まあ…………」

 その先は考えてなかったらしい。

 まあ、先々の事まで考えてる人間はそうはいないだろう。

 ただ、金があれば楽が出来る、楽しく生きられる、という程度の漠然とした想像があるだけ。

 それが普通なのかもしれないが。

「まあ、金があれば当分は生きていけるけどな」

「うん、そう!

 そうだよね、兄貴」

「だからって冒険者って事もないだろ。

 奉公先とか見つければいいんじゃないのか?」

「そんなのあったらとっくに行ってるよ」

「それもそうか」

 それが無かったのはトオルも同じである。

「でも、冒険者ならなれるでしょ?

 だから、俺は冒険者になろうと思ったんだ」

「まあ、なるのは簡単だけどな」

 なってからが大変なのだ。

「なあ、いいだろ。

 俺、兄貴と一緒にやっていきたいんだ」

「そう言ってもなあ…………」

 すぐに承諾するわけにはいかない。



「やるとしたって、お前に何が出来る?

 普段の仕事っていったら、力仕事とかだぞ」

「え?

 モンスターと戦うんじゃないの?」

「そんなの強くなけりゃどうにもならねえよ」

「でも、兄貴はモンスターと戦ってたじゃん」

「あんなの戦いに入るか」

 穴に嵌め込んで叩きのめしただけである。

 一方的に攻撃を仕掛けるあれを戦闘と言うのに抵抗があった。

「今のお前が、モンスターと正面切って戦えるのか?」

「そりゃあ……まあ、ちょっと」

「ある程度腕が上がるまで訓練とか必要になる。

 その間どうする?

 飯を食ってくにしても、金は必要だぞ」

「この前くれた分が」

「あの程度じゃ一ヶ月も保たないよ」

 一泊一千銅貨と二回の食事で二千銅貨。

 あわせて三千銅貨で一日を過ごすにしても、六銀貨では二十日がせいぜいだろう。

「悪い事は言わん。

 帰って家の手伝いをしていろ。

 その方が安全だし、食いっぱぐれもない」

 実際には、飢饉が来てしまったらそうではなくなる。

 そこまでいかなくても不作だったら家族の一人か二人が路頭に迷う可能性がある。

 だが、何年に一回あるかないかの可能性だ。

 モンスターと戦うというのは、死ぬ可能性が常につきまとう。

 どちらが長生きできるかは考えるまでもない。

 それを考えられなかった、目の前にある状況から抜け出す事しか考えてなかった。

 目の前の少年は、昔のトオルそのものである。

 だからこそ、帰れと言った。

 それでいて、帰ってどうする、という気持ちもあった。



(帰ってもな)

 違う村であるが、どこに言っても状況は同じようなものだ。

 家は長男が継いで、その下の子供は部屋住み。

 そこから抜け出したいと思うのも当然だ。

 戻ってどうなるものでもないのは確かなのだから。

 冒険者以外を見つけろとも思うが、冒険者以外に何がある、という話にしかならない。

 だったら一緒にやっていくのもいいか、と考えてしまう。

 とは言え、だ。

「おまえ、親とかの許しはもらってるのか?」

「え?」

 とたんに少年の顔がこわばる。

「いや、そういうのは、まあ、なんというか」

「とってないんだな?」

「う…………」

「とってないんだな?」

「う、うん、まあ、そんな感じだけど」

「とってないんだな?」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………はい」

 ため息がトオルの口から漏れた。

(まあ、こんな事許すような親なんかいないだろうけど)

 いたら育児放棄の類になりかねない。

 この世界にそんな言葉はないが、やってる事はそれに等しい。

 好きこのんで子供を捨てるようなもんである。

 いや、他にしようがなくてこの道を選ぶ場合もあるだろうが。

(あの村、そこまで切羽詰まってるわけでもなさそうだし)

 極度に貧しい所ならともかく、それなりに収穫を得られてる所なら、どうにか食ってはいける。

 そんな所が子供を放棄するような事は滅多にないと思いたかった。

 この世界にもロクデナシな親はいるが、それほど多いわけではない。

 少年の所の親も、おそらく心配してるだろう。

(いや、他人のこと言えないか)

 自分自身が勝手に出てきた分際なので、目の前の子にとやかく言う資格はないと思えた。

 ただ、だからこそ言わなくてはならない事もあると思えた。

「まずは、親に連絡しろ。

 何するにしてもそれからだ」

 それだけは強く承諾させた。



 手紙を書かせてそれを行商人にあずける。

「じゃあ、ちゃんと届けておくよ」

 配達の仕事として請け負った行商人は、そう言って町を出ていく。

 あと二週間もすれば村に届くはずだった。

 そして、

「じゃあ、兄貴。

 よろしく!」

 やかましいガキが一匹残る事になる。

(やれやれ……)

 この子の気持ちも分かるし、それを無碍にしたくもなかった。

 考えが浅いのは確かだ。

 そこは子供と言わざるえない。

 だが、子供なりに考えての事だというのも分かる。

 それを否定する事はできなかった。

「じゃあ、登録してこい。

 文字は書けるんだろ」

「もちろん」

 得意そうな顔をする少年に、トオルはため息しかでない。

「ならさっさと行ってこい」

「おう!」

 元気よく受け付けのおっさんの所へと向かっていく。

 その背中を見て、やれやれ、と思ってしまう。

(上手くいくのかな)

 他に行く当てもないし、放り出すわけにもいかない。

 自分を頼ってきた、というのもあって、トオルは少年と一緒にやっていくつもりではあった。

 とはいえ、人を使うのは初めてである。

 どこまで上手くやれるかは分からない。

 なるようになれ、というやけっぱちで無責任な考えが浮かんできてしまう。

 そうでも思ってないとやってられなかったが。



 ただ、必要な装備は自分で用意させる事にした。

 金は少しだがあるはずなのだから。

 何事もそうだが、自分の金で手に入れたものでないと大事にしない。

 多少の援助はしてやるにしても、いくらからは自腹を切らないといけない。

 おごってばかりでは、相手も自立しないし、身銭を切ってる自分の負担も大きい。

 どこかで自立、そして自活をさせていかねばならない。

 装備には金がかかるが、それでもトオルはある程度少年に出させるつもりだった。

 それを渋るようでは、この先やっていけないと思えた。

 冒険者としてとか、モンスターとの戦いにおいて、といった以前の問題として。

 一人の人間としての自主独立として。

 その気概がなければ、何をやってもこの先上手くはいかない。

 例え子供と言えども、そこは容赦するつもりはなかった。



 数日後。

「そんじゃ行くぞ」

「うん!」

 あらためて二人はモンスター退治へと向かっていく。

 この数日の間に少年の装備を揃え、最低限の心得を教えていた。

 それがどこまで身についてるかは分からない。

 村でトオルを手伝っていたのだから、本当に何も分からないという事はないはずだが。

 それでもやはり不安はある。

 あらためて冒険者としてモンスター退治に向かう少年は、さすがに緊張している。

 無理して買った槍と、こればかりはトオルが買った金属板付きの革上着が、どこか背伸びをしているようにも見えた。

「そう緊張すんなよ。

 初めてじゃないだろ」

「う、うん」

 固くなった声を聞いて、こりゃ大丈夫かなと心配する。

 それでも、

「なんとかなるって」

 そんな声をかける。

 初めての仲間に。

「がんばろうぜ、サトシ」

「お……おう」

 村から出てきた少年サトシは、それでも緊張した声をあげていった。 

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