レベル174 育成は先を見越した投資かと
「しかし、すまんな。
彼女にも仕事をさせて」
さすがにトモノリも申し訳なさそうな顔をしていた。
「モンスター退治にも支障が出るのでは?」
「それはそうですけど、サツキには危険な事から退いてもらいたいとも思ってましたので」
丁度良かったのかは分からないが、良い機会だったのは確かだ。
「なら良いが。
だが、魔術師がもう少しいないとどうしようもないな」
「どうにかして増やせないもんですかね」
あと数人でも増えてくれれば、モンスター除けの方もどうにかなる。
単純に、モンスター退治の方に回ってくれれば、そちらの効率も上がる。
モンスター除けの作成は出来るレベルまで上がる時間も、そうしていれば短縮出来る。
それでも何年かかかるが、普通に生活してる中でのレベルアップよりは早い。
サツキもモンスター退治をこなす中で、それが出来るレベルにまで上昇していた。
神社の者も驚いていたらしい。
そこまでしなくても、何とか魔術師を増やしたいものだった。
トモノリもそこは分かっている。
「やるしかないか」
魔術とは戦闘だけに用いるものではない。
ロウソク程度の小さな火を出して着火したり、松明やランプよりは明るい光を灯したりといったものがほとんどだ。
また、地面の下の水源を感知したり、声を風に乗せて相手に届ける、といったものもある。
使い方によって戦闘に応用できるものもあるが、大半はそういった小さな効能を持つ物がほとんどである。
なので、生活に用いる事も出来るし、そういった方面で生計を立ててる者もいる。
モンスター退治に出るよりは、そういった方面で活躍してる者の方が多いだろう。
モンスターを撃退するにあたり、そちらに用いる事も出来る力を発揮する者もいるが、それは魔術というものの応用に過ぎない。
戦闘に出なくても、そういった方面で魔術は重宝する。
トモノリが求めるのも、まずはそちらだった。
なので、屋敷の使用人達にまずは声をかけていった。
そういった方面での魔術を身につけてみないかと。
トモノリの屋敷にいる使用人達は、十人ほどになっている。
そのうちの二人か三人が魔術を身につけてくれていれば、仕事はかなり楽になる。
モンスター除けの維持もしてもらいたいが、まずはそこからやってもらえればという事からだった。
使用人達だけではない。
領地内の村にも同様の告知がなされていく。
魔術を身につけるつもりなら、トモノリが後援をすると。
あれば便利なのはどこでも同じである。
どこまで影響が出るか分からないが、生活の向上にもつながるかもしれない。
それも見込んでの事だった。
村人達もその告知に驚きつつも賛同していく。
仕事もあるので人数を簡単に割くわけにはいかなかったが、それでも各村から二人三人と希望者が出てきた。
屋敷内からの者達もあわせて、十人余りとなる。
その中から四人、屋敷と各村から一人ずつという形で神社に向かう事になる。
一度にそれだけの人数を受け入れる事が出来ないと言われたからだ。
トモノリもそれだけの人間を送り出す程の余裕は無い。
残りは時期を見て修行に入る予定となった。
「けど、他の村や領地のためにここまでするんですか?」
わざわざ魔術師を育ててまで対応する必要があるのかと思った。
「なに、いずれはやらなければならなかった事だ」
疑問にトモノリはそう答える。
「街道での被害はいつも問題になってたからな。
それを抑えたいとは思っていた。
なかなかそうもいかなかったが」
今回の事は、良いきっかけになったようだった。
「とりあえずは近隣の領地との行き来の安全が先だが。
いずれは町の方にも設置していこうと思ってる」
「町までですか?
かなり距離がありますけど」
「ま、行ける所までな。
期限があるわけじゃない。
少しずつ範囲を拡げていければ良いさ」
気の長い話しだと思った。
そんな事を考えられるあたりがありがたいし頼もしいとも。
成果が出るのは随分先だろうが、街道の安全が確保されれば、行き来も楽になるだろう。
モンスターを気にせず歩けるのは、それだけでありがたい事なのだから。
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