レベル175 日々は流れていきますが、積み重なる努力と準備がそこにあります
三月。
新たな奥方を迎え、トモノリの領地においてそれなりに盛大な祝い事が行われた。
迎えたご婦人が出来た人物である事が漏れ伝わった事もあって、村の者達も新たな奥方を歓迎していた。
「まあ、前よりはマシだろうさ」というのが大方の意見であったが。
それでも否定的な意見などが出てこなかったのは、昨今のトモノリの努力によるものだろう。
田畑の新規開拓と、周辺へのモンスター除け増設。
魔術師の育成と商店の招致などが重なり、以前より評価は上がってきていた。
トモノリの責任とばかりは言えないが、以前の評価が低すぎただけであるかもしれない。
それでも、表だって文句を言う者達はいない。
いたとしても、そこにはほぼ必ず「前の奥様は酷かった」というのが付随する。
それを考慮に入れると、どうしてもトモノリへの非難は弱くなる。
奥方が逮捕されて以後の活躍もあって、むしろ被害者ではないかと同情すらされている。
それも相まって、新たな奥方を迎える事への祝福ともなっていた。
神社において執り行われる婚礼の儀に参列しているトオルも、そんな者の一人だった。
トモノリと接する機会が多いだけに、人柄や能力についてはそれなりに理解してるつもりだった。
特別有能ではないかもしれないが、無能というほど酷くもない。
領地運営や経営については、それなりに上手く切り盛りしている。
結構な額の借金を背負いながら頑張っていた事を考えれば、意外と水準以上の能力を持ってるのかもしれない。
人柄も悪い方ではない。
トオルらへの接し方や、耳に入ってくる評価や評判も悪くはない。
以前の奥方については、身内故の遠慮などが出てしまったために流されたようでもある。
人の好さにつけ込まれたのだろうと思えた。
その辺りが弱点と言えば弱点である。
出来ればそこは改善してもらいたいとは思った。
守るものも新たに増えた。
これがそうした強さを持つ理由になってくれればと願わずにはいられない。
他ならぬトオルも同じようなものなので、他人事とは思えなかった。
慶事があっても日々の仕事が無くなるわけではない。
お祝いが終わればすぐに日々の仕事がはじまる。
とはいえ、新たに何かをやり始めるという事は無い。
やる事はほぼ決まっているので、あとは成果が出るまで同じ事を繰り返す事になる。
モンスター相手だから気が抜けないが、基本的にはさほど変化はない。
ルーチンワークと言って差し支えないような状態になってきていた。
落ち着いてると言えばそうなのだろう。
月を超えるとレベル4に到達した者があらわれていく。
二年目の成果が確実にそこかしこで見られていた。
村でも町でもそれは同じだった。
また、一団への加入者もまだまだ増えている。
さすがに当初の勢いは無くなってきたが、十分な人数は確保出来た。
仕事の方も、話を聞きつけた村などから依頼が舞い込んでるという。
厄介な点は、町の周囲におけるモンスター退治の場所を取り合う事が目立ってきた事だろう。
同じようにモンスター退治に出向き始めた者が増えたのだから当然である。
だんだんと縄張り争いが発生してきたので、トオルも場所の確保に本腰を入れようかと考えていた。
ただ、そこまでやる余裕がないので二の足を踏んでいる。
また、トオル達の一団と同等の条件でモンスター退治を引き受ける者達も出始めた。
いずれ真似されるだろうとは思ったが、やはり出て来たかというところである。
だが、それらの大半は二度と呼ばれる事はなかった。
作業の条件は同じでも、依頼主や現地の者達への態度・接し方などで大きな違いが出ている。
横柄・横暴な態度をとり、乱暴すらはたらく事もある者達では当然であろう。
その逆に、交渉ごとになれておらず、足下を見られる冒険者もいた。
結果として素材すらかなり取られてしまい、寝床と食事だけ出されてただ働きになった者もいる。
このあたりは慣れや経験、交渉関係の技術の有無などが関わってくる。
あるいは、相手を見抜く目や選考基準などの有無になるだろうか。
