レベル177-1 新たな敵の実力はこのようなものみたいです
妖鳥。
高さ二メートルほどのかなり巨大な鳥である。
人里の近くまで出て来る事のあるモンスターだが、妖ネズミや妖犬より手間のかかる相手と言われている。
その理由の大半が、限定的とはいえ空を飛ぶことから来ていた。
鳥と言っても空を飛ぶ鳥とは少々違う。
ダチョウに似たそれは、地上を凄まじい速さで疾走してくる。
馬と同等と言われる速度で動き回るので、捕まえるのが容易ではない。
また、襲われたら逃げるのも難しい。
何より怖いのが、その速度で助走してからの滑空である。
幅三メートルほどの翼を持つ妖鳥は、飛び跳ねてから幾分滑空する事が出来る。
飛行と言う程高度は出せないし、飛距離も短い。
せいぜい二メートルくらいの高さで、三十メートルほどを移動する程度である。
しかし、地上を走るしかない多くの動物や人間にとっては、それだけで十分脅威になる。
攻撃の届かない上空から一方的にかぎ爪で襲われ、掴まれてしまったらどうにもできない。
そのまま押しつぶされるか、引きずり倒されるのが関の山だ。
ぶつかれば重装備の戦士ですら地面に叩きつけられるという。
その衝撃は、いかなる鎧を身につけていても防ぎようが無い。
魔術による防御をしてるなら違ってくるのだろうが、それが望めないならそれなりに危険な相手である。
少なくともレベル1や2では相手にならない。
だからこそ、柵を何重にも設けたのだ。
飛び上がった妖鳥が着地するのを困難にするために。
少なくとも、これで着地場所をある程度制限する事が出来る。
溝も今までより深く広めにとっている。
飛ばずに突進してきた場合に備えてだ。
引き寄せる為の餌を取り囲むように設置した防備が、妖鳥を捕らえる罠になっている。
それだけではない。
文字通り飛び込んできた妖鳥の大半が、柵の上辺りで体勢を崩していく。
この陣地の上に、魔術師が風をもたらしてるのだ。
本来なら飛び道具を逸らす為に用いられたりするのだが、それを利用している。
飛び込んで来るという事において、妖鳥も矢や石も変わらない。
翼に風をうけて滑空を調整してる妖鳥にとって、これは行動を大きく阻害される要因にもなる。
実際、いきなり変わった空気の流れによって妖鳥はあらぬ所に墜落していく。
何とか墜落は免れてるが、すぐには動き出せない。
走って逃げようにも、柵が邪魔をしてる。
再び飛び立とうにも、吹き続ける風が邪魔をしている。
有形無形の障害によって妖鳥は逃げ場を失っていった。
当然、トオル達に向かって妖鳥も攻撃をしかけてくる。
硬いくちばしで突き刺し、羽を広げて威嚇をしていく。
馬なみの速度を出す足で蹴りをいれようともする。
自由に動けるなら、それらは脅威になり得たかもしれない。
だが、くちばしを突き出せば、当然首が伸びる。
そこを狙って刃が伸びていく。
翼を拡げれば、そこを斬りつけ、本格的に飛べなくなっていく。
足も、腿を狙った攻撃によって走る事がおぼつかなくなる。
縦横無尽に走り回り、空に出る事で立体的に行動できるのが妖鳥の強みである。
それらを制限されれば、実力を発揮する事は出来ない。
ましてここに集まってるのは、レベル7にまで上がった者達である。
飛び回る妖鳥であっても互角に渡り合う事が出来る。
彼らが苦戦をする理由は全く無かった。
足を、翼を、首を切られた妖鳥が悉く地面に倒れていく。
戦闘と言えないようなやり合いが終わり、柵の間には死骸が横たわる。
解体組がそれらにとりつき、引っ張ってきた大八車にのせていく。
こんなところで作業をするわけにはいかない。
次の敵が何時来るか分からない。
そうなる前に少しでも多くの死骸を移動させねばならなかった。
作業をする場所は他に用意してある。
素材を取り出す解体はそちらで実行しなければならない。
毎度の事だが、死骸の回収と解体場所までの運搬はなかなか効率化出来ない。
特に今回、今まで以上に大きな妖鳥が相手だけに、運ぶだけでも手間がかかる。
戦闘が終わった者達も、可能な限り運搬を手伝っていく。
そうしないと、足下に死骸が転がり続ける事になる。
何時来るか分からない次の襲来の前に片付ける。
その為だけに、全員が一丸となって動いていった。
戦闘だけでなく解体も大変な事になっていく。
定番の心臓だけではない。
妖鳥の場合、他にも利用できる部位がある。
かぎ爪であったり、くちばしであったり、翼や足の腱であったり。
太腿の骨なども換金が出来る。
それらを切り取るだけでかなりの手間がかかる。
一体にかかる時間が、これまでとは比較にならないほど長くなってしまう。
とりあえず、すぐに取り出して処理をしなければならない心臓だけを優先していき、他は後回しにしていく。
そうでもしないと時間が足りなくなる。
また、翼や足は動きを封じる為に斬りつけられてるので、利用できない場合もある。
やむを得ない事だが、それらの判別にも時間がかかってしまう。
何より、これが最初の解体なので、どうしても手間取ってしまう。
それでも解体組もレベル7まで上がってる者が大半だ。
覚束ないのも最初のうちだけで、段々と要領を得ていく。
時間をかければ、いずれ手早く処理できるようになる。
その時間が、今はほとんど無い。
彼らがようやくやり方を見いだし始めた頃、既に妖鳥の第二陣がやってきていた。
三十から五十羽で群れを形成してるらしい妖鳥は、間を置きながら突進してくる。
その度に同じような経緯を辿って倒されていく。
参加者のレベルが高いせいか、戦闘もさほど苦労なく進んでいく。
妖ネズミも妖犬もそうだったが、動きを制限してるのが大きい。
自由に動き回っていたら、簡単にはいかなかっただろう。
一日が終わる頃には六百羽ほどの成果をあげていた。
売れる部位が多いだけに妖鳥は高く売れる。
魔術の触媒として用いられる心臓はもちろん、他の部位にもそれなりの利用価値がある。
全部合わせれば一千銅貨ほどで売却出来る。
戦闘中にそういった部位を傷つける事があるので、常に入手出来るとは限らない。
だが、それでも心臓で五百銅貨ほどの価値がある。
魔術に用いられる魔力の含有量が高いので、これだけの値段になるらしい。
そのため、一羽あたり五百から一千銅貨の間で値段が変動してしまう。
今回は割と上手くいったようで、材料はほとんど入手出来た。
売却すれば結構な値段が出て来るはずである。
その成果にとりあえず満足しながら、トオル達は森の中の拠点に戻っていった。
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