レベル180 積み重ねの果てにここまでこれました
「ここまで来れたな」
「そうだね」
久しぶりに町でサトシと向かいあい、感慨深く言葉をもらす。
「まさか妖鳥まで手が出せるようになるとは思わなかったからな」
「こっちは相変わらず妖ネズミばっかだけどね」
「仕方ないよ、新人育成がほとんどなんだから」
「おかげで金が全然入らねえよ」
「穴埋めの教官代で我慢してくれ」
「分かってるって」
サトシをはじめとした教官役には一団の金から些少ながら手当を出している。
月に二銀貨程度であるが、これが妖ネズミだけでは賄えない収入をほんの少し底上げしていた。
それでも十分とは言えないので、今後更に増額してやりたいところだった。
それだけの稼ぎを確保するのがまだ難しいが。
「でも、こっちの方も少なくなったな」
「そうだね。
一時期は一百人近くいたんだけど。
大半が村の方に移動したしね」
「他の一団も似たようなもんらしいな」
「ああ。
町の近くじゃ妖ネズミか、せいぜい妖犬くらいしか出てこないから。
腕が上がったところから辺境の方に流れてるよ」
「おかげで人手不足か」
「人が余ってた頃もあったって言うけど、今の状態からじゃ想像できないよ」
モンスター退治による金の稼ぎ方がひろまってくに従い、戦闘が出来る者達はそちらに移るようになっていった。
従来通り、行商人などの護衛や村などから近隣に出没するモンスター退治を依頼される事は多い。
だが、その為の人がなかなか都合がつかず、人手不足気味となっている。
一般的な作業もそれは同じで、モンスター退治に移った者達が増えたせいで、作業員や事務員の数が減ってしまった。
それは今も同じで、常に人手不足状態だという。
人手の補充の為に近隣の村にまで募集をかけてるが、なかなか集まらないようだった。
そういった場所でもモンスター退治などに人手がとられてるようで、応じる者も少ないようだった。
以前からのそういった傾向はおさまっておらず、まだまだ続いている。
結果として周旋屋の作業員達の賃金も以前よりは上がっている。
今は最低でも六千銅貨ほどで雇われてるという。
その値段を聞くと羨ましくなってしまう。
自分の時にそうだったらと。
言ってもしょうがない事だし、今はそれ以上に稼いでるからどうでも良いことだが。
全体的に人手不足になりがちだった。
モンスター退治に活路を見いだした者達が増えたためである。
採取した素材を売却する利益で生活が出来るようになる者も増える。
それが需要を増やし、経済活動を増大させていた。
余裕のある者が増え、中には結婚をしていく者も出てくる。
足りない人手を補うように人口が増加していった。
それだけの余裕が世の中に生まれていた。
特にモンスターの脅威を排除できた村では、田畑の新規開墾が増えその傾向は強まっている。
それによって増えた収穫量が新たに生まれる者達を養う土台になり、人口増大を支えていく事になる。
町もその恩恵を受け、豊富な食料がより多くの人を養っていけるようになる。
それが思いも寄らぬ問題をちょっとだけ起こしていた。
「結婚退職も増えたよなあ」
「あちこちでくっついてるからね」
他人の事をとやかく言えたものではないが、トオルの一団でも結婚が増えていた。
当然接点のある一団内で結ばれる者が多く、寿退社が増えている。
結婚当初は共稼ぎでいるが、子供が出来たらだいたい嫁さんが退団していく。
荒事中心の冒険者だけにそもそもの女性比率はそれほど高くはないが、三年四年とがんばっていた者が抜けていくのはかなり辛い。
彼女らの幸せを考えれば文句はないが、運営を考えると一時的な戦力減少はつらいものがあった。
おかげでトオルの一団も人手不足に陥っていた。
当分拡大するつもりも無かったが。
妖鳥を倒せるようになって、収益は確実に安定していった。
レベルの上がった者達の大半がそちらに移った事もあり、一団の収支はかなり向上している。
人手不足の今、無理して増員をする事も出来ないがそれでもやっていけるだけの余力はあった。
下手に人を入れるより、まずは組織として一団の状態を安定させる必要もある。
無理して収入を上げる必要がなくなった今、そちらの方が大事になる。
今後も出て来るだろう退団者を考えて新人を入れていく事も考えてるが、当面は少数の採用だけに留めようと考えていた。
「でもまあ、あちこちから人が流れこんできてるって言うし。
そのうち人手もまた余るようになるんじゃないのかな」
「そうかもしれないな。
けど、当分その心配はなさそうだし」
「そう?」
「この前、オッサンが言ってたよ。
新規開墾で人が必要な所から依頼が来てるって。
それが終わるまでの何年かは人手不足だろうってね」
「オッサン、村に行っても苦労は絶えないな」
「俺達の事も含めて、色々がんばってもらってるよ」
登録してる者達が大量に固まってるトモノリの村には、周旋屋の出張所が作られた。
当初はトオル達の一団の相手をするつもりだったらしいが、そのうちそうも言ってられなくなった。
モンスター退治のやり方を伝えた所から、人手を求める声があがり始めたのだ。
辺境のため、倒せれば拡張する余地がある場所がほとんどである。
モンスターという問題を取り除く事が出来れば、すぐにでも田畑を拡げようとする所は多かった。
おかげで作業員の需要はかなり高まっていた。
この地域以外から人を集めたりもしてると聞く。
いずれ開拓開墾も落ち着くだろうが、それまでは忙しくなるだろう。
「そのうちオッサンに人を回してもらわなくちゃならないしな」
「そうなの?」
「新しい畑とかを作り終わったら人が余るだろうし。
そうなったら冒険者でやってくつもりの人を入れてみようかなって思ってる」
「なるほどね」
早くても数年先の事だろうが、それも視野に入れておかねばならなかった。
余った人手をそのままにしておく理由もない。
「まあ、色々変わったよな」
「そうだね。
兄貴が村に来た時に比べて随分変わったよ」
もう何年も前の話になる。
その頃に比べれば色々と変わった。
当時は、これだけ稼げるようになるとは思わなかった。
「村に帰った時、畑が拡がっててびっくりしたし」
「そっちもか」
「兄貴がやってたやり方を見て、真似するようになったらしくてね。
おかげで今じゃ、妖ネズミで小遣い稼ぎをしてるよ」
村で使う機具も増えたという。
おかげで全体的に余裕が出て来てるとか。
「お前がレベル10になってるのも驚いたんじゃないのか?」
「まあね。
でも、レンを連れてった事の方が衝撃だったみたい」
「確かにな」
それはトオルも驚いた。
「まさかお前がレンとくっつくとは思わなかったよ」
「俺もだよ」
何かしら憎まれ口をたたき合ってた二人が、まさかそうなるとは。
「式の日取りも決まってるんだろ」
「まあね。
急がないとまずいし」
お腹に子供がいる事は既に判明している。
だから結婚に踏み切ったとも言う。
「大事にしろよ。
これから大変なんだから」
「もちろんだって。
でもさ、兄貴」
「おう」
「これから家族が増えるから、給料をあげてくれ」
「考えておくよ」
言われるまでもなくそうするつもりだった。
妖鳥退治を始めて二年。
トオルとその周囲はそれくらい変わってきていた。
続きを明日の7:00に投稿予定