このあたりが備わってないと、ろくでもない依頼主を見抜くことは難しいだろう。
周旋屋の方でもそういった事があれば情報を共有できるようにはしている。
悪評のある所からの依頼は引き受けないし、悪事を働いた者には仕事を回さない。
だが、一度発生しなければ対処が出来ないので、今暫くはこのような事が続くだろう。
何事も始めた頃は様々な混乱が発生してしまう。
そんな事がありながらも物事は進んでいく。
レベル4になった者達が一定の数を超えたところで、妖犬退治が行われていった。
トモノリの村では、既にそのレベルを超えているアツシ達にレベルが上がった新人を加えて再開された。
その穴を埋めるべく、トモノリの領地内で人の移動が行われもした。
妖犬退治に入った者達は、ネズミより強力な相手に多少は手こずった。
これならネズミ相手の方が良いんじゃないかとすら言われた程である。
だが、妖犬の素材を換金すると、その言葉も上がらなくなった。
やはり倍近く値段が違うのは大きかったようである。
町にいる者達もレベルが上がって妖犬退治を始めると同じような感想をもらしたという。
なんだかんだで誰もが稼ぎの増加を喜んでいった。
だからこそ、トオルの目指す更なる上を目指していった。
より強い、だけどもっと稼げるモンスターを倒しに行こうと。
周囲の環境も変わる。
行商人がトモノリの村に店を開き、それによって売買が活発になっていった。
素材の買い取りもそうだが、村で売りさばく為に持ち込まれる製品・商品の数々に人が集まってきた。
当初は村の外に出ることを危惧していた他の村の者達も、その商品欲しさに足を運んできた。
村ではまかない切れない物品の数々が、村にもたらされる事で生活の質を上げた。
様々な物品によって作業効率が上がったり、家事の手間が減っていく。
開拓開墾地にて必要とされる物資も調達が容易になった。
発注までの時間が短縮されただけであるが、それだけでも作業の進み具合が大きく変わる。
今までなら発注から到着まで最短で二週間はかかったのが、一週間以内に到着するようになったのだから。
商人が毎日のように町と村との間で馬車を走らせてるためである。
そうしないと村に建設した商店の倉庫から品々があふれてしまうのだ。
トモノリの領地だけでなく、近隣の村からも素材が持ち込まれるのはやはり大きな事だった。
商人も、「まさかこんなに忙しくなるとはな」と嬉しい悲鳴をあげている。
おかげ様で、町に行かずとも必要な品が手に入るようになった。
村まで持ってくる手間がかかるので、その分値段は上乗せされてしまう。
必要経費とトオル達は割り切る事にした。
今までもそうだったし、町に出向くとなると旅費と時間がかかる。
ほんのわずかな上乗せくらいは我慢するまでも無い事だった。
武具の手入れ道具に、駄目になった装備の買い換えなどがさほど手間もかからず行えるようになった利点の方が大きい。
手紙のやりとりも、ほぼ毎日のように行き来してる馬車に積んでいってもらっていた。
もちろん、宅配料は払って。
それでも町に出向かなければならない事もあるが、それはそれで商人を利用させてもらっている。
ちゃっかりした話であるが、町に行く馬車に便乗する事で旅費を節約したりもした。
その分、無料で護衛を引き受けていたが。
まだ完全ではないモンスター除けの設置がととのうまではこれが続くだろうと思われた。
設置が終わっても、モンスター除けの信頼性を考えれば、護衛をつけねば危険なのは変わらないけれども。
そういった変化があらわれる中で、モンスター退治は変わらず続けられていく。
レベルが上がり、妖犬退治を行える者が増え、あちこちの村に仕事で出向く者が増えていく。
少しずつ増加していく一団の金で、次への準備を始めていく。
目標とした三年目、レベル7に到達した者が一定の数になったら始めようと思っていた事に向けて。
トオルも一団に所属する者達も緊張と意欲を高めていく。
その推移を見守るトモノリ達も、もたらされる結果に期待と興味を抱いていった。
続きを明日の7:00に投稿予定




